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学園の神鳴り殺し  作者: 片岡 雅
-侵略者の使い:入学編-
10/110

◇1−7◇

 教室棟3階から、遥の手を握ったまま4階を越えて屋上までたどり着いた。幸いD組は階段の真横に等しい位置なので、途中教員やら生徒やらに見つかることもなかった。

 さて、遥は未だに優に屋上まで連れてこられた意味を理解できないでいた。


「神田君……だっけ? ど、どうしたの?」


 屋上まで猛ダッシュだった所為か、教室に入ってきたときのように肩で息をする優に遥は恐る恐る尋ねる。すると、その瞬間優から悪魔のような恐ろしい視線が向けられた。その鋭い視線の所為で老人がショック死しても可笑しくないくらいの視線だ。


「はは、ははははは……どうしただって?――」


 今度は俯いて禍々しいほどに負のオーラを発生し始めた。彼からどす黒い何かが見えてくるようでとても怖い。

 もうこの時点で、遥は緊張で心臓の鼓動が強くなり直に聞こえてくるほどだ。まったくもって、この2人の経緯を知っていれば誰でもわかる事を、遥は何故気付かないのかが不思議でならない。


「……どうしたか。そんなに知りたければ教えてやるよ……」


 置かれた間に、遥は息を呑む。


「――それはお前が口走ったからだぁぁ!!!」


「ギャアァァァ!!」


 勢いよく遥の肩に手を置いて叫ぶ優。そして、それに驚いて悲鳴を上げる遥。屋上には誰もいないから悲鳴を聞いて駆けつけた誰かに勘違いされ、優が逮捕そして牢屋行き、なんてことにはならずに済んだが、それほどこの話は優にとって――いや神鳴り殺しにとっては重要な話なのだ。

 それを軽々と口に出そうとしたのだから、彼らにとってこの状況は愉快ではない。


「いいか? 絶対にもう2度と口にするんじゃないぞその言葉を。もし、次にそんなこと言うようであれば……即刻退学だからな?」


 彼から告げられた《退学》の2文字。生徒側である彼の言葉には何の迫力も何の力もないはずなのに、なぜか遥には、どんな言葉よりも恐ろしく聞こえていた。いつの間にか溢れていた涙をぐっとこらえて、コクコクと頷く。そんな様子を見てやりすぎたとでも思ったのか、優も肩から手をどけて一歩下がった。


「悪いな。でもこれはオレ達にとって、絶対に知れ渡っちゃいけないことなんだよ」


「ううん。私が悪かったの……約束したのに、つい口がすべっちゃって」


 先ほどまで自分に対して激怒していた人間に、キミと会えて嬉しくて、などとは、遥には到底言えない。


「……でも、あの約束守ってくれたのは君が初めてなんだよな」


「でも、私さっき……」


「今は謝ってくれてただろ? いままでいろんなところに行って、いろんなところでばれて、それで今ココにいるんだけどさ。大抵の人は、ネタになるって言って、すぐばらしちゃうんだよ。特に俺なんかまだ学生の身だからさ、ばれやすくって、何度も何度も転校を繰り返してきたんだ。――騒ぎになりさえしなけりゃ、留まっててもいいんだけどさ……」


 遥は始めて、優の悲しげな顔を目にした。そしてその時はじめて、彼に抱く感情を伝える気になった。たとえ一目惚れや、運命的な勘違いであろうとも、そんなことは今の彼女には関係のないことだった。


「あのさ、神田君」


「ん?」


 はじめてあった運命の相手(?)と屋上でいきなり屋上で2人きり。これはもう神様か何かが告白しなさいって言ってるに違いない。遥の心臓の鼓動はまた徐々にその強さを増していき、今にも気を失ってしまいそうなほど高鳴っていた。


「あ、あの……私……神田君のことが好きです! 私とお付き合いしてください!」


 言った! 言ってやった!!

 誰に何を言われようと、遥の気持ちは揺るがない。――しかし、それと同様に優の気持ちも一寸たりとも揺るがない。驚いている様子はあれど、目を点にしてただポカンとしている。


「え、いや、あのさ、ちょっと待ってよ? さっきの話し聞いてなかった? そのうちココからパッといなくなるかもしれないんだよ?」


「わかってる」


「あの、オレ、あれだよ? ABNだよ、神鳴り殺しだよ? オレ達結構嫌われてるよね?」


 その言葉を聞くなり、遥はスッと下ろしていた状態を起こして、


「だからだよ……」


 ニコッと微笑んで言った。


「神田君は、今じゃ数少ない《人を助けてくれる》神鳴り殺し。そんな人に出会えて、私は心からこの巡り合いに感謝してるの。たしかに、嫌いだって言う人のほうが今じゃ多いかもしれないけど、少なくとも私は、神田君の味方でいたいのよ」


「……それはありがたいんだけど――」


 いい話のような展開になってきたところで申し訳ないが、優にはまだ彼女にいうことがあるのだ。


「そういうのって普通友達からはじめるものじゃない? オレまだキミの名前も知らないんだよ?」


「あっ」


 やっと気付いたか。

 しかし、遥の眼は誰から見ても本気の目だった。それくらいは優にでもわかる。彼女は話している限りだと、電磁科っぽいし、自分に完全に惚れこんでるし、さらには秘密も知っているし、また口を滑らせそうだしと、悩む点がいくつも存在した。

 それらをすべて考慮して今後について考えた結果、答えを出すのは保留という事になった。悩ましい点が多すぎるのだ。それに、まだ彼女のことをまったく知らない。これではいくら考えても結果が引っくり返されかねない。


「とりあえずさ、あの、今日の放課後、またココに来てくれないか? 今後のことを話したいんだ。このままじゃ多分不味いだろうし」


 自分のことが好きという女の子を家に連れて帰るのも、多分いろいろ不味いのだろうが、この際それは仕方がないことだ。

 そんな優の言葉に反応して、同じことでも考えていたのか、遥は顔を真っ赤にしている。


「う、うん、わかった。――あ、あの、私、相沢遥って言うの、よろしくね」


「ああ、オレは神田優。よろしく、遥。って、オレ人の名前呼ぶの苦手でさ、友達の名前呼ぶなら下の名前だと思ってるんだけど、変じゃない?」


「いや、全然変じゃないよ。むしろ、嬉しい。――私も、優君って、呼んでもいい?」


「あ、ああ。かまわない」


 遥の瞳が反則なみに輝いていた。さすがの優であっても、多少ドキッとしてしまう。


「……友達から……私、絶対諦めないからね。もっと学校生活を楽しんで、また告白するから。でも、他の子を好きにならないでとは言わない。他の子よりも優君に好きになってもらえるように頑張るから!」


 ココまで来ると、少し怖い。ホントに初対面だよな、と少し自分を疑ってしまうくらいだ。

――とその時、屋上にも、予鈴が響き渡った。


「あ、やば、そういや学活抜けてきたんだった! 悪い遥オレの所為でっ」


「いいんだよ、私優君の話せてよかったから。それより急いで教室戻ろう!」


「あ、ああっ」


 このあと優と遥の2人が急いで教室に戻る頃、すでに3時間目の書類配布が始まっていたのは、変えようもない事実だった。

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