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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
11/110

◇1−8◇

「遠い遠い、果てしなく遠い、記録も何もないような親戚の女の子です」


 大急ぎで教室に戻り、3時間目を無事終え、大文字先生に呼び出しをくらった結果、こんな回答をしなくてはならなくなってしまった。

 もちろんこんな事実はどこにもない。真っ赤な嘘だ。だが、こうでも言っておかないと、目の前の危ないオーラを放つ先生がどこまでも詮索してきそうで、優は参っていたのだ。興味のないことはしないタイプに見えるのに、残念ながら先ほどから興味津々のご様子で、どうしたものかと困り果てていた。――その結果が、さっきの回答だ。


「なぜそんなのにいきなり気付いたんだ?」


「……声を聞いたら、ぱっと思い出したんですよ。アレですよ、運命的な感じで」


「お前がそんなメルヘンチックなヤツには見えないな」


 じゃああんたにはオレがどういう風に見えてんだよ!

 心のそこからそう言ってやりたいが、下手に騒ぎを起こすわけには行かない。

 なにを言っても、死角から攻めてくる。どんなに誤魔化そうとしても、優には大文字先生を言い包めることはできなさそうだ。

 なにせ、うまい話には興味がない様子なのだ。彼が望むのは、まさに真実。優が神鳴り殺しというような、ビックリな、飛びぬけた、そんな話だろう。だが、そんな告白できるはずがない。とにかく今は、早く時間が過ぎてくれと、そう祈るばかりである。国立神桜高は、校則で尋問や相談、カウンセリングの類もすべて、制限時間が掛けられているのだ。これは教師と生徒とのしっかりした人としての距離をうまく保つためであり、その制限時間は30分。これを越えると、生徒の精神状態に変化が訪れやすいので、アウトだ。

 がしかし、すでに優の精神状態は追い込まれ気味だ。時間もまだ10分と経過していない。このままでは、すべてしゃべってしまいそうで、ままならない。なんせ、大文字先生から発せられるプレッシャーが半端じゃない。白衣も着ていることから、何かの博士か何かなのだろうか、解剖でもされそうで堪ったものではないのだ。


「もう1度はじめから聞く。出身は?」


「えっと……清水町ですけど」


「出身校は?」


「えっと、川瀬町の第三中学です」


「では、相沢との関係は?」


 という感じで、30分間ひたすら同じ会話を繰り広げ続けるのだった。



――一方そのころ、1−D教室にて。

 途中優と別れて1人クラスに戻ってきていた遥は、先ほどのことに興味を持った生徒郡4人に囲まれていた。遥の中学同級生のツカサと、出席番号10番の佐藤 幸一、それと16番の田代 美由紀と20番の中島 裕也だ。 しかし誰もみな訊いてくることは同じで、しかもそれはけして口にしてはいけないことで、遥は完全に参っていた。


「さっきまでどこ行ってたのよぉ?」


「えと、屋上です……」


「ねぇねぇ、神田君と一体どういう関係なの?」


「いや、え、えと……お友達です」


 遥にはそう答えるしかない。だんだんと顔が赤くなっていくのが自分でも分かるが、気付かないふりをする。

 すでに放課後となっているにもかかわらず、なかなか教室の中から人の声は絶えなかった。エレキボードにはいまだ、神鳴り殺しのシンボルが残っている。誰も、そのシンボルに近づこうとしないからだ。――遥の場合は、近づけない、のだが。


「あ、あのさ、私行かなきゃいけないから、そろそろ通してくれない?」


 切実な遥の願いだ。しかし、それはどうやら叶うことはなさそうだ。そんな遥の願いは誰の耳にも届いていなかったのだ。

 次から次へと質問されて、そのたびに苦笑いで誤魔化す遥。30分も続くとなると、さすがにもう限界が近づいていた。

――するとその時、教室の前扉が開かれた。


「遥、まだいるか?」


「あ、優君……」


 そこから入ってきたのは、屋上で会う約束をしていた神田優だった。

 しかし、これはタイミングが悪い。遥の顔に、焦りが浮かぶ。


「遥……あんたもうそこまで行ったの?」


 そう、普通なら、会った初日からお互いを名前で呼び合うまでの仲には、なりはしないだろう。しかし、遥と優は、すでにお互いを名前で呼び合っている。その様子は、ツカサ達から見れば、驚き以外の何物でもない。


「いや、えと、優君がそう呼んでいいって言うから……。あ、でも、まだ友達だよ?」


「「まだ?」」


 遥が口を滑らした。それとともに生徒群4名ほどの声が重なり、遥も自分の口を押さえる。……そして、優のほうへ、フォローを求める視線を送った。その視線に反応して、優も溜め息を吐く。


「……悪いけど、そんなんじゃないんだ。昔あったことがあるんだよ、遠い遠い親戚でさ」


 優は話している間、遥の口を手で押さえていた。無論、遥が余計な事を驚きついでに口走らないためだ。そのおかげもあってか、一応は、疑いながらも納得してくれたらしい。

 と、いうわけで、優は遥を連れて屋上まで行かなくてはならない。しかしこのままでは、納得していてもあとを追ってくるという可能性も考えられる。


「へぇ、そうなんだ。――でも、遥のまだって言葉は聞き逃さなかったわよ?」


 あれ、なんか余計なところに突っ込んできたぞ?


「遥、あたしあんたのこと応援してるからね! 絶対うまくやりなさいよ。それじゃ、邪魔しちゃ悪いから、あたし達は帰るとしましょうか」


 あ、あれ、なんか自然解散しちゃったぞ?

 いろいろと考えすぎた気がした優は、なぜか損をした気分だった。

 前の扉から次々と生徒が出て行く。関係のなかったはずの生徒までが出て行く。もしかしたら、すべての話をこっそり聞いていたのかもしれない。

 とうとうすべての生徒が教室からいなくなり、扉が完全に閉められた。


(全員、傍観者だったのかよ……)


 優は机に手を突き、肩を落とした。

 つまりは、このクラスの全員が、遥と優の関係を気にしているということ。それはもう、これからの学校生活の中で、障害以外の何物でもなかった。

 しかし今は、まず今後の話をつけなくてはならない。そこから、すべて始まるのだから。


「遥、とりあえず、帰ろうか」


「う、うん。そうだね」


 遥が扉を開けて、優が閉める。昇降口に向かって階段を下るのかと思い、先に進んだが、そんな遥の腕を優が掴んで止めた。


「そっちじゃないよ。屋上に行く」


「へ?」


 たしかに、今の時代昇降口での靴の瞬間消毒が可能だから、上履きを使ってない学校も多い。神桜高もその中のひとつだ。学校の中でも、昇降口を使わないで外へ出ることはできる。がしかし、それでも屋上から帰るのは不可能だろう。なんせ高さというものがあるのだから。

 しかし、遥の腕を掴んだ少年は、屋上へ行くと言っている。とりあえずはそれに従い階段を逆に登る遥だが、やはりどうしたものかいう顔をしていた。


「さて、着いたな」


 教室の位置が幸いしてまたしても誰にも見られることなく屋上へとたどり着いた2人。

 すると、優が遥に手を差し伸べてきた。


「さ、ちょっと衝撃強いかも知んないから、ちゃんとつかまってて」


「え、優君何するつもり?」


 遥は顔を引きつらせて、恐る恐る聞く。


「――飛んで帰る」


 この少年の発想は可笑しい。そう思った瞬間だった。

 しかしそれを拒むことはできず、そんな理由もなく、遥は再び優の体にしっかりとつかまると、いつ飛んでもいいように深呼吸をはじめた。


「……よし、じゃあ行くか」


 優はポケットからなにやらグローブを取り出し左手にはめると、今度はその手でカバンの中からひとつの小さな結晶(?)のようなものを取り出し、強く握る。遥には何をしているのかよく分からないが、実はこれは、とても重要な工程なのだ。

 すると次第に風が強く吹いてくるようになり、ふと気付けば、遥や優の体を浮かせていた。飛ぶという事実だけでも言葉を失うのに、その工程で体が自然と浮くとなれば、それどころではすまない。神鳴り殺しに憧れる遥の場合は、好奇心で一杯で、胸が高鳴って仕方がない。

 地面からおよそ10センチほど離れたところで、優はひざを曲げ、一気に伸ばし、その反動でそれへと飛び上がった。


「しっかりつかまってろよ!」


「うーん!」


 12時の空は、真っ青でなにもない、晴天だった。

 生まれて2度目の空中移動(飛行ではない)は、心に深く刻まれた。

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