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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
101/110

◇12-1◇

 朝というものは、今まで思っていたよりもずっと遅く訪れた。

 優は日中廃校で斉藤と攻防を繰り広げた事を考えなかなか寝付けなかったのだ。

 あのあと、優と遥は少し間を空けてから宿舎へと向った。そこで斉藤の事を2人で少しばかり話し合い、彼女と対話する事を決めたのだが、いざ彼女に会おうとしてみるとどこにもおらず、教員に訊ねると、


「あぁ、斉藤なら別で帰ったぞ。なんでも急に体調を崩したらしくてな。病院にいく必要があるとかで、ついさっき」


 この情報はおそらくは彼女の仕組んだデマだろう。それは2人にはすぐわかった。なにせ斉藤はあれほどまでに影鴉レイヴンに固執していた。万が一帰るにしても、体調不良なんて想像もできない。おそらくはまだこの地域にいるだろう。そう考えると、無駄に往復させられるバスドライバーの人が可愛そうになった。


 そんなこんなで、結局斉藤には会えずじまい。優は彼女のことで頭がいっぱいだったのだ。それに、他にも気になることがある……。


「あー、ぜんぜん寝れなかった……」


 カーテンから覗ける青い空。それは日が昇った事を物語っている。昨日は曇り空だったあたり、もしかしたら夜のうちに一雨降ったのかもしれない。その音ばかりは優も聞いてはいなかったが、空気のひんやりとしたあたり、その可能性は高いだろう。


「お、やっと起きたか神田。お前朝は弱いんだよな」


 上からそっと覗くようにして幸一が声をかける。


「あ゛あ、悪い、待たせてたか?」


「いや、そうでもない。でもちょっと急ぎで頼む」


「おぅ」


 気だるそうな色を残しつつ、優は体を起こすと、すぐさま布団をたたみ始める。


(これやったら、たしか次は……ああ、朝食だったっけ)


 寝起きの上やや睡眠不足ぎみ。幸一に急ぐよう頼まれはしたが、優の作業速度はいつにも増して低下していた。その上若干体もふらつき、布団が思うように畳めない。思考もまだはっきりせず、周囲から見てみると若干心配だった。

 そうしてやや20分、優以外が畳み終えてから10分、ようやく部屋の整理が完了した。

 それからメンバー5人全員で朝食のある食堂へと向う。3日目の今日は普通の朝食となっているのだ。まずロビーを仲介し食堂の入り口まで行き、そこで班毎に点呼をとる。そしてそれが完了すると、晴れて朝食にありつけるというわけだ。

 優たちもほかの班に倣い列に並ぶ。どうやら意外と朝寝坊が多いらしく――おそらくは2日目の自由探索で体力を使い果たしたのだろう――、優たちの班は思いのほかはやく済んだ。

 食堂に入ると、四方八方からの数々の香ばしいかおりに腹の虫が盛大に反応した。サラダの香りや肉の香り、さまざまな香りが鼻腔をつついてくる。優たちの班も次第にバラバラになっていき、それぞれが好きな朝食をかき集めた。優も1日目の夜に食べたマカロニサラダをとりに食堂奥の主菜コーナーへと向った。

 すると、


「おーい涼子ー!」


 そこではまた以前のように涼子がポテトサラダを皿に取っていた。


「涼子もまた食べるのか? ここのサラダ美味しいよなぁ」


 一昨日のように2人で並び、サラダを皿に取る。優はマカロニサラダを、涼子はポテトサラダを。

 優は何も変わらぬ様子でサラダをつまむが、涼子は少し違っていた。ちらちらと優の手元を見ては、視線を戻し自らの皿にポテトをよそう。周りの目を気にしては、自らの作業に戻っていた。

 すると、


「……あのさぁ涼子」


 涼子からしたら気まずい雰囲気の中、優が口火を切った。


「な、なによ神田優……」


「いやぁさ、ここ2日で、何か変わったことはなかったか?」


「か、変わったこと? それは、外での様子とか、宿舎内での話とかそういうこと?」


 やや困った調子で涼子が返す。だが、それとは逆に優は真剣そのものといった様子で言葉をかさねた。


「いや、そう言うことじゃなくて、だれか怪しい人物がいただとか、可笑しなものを見た、とかそういうの」


「うーん……」


 おぼんを置いたまま、涼子は考え込むように手を止めた。そして少し間を空けてから、1つ優に訊きかえす。


「それはつまり、この企画内で何かが起こるっていう事よね?」


 この返答には優も驚いた。確かに優は少し変わった質問をしたが、それだけでここまで当ててくるとは……、さすがは学年代表様、と言いたいところだが、やはり優の状態を知るのとそうでないのとでは、物事の捉え方が違ってくるらしい。だが、この場合はそれは助かる。無駄に誤魔化す必要もないのだから。


「隠す必要もない、か……。だが一応言っておく、俺は涼子の事を信用してるから言うけど、くれぐれも他に漏らさないでくれよ?」


「あたりまえじゃない。私を誰だと思ってるのよ……!」


 ここで無駄に胸を張る涼子。そして内心では、またやってしまった。と少し嘆いていた。

 だが、そんな彼女の心とは裏腹に、優は涼子の言葉から高く評価していた。


「それでこそ古川涼子だ」


 彼にこう言われてしまうと、むしろ余計に変えられない涼子だった。


「じゃあ、これは他言無用な。……じつは今、この地域に以前襲撃してきた組織が潜伏している可能性がある。その根拠なんだが、その組織に激しい恨みを持つ生徒の存在と、監視を目的したであろう機械の存在だ。今のところはまだ未確認だけど、おそらく俺たちがここを帰る前、つまりは今日のうちに攻撃を仕掛けてくるはずだ……」


 話を真剣に聞く涼子の額に汗が浮かぶ。4月の新入生歓迎会での出来事を思い出してのものだ。あの時は優が涼子たちを庇い攻撃を直接受けて倒れてしまった。涼子はそのときの恐怖感を思い出していたのだ。

 そして優もふと合宿前の生徒会長の頼みを思い出す。妹を守ってくれというやつだ。


「……だから、涼子はもしなにか怪しい動きをしてるやつを見かけたら教えてくれ。今日はみんなで午前中楽しくやるだけだからそう離れることはないだろうから。あと、もし奴らが襲撃してきたら、すぐに俺のところに来てくれ。何があっても絶対に君を守る。……会長とも約束したしね。君には指一本触れさせないよ」


 優が優しく笑いかける。すると涼子は自分の顔が一気に赤くなるのがわかった。自らの心臓の鼓動が伝わってくる。


「そ、そう。ありがとう……。覚えとくわ……」


 しゅんと俯いてひたすらにサラダをとる。そして、気が付くころにはお皿3枚分ほどの皿を積んでいた。そして隣では優が少し心配するような視線を送っている。

 するとここが涼子の面倒なところで、羞恥心と意地っ張りな性格がないまぜになり、可笑しな対応をしてしまう。今がまさにそうだ。羞恥心から無駄に意地を張ってしまい、


「べ、別にポテトが好きなだけなのよ! 文句ある?!」


 何を言われたわけでもないのに余計なことを口走り、そして


「え、いや、べつに……」


 困った表情を向けられる。心なしか周囲からまで可笑しな視線を当てられる。そして最後には、


「涼子、大丈夫か……?」


 優しい言葉を掛けられると逆にむなしくなり、


「し、知らない!!」


 バッと後ろを振り返りのしのしとその場を離れてしまう。そして残された人物、今回の場合は優だが、何がなんだかわからないままその場に取り残されてしまうのだ。


 こうして、3日目の朝は無事終了した。

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