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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
102/110

◇12-2◇

 たたんだ布団に寄りかかり、考えれば考えるほど、斉藤幸美という人間について難しくなっていく。

 スケジュールとしては本日3日目、午前中は朝食をとり生徒全員で湖キャンプファイヤー。午後になるに当たって帰路につく。とまぁこういった流れになるのだが。優の予想ではそのどこかのタイミングで影鴉レイヴンが攻撃を開始し、斉藤も姿を見せることになっている。ただ、そこで問題なのが大勢いる生徒だ。とはいえ、今優がこの話をしたところで、おそらくまるで相手にされないことは確実だ。一応実技監督の先生もついてきていることだし、万が一のときは優が力を貸せばいい。そうなれば確実に正体のばれる結果となるが、それでもこれは仕事。うだうだ言っているわけには行かない。

 優も現在自分の武器を隠し持っている。遥だって、念のためと持たされた誘導弾もある。そして彼女には、新兵器も残されている。影鴉レイヴンの攻撃にも十分対処できる戦力があるといえた。ただ問題なのは、敵の攻め込み方である。


(……考えるなら、おそらくは電獣を投入してくるだろう。あの組織は未完成品だが人口電獣を多数所持、または生産しているはずだ)


 だが、


(そう……あの黒い光だ。あの反応……能力者の力。だとするとやっぱり、そいつが大きな壁になるだろう……)


 そう考えると、いくつかの戦力を立てる必要がありそうだ。

 中止能力者エレクトル・キャンセラー、能力はおそらく電磁エネルギーの無効化。斉藤も似たようなもので、その詳細は肉体を仲介した貯蓄と放出だった。だとすると、こいつも同じ系統の可能性がある。それならば、対処法は肉体とその他伝導体を避けて攻撃を加えること。それと、地形の問題だが、どのタイミングで襲撃してくるにしても、この地区はここの湖を除いて水場はない。大きな広間のようなものもないから、おそらくはこちらのほうが有利に動けるだろう。


(コアは……極力使いたくはないが、使うしかないよな)


 敵の詳細がわからない以上、下手にこちらの手札を見せるのは本意じゃない。が、そうも言っていられない状況なわけで。なにせ、優は涼子にあんなことまで言ったし、負けるわけには行かない。ならば、全力を尽くして戦え! ということなのだ。


「はぁ……」


 今になって前2日間の疲れが出てきたのか、ふとため息がこぼれる。

 明るすぎるキャンプファイヤーを前に部屋で一休みしていた優だったが、下手するとここで寝てしまいかねない。早速立ち上がり部屋を出ることにした。

 予定の時間まであと10と数分。それまで少し散歩でもするとしようか。とはいっても、ここ2階より上3階は男子禁制の聖域だ。歩くにしても優には1階か2階かの選択肢しかない。


「はぁ……」


 それはなんとも力ないため息だった。

 すると直後、優は何かにぶつかってしまった。俯いていた所為で前に注意が要っていなかったらしい。


「ああ、すみません」


 反射的に謝罪の言葉を述べた。しかし、


「あ、ごめん。……って、おお! 神田君じゃん!」


「え゛?」


 なんと、そこで遭遇してしまったのは、オレンジの髪がよく映える普通科女子、井上ツカサだった。しかし思えば、優は最近ツカサとあまりコミュニケーションを取っていなかった気がする。一番よく覚えているのが、学校でのあの面倒なやり取りだ。そしてそれを覚えているからこそ、優の言葉には濁りがあったのだ。


「あぁ、ツカサか。悪いなぶつかって。それじゃあ俺これからちょっと散歩だから……」


 なんとなく苦笑いを浮かべてその場を離脱しようと試みる優。しかし、


「あ、そうなの? 奇遇ね、私も暇だからその辺ぶらぶらしようと思ってたんだー」


 ズシャーン!!

 優の脳裏で黒バックに稲妻のエフェクトが再生された。


「そ、そうなのか、奇遇だなー。でも、お互い行きたい所とかあるだろう? 俺はこのまま行くからさ、じゃな」


 なんとなくそれっぽい雰囲気で、軽く右手を上げて笑顔を見せる。優は極力自分の負担を減らしたい一身だった。とくに、答えのない質問に回答を迫られるのは無理がある。

 しかし、ツカサは諦めなかった。


「じゃあ、私神田君の行きたいところにいきたいな。暇つぶしだし、いいでしょ?」


「ああ、まぁ、いいけどさ……」


 ツカサの屈託のない笑みに、優がとうとう折れてしまったようだった。

 それからというもの、ロビー含め宿舎内の1階層をくまなく歩いた。食堂からトイレ、浴場、小庭園。外から眺めた景色も、雄大な自然を感じさせられた。


(昔はここまでの自然はなかったな……)


 そんな、優が災害前の世界を思い浮かべているときだった。


「神田君さぁ、無理、しないでね……」


 ツカサが少し離れた位置で、ぼそっと呟いた。


「えっ?」


「いや、なんでもない! ほら、そろそろ時間だしいこ!」


「あ、ああ……」


 なぜかツカサに手を引かれていく優。でも、相変わらず元気な様子のツカサを見ていて、優は少し元気が出てきていた。

 キャンプファイヤーの集合時間にも余裕で間に合ったが、その後幸一たちが遅すぎて遅刻ぎりぎりになったのは、もはや優にはどうしようもないことだ。


(ここまで来なかったって事は、舞台は湖……か)


 もう、そこ以外に戦地はない。

 優はベストの裏に隠した銃の感触を確かめ、宿舎から歩き出した。ここから湖までの道は覚えている。ここからはどちらも有利ではない均衡地。勝利の女神がどちらに微笑むか、それは勝者のみが知ることだ。


(さぁて影鴉レイヴン、どうでる……!?)


 ポーチのチャックを軽く開け、応戦準備が整った。これでいつでもはじめられる。

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