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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
14/110

◇2-1◇

 4月6日。

 突然やってきた(?)運命の日が終わりを告げて8時間。優は桜並木の坂に向かって、ゆっくりと進んでいた。

 彼にとって通学路は2本ほど存在する。桜並木方面と、空方面だ。それなのに何故こちらを選んだかというと、それは通学路であるからということの他に理由が出てくる。

 そう、こちらの道を進めば、その途中地点に遥の住む相沢家宅が位置しているのだ。昨日も一度立ち寄りはしたが、2階建てのとてもシンプルな形成でいい物件だった。言ってしまえば、優の家よりもいい物件といえる。玄関もしっかりしていた事だし。まあそれは、優が遥を送っていくなり彼女の母に「折角来たんだし、お茶でも呑んで行きなさい」と目を光らせて腕をつかまれ、そのまま引きずり込まれたからわかる事なのだが……。しかし、あくまで友達でも、女の子の家にお邪魔してしかもその母親とお茶するというのは、なかなかに気まずいというか、肩身の狭い時間だった。


「なんか、行きづらいな……」


 昨日の帰りに彼女の母親に「朝迎えに来てあげて」なんて言われたから仕方なく向かいはするが、もし彼女の母親がまた出てきたりなんてしたら、精神的に参ってしまう。それほどに気まずかったのだ。

 そんなかんじでブルーになっていると、とうとう相沢家宅の緑色の屋根が顔を見せた。優は覚悟を決めて、真っ直ぐとそこへ向かう。


(遥が出てきますように……)


 もうそう祈るばかりである。

 家の前にたどり着き、チャイムに手を伸ばす。


(覚悟は決めた。後は押すだけだ!)


 チャイムを押した。

 ピンポーン。

 どこにでもある、普通のチャイム旧式も新式もない進歩のないチャイム音。正解したとき鳴りそうなチャイム音。そんな音とともに、返答が返ってくる。


『おはよう優くん。今行くね』


 出てきたのは明るい遥の声。昨日の学校のときのようなそんな声だった。

 よかった。本当によかった。これでひとまず開放されたも同然だろう。

 本気(マジ)で優はそう思った。

 そして、また変らない開錠音とともに遥が顔を見せる。


「おはよう優くん」


「ああ、おはよう遥」


 と、そんな何気ない会話をしているとき、優はあることに気付いた。

 遥の母親が扉からちょびっと顔を出して目を光らせている。


(怖っ!?)


 黒々とした負のオーラを放つそれは、優たちが母親の視界から消えるまで感じられた。



 桜並木坂。

 今は丁度桜が満開になる時期で、この名前はぴったりとマッチしていた。爽やかなそよ風に揺られてひらひらと散っていく桜の花にはどこか哀しげなものもありはするが、それ以上に、春の美しさを思わせる。

 そんな春の坂道を優は遥と少し間を開けながら下っている。それはなぜか、という質問の答えは、とても単純明快である。

《恥ずかしい》

 これである。

 春だからか、この桜並木坂を下っていく神桜高生徒は、なにかとカップルが多い。ふと目を逸らせばカップル、また逸らせばカップルと、イライラしてくるほどに。今の優と遥も他人から見たらカップルと取れるかもしれないが、実際はまだ《お友達》なわけで、2人ともこの状況でどうしたものかと困っていたのだ。


「あ、あのさ、今日って学校何するって言ってたっけ?」


 どうにか、優が口火を切る。


「え、えっと、たしか、役職決めと自己紹介――とかだった気が……」


「そっか」


「うん」


 会話が終わった。


(おいおいおい! 何やってんだオレ、まだ坂結構残ってるぞ、会話終わったぞ!)


 心のうちで必死にこの状況の打開策を練る優だが、一向にいい案は出てこない。そればかりか、考えれば考えるほど焦りが募っていってしまう。

 坂は残り約10メートル。この距離ならもう無言でもいいかもしれない。しかしそれではこの先学校に着くまで無言になるかもしれない。それはいろいろ気まずい。いや、もしかしたら遥が話を切り出すかもしれない。そうすれば――


「あっ」


 10メートル歩きおえた。沈黙のまま。たった数言でおよそ100メートルにわたる坂を下りきってしまった。


(これで余計に気まずくなってしまう……)


――そう、思ったときだった。

 空気を読まない助け船は突然現れる。ヒーローは遅れて登場するものとでも言ったところだろうか? まさにいま、それはやって来たのだ。


「おっ、遥じゃん。おっ、おやおや神田くんもいるねぇ……」


 ニヤニヤ微笑むのはどうにかしてもらいたいところだが、彼女が声を掛けてきてくれたおかげで会話が生まれようとしていた。優や遥と同じ1-Dの出席番号3番/井上ツカサだ。

 いきなりの登場に遥は少し驚いているようだったが、よく知る友達が現れたからか、緊張が解けてにっこりと笑っていた。それは優からしても嬉しい事で、おなじく緊張が解けた。


「おはようツカサちゃん。今日は遅いんだね」


「え? ああ、そうね。今日はちょっと家のほうがごたごたしててさ。――それよりあんた……」


 折角の友達との会話のさなか、ツカサが話を変えようとした。しかも、あからさまに優のほうを見て、怪しくニヤリと口元を緩ませながら。


「昨日はどうせ神田くんと一緒に帰ったんでしょ? いろいろ話した? どこまでいったのよぉ?」


 言いづらい事をまじまじと聞くヤツだな。まったくデリカシーも何もあったもんじゃない。

 が、正直優は今の展開が不安だった。約束こそしたが、もしまた遥が余計な事を口走ったりしないかどうかと。

 ごくりと息を呑み遥の回答を待つ。


「……別にそんなことないよ。優くんには家まで送っていってもらっただけだよ」


 そう言って、あははと苦笑する遥。たしかに嘘は言っていない。

 なんだ、やればできるじゃないか。そう思って、優は安堵のため息をついた。

――しかし、


「へぇー。でも、家だって近いっぽいし、いつでも会えるのね。これからが楽しみだわ」


 カバーしていない所を突いて悪戯に笑うツカサ。まったく困ったものだ。

 しかし、彼女が来たおかげで無駄に強ばった空気が緩んだのもたしかだ。ここは極力対応して、機嫌を損ねずにともに登校するべきだろう。いや、そのほうが優も助かる。


「あ、そういえば、まともな自己紹介がまだだったわね。あたし井上ツカサ。よろしくね、えっと、神田優くん、だったよね?」


「あ、ああ。よろしく、井上さん」


 優は、あえて名前の最後に《さん》と付け加えた。これは昨日遥の母親に「普通よく知らない人とかだったら名前にさんとかつけない?」と言われたからだ。おそらくそれがなかったら彼女の事も呼び捨てにしていただろう。

 なのだが、


「あたしあんまり堅苦しいの苦手だからツカサって呼び捨てにしてくれて構わないわよ?」


 なんて言ってヘラヘラ笑っている。でしょうね。そういう風に見えますよ。

 ベストだって全部ボタン外して風邪でゆらゆらしてるし、なによりその服装。オレンジ色のショートボブで、テニスボールのプリントされたTシャツ、動きやすそうなショートパンツにやや短めのレギンス。完全に人の話しを聞かなそうな、面倒くさがりそうな、ボーイッシュですね。


「……そっか、わかった」


 正直言って、優の苦手なタイプでもあった。その、無駄にハイテンションなところが。


「――じゃあ、お邪魔っぽいから、あたしそろそろ行くね。じゃ、また後でね!」


 そうして、助け舟は物凄い速さで視界から消えていった。嵐が去っていった。これこそまさに今の状況を言い表すにふさわしい言葉だろう。


(……おちょくりに来ただけか!?)


 ただそれだけのためにやってきた少女。遥もそれに呆気に取られてフリーズしている。

 また、なんとも騒がしくなってきた。学校へ行けばおそらくこんな事が続くのだろう。昨日の放課後ではクラスの全員が傍観者だったからな。

 なにも起きなければいいのだが……。

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