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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
108/110

◇12-8◇

「ごほっ……げほっ……」


 埃っぽく湿っぽい。高さとしてはおそらく1階層分なのだろうが、なにしろ埋もれていて横からの光が来ない分薄ら暗かった。

 優は若干ぼやけた視界に両手を運び、何度か空を握ってみる。


(よし、まだ動く)


 幸い落ちて気を失ったとか言うこともなかったようで、体もまだ思うように動く。敵とも距離があるようだし、良かった。

 今は瓦礫の上に仰向けになっている状態だが、どうやらはっきりした足場はここの他ないようだ。優がさーっと見渡した限りでは、この階層はほとんど水に浸かっている。埋まっていただけあるということなのだろうか、教室を区切っていたであろう壁も上の階層に比べまだ面影があり、水道でもあったのかある一部分からは常々水が噴出していた、おまけに僅かに残った天井部からも。そしてそれは、割れた窓ガラスから入ってきた土砂が吸い込んでいる。空気は以外にも外と変わらず、元からどこかしらに通気口に変わるところがあったのだろう。とにかく、総合的に戦闘に不向きであることに間違いない。しかしそんな場所を自ら選ぶあたり、おそらく白石には得策があるのだろう。どうやら優はこの瓦礫からはでないほうがいいらしい。


(あいつはどこにいるんだ……?)


 上の階層での立ち居地を考えれば、そこまでの距離はないと思ったのだが……白石は見当たらない。

 まさかすでに行動を開始しているのか、とも思うが、優は更に考えた。水場であれば雷が伝わって自らもダメージを受けるのではないか、と。いくら耐性があったとしても、優ですら怯む威力だ。使用者も少しは利くはずだ。でなきゃ白石は本物の化け物だ。


(その可能性に賭けるしかないか……)


 そうでなきゃ、本当に勝機がなくなる。この実力差を強いられれば、おそらく互いに無傷ではすまない。特に、今回は白石自身優を――ABNを狩る気で来ている。大して優も殺す気で行かなければ勝負にすらならないだろう。

 そうと決まれば行動あるのみだ。優は右手で銃の感触を確かめると、再び息を殺し周辺を観察する。水場で動けば必ず波紋ができる。それを見つけてたどれば、必ず標的へとたどり着く。


 ぽつり。


 水滴が1つ。そこから波紋が広がる。そしてそれを優が視認した瞬間――


 ぱちん。


 乾いた音が1つ。小さく響いた。優は反射的に前転する。水に浸かることなどお構いなしに真っ直ぐと。すると、それとほぼ同時といったタイミングで今の今まで優のいた足場に落雷が降ったのだ。つまり、白石には優のいる位置がわかっているということだ。これは非常にまずい状況だ。

 優はすでに水に触れてしまっている。これでもうどこにいても、この水に浸かっている時点で敵の攻撃の餌食となってしまう。いや、回避方法がないわけでもない。先ほどのように一拍早く察知して跳躍回避すれば間に合うかもしれない。だがそこを狙い撃ちされてもただじゃすまない。やはりこの状況を打開するには白石の位置を探る必要がありそうだ。


(集中しろ……)


 白石のいるところを、音をたどって探り出す。先ほど響いた音は紛れもない白石の攻撃につながるものだ。そして移動した様子もない。ならばたどり着くことはできるだろう。優もまだ体は動く。力も弱まってきてはいない。まだまだ戦闘は続けられる。

 目を瞑り、反響を視野に入れて計算を開始する。方角、音量。そのすべてを考慮したうえで、敵の位置を探り出す。――そして、一発の銃弾を右背後に向けて撃ち放った。鈍い音が鳴るとともにそれに被せるように乾いた音が響く。一瞬発光を見せると銃弾は打ち落とされていた。


「まさか見つかるとはな。なかなかやる」


「もう逃げ場はないぞ、覚悟しろ……」


 優は睨みを利かせて言い放った。それと同時に銃口を向ける。いつでも攻撃は開始できる状況だ。それは白石も理解し、また同じ事で、彼もいつでも指を鳴らせる体勢だった。

 再び両者の間に緊張感が張り詰めた。耳に届く振動など、天井から落ちる水くらいのものだ。しかし今回は優が先に動きを見せた。あまり悠長にしていられないことが原因だ。何せ能力にもタイムリミットが存在するのだから。

 優は真っ直ぐと駆けていく。それは目にも留まらぬ速さ。一瞬の間に優は白石の目の前までたどり着いた。そして一秒間に5発という規格外の攻撃をかます。だがその行動が予測されていたのか、白石には涼しい顔をしてかわされてしまった。撃ち放った弾丸は配水管流れる水を貫き層の奥へと跳んでいく。やはり影鴉レイヴンのボスということだけはある。常人の身体能力ではない。

 優はいったん後退し、再び銃口を向ける。


(いったいどうすれば……。こいつの弱点はないのか?)


 能力の弱点を付くことができれば……だがそれが見当たらないのだ。ただでさえ謎の多い能力だ、どこかにないものか。

 すると今度は白石からの接近だ。ダッシュとともにこぶしを握り締め、思い切り振りかぶる。だが、身体能力を強化している優にはそんなもの当たる筈もなく、白石のこぶしは空を切った。……ように思えた。このとき、優は白石の接近を許してしまった。が、故に、白石の支配領域クリティカルスペースに入り込んでしまっていたのだ。

 乾いた音が優の耳に届くことはなかった。こぶしが抜けた一瞬、視界が真っ白に包まれたかと思うと、すさまじい威力を持った雷が優の体を襲った。


(……しまった。さっきの攻撃はフェイクか……)


 体から力が抜けていく。筋肉がショックでほとんど麻痺してしまっているのだ。能力のおかげかなんとか手のひらを握ることくらいはできそうだが、逃げるには無理があった。そんな優に白石が近づく。そして、その肩を触れた。


「……っ!?」

(な、なんだ……体に力が入らない。なにをした……!?)


 白石が触れた瞬間、ほのかに黒い光を揺らし、優に異変が起きた。瞳にと持っていた白光はさっぱり消え去り、瞳も元の青色に戻っていた。

 何が起きたのかを完結に言うならば――能力が消えた、ということだ。これは優も以前一度だけ目にしたことがあった。商店街での一件である。

 中止能力者エレクトルキャンセラー。白石の持つ通り名だ。その名の通り、電磁波の波を中和し、結果静止させたように見せかける。それが彼の能力の正体だ。だが、それに優が気づくことはない。

 優は絶体絶命の中で、必死に思考をめぐらせている。相手の何枚も上を行く戦略。それを模索しているのだ。身体能力強化の効果が切れてしまった以上、頭を使うしか道は考えられない。そのうえ超伝導皮質までないものにされていたら、彼の電撃ひとつで死んでしまう。

――とその時、優はある1つのことに気が付く。それは、肩から僅かな動きが伝わっていることだった。

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