◇2-3◇
班には10人いてその上で制限時間30分なのだから、単純計算で1人3分自己紹介を続ければ、自ずと時間切れになる。そうすれば博から変に問い詰められることにもならなくて済むのだ。
しかし、現実そううまくはいかない。なにより高校1年生にいきなり3分に及ぶ自己紹介をしろといったところで、できる奴なんてそうそういるもんか。多くて2分。ひどい奴なんかは30秒で終わってしまうだろう。
実際そこまでひどい奴はいなかったにしろ、それでも平均1分半未満。まだ12分しかたっていなかったのだ。
もちろん、現段階ではなにも口走ってはいない。だからというべきか、鋭い眼差しが、あからさまに優へと向けられていた。残り時間18分。この時間をどう過ごすかが、この先の学校生活を左右する。
「さて、もう終わっちまったみたいだな。よぉし、じゃあ神田の話を聞くことにしよう」
始まった……!
残り17分。さあどう来る?
「まずはまえと同じ質問からだな。出身は?」
「えっと、清水町です」
「どこの中学だ?」
「川瀬町の第2中学です」
と、ここまではいつも通りと言ってしまってもいいだろう簡単な質問だ。
問題はこのあとなのだ。
「では、相沢との関係は?」
この聞き方であれば、答えはひとつ。
「遠い親戚で、お友達です」
「……友達か」
よし、第2関門突破だ。だがしかし、ここから先はまだ何が待っているかわからない。
さて、大文字博、どうでる?
「じゃあ次の質問だ。昨日の登校時、神田と相沢が時間差で同じ茂みから出てきたのはどういうわけだ?」
え? 今、なんて?
「昨日、数名の生徒が目撃していたんだ。どういうことだ? まさか偶然とでも言うわけではあるまい?」
もうこの人全部知ってるんじゃないか? 知ってて訊いてるんじゃないのか?
もうそんなことばかりが頭を駆け回る。
いや、いやいや、自棄になるな。ここで自棄になったら相手の思う壺だ。ここは冷静な判断でこの逆行を乗り越えるんだ。そして、何事もなかったかのような具合で日常生活を繰り広げるんだ。
「えっとですね、昨日は、朝早くに2人で出会って、思い出話に花を咲かせながら公園でぶらぶらしてたんですよ。それで、その時に持ってた僕のボールが茂みのほうに転がってちゃって、それを探してたんです」
これなら、あの時間に登校中の優たちが目撃されなかったのも説明がつく。実際、あの時間は歩いてる生徒なんて1人もいなかった(だから飛べたのだが)。
茂みの話も、嘘ではあるが、優がボールを持っているというのは嘘ではない。とはいっても、下手をすれば超高圧電流の流れる危険度マックスのボールだが……。
「ほぉ、そうか。では、そのボールとやらは今あるのか?」
持っていても見せるわけにはいかなかろう。なにせ殺傷力抜群のボールなのだから。
それを思って、優も首を横に振った。
「そうか、まぁ、だろうな。それじゃあ、最後の質問だ。コレはここにいる全員に聞く。――昨日起きた地響きを知っているか?」
こればかりは、優もすこし表情を崩してしまった。見られていただろうか。そればかりが気掛かりなものだ。
しかし、それにしてもこの教師、絶対に何か知っている。優はそれを確信していた。いくら物理学者といえど、さすがにココまでピンポイントで攻めてくるとは、それ以外に考えられない。
「オレは知らないっす」
「あたしも知らないなぁ」
どうやら10人いるうちの大半は知らないようで、遥も一応「知らない」と答えていた。やはりここは、どうにか白を切るのが的確だろう。
「オレも知らないです……」
「……そうか。まぁ、いいだろう」
しばらく優のほうに視線がいっていた気もするが、取り合えず相手は下がったようだ。まったく、大文字博というのは分からない人間だことだ。常に来ているその白衣と眼鏡が、その不思議なオーラをより引き立たせていた。
しかし、コレが最後の質問といっていたが、まだ5分と時間が残されている。一体なにをする気だろうか。
「――んじゃ、残った5分は業務連絡だ。神田、佐藤、お前ら早速仕事だ。来週の月曜日、だからつまり4日後、毎年恒例のつまらん新人生歓迎会がある。その時の肝試しで、お前ら2人には別々の班になって警備をしてもらう」
警備来たー!! てか教師がつまらないとか言ってるけどいいの!?
そんな心の叫びはさておき、早速お祭り委員の仕事がやってきた。実地日は今日から4日ごとまだ少しあるが、実際警備させるということは、おそらく何かがあるのだろう。心してかからなければならない。
「よぉし、そんじゃあこれが班名簿だ。確認しとけよ」
そう言って博から手渡された2つの《UEC》。
早々と佐藤がライターに挿入してデータをスクリーンに映したのを見せてもらうのだが、なんだろうか……優たちは博の事を甘く見ていたのかもしれない。そこには完全に文句も何もないように計算された班分けが施されていた。
・第5班:
相沢 遥
井上 ツカサ
神田 優
田中 蓮
七日 由里
古川 涼子(1-B)
「あれ? なんで違うクラスの生徒が?」
それがまずはじめに出てきた台詞だ。
「それは、そこのクラスのはみ出しメンバーだ」
(1人多くてもいいじゃん。実際ココ多いし)
そんな優の同情の想いである。
同じことを思ってか、遥も若干苦笑気味の表情だった。
それにしても心配なのは、やはり優科生と劣科生同士、騒ぎを起こさずにやっていけるのか、ということであろう。なにより、その古川という少女はプライドが高い事でも少し耳にする。一体何故そんな人間と同じ班にしたのか、博の思考は謎だらけだ。
まぁ、優にかかれば古川涼子など赤子の手を捻るようなものであろうが……。




