◇12-5◇
もくもくと立ち上っている黒煙。その出所となる廃校へと向かい、二つの影が森の中疾走していた。
その一つは息を殺し、はたまたもう一つは息を上げていた。
「遥、急ぐぞ!」
「う、うん……!」
どうやら湖から廃校までの長距離を全力疾走する体力を遥は持ち合わせていないらしく、相当険しい表情で遥はついてきていた。そんな彼女の様子に、優は心の中で謝る。
目的地はもう近い。何かの燃える匂いが鼻を突いていた。しかし、それとは別に優には感じられるものがある。わずかな電磁波の波長。覚えのあるものとないものと、ごちゃ混ぜになっていた。そして優は考える。この先に、斉藤がいるのではないかと。更にそこに、やつがいるのではないかと。
影鴉の狙いは優にはわからない。彼が斉藤から聞いたのは、ただよく知る人物ということだけだ。それだけでは、絞り込むのはなかなかに難しい。しかし、この場で仕掛けてくるということは、この地区内にいる人物ということ。それはつまり、彼のよく知る4人の誰か、ということ。その人物によっては残された時間は限りなくないだろう。だが、今目の前にある黒煙を見逃すことも優にはできなかった。
(本当に、一体だれなんだ……)
一つの不安を抱えながら、優はその地にたどり着いた。
相変わらずボロボロの廃校。それはところどころ緑に侵食されていて今にも崩れそうだ。そしてその前には、肩から血を流した斉藤と、フードをかぶった黒ずくめの男がいた。
「斉藤さんっ!」
その光景を見た途端、遥が斉藤のもとに走り出した。
彼女の傷は致命傷に等しい。肩から流した血液はかなりの量で、おそらく被弾してからそこそこ時間が経っているのだろう。黒煙の原因もおそらくこれに関係がある。黒煙は、真っ二つに避けた一本の木から出ていた。それはまるで落雷を受けたかのような状態で、そこから発火したのか、チリチリと火花を散らしながら何枚もの葉に炎が燃え移っていた。そして斉藤の傷も、一度何かに焼かれたようなあとがあったのだ。おそらくは、フードの男の能力か何かだろう。それ以外には考えられない。やつは、何かしらの力を持っているのだ。
「……くっ」
遥の応急手当のおかげか、斉藤の意識が安定してきていた。彼女の顔に悔しさの色が浮かんだ。
「……また、負けた。駄目だった……」
「いいから喋るな! お前の姉の仇は俺が取ってやるから! だから今は安静にしてろ!」
そう、斉藤はまだ助かる見込みがある。なのにこれ以上体力を使ってしまっては、手遅れになりかねない。
「……でも、」
「いいんだ! もういいんだよ!」
優が怒鳴り声を上げる。
「復讐なんて何も生まない。復讐なんて遂げちゃいけないんだ。それを遂げたとき、君はすべてを失ってしまう。大切な人も、大事だった思いでも、何もかも! 俺はそんなの絶対に認めない。それに君は、大切な恩人の妹でもあるんだ。そんなの絶対ダメだ……」
そして、優は振り返りフードの男を煮詰め、
「あんたが誰かは知らないが、友人を傷つけられて黙っていられるほど、俺は甘くないんだ……」
銃口を向けて、ぴしゃりといってやった。
すると、
「そうかいそうかい、それは……面白くない……」
フードのしたから覗く口が、ニヤリと笑った。そして一度指を鳴らし、フードを払う。
一秒のタイムラグ。だれもが何もしなかったであろう時間。ただ、平然と流れた時間だ。だが、そんな時間をはさむとすぐそれは起こった。
一瞬頭上が光ったかと思うと、その次の瞬間には優に向けて1本の白い筋が生まれた。それは彼の体を焦がし、身体の全体に電力を流した。このとき、誰もが思うだろう。彼にこんな攻撃が聞くはずないと。おそらくそれは当の本人も思っていたはずだ。……だが、
「……ぅっ!?」
次の瞬間、優は地にその膝をついていた。彼は驚きを隠せず、目がそれを物語っている。
彼が感じたのは確かな痛覚だった。新歓の時ですら、痺れまでで痛みまでは伴わなかった。つまり、いま目の前にいる男は、それほどまでに強大な力を持っているということだ。
そして、彼のような人間以外があの力を受ければ、きっと死に至ることだろう。
「どうしたよ、操作能力者! お前の力はその程度か? つまらないなぁ」
フードを被ったまま、男は高らかに笑った。
それに対し優は、思いもよらぬ敵との戦闘に頭を悩ませていた。
そこへ、
「優くん!」
遥がこちらへと駆け寄ろうとして来た。
「来るな! 遥かは下がってろ!」
優は怒鳴るように声をあげた。遥もそんな彼の剣幕に圧され、一歩ふみとどまる。
遥や斎藤を下手に近づけさせるわけにはいかない。
優は痺れていうことを聞かない足を無理やりたたせて、再び銃を構えて引き金を引いた。弾丸は一直線に敵へと狙っていく。しかし、敵はそれを避けようとはしなかった。瞬きをする間もなく襲い来る銃弾相手にまったく動じなかったのだ。
結果からいうと、銃弾は当たらなかった。苦し紛れで撃ったような弾だったから、狙いを外してしまっていたのだ。
「駄目だなぁ。もっと狙いを定めなくちゃだぞ?」
ニヤリと笑い、男がそのフードに手をかけた。そして、はらう。
さらされたその素顔に、優も遥も斉藤も驚愕した。
「なぁ、神田くん?」
そのフードの下にあったのは、一日目優たちと行動をともにした、白石だったのだ。




