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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
107/110

◇12-7◇

 身体能力を強化する効果を持つコア。その上昇値は常人の想像を遥かに超えるもので、例を挙げるならば、50メートルを8秒で走れる人がほぼ1秒で走りきれるようになる。しかし、このような身体強化も無償ということではない。強力な力にはそれなりの代価が必要となるのだ。それは生命のエネルギー――命だ。ただ、一度に0になるわけではない。少しずつ、だが確実に削られていくのだ。まさに、諸刃の剣。

 強力なコアほど、持ち主も協力である場合が多いのだ。ちなみにこのコアの持ち主は、8年前の災害時世界に数対出現した現存しない生物をモデルとした電獣のうち一体のもので、双頭の竜の形をしていた。兵器が開発されてすぐに討伐され、当時の兵器の性能ゆえか中途半端に消滅してコアは傷1つ付かずに残っていたのだ。

 話によるとその電獣は薄っすらと黄色の可視光を放っていたようだが、それは今の優にも言えることだろう。金色に変色した瞳からは、薄っすらと光を放っていた。

 小さな瓦礫の山を避けて縫うように歩いていく優。その先には先ほど吹き飛ばされた白石がいる。彼はすでに立ち上がっていて、ダメージというダメージはあまり見受けられなかった。優自身、先ほどの攻撃は大した手ごたえがなかったため、この結果には大して驚きはしない。それよりか少しほっとしたくらいだ。――思う存分暴れられると。


(さっきは不意を付いたけど、あの能力が正体不明な以上、下手に接近戦を続けるのは得策じゃないな……)


 頭にやや血が上っているが、判断だけはまだ冷静さを保っていた。これは職業柄当然といったほうがいいだろう。むしろこのくらいのことで我を忘れる用では、神鳴り殺しは勤まらない。

 足場はあまり安定しているとは言いがたいものだ。とはいえ後退するわけには行かない。天井は向けているから瓦礫の振ってくる心配はないが、壁が崩れる心配はある。


「……」


 その距離3メートル。一定の距離を保ったまま、両者は動き出さない。刻々と時間は過ぎていく。意識を集中させれば自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。そして、一陣の風とともに砂埃が上がった。それは一瞬両者の姿を薄っすらと覆い、戦いの幕を開けた。両者一斉に走り出す。3メートルを保ったまま円を描くように。

 優は右手に銃を構えていて、電磁弾ではなく実弾が入っている。対する白石は武器らしい武器を持っておらず、能力に頼った近接型であることがうかがえる。ならば、単純に考えれば遠距離形の優のほうが優勢であるだろう。


(このまま距離を置きつつ射撃するか……。落雷をされると厄介だ)


 白石の落とす雷は電獣のそれをも超える。半端な防御力じゃ体が持たないのだ。特に先ほど優はそれを受けて体が動かなくなった。戦闘の真っ只中で動きが止まるのは死を意味する。それだけは避けたかった。


(そうと決まれば……)


 優は照準を定めるように目を細める。狙うは白石の胴体。いきなり急所を狙わなくとも、まず的の広い胴を狙って動きが鈍れば、後はどうにでもなる。しかし、優が細めた目に映ったのは、白石の胴ではなかった。ニヤリと微笑む白石の顔だったのだ。そして、優は引き金を引く。銃口から射出された鈍色の弾丸は、真っ直ぐと白石に向かっていく。……しかし、


――パチンっ!


 乾いた音。指を鳴らした音だ。それは変に響き、そして撃ち放った弾丸を発光させた。いや、正確に言えば、発光したのは弾丸ではなく空気であろうか。要するに、弾丸を避雷針として見立て雷を落としたのだ。すると勢いを失った弾丸はそのまま真っ逆さまに落ちていく。どうやら白石は遠距離でしかも動くものにですら的確に雷を落とせるらしい。これはあまりよろしくない。

 だが、優も負けてはいられない。

 一定時間のみ有効の能力を活用しないすべはないだろう。優は立て続けに何発もの弾丸を撃ち放つ。それもそれぞれ別の位置からほぼ同時といったタイミングで。この策が功を奏したのか、ほぼ五割は打ち落とされたものの残りの五割は少なからず白石にダメージを与える結果となったようだ。

 スッと切れた頬を撫でて、白石は再びニヤリと微笑んだ。


「ほぉ、きみも思ったよりは動けるじゃないか。楽しくなってきたな。……なぁ? この校舎って相当もろいよなぁ?」


「何言って……。まさか!?」


 優は脳裏に浮かんだホンの僅かな可能性に驚愕した。ここは元小学校の1階部分。そしてその上に2階部分3階部分とつづく。優は今までに様々な地区を巡ってきたが、3階建ての校舎というのは、あまり見たことがなかった。別にあっても可笑しくはないと思うから、気にしていなかったが、もし、この建物が3階建てでないとしたら……。


「まさか下に!?」


「大正解」


 ニッと笑うとともに、白石は懐から取り出したスイッチをポチッと押した。

 白煙を放つとともに、床には何本もの亀裂が入っていく。おそらくは前もってセットしたのだろうか、数箇所から小さな衝撃音が聞こえて、それとともに亀裂が見る見る大きくなっていく。すると次第に弱くなった土台が上に圧し掛かった瓦礫の重みに耐え切れなくなり、中心からいっせいに崩れはじめた。

 しかし、身体能力を強化している優にはどこをどう動けばいいのかがはっきりとわかったため、特に大きな負担はないだろう。だが、それを見ていた遥には精神的に衝撃があった。


「優くん!」


 とっさに駆け寄ろうとした遥。だが、


「来るな遥!」


 優の声で、援護に行く事を諦める。

 ガラガラと音を立てながら床は崩れていく。そしてとうとう、1階だと思っていた2階の床は完全に崩れ落ちた。

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