◇12-2◇
たたんだ布団に寄りかかり、考えれば考えるほど、斉藤幸美という人間について難しくなっていく。
スケジュールとしては本日3日目、午前中は朝食をとり生徒全員で湖キャンプファイヤー。午後になるに当たって帰路につく。とまぁこういった流れになるのだが。優の予想ではそのどこかのタイミングで影鴉が攻撃を開始し、斉藤も姿を見せることになっている。ただ、そこで問題なのが大勢いる生徒だ。とはいえ、今優がこの話をしたところで、おそらくまるで相手にされないことは確実だ。一応実技監督の先生もついてきていることだし、万が一のときは優が力を貸せばいい。そうなれば確実に正体のばれる結果となるが、それでもこれは仕事。うだうだ言っているわけには行かない。
優も現在自分の武器を隠し持っている。遥だって、念のためと持たされた誘導弾もある。そして彼女には、新兵器も残されている。影鴉の攻撃にも十分対処できる戦力があるといえた。ただ問題なのは、敵の攻め込み方である。
(……考えるなら、おそらくは電獣を投入してくるだろう。あの組織は未完成品だが人口電獣を多数所持、または生産しているはずだ)
だが、
(そう……あの黒い光だ。あの反応……能力者の力。だとするとやっぱり、そいつが大きな壁になるだろう……)
そう考えると、いくつかの戦力を立てる必要がありそうだ。
中止能力者、能力はおそらく電磁エネルギーの無効化。斉藤も似たようなもので、その詳細は肉体を仲介した貯蓄と放出だった。だとすると、こいつも同じ系統の可能性がある。それならば、対処法は肉体とその他伝導体を避けて攻撃を加えること。それと、地形の問題だが、どのタイミングで襲撃してくるにしても、この地区はここの湖を除いて水場はない。大きな広間のようなものもないから、おそらくはこちらのほうが有利に動けるだろう。
(コアは……極力使いたくはないが、使うしかないよな)
敵の詳細がわからない以上、下手にこちらの手札を見せるのは本意じゃない。が、そうも言っていられない状況なわけで。なにせ、優は涼子にあんなことまで言ったし、負けるわけには行かない。ならば、全力を尽くして戦え! ということなのだ。
「はぁ……」
今になって前2日間の疲れが出てきたのか、ふとため息がこぼれる。
明るすぎるキャンプファイヤーを前に部屋で一休みしていた優だったが、下手するとここで寝てしまいかねない。早速立ち上がり部屋を出ることにした。
予定の時間まであと10と数分。それまで少し散歩でもするとしようか。とはいっても、ここ2階より上3階は男子禁制の聖域だ。歩くにしても優には1階か2階かの選択肢しかない。
「はぁ……」
それはなんとも力ないため息だった。
すると直後、優は何かにぶつかってしまった。俯いていた所為で前に注意が要っていなかったらしい。
「ああ、すみません」
反射的に謝罪の言葉を述べた。しかし、
「あ、ごめん。……って、おお! 神田君じゃん!」
「え゛?」
なんと、そこで遭遇してしまったのは、オレンジの髪がよく映える普通科女子、井上ツカサだった。しかし思えば、優は最近ツカサとあまりコミュニケーションを取っていなかった気がする。一番よく覚えているのが、学校でのあの面倒なやり取りだ。そしてそれを覚えているからこそ、優の言葉には濁りがあったのだ。
「あぁ、ツカサか。悪いなぶつかって。それじゃあ俺これからちょっと散歩だから……」
なんとなく苦笑いを浮かべてその場を離脱しようと試みる優。しかし、
「あ、そうなの? 奇遇ね、私も暇だからその辺ぶらぶらしようと思ってたんだー」
ズシャーン!!
優の脳裏で黒バックに稲妻のエフェクトが再生された。
「そ、そうなのか、奇遇だなー。でも、お互い行きたい所とかあるだろう? 俺はこのまま行くからさ、じゃな」
なんとなくそれっぽい雰囲気で、軽く右手を上げて笑顔を見せる。優は極力自分の負担を減らしたい一身だった。とくに、答えのない質問に回答を迫られるのは無理がある。
しかし、ツカサは諦めなかった。
「じゃあ、私神田君の行きたいところにいきたいな。暇つぶしだし、いいでしょ?」
「ああ、まぁ、いいけどさ……」
ツカサの屈託のない笑みに、優がとうとう折れてしまったようだった。
それからというもの、ロビー含め宿舎内の1階層をくまなく歩いた。食堂からトイレ、浴場、小庭園。外から眺めた景色も、雄大な自然を感じさせられた。
(昔はここまでの自然はなかったな……)
そんな、優が災害前の世界を思い浮かべているときだった。
「神田君さぁ、無理、しないでね……」
ツカサが少し離れた位置で、ぼそっと呟いた。
「えっ?」
「いや、なんでもない! ほら、そろそろ時間だしいこ!」
「あ、ああ……」
なぜかツカサに手を引かれていく優。でも、相変わらず元気な様子のツカサを見ていて、優は少し元気が出てきていた。
キャンプファイヤーの集合時間にも余裕で間に合ったが、その後幸一たちが遅すぎて遅刻ぎりぎりになったのは、もはや優にはどうしようもないことだ。
(ここまで来なかったって事は、舞台は湖……か)
もう、そこ以外に戦地はない。
優はベストの裏に隠した銃の感触を確かめ、宿舎から歩き出した。ここから湖までの道は覚えている。ここからはどちらも有利ではない均衡地。勝利の女神がどちらに微笑むか、それは勝者のみが知ることだ。
(さぁて影鴉、どうでる……!?)
ポーチのチャックを軽く開け、応戦準備が整った。これでいつでもはじめられる。




