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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
28/110

◇3-5◇

 生徒もすでに半分ほどの人数が入場した。時折聞こえてくる悲鳴の数々は、おそらくは先生方の変装したお化けだか妖怪だかに驚かされた、というので大方間違いないだろう。――問題なのは、その聞こえてくる声の数と正体である。

 散々と響き渡る声の色は大体同じで、そこに時々数名の別の声が加わるという感じだ。

 さて、ココで正体なのだが、聴き捉え違いでなければ、おそらくそれは……幸一だ。滅多に聞かない彼の叫び声(いや聞いたら聞いたでそれは問題があるのだけれど)。つい先ほど声を聞いたからなんとなく分かるが、きっと話していなければ気付かなかったろう。

 だが彼の班員もさぞ大変な苦労を強いられていることだろう。少しばかり同情する。もちろん、「幸一といる」ことではなく、「班員が悲鳴を上げている」ことがだが。

 しかしまさか彼が肝試しで悲鳴を上げるとは、消してそうは見えなかったから、少し驚いた。


「それにしても、遅いな……」


 優が呆れのため息をこぼす。


「そうですね。一体どこにいるのでしょうか」


 眼鏡を軽く上げ、いち早く彼の言葉に反応する七日。よく見るとその顔には少し焦りのようなものが浮かんでいた。

 彼女が肝試しの優勝に興味があるとはなかなか思えないのだが、それ以外に何かあるのだろうか?


「どうしたんですか? そんなに焦って」


 とりあえず単刀直入に聞いてみた。もちろん敬語で、だ。


「い、いえ、別にそういうわけではないのですが。ただ、今回の肝試しで、急いだほうがもっといい勝負になるかと思いまして……」


「いい勝負って、七日さんはあまりこういう勝負事には縁がないような印象を覚えたんですけど?」


 その言葉に一瞬固まる七日。おそらく動揺しているのだろうか、目が泳いでいる。なにもそこまでなることはないと思うのだが、暇つぶしには丁度いい。とりあえず詮索してみよう。


「どうしたんですか七日さん?」


 内心わくわくしながら聞いてみる。もちろん感情を外へは出さず、落ち着いて敬語で、だ。

 そんな様子に少し七日も釣られたのかそれとも自然と落ち着いたのか、彼女もペースを取り戻していた。


「い、いえ、私もたまにはゲームをしたりしますよ? そこまで生真面目な性格ではありません。ただ、今回ばかりは大事な約束があって、負けられないんです」


 その時一瞬垣間見えた覚悟の目。彼女のそんな一瞬の感情を、優は見逃さなかった。

 それは生半可な覚悟、感情ではだせない、本当に強い目。その目を認識して、優はわずかながらにも息を呑む思いだった。


(いったい、この勝負に何があるというのか……)


 しかし、これ以上は野暮というものだろう。あまり他人の問題に首を突っ込んではいけない。

 これはある種規則のようなものだ。正式に決められてはいないにしろ、正体を隠している上で、破ってはいけないとまでされる1枚の壁だといっていい。コレを破ると、お互いに干渉しあい結果全てが公に晒されるところまで発展する可能性がでてくる。その実例も、優は数十と知っている。

 いささか残念でもあるが、詮索はここまでにしよう。


「それじゃ、急がないといけませんね」


 またしても眼鏡を軽く上げる仕草を見せる七日に、できるだけ相手を落ち着かせるよう、軽く微笑みかけた。コレは嘘偽りの塊といっていいものだが、それでも効果はあった。

 遥の時はあまりそうでもなかったが、今回は七日も微笑を返してくれて、うまくいったと言える。


(そして最後の問題は――)


 いまだ姿を見せない古川涼子。

 そしてとうとう、その姿を現す。


「あらら、ごめんなさい結構遅れちゃったわね。ちょっと生徒会長につかまっちゃって……」


 体育館入場用入り口の更に奥、今日に限り関係者以外立ち入り禁止の看板が置かれていた通路にその姿はあった。


「あららじゃないでしょ! こっちはずっと待ってたんだから!」


「なによ劣科生のくせしちゃって。あの人なに言ったって離してくれないのよ!」

「なんなのよその見下した言い方、遅れてきたくせに調子乗ってんじゃないわよ!」


 肉食動物(気にいらないと何かと強気系女子)のいがみ合いが始まった。七日もコレばかりは止めようにも割り込むことすらできないらしく、急ぎたいのにとおどおどしている。遥もそれに似た状態で、田中に至ってはむしろコレを楽しんでいるようにも見える。若干口元が歪んでいるのだ。

 これは仕方ないと割り切ってそれを止めようと考える優。少し前へ出て、2人の間に入った。


「そこまでだ2人とも。古川さんとはまだ面識がないけど、彼女の場合は仕方がない」


「なにあんた、私のこと庇おうっていうの?」


 一応何とか罵詈雑言の嵐は収まったようだ。しかし正面にいるツカサから来る超攻撃的視線が痛い。だが背に腹は変えられない。このままでは入場が運と遅れて勝つどころか勝負が始まりすらしないのだから。


「オレはこの班の班長。1Dの神田優だ。古川さんのお兄さんを知っているから、事情は分かってる」


「幸男を知ってる? でも1年生だし、生徒会でも勿論ないし……――ってあ! あんたさっきアイツの隣にいた……」


 ズズズと数歩下がる涼子。彼女のお兄ちゃんマジ離れて度が再確認できたのはいいのだが、彼の所為で優まで拒絶されていては困る。


「頼むから逃げないで。オレはなにもないから」


「ほ、本当?」


「ああ、本当だ。俺もあの会長には困ってる」


「それは、よかったわ」


 自分の兄の陰口言われて喜ぶ妹とか、あのバ会長は一体何をやっているんだ。

 しかし、これで嵐も収まった事だし、メンバーも揃った事だし、都合がいいのではないか?


「そ、それではそろそろ入場しませんか? 急いだほうがいいと思うんですが」


 優と同じことを思ってか、七日が先に声を掛けた。

 彼女の言う通りさすがに入場しなければまずいだろう。なにせもう優たちが最後のグループだ。ついさきほどまで我先にと言って込んでいた入り口もすでにすっかすかだ。


「そうね、そうしましょうか。話は中でよ」


「そうしましょうか」


 七日から視線を外し後ろを向くと、再び火花が散っていた。チリチリと本当に音が聞こえてくるのではないかと思わせるくらいの迫力で、いささかに参る。

 しかしそれでも中には入ってくれるというのだから、まだいいほうか。これでこの場で話すなんて言われたら堪ったものではない。

 誰もいない無人の扉を越えて暗幕をつかみ、センサーが反応して片道式可動壁が動き出した。目指すは勝利(?)、ようやく、優たちは体育館という肝試し会場に入場することになる。

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