◇2-2◇
「それじゃあ、学活はじめるぞ」
その掛け声とともに、教室中の空気がある程度静まった。優と遥の周りに群がっていたクラス員もみな自分の席に座り、ようやく平和な時代が訪れたといった具合だ。
「出席はとらない。いなきゃわかるからな。それじゃ、今日の日程だが、昨日言ったとおり役職決めと、自己紹介だ……!」
相変わらず興味のなさそうな事には無関心といった様子だ。普通であれば先生は毎日出席確認をするものだろうに。
それに、こころなしか自己紹介の部分が妙に強調されている気がしていた。話している博と優の目があったからという可能性も否めないが、たしかに強調した。
博はまだ優の正体を暴くことを諦めてはいないのだ。これは非常に不味い事である。下手な質問でもされてみれば、答えが見つからなくて話がでかくなっていくという線もある。終いには妙に興味をひきつけてしまいまともに活動できないなんてことになれば、この地域を離れなければならなくなってしまう。そうしたらそうしたで、今度は遥の事が大変だ。
なんとしてもこんな連鎖反応が起きることは回避しなければならない。
(絶対にうまく突破してみせる)
優は心のうちで覚悟のガッツポーズをした。
それと同時に学活終了を知らせるチャイム音。国立神桜高は比較的時間に煩い学校で、チャイムが全てを左右するとも言っていい。
つまり、博はその時点で話を中断し、1時間目の準備を……
「――それで、このまま流れで下校になる。いいな?」
中断してはいなかった……。
どこにこんな型破りな先生がいるだろうか。先生が1年生の目の前で校則無視だ。そんな様子に呆気に取られてほかのクラス員もぽかーんとしてしまっている。
「それじゃあ、まずは役職決めだ。まぁ、これはお前らで適当に決めてくれて構わない。取り合えずだ。取り合えず学級委員を2人選出する。立候補者は手を上げろ」
なんと適当な教師か。みなそう思ったことだろう。しかし、これが、これこそが大文字博という人間なのだ。これはもう変えようのないこと。それを学校側も諦めてしまっているのが事実だ。
しかしそれにしても、このような状況で挙手するのは、よっぽど自信のある者か完璧主義の委員長キャラくらいのものだろう。そんな人間、早々いやしない。だが、この件からご察しの通り、それがいてしまうのだ。――1人だが。
「はい先生。私がやります」
眼鏡に黒のロングストレート。なんというテンプレな委員長キャラであろうか。しかし今までその存在に気づかなかったのは、その2つの組み合わせの無駄な地味相乗効果からかもしれない。
「そうか。じゃあ、七日、お前で委員決めてくれ」
「は、はい!」
完全に先生のペースに乗っているが、お前はそれでいいのか出席番号16番/七日 由里。お前みたいな委員長キャラなら絶対に許せないタイプだろ?
「では、恐縮ですが、大文字先生に代わって、私が仕切らせていただきます――」
――それからは早いものだった。晴れて学級委員に就任した七日によって、次々と役職が決められていった。
その結果が……コレだ……。
・相沢:図書委員
・井上:体育係
・神田:お祭り委員
「あのー《お祭り委員》って、何ですか?」
「えっと、『学校主催の様々な行事や祭りにおいて、細かい調節や警備などを担当する』だそうです」
(だそうです。じゃねぇよ! それならお祭り委員なんて変な名前じゃなくて行事委員とか校祭委員とか、もっと他にいい名前があるだろう。それじゃまるで頭の中お祭り騒ぎの能天気馬鹿みたいじゃねえか! しかも祭りや行事で何を警備するんだよ、どんな危険が待ってるんだよ! あれか? 饅頭喉に詰まらせた爺さんの警備か?!)
けして表には出さずに心のうちでそんなことを思っていると、同じくお祭り委員の佐藤が口を開いた。しかし、何か言いたげな顔だ。もうこの際何でもいい、言ってしまえ!
「この委員会なら祭りの屋台とかの管理とかできますか? オレたこ焼き好きなんすよねー」
いたよ。いたよココに能天気馬鹿が!!!
「はい。ある程度の事なら管理できるそうです」
そしてあんたもこんな下らん質問に答えんな!!!
「それでは、もう質問はありませんね。それではこれで、役職決めを終わります。――先生、終わりました」
心の叫びが漏れないようにするので必死だった優だが、どうにか全てが爆発する直前に話が終わった。しかしそのあまりの疲労に、机にばったりと倒れこんでしまう優であった。
そんな彼をじっと見ている遥の視線も彼は感じてさえいるのだが、あえて無視する。というより今の優にはもう遥と言葉を交わす気力は残っていないのだ。
「よぉし。役職も決まったし、次は《自己紹介》だ……!」
開始を告げるそんな博の言葉。その言葉は、またしても最後の単語が強調されていた。こころなしか、視線もまたあって……いや、完全にへばっている優をガン見している。鋭く光るその眼光が、あからさまに優の正体を引きずり出そうとしている。
やめろ、やめてくれと優の魂は訴えるが、そんなの彼本人以外に判るはずもない。
「よぉーし。まず、全員の聞くのは面倒だから、班に分ける。1番から10番、11番から20番、21番から30番に別れろ。そしたら、勝手に始めてもらって構わない。ちなみにオレは1班のほうにいるから、何かあれば来い。時間は今から30分だからな、それまでとにかく喋れ」
来いと言っても、教室ひとつだから大した距離はない。要するに、博が動きたくないだけだ。
そんな怠惰で白衣な教師が、今、遥と優の間にパイプ椅子を運び腰掛けた。
「さぁ、はじめようか」
こうして、優の苦難苦闘の30分間が、再び幕を開けた。




