◇12-3◇
パチパチと火花の散る音があたりに聞こえ始めた。湖のほとりの一角で、日中にもかかわらずキャンプファイヤーが始まったのだ。優はそれからすこし離れた岩場で周囲を警戒している。幸一や加々美、ツカサたちは中央のほうで楽しくやっているみたいだが、遥や涼子など、ある程度の事情を知るものはそうもなれない様子だ。
いまだ敵は攻めてこない。そして斉藤も、その姿を見せることはない。いまのところ、何もおきていない。なんでもないような、当たり前のような、平凡な時間が過ぎ去っていった。
(昔は、火遊びは危ないって、よく言われたな)
八年前のあの日までは、優もほかとなんら変わりない一人の少年だった。そんな事を思い出しながら、現実に目を向けてみるとつくづく思う。
――子供でいられるっていうのは、本当に幸せなことだ、と。
「「おおぉー!!」」
中央から何人もが大きな声を上げた。どうやら炎が大きくなったらしい、夜ほどの迫力は感じられないが、それでもかなりの盛り上がりようだ。何故これを昨晩やらなかったのか、なんとなく納得できそうなくらいに。
しかし見れば見るほどでかい火だ。轟々とその火力を増し、空へと向けて上っていく。詰まれた木々の燃えカスが端まで飛んできそうなほどだ。
(すげーな……)
そちらに無関心だったはずの優ですら、気付けばそれに見入っていた。……しかし、その時間も長く続くものでもなかったのだ。
その時優の瞳が捉えたものは、一筋の小さな電流だった。白い筋が一瞬にしてキャンプファイヤーの中へと突っ込んでいく。そして、
「うわぁっ、なんどこれっ!?」
次第にキャンプファイヤーの炎を肥大させ、さらには詰まれた木々をすべて燃やし尽くし、そして、一つの形を造り上げた。それは、一匹の獣。細い尾の形状からしてネコ科に近い生態だろうか。コアで構成された半透明の実体に、キャンプファイヤーの炎が纏わりついていた。半透明、つまりは人工電獣だ。するとこれは、影鴉の攻撃と結論付けられる。
その姿を認識した瞬間、数多くの生徒が動き出した。あるものは他人を押して逃げ惑い、あるものは戦闘のため武器を構える。しかしやはり所詮は高校生といったところだろうか、その行動には乱れがありすぎていて、とても見ていられなかった。教員がなんとか生徒たちだけ非難させようと、道を作り生徒たちのいるところとは違う方面から牽制射撃を行った。それは見度と成功したようで、燃え盛る電獣の注意はそちらの教員へと向かい、生徒たちの動きにも少しばかりか落ち着きが見られた。
すると、少しばかり離れたところにいた優だったが、それを見つけた遥が駆け寄ってきた。
「優くん! あれだよね?」
「ああ、あれだ。遥にも見えてるだろ?」
それは不完全な半透明の物体だ。ELLを使わなくても目に映る。
「うん。見えてるよ。ちょっとぼやっとしてるけど」
「よし、それじゃあ、落ち着いたら行こう。この騒ぎじゃ、まともに動けない」
パンサーモデル。その燃えたからだと対峙するにはどうも広さが必要そうだが、今は混雑していてとてもそんな余裕はない。悔しいが、今は危なっかしい先生一同に頼るしかない。
すると今度は、その危なっかしい先生の一人がやってきた。
「君たち! こんなところで何をやってるんだ! 早く非難したまえっ!」
息を切らせている所為か、無駄な迫力があった。だが、今ここで撤退するわけには行かない。優は少々悩みはしたが、不本意ながら奥の手を使うことにした。
「あ、えっと……」
おどおどしている遥に静かにとサインを送る。そして、
「先生すみません。でも、大丈夫ですから、お気になさらずほかの生徒を当たってください」
とりあえずまずは言ってみるだけ言ってみる。だが先生も頑固なのか、納得しない様子で、
「なにが大丈夫かね。今は緊急時なんだ、それくらい見ればわかるだろ! ほら、早く!」
すると優は一つ、はぁ……とため息を吐くと、ポケットに入れていたカードを取り出した。不本意ではあるが、この際仕方ない。
そのカードを目にした先生は、一瞬にして目を点にして後ずさった。
「そ、それ、本物かね。君は、ABNだったのか。なるほど強いわけだ……。しかし、うむ、わかった。君については私がどうにかしよう。だが、こっちの女子は……」
次に、先生の視線は遥に向けられた。優は例外でも、遥は普通の生徒だ。普段なら優も遥を巻き込むような形にはしないところだが、何せ今回は敵が悪い。優としても、遥の力は必要だった。
「すみません、彼女にも、協力してもらうつもりです。大丈夫、怪我はさせませんから」
「そ、そうか。……では、頼んだぞ?」
「はい。先生も、ほかの生徒たちをお願いします」
それだけいうと、先生はすぐさま走り出した。こうしている間に、生徒の避難もあらかた終わってきたようだ。パンサーモデルもうまい事先生が引き受けてるし、この一体だけなら、どうにでもなりそうだった。
(遥にはここにいてもらって、俺が速攻で破壊する……!)
遥には動きながらの射撃が苦手という欠点がある。それを補うには彼女の静止が必要だ。
「遥はここらで援護射撃を頼む。合図したら、誘導弾で注意を引いてくれ」
「了解っ」
遥も気合が入ったのか、ピシッと答えた。それを確認すると、優もパンサーモデルに向かい走り出した。幸運にも敵はこちらに背を向けている状態だ。不意を突いていけば、すぐに破壊できるだろう。
優は右手にもった銃の銃口を前へ向け、開幕の一弾を撃ち放った。




