◇12-4◇
優の撃ち放った電磁弾は見事パンサーモデルに命中し、その銃声は戦闘の幕開けを知らす鐘となった。優たちのいる向かい側でパンサーモデルの注意を引いていた先生は離脱し、生徒の非難を支援していた先生も避難を終えるとその場から立ち去った。
これで、もうこの場には彼らの戦闘を邪魔するものはない。
優はすこしばかり口角を上げてパンサーモデルに視線をあてる。体長はおよそ5メートル。高さは3メートルほどだろうか。轟々と燃え盛る巨大な体躯は、射抜くような鋭い眼差しで空を仰いでいた。今の奴にとって、優はまだ眼中にない、といった具合だろうか。しかし、それもすぐ変わる。優はパンサーモデルの視界からすぐさま抜け出し、再び死角である背後へと回りこんだ。そして立て続けに弾丸を放つ。狙うはパンサーモデル頭部。奴を構成しているコアはそこにあったのだ。しかし、その巨大な体躯の所為か弾丸はコアに届くより前に速度が落とされ、命中する頃には大した威力を生まなくなっていた。
すると、ちょこまかと動き回る優を煩わしく持ったのか、パンサーモデルはその視線を軽く優に向けその燃える電磁の尻尾で横なぎにした。優は当然のようにそれをかわしたが、思っていたよりも炎の勢いが強く、打撃よりも熱でダメージを受けてしまったようだ。チリチリと舞う火花で一瞬視界が真っ暗になる。するとその隙を突くかのようにパンサーモデルの尻尾が優に再来した。しかし優はこれに瞬時に反応することができず、命中を余儀なくされてしまった。だが、
バンッ! と一つの銃声が湖に響き渡った。それは遥の放った一発、パンサーモデルの尻尾を見事打ち抜き、その攻撃の手を止めた。
(ナイスアシスト、遥……!)
優は一瞬の出来事に心の中で呟くと、すぐさまパンサーモデルとの距離を開ける。そしてパンサーモデルの注意が遥へといっているうちに、優は左手をポーチへと突っ込み一つのコアを取り出した。握ればその効果が発揮される。それは《風結界》の効果を持つ。
パンサーモデルの背後、その死角で、優はコアに秘められた力を発揮させた。するとたちまちあたりからパンサーモデルへと風が集まっていく。効果範囲は使用者からおよそ10メートルだから優も少しばかり近い位置にいるが、危険は及ばない。そして集まった風はどんどん密集していき、やがてパンサーモデルを包む結界となった。そしてもちろん、その結果以内の操作を発動した本人である優には可能である。優はすぐさまイメージした。体を一つの電子回路としてみるイメージ。そして、結界を一つの袋としてみるイメージだ。そしてその袋の中から、酸素という一つのブロックを取り出すのだ。
優のそのイメージが完成すると、一つの異変が起きた。パンサーモデルの纏っていた炎が見る見るうちに消えていったのだ。これはそう、炎に供給される酸素がなくなった結果だ。結果以内で炎が完全に消えてしまえば、もはや再び炎上することはないだろう。
「これで、よし、と」
優は《風結界》の効果を解除し、パンサーモデルを開放した。遥や普通の人間からしたら少しばかり見えづらくなってしまったが、優からすれば、この方が戦いやすかった。彼にはくっきり見えていることだし。
「さぁてネコちゃん。お仕置きの時間だぞ?」
優はパンサーモデルとの距離を改めて開きながら言った。そして遥に一度目配せをすると、射撃を開始した。その距離約20メートル。パンサーモデルの尻尾のリーチを考慮したうえでの間隔だ。
優が狙うのは今度は胴体。直接急所を狙っても無駄だと言うことがわかったため、徐々に消耗させていこうと考えたのだ。
そしてその頃、遥は簡易銃の弾丸を電磁弾のマガジンから少し変わった風のマガジンに付け替えていた。そしてそのまま銃口を戦地へと向け、しっかり狙いを定め、射出する。それは普通の弾丸と変わらぬ速度でパンサーモデルに着弾した。そして、ここからが面白いところだ。着弾したその弾丸からは一気に薄紫色の煙が放出され、どんどんパンサーモデルを覆っていった。するとパンサーモデルは注意を優から外し、キョロキョロし始める。
これが遥の新兵器《電磁誘導香》だ。それはレスビアンカから生成した香水のようなもので、弾丸が着弾するとその内部から放出され、弾丸周辺の一部分を取り囲む。そしてそこに電獣がいるならば、その電獣はその空間に引き寄せられて注意が散乱し、正常に機能しなくなる。たとえるなら、機械が一時的にショートした感じだろう。
「ナイスだ!」
優はこの隙に次から次へと弾丸を撃ちまくる。普通なら避けられていそうな攻撃ですら動かないでかい的のおかげですべて命中していた。
(……効果もそこそこのできだな)
新兵器の事だ。まだ考えたばかりで、説明したのも昨日の帰りだからまだ使っている本人もなれていないだろうから、今の段階での使用は好ましい。これを考察すればあとでいくらでも改良を加えられるからだ。
(でも、まずはこっちだな)
優は再び注意をパンサーモデルへと移した。もうだいぶ消耗しているようで、おそらく頭部のコアにもそろそろ攻撃がとおるころだ。
(よし……)
「遥、援護頼む!」
「はい!」
力強い返事とともに、遥はすぐにマガジンをもとの電磁弾へと入れ替え狙いを定めた。そしていまだ攻撃の手を出さぬパンサーモデルに向かい、一発放つ。すると、パンサーモデルの半透明の体の一部がチリッと光った。遥の弾丸が電磁波の道を見事射抜いたのだ。無論、この距離からでは偶然としかいえないが。だがしかし、実戦では運もまた実力のうちだ。完全に動きを止めたパンサーモデルに優は更に弾丸を打ち込み、そして近距離まで接近するとその脳天を弾丸が貫いた。コアにはピシッと亀裂が入り、徐々に形を崩していった。それに続くようにして、巨大なパンサーモデルの体躯もぱらぱらと光となって散っていった。
これで、ひと段落。と言いたいところだが、
「そうはいかないよな……」
なにせ、ふと目を向ければ、そこには黒煙が上がっているのだから――。
――一方そのころ、非難した生徒たちの間では、一つの噂が広がっていた。
「ねぇ聞いた? 数名行方不明らしいよ。なんでも、今回の事件に関連してるとか」
「えぇ? こわーい。てことはうちの生徒だよね?」
それはつまり、優と遥のことである。
そして、
(神田くんも遥もどこ行っちゃったのよ……)
「はぁ……」
二人を探したが、結局見つけることはできず、ツカサは一人ため息を吐いていた。そして、彼女も廃校のほうから見える黒煙に気が付く。
(あれ、なんだろう……)
その答えは、生徒の誰もがとうてい知ることはなかった。




