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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-梅雨の修行旅:合宿編-
100/110

◇11-8◇

 緊迫した空気の中、誰よりも速く動きを見せたのは斉藤だった。短いベストからナイフを2本手に取り、低い姿勢で一気に優の懐まで飛び込む。そして両手に持ったナイフを何の迷いもなく振った。優はそのあまりの速度に一瞬思考が止まり、その僅かな時間差の所為で攻撃をかわしきることがかなわなかった。バッグステップで回避を試みたのだが、右腕に軽く切り傷を受けてしまったのだ。深さとしてはかなり浅いほうだが、それでも優の主力武器は銃だ。僅かな傷でも強い衝撃が加われば痛みは走る。それによって生まれた一瞬の隙でも斉藤は見逃さないだろう。


(……この人、結構やるな……)


 依然として低い体制を保つ斉藤を一睨みし、小さく息を吸う。瞬きする隙は与えられていない。そうでもすれば、すぐさま斉藤は優の懐まで飛び込んでくるだろう。なら、


(俺の全力を尽くす……!)


 優は斉藤の周りを一定の距離を開けたまま円を描くように走りはじめる。数ある樹木によって互いの姿を認識できなくなることはあるが、それは斉藤も同じ事。かといって下手にその隙を突こうとすれば、逆に不意を疲れることも有り得る。優はこの絶対的な時間を活用しようと考えたのだ。そしてその時間の間に、注意は常に斉藤へと向けながらポケットの中のコアを取り出す。使い慣れた商売道具だ。その僅かな感触の違いでどれがどれかはわかる。そしてその効果も把握している。

 優はそのコアをグローブのはめられた左手で強く握ると、ぐっと意識を集中させる。体のパーツそれぞれを1つの電子回路としてイメージするのだ。そしてそれが完成するとコアに秘められた能力が発揮される。

 超伝導皮質とはいっても、それ自体ではただ体中をよく電気が流れるといっただけで、それだけではグローブを仲介してもコアの能力は完全に発揮されない。下手に発動させて爆発なんてしたら大変だし、あまりお勧めできることでもないのだ。だから意図的に体の各箇所に電磁エネルギーと通すことで能力をコントロールする必要があるのだ。そして、優はこの作業に長けていた。だから、本部から優に試験的に渡されている。


(行くぞ……!)


 優は斉藤の周囲を走るのをやめ、一気に接近を試みた。そしてちょうど斉藤の背後を取り、電磁弾入りの銃を向けた。しかし、もちろん優もこれで決着が付くとは思っていない。先ほどの速度から見るに、おそらくかなりの修練を積んでいるはずだ。そう踏んだからこそ、優は能力を活用したのだ。

 そして結果は優の思ったとおり、斉藤は優が飛び出したのとほぼ同時のタイミングで振り返った。ついでに攻撃の構えにもうつっている。恐るべき反応速度だ。だがしかし、優も負けてはいない。

 計3回の銃声が森に響く。そしてそのすべての弾丸が斉藤に向かって一直線に飛んでいった。

 優の推測では、おそらく斉藤は何かしらの能力を持っている可能性がある。なぜなら、彼女のナイフには常に電磁弾と同じエスコード電磁波を帯びていたから。だとすれば、考えられるのは単純に電磁波を発生させる能力。既存のものではそれくらいしか思いつかない。そしてその能力には基本的にエスコード電磁波を受け付けないといったオプションが含まれている。ならば、電磁弾ではなく物理的衝撃を与えればいいと考えたのだ。

 優の発動させた能力は、《風障壁》。以前商店街で使ったものだ。だがしかし残念なことに、これは物を包むことしかできない。そこで、優は電磁弾を包ませて飛ばし、物理衝撃に変換しようと考えた。いくら空気であっても、弾丸ほどの速度があればダメージもあるだろう。それで倒れてくれればよし、倒れなくとも、ダメージが確認できればそれでいいのだ。


(どうだ……?!)


 それから起こるホンの一瞬の出来事に、優は息をのんだ。風障壁は優にしか見えてはいない。

 さぁ、どうでる……?

――いくつかの小さな光が視界で弾けた。それは、本当に一瞬の出来事だ。離れて優を見守っていた遥も、その光景に驚愕した。

 優は当然、この現実に驚きを隠せないでいた。斉藤は被弾することはおろか、避けようともせず、その弾丸をすべて消して見せたのだ。


(そんな……馬鹿な……)


 この結果は優の想定外だ。最悪かわされるとは思っていたが、まさか消されるとは……。いったい何が……。

 風障壁でコートされた電磁弾だ。ナイフを当てたところで、風に押されて弾丸が軌道をかえナイフを抜けていくはずだ。それが、ナイフに触れた瞬間に弾丸ごと跡形もなく消えた。

 優は頭脳をフルで回転させる。だが、考えられるものがなかった。そもそも、電磁弾が斉藤の能力で無料化される事を想定しての風障壁が、認識できないはずの斉藤に消されるのが可笑しいのだ。こんなことは、前代未聞だ。

 しかし、どうやら斉藤も考える時間などくれないらしく、再び優との間合いをつめてきた。そしてまたナイフを振る。優も体を捻らせうまい具合にかわすも、攻撃する術が思いつかなく防戦一方となっていた。何度攻撃に転じて銃弾を撃っても、そのすべてが斉藤によって無力化されてしまうのだ。

 だが、


(っ!?)


 優は見逃さなかった。斉藤が弾丸を消すと同時に、彼女の青い髪が僅かに光るのを。


「なるほど、そういうことか……」


 このきわどい戦闘の中、優は不敵な笑みを浮かべる。

 斉藤もそれに反応してか、一度攻撃の手を止め優と距離を開けた。


「斉藤さん、君の能力、理解したよ」


「何を言ってる?」


「俺は最初ただエスコード電磁波を発生させるくらいのものだと思ってたけど、本当は、電磁波を移す能力。正確には、体を仲介して電磁波を貯蓄、放出するものだったんだ」


 やや不確定な事柄なため、優はカマをかけるように笑いかける。すると、斉藤は一度視線をおろすと、


「分析能力が高いのね。……あなたの弾、変な色だから迷ったわ」


 色……? なるほどつまり、斉藤は電磁波を視覚的に、しかも色調で特定していたのか。つまり、ELLの上位互換のようなもの。エスコード電磁波は青。レミック電磁波は赤。その両方が衝突すると緑、といったようなもの。彼女にはその先が見えているのだろう。


「ネタがわかれば、こっちのもんだ」


「やれるもんなら……!」


 いくら電磁波を無効化させるとは言えど、体を仲介させる必要があるならば、彼女の肉体ではないかつ伝導性のあるものでもない物質、つまり衣類からダメージを与えてやれば問題はないはずだ。そして、彼女ではどうしようもない衣服――学校の征服へ攻撃を加えれば確実だ。ならば、風障壁はもう必要ない。優はすぐさまコアを投げ捨てると、斉藤の攻撃回避とともにポケットから新たなコアを取り出す。重力操作のコアだ。

 発動者を中心とした半径3メートル圏内にある物質にかかる重力を操作することができる。そしてこの能力は適応しない限り周辺に影響を及ぼすことはないから、斉藤に気付かれることはない。

 優が再び一発の銃弾を放つ。するとそれをきれいに抹消し、斉藤は再度優の懐に飛び込んだ。


(――今だ!)


 この場なら3メートル圏内に邪魔なものもない。優はすかさず重力操作を適応させた。斉藤に掛かる重力が数倍に膨れ上がった。その瞬間、斉藤の体が一気に大地へと向かう。そしてその隙に、優は背後に回りこみ斉藤の背中に銃口を押し当てた。


「これで、チェックメイトだ」


 それは本当に一瞬の出来事で、周囲から見ていたとしても、何が起きたかわかるものは世界にそう多くはいないはずだ。現に、遥も今起きたことに目を丸くしていたのだ。だが、優の勝利。それだけは彼女は確信していた。


「やった、すごいよ優くん!」


 その喜びから飛び出して行く遥。優も斉藤の背から銃口をどけると、重力操作をといて斉藤を立ち上がらせる。


「これで納得して……は、くれてないっぽいな」


 斉藤は納得したどころか、むしろさらに納得がいかないといった表情をしている。まぁほとんど無表情なわけだが。


「……私は、また負けた。どうして?」


「いや、どうしてもこうしても、相性が悪かっただけさ。斉藤さんは、正直予想外の強さだったよ」


「でも、負けたわ」


「いやまぁだからさ」


「これじゃ、また負ける」


 斉藤が優から視線を離し、地面を見つめていった。


「え?」


「怒鳴って悪かったわ。忘れて」


 斉藤はそれだけ言うと、廃校とは逆の、宿舎の方へ歩き出した。


「え、ちょっ……」


 優も一度引きとめようと思ったが、彼の中の何かが邪魔をし、声をかけず押し留まった。

 遥も斉藤に声をかけることはなく、ただ、心配そうに見つめるだけだった。

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