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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
30/110

◇3-7◇

 可動式壁で細かく区分けされた暗闇には、ところどころに仄かな明かりがついていた。

 国立神桜高校には、国立というだけあって予算も多く体育館が2つ設けられているのだ。そのうち今優たちがいる肝試しの会場はいまだ新しい第2体育館。ここは新式のシステムが導入されていて、特科棟のように可動式壁が配置されている。

 これは特科棟でもそうだったのだが、第2体育館は可動式壁によっていくつかの長方形ブロックに分けられており、10(縦列1~10)×10(横列A~J)の計100ブロックから成り立っているのだ。

 それを今は巧みに操り、肝試しの迷路を作り出している。

 入口は9Bブロックにあり、3つの扉のうち右を開けたから今優たちはその先の9Cブロックにいる事になる。どうやらこれは内部からも把握できるようで、それぞれのブロックの壁にご丁寧に記されていた。しかし、暗さのあまりそれを目視するのは至難の業だ。――常人には。

 ある程度の環境に耐えるための基礎訓練を一定終えている優には、ある程度なら、その印を読むくらいならできた。色彩はほとんど正確に判断しかねるが。

 とにもかくにも、彼らのいる9Cブロックには、装飾された環境と暗闇があるだけで、他に人の気配なんかはなかった。

 そんな環境の中で、優はいつにもなく気怠そうな表情をして歩いている。暗闇の中では誰も彼の表情を把握できないし、それどころでもないのでいいのだ。ツカサと涼子が思った以上に暗闇に怯えているのだ。おかげで進行が物凄く遅い。歩幅なんてものの10センチほどとなっている。

 外ではそんな素振りは全く見せなかったし、それよりか返っていつもより何かと棘々して――ああ、なるほど、恐怖と緊張で体が強ばっていたのか。だから無駄に短期だったというわけ、だったのか。

 優は自分の中で納得した。

 しかしそれでそうにかなる問題でもないのも確かだ。

 七日はまた自分のスカートを握ってソワソワしているのだろうか、両手がスカートの裾に伸びているシルエットが目立つ。彼女との距離は3メートルほどあるが、はっきりとは見えない。

 怯える2人のために軽く陣形を組んでみたのだが、先頭に優、その次に遥と田中、後ろに七日、そしてその真ん間にツカサと涼子の2人。

 今もお互い足を引っ張り合っていて(もちろん行動ではなく比喩だ)負けを譲らない2人だが、いったいいつまで騒いでいるつもりだろうか、ちょくちょく通信機にも電源が入っていて耳が痛い(これは比喩ではなく本当の意味で)。とにかく音量調節ができていないのだ。


(はじめから抑えてくれればいいのに……)


 心のうちから事務員に文句を言う。しかしそんなことをしても意味がないことは彼もよく分かっているつもりだ。だがさすがにこうも騒がれるとストレスも溜まる。少しくらい発散したい、という願望から生まれた行動だ。

 七日はともかくとして、それにしてもよく遥と田中は平然としていられる。先ほどから特に何の変化もなく歩いているのだ。とはいっても、シルエットから得られた情報だから確信も何もないのだが。

 七日のシルエットは急ぎたいからかずっとそわそわしてスカートに両手をやっているのに、遥のシルエットも田中のシルエットも、肩を落とす事もなく、入り口のころと大差ない。こちらはなんとなく顔色も伺えるのだが、それでも変化は見られない。

 まったくなんと恐ろしい忍耐力だろうか。しかしそれより恐ろしいのは、ツカサと涼子という人間の恐怖心だ。一体どうしたら克服できるのか。できるならこの場で今すぐ克服してもらいたい。


(そういえばさっきからあの2人以外喋ってないな……)


 ふとそう思った優は、通信機のスイッチを入れる。

 端末をポケットから出し口元に近づける。


「そろそろこのブロック抜けるぞ。……残念ながら直進みたいだけど」


 本当に残念だ。いますぐこの場に跪きたいほどに。


『目がいいんですね』


 これは七日の声だ。

 確かに優は普通の人よりも目がいい、というか目が暗闇に慣れている。こっちのほうが正確だ。


『さすが優くん』


 次に遥の声。そしてこの声を聞いて、優は1つ納得した。

 遥はこの環境をフルに楽しんでいるエンジョイしている。その楽しげな声は、明らかにそのことを示していた。まったく進行しない様子に何の動きもないと思ったら、まさか返ってこの環境を楽しんでいるとは……正直呆れた。

 だとすると、田中のほうも同じなのだろうか。口元が歪んでいないか、少し気になる。


『神田優、その先にはなにもない?』


『ああ、なにもない』


『あれ、どうしたのかしら涼子さん。もしかして怖いの?』


『ば、馬鹿言うんじゃないわよ! べ、別に怖いわけじゃないんだからね!』


(電波上で喧嘩しないでもらいたいな……)


 優は我知らず1つ呆れたため息をつく。その中には、ツカサと涼子への呆れは勿論、この先への不安も入っていた。先頭に立っていることから一応辺りを見回してはいるものの、それら不安は一方的に募るばかりであった。

 そうして優たちはとうとう、8Cブロックに足を踏み入れる。

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