◇2-4◇
ちょうど太陽も真上に登った辺りで、気温もほどほどで風が心地よく吹き付けていた。その風で散っていく桜の花は、あるものは落ち、あるものは空高く舞っていく。まるで、人の社会のように。
高校3年生にもなれば、進学と就職の2つの道に翻弄され、深く悩まされる人も少なくないだろう。特にいまの時代、人員不足で2度の募集をしている学校もあるからなおさらのことだろう。
しかし、そんな思想を簡単にぶち壊した3年生がいま、優のすぐ近くにいる。
「いやあ、まさか涼子がもう高校生だなんて。昔からお兄ちゃん子でいつも一緒にいてね、クッキー食べる姿が子リスみたいですごく可愛いんだ!」
とにかく妹自慢に走る生徒会長。
――ことの発端は、少し時を遡り放課後。
帰りの学活を終えてすでに帰り支度を終えていた優だったが、大文字に佐藤と共に呼ばれ、生徒会室を訪れていた。
話によれば、お祭り委員のミーティングがあるらしい。がしかし、そこで待っていたのは、1人のシスコンと、そしてブラコンと、最後に常識人だった。
「ようこそ。生徒会室へ。知ってると思うけど、僕は生徒会長の古川 幸男。今後ともよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします、会長」
「んまぁ、そう固くならず、簡単な話だからゆっくりしていってくれ」
そんな会話のなかずっと会長席に座る幸男会長。おそらく相当その席が好きなのだろうか、なかなかその場から動こうとはしない。
きれいな黒い髪をサラサラとたなびかせて自信たっぷりの表情を見せるそれは、噂通りのイケメンだった。毎日ラブレターを貰うというのも伊達じゃない。
「とりあえず、立ち話もなんだ。ソファーに腰を掛けてくれ」
そう言ってソファーへと案内してくれたのは、生徒会副会長/飯田 武だ。
「では、お言葉に甘えて」
優はわりとこういう場に強い。それは組織の方でこのような機会が希にあるからであり、それを幼少の頃から続けているのだから、耐性もつくというものだろう。しかし前の事もあり、本人はそれが珍しいことを知らないのだ。
そんなことは露知らずいる他の人からすれば、優の言動はとても謙虚で丁寧に見える。
「神田くんは、かなり慣れているんだね。佐藤くんが普通な反応と言えるよ」
はてと子首をかしげる優に苦笑する武副会長。それと同時に、佐藤も苦笑していた。
「さてと、それでは本題に入ろうか」
ようやくというべきか、幸男会長の表情が引き締められ、話を始めた。
「聞いていると思うが、来週の月曜日に新入生歓迎会を行う。君たちも新入生だから、歓迎されるがわだが、少しだけ、お祭り委員として仕事をして貰う」
この話なら少しまえに聞いていた。
「肝試しでの警備ですね?」
「おぉ、話が早いな。その通り、肝試しの警備だよ。なんせ真っ暗のなかだからね、たまにトラブルが起きるんだよ」
「それを止めろってことっすね?」
横から佐藤が渋顔で口を挟む。
「その通りだ。それが、君たちの仕事」
だいたい話はつかめた。ようは生徒同士のトラブルをなかに割って入って止めろ、ということだ。しかし、優にはひとつ、腑に落ちない点もあった。それはこの場に1年生しかいないことだ。
すでに連絡をしているという可能性もありはするが、それなら、優や佐藤も博からすでに話は聞いていて、追加事項はなにもなかったのだ。やはり、なにか引っ掛かる。しかし、この曖昧な状態では話を切り出すには至らない。あまり優に感心を向けさせるわけにはいかないのだ。
「わかりました。では、今回はこれで?」
とりあえず話が進まないので話を切り出してみる。
実はいま、教室で遥を待たせているのだ。
「んいや、まだあるよ? たしか、君の肝試しの班には古川涼子っていたよね?」
「え、はい」
あれ? なんか話変わったぞ? てか、古川って……もしかして――。
「その子ね、実は――僕のかわいい妹なんだ!!」
こいつ……シスコンかっ!?
「今日は君が涼子にふさわしいかどうか見極めるためにこの場を設けたんだ」
なんだそれ!?
「いや、でも、ものの十数分ですよ? そんなふさわしいもなにも。それに、会長の妹さんといるのだって恐れ多いんですから」
正直言って嘘だった。会長の妹であろうが弟であろうが、所詮は1高校の生徒会関係者。そんなもの、組織の上の人間に比べればなんでもない。
しかし、このさきの3年間この学校に通うとなれば、もちろん生徒会との友好関係も大切になる。
そのことを考慮した上での言葉だ。
「いや、これはいくら1秒であろうが必要だ。見ず知らずの男になんて、涼子を任せられるか!」
なんてシスコンなんだ。これは妹さんも大変だろうな。いやでももしこれが妹さん公認だったら……すごい兄妹だな。
「おい幸男、生徒会長なら生徒会長らしくしてろ、学校でくらい……」
さすが副会長というべきか、武は遠慮することなく、幸男にチョップをくらわせていた。しかもかなりの力で……。
「すまなかったな。こいつは妹さんのことになるとすぐに熱くなるんだ。忘れてくれ」
いや、無理です。
しかし勿論声には出さず、表情は取り合えず苦笑いを作っておく。
「では、そろそろココで……」
優は佐藤とともに扉に向かいドアノブに手を掛ける。しかし――
「――いや、待て、まだ話は終わっていないぞ! 涼子を任せるからにはさらに会話を重ねなければならない!」
(いやいやもう勘弁してくれよ……)
シスコン生徒会長が帰してくれなかった。
「それにしても、もう涼子が高校生とはな――」
ここからまた話が始まり、現在に至るのだ。
重度のシスコン生徒会長につかまってしまうとは、全く困ったものである。早々に新入生歓迎会を終えて開放されたい。それが、優の思うすべてだった。
「それでな、小学校3年生のときなんかな――」
(早く、早くココから抜け出さないと……!!)
この日、優がこの場所を出たのは、生徒会室に来てから2時間、つまりはそれから1時間のことだった。
「……優くん、遅いなぁ。何してるんだろ?」
教室では、頬杖をついて流れていく雲をひたすら数える遥だった。




