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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
19/110

◇2-6◇

 特科棟3階、ここには電磁科施設とその他の学科で使う工場などが設置されている。あちらこちらからオイルやガスの臭いが漂ってきて、皆の鼻を突く。

 今はまだ302号室の前にたどり着くばかりで、しばらくはこの臭いに耐える必要がありそうだ。それなのにすでに約3名が限界を迎えて口を押さえているのは、どうしたものか。

 階段に漂ってきた臭いごときで吐き気を催す3人は、優のことを信じられないという目で見つめていた。それと同時に、汚物を見るような目でもあった。


「優くんの家ってどんな臭いがするの? もしかしてこんな臭いがしたり?」


 なにも反応を見せないのを慣れているからだろうとでも思ったのだろうが、それをそのまま言うとは、失礼な奴だ。


「……違うよ。息を止めてるだけ。これなら、話しているとき以外空気は入ってこないからね」


 息を止める、ただそれだけの話だ。

 しかし、当たり前だが階段上っている段階から息を止めてずっとあるいているなど、常人にできる芸当ではない。

 しかし、それをわからないのが神田優なのである。


「この人、なんか可笑しいわよ」


 それが常人からした率直な感想だ。

 それからまた数十メートルほど歩いて、3人にとってはようやくと言うべき施設の前までたどり着いた。ここではもうほとんど鼻を突く臭気はなく、皆ほっと息をついていた。


「はぁはぁ、やっとまともに息ができるぜ」


「っはぁはぁ、神田君は一体いつまで息とめてたのかしら」


「……今までだ」


 常人離れした息止めをしていた優も深く息を吸い込み、施設の扉の前で足を止めた。

 電子ロック式の自動ドアで、どうやらロックは掛かっていないようだ。正直言って優にはココが開いているという確証もなく少し困っていたのだが、開いていてくれて胸をなでおろした。


「さ、入ろう」


 扉のセンサーの前に立ち、それに反応して扉が全開するのを確認すると、優から中へと入っていく。すると、先に誰か来ていたのか、明かりがついていた。

 そしてふと更に奥のほうに目を向けると、そこには1つの人影があった。


「あ、あれって生物の西岡先生じゃない?」


「ああ、ほんとだ」


 神桜高勤務の生物科教師/西岡 修平(にしおかしゅうへい)。今年転任してきたばかりだし、彼も学校見学をしていたのだろうか、今年新しく設立されたこの施設を見て、完全に周りが見えなくなっていた。

 まだどのような人物かは知らないが、とにかく興味を持ったことには周りが見なくなるほど集中してしまうタイプ――つまりはやや大文字先生と似たタイプの人間だという事だ。なので彼の前ではあまり目立った行動をとらないほうがいいだろう。……と、思いはするのだが、残念ながら少しばかり常識の欠ける優には、それは少し難しいかもしれない。


「西岡先生!」


 集中力が切れ掛かっていたのか、一度軽く声を掛けたらすぐに振り返った。そして優たちの存在を確認すると、いきなり、


「な、君達一体どこから!?」


 と焦りながら叫んだ。


「いや、だって扉開いてたし、入っていいものかと」


「ああ、開けっ放しだったのか。しまった気付かなかったな。――それで、君達ココに来たってことは電磁科の生徒かい?」


 やや黒目の白衣を着た茶髪の先生はそう言って眼鏡を上げると、優たち1人1人の顔を見る。


「いえ、私とこの子は電磁科ですが、人数の関係上、私のクラスは普通化生徒も入っているので、彼らは電磁科ではありません」


「ほぉ、では君達はDクラスの生徒か」


 またも眼鏡を上げ、言葉を放つ。


「転任してきたばかりなのに、よく知っていますね」


「君も、ね」


 しばらく優と西岡先生は目を合わせると、お互い何かを探るように黙り込んでしまった。しかしそれはすぐに終わり、西岡先生が提案を出した。


「折角ですし、ココ、一緒に見ますか?」


「そうですね。そうしましょう」


 非伝道加工を施された金属性のタイルの上をカツカツと音を立てながら歩いていく。電磁科の施設は305号室から308号室までの計4つの大きな空間で構成されている。その上この特科棟は、内部の入れ替えなどを想定して部屋ごとを区切る壁を可動式にしているのだ。つまり今は、壁で区切られる事のない校舎棟の教室の約3倍の広さを誇る部屋4つ分、教室12個分の空間が優たちの前に広がっているのだ。

 そんな中に、訓練場、実験場、工場などなどのものが設置されているのだ。


「おっ、アレなにすんだ? なんか射撃っぽいけど」


 早速幸一が目をつけたのは銃撃戦闘用の訓練場だ。


「あれ、やってみますか?」

「え、いいんすか! やりますやります。おい神田、やろうぜ!」


 大はしゃぎで優のベストを引っ張る幸一。先生も許可なんて出すなよ……。

 しかし、射撃なら銃系の電磁流兵器を使いこなす優の十八番。幸一になど引けを取るはずがない。しかしかといって断ると、西岡先生に何か感づかれる危険性も出てくる。ここは潔く参加するしかないだろう。


「わかった。やるよ。でも、銃はどうするんだ?」


「それなら問題ありません。訓練用の銃があります。弾は極めて弱い電磁弾で殺傷能力もゼロなので安心ですよ」


 西岡先生、あんた結構ココに詳しいだろ?

 それが優の率直な感想である。


「おっと、ちょっと悪いが、呼ばれたから、私はここで失礼するよ。後で閉めに来るから、ここは開けっ放しで構わない。それじゃ、また授業で」


 そう言って西岡先生は急に鉄の施設の外へと消えていった。。

 しかし、全くよくできたものだ。電獣に対抗する手段を教育するために国がココまでの施設を用意させるとは、試験的なものにしては少しやりすぎだろう。なんというか、本番でもいいのではないかと思えてくる。


「それじゃあ神田、オレは手加減しないから、遠慮なくかかってこいよ?」


「ああ、わかったよ」


 訓練銃を受け取ってコートに入っていく優と幸一。2人も若干緊張しているかもしれないが、それ以上にツカサが緊張していた。


「ねぇ、遥、あんたどっちが勝つと思う?」


 ガラス越しにコートを見つめながら、遥に声を掛ける。


「絶対優くんが勝つと思う」


「あ、あんた自身満々だねぇ」


「私、信じてるから……!」


 なんという愛の力だこと。

 ツカサは心の中で若干引いていた。

 その一方コート内では。


「なるほどリボルバーか。これだと、一発ごとにハンマー下ろす必要があるな」


 面倒臭い。

 おそらく極めて弱い電磁弾といえど、身体が一瞬痺れるほどの威力はあるのだろう。この試合は相手に一撃を加える事が勝利のルール。それも頭につけた赤い色の小型電子スクリーンの的を。

 それを成すための戦略もまた、この勝負には必要となってくる。素人同士の試合なら別だろうが、生憎と優は素人どころかベテランだ。一番手っ取り早く相手を仕留める方法を瞬時に頭の中で計算し、導き出す。そしてそれを実行する。そんな簡単そうで実は難しいプロセスを、彼は意図も簡単にやってのけるのだ。


「試合開始!」


 コンピュータによって試合開始の旗が揚げられた。

 作戦は簡単、相手の攻撃を避けつつ相手の足を封じ、そして最後に止めの一撃を加える。


「当たれ!」


 先手は幸一が素早くハンマーを下ろし、引き金を引く。しかしその行動も、丸々顔に出ているのでかわすのは容易い。真正面から来る弾をひらりといなし、幸一の左サイドへと移動する。そして初めから下ろしていたハンマーで雷管を打たせ、銃口から小さな光の弾を発射した。それは吸い込まれるように幸一の利き足――右足に命中すると、一瞬ではあるものの、幸一の動きを止める。

 そしてその一瞬で大きく身を乗り出し、最後の一撃へと向かう。


「ひっ」


 銃口は向けられず、ただ頭部に軽くチョップをされた。ただそれだけなのに、怯えの声が出た。それはやはり、優の目が本気だったからかもしれない。

 優の軽いチョップが幸一の頭部にあった小型電子スクリーンを崩し、勝負は、優の勝利となり終えられたのだ。

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