◇3-4◇
開会式も終わり、皆一時的に体育館外で待機させられていた。
久しぶりに感じる肌寒い空気が、露出した肌を突いている。
つい先ほど体育館内で知らされた話によると、どうやらこの肝試しには勝ち負けがあるらしく、一番心拍数が上がらなかったグループが優勝すると言う、随分と独特な物だった。そのうえ体育館内も可動式壁によって迷路化されるらしく、そのなかでの道選びも大事な勝利への鍵となってくる。ようするに、勝利を左右するのは個々人の運力と精神力。近い未来未知なる電磁生命体と対峙する事になろう電磁科生徒達にはまさにうってつけと言える。おそらくはその辺りを考慮しての目論見だろう。 その内部では機械的なものやら教師らなどが変装して脅かす機会を狙っているのだそうだ。
(全く面倒なもの考えたな……)
それが今の優の持つ率直な意見だ。
彼は昔から考えるのが嫌いだ(ただし戦闘になれば話は別)。迷路のような道選びが勝利を左右するゲームは、滅多にやらない。昔からゲーム自体あまり好まない彼が「滅多に」というのだから相当稀だろう。
しかし今回は遊ぶに限らず内部の警備もかねているので、暇つぶしにはちょうどいいレベルまでは気分的に達していた。おまけに装備ということで電気ショックを放つ警棒も渡されている。暴れているヤツを見つけ次第目立たない程度にぶっ叩いて行けるので、彼にしては珍しくゲームを楽しむ事ができるかもしれない。迷路ではなくもぐら叩きとしてだが。
防犯カメラもついているのになぜ警備する必要があるのか、という疑問点も次から次へと生まれていくが、こういうときに限って何かしっかり理由があるということもあるだろう。極力首は突っ込まないでおく。もちろんそもそも優にとってはそんなこと全く興味のないことだが、隣でいろいろ詮索したがっている柔道馬鹿がいるから、一応だ。
「あっ、佐藤、お前それ右だぞ?」
優が幸一のミスに気付き声を掛けた。
それ、というのはお祭り委員に配られた腕章の事で、赤に黒の縁取りと黄色い蛍光色という随分と派手なデザインが目に映える。指示としては右腕に付けろとされていたのだが、この時点で幸一は左腕にまきつけていたのだ。
おそらくはこの腕章、肝試しをする暗闇のなかでも分かるようにと蛍光色を使っているのだろうが、なにしろ先ほど貰う時はダンボールに入っていた状態だったのだから、おそらく全く光を吸収していないのだろう。コレでは意味がない。
最近はよく意味のないものに出会う気がするが、それには決まってとある人物が関わっていた。それは大文字博だ。
彼に何かを貰う時は決まってなにかしらがある。計算しつくされているときもあったが、時折異常なまでに未来に対して意味のあるものもあった。生徒会室の間抜けな鳥の時計なんかがまさにそれだ。幸男会長が時間を忘れたときもあの時計で気付いたのだから。
果たして今回、一体どんな意味を果たすのか、いささか楽しみである。
さて、すでに周りではグループで集まってきつつあったのだが、優と幸一のグループはまだ、ただの1人もいなかった。いわゆるぼっちである。
「なぁ神田、なかなか集まってこないなぁ」
「そうだなぁ……」
「なぁんか、なぁ~」
腕をだらんとたらしてぐてっとする幸一。しかしそんな姿もまた、彼らしいといえば彼らしい。
もちろん優はそんな格好は晒さないが、それでも気持ちの面では少しばかり哀しい。遥くらいならすぐさま見つけてきてくれてもいいと思うのだが、それすらもなかった。
(はぁ……)
そんなため息めいた事を思っていると、ついにその時が来た。
「あ、優くん!」
幾人もの人を掻き分けて、奥のほうから遥と思わしき人影が近づいてきた。よく見ると、その隣にもう1人いるな。
オレンジ髪のショートボブにボタン全開のベスト、その下に無地のTシャツとショートパンツにレギンスの組み合わせ。まさしく彼女の友達、井上ツカサそのものだった。
先週末にちょっとした揉め雰囲気になっていたが、コレがいかに今回の肝試しに関わってくるか、それが気掛かりだ。あまり面倒な事に発展しないよう祈るばかりである。
そしてようやく優の許へたどり着いた2人。
俯き顔でいるツカサの表情はあまり読み取れないが、遥の表情は読み取れた。少し困ったような、それでいて少し嬉しいような、そんな微妙な表情だ。
「優くん、待たせてごめんね。ツカサちゃんを探してたの」
「……ごめん」
遥の話では、どうやらツカサも先週末の事が引っかかって来づらかったらしく、そこへ遥がいって連れてきたのだそうだ。
それにしても、もともと怒っていたわけでもないのだが、ツカサがふいにも顔を赤らめ涙を浮かべ、上目遣いで優の顔を見てくるものだから、何も言う気になれなかった。普段(といっても数日だが)ボーイッシュな、どこか活発な感じのする少女という印象が強かった所為か、そこから来るギャップが余計にその破壊力を増していた。
おそらく隣にいた幸一もそう感じたのだろう、やや顔を赤くして視線を逸らしていた。
「ま、まぁあれはオレも嘘を言ったのが悪かったんだし、誤る事でもねぇよ」
「……うん」
遥に聞いた、の一言で一瞬ピクリと優の眉が動いたのは誰も気付くことはなかった。優自身が思うのもなんだが、それに気付いたとしたら、そうとうの動体視力の持ち主だろう。なにせ視界の端でしかもものの数ミリしか動かない物体を識別することになるのだから。
「あ、いたいた、神田くん、相沢さんに井上さん」
丁度話が始まろうとしていたその時、空気を読んでか読まないでか、七日とそれについで田中がやってきた。
「ごめんなさい、なかなか見つからなくて」
「いや、こっちも今合流したところだから」
まだあまりクラスメイトとは会話をしていないのだが、それでも七日とはある程度話せていた。それはおそらく彼女が敬語じみたものを使うからだろうということは、本人も分かっている。優にとってはコミュニケーションは定型的なものであっても不慣れな人物なら敬語を使う事にしているからだ。それを相手も常用しているとなれば、話しやすくもなる。
七日の隣にいるやや長身な少年/田中 蓮は口をなかなか開こうとはしないが、話しているこちら側をチラチラと見ているので、おそらく彼の中ではこのコミュニケーション枠に入っていることになっているのだろう。
なにはともあれ、これでDクラスメンバーは揃い、残すところはあと1人となった。
1-Bクラス優科性にして、今年の新入生代表の古川涼子だ。彼女は舞台上にも上がり表彰されていたのでおそらく少しばかり遅れることは想定していたが、まさかココまで遅いとは、少し予想外だ。
「遅いな」
「そうだね……」
少しばかり心配そうな顔を見せる遥だったが、おそらく心配というものは不要なのだろう。どこかしらで引っかかっている、というのがおそらくは正解、真実だ。なにせ新入生代表、つかまりもするだろう。
――するとその時、メンバーが揃っていないにもかかわらず、校内放送と共にとうとう体育館入り口方面の電子ロックが一斉解除された。放送では早い者勝ちといっていて、次から次へと生徒群が体育館の暗闇へと消えていっていた。
「わるい神田。オレもそろそろ行くわ」
「ああ、いってらっしゃい」
いつの間にかこの場の空気に置き去りにされていた幸一が、ようやく口を開いた。それは別れの言葉であったが。これで彼も見送り、本当の意味でDクラスのメンバーのみとなった。
ぞろぞろと入場していく生徒を見ながら1つため息をつく優。いったい入場はいつになることやら。




