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第四十九話 死闘の末に…

 圧倒的な速さと剣技で蒼馬を圧倒していた一刀…しかし、その傷は一瞬で回復し、再び一刀を攻撃してきた蒼馬。


【蒼馬】

「…お前に、俺は倒せない。」


 死と絶望をもたらすこの男を、一刀は止められるのか…。




【華雄】

「うおおおおっ!」


 ズガンッ


【霞】

「チッ…」


【恋】

「っ!」


 華雄の振り下ろした斧は大地を穿ち、辺りに衝撃を撒き散らす…斬撃そのものを避けても、その爆風にも等しい衝撃を浴び続ける恋と霞の体は、すでにボロボロだった。


【霞】

「アカン…ほんまに強いで…ウチもかなり強ぅなっとるのに……」


【恋】

「ん…蒼馬、もっと強い……早く、一刀たち追う…」


【霞】

「そうは言うても…ぐっ!ウチらもボロボロやで…」


 霞は、すでに蒼竜で体を支えないと立っていられないほどだった。


【華雄】

「はっはっはぁっ!これで、終わりだぁっ!」


 華雄は再び、斧を振り回して竜巻を起こした。すでに疲弊している二人に、ここから逃れる術はない。


【恋】

「…霞、下がって…」


【霞】

「恋?」


【恋】

「…はぁぁぁああああっ!」


 恋は全身から燃えるように赤いオーラを放って、竜巻を掻き消した。そのオーラは、徐々に形を変えて、彼女の背後に巨大な影を作り出す。

 真っ赤な、大鬼…


【華雄】

「なっ!?鬼神の覇気!」


【恋】

「…決める。」


 そう呟き、恋は一瞬で華雄の前に跳んだ。蒼馬との戦いで体得した、彼と同じ方法の瞬脚で。


【華雄】

「っ!?」


 そして、彼女の方天画戟が振り下ろされるのと同時に、鬼神の拳が華雄に叩きつけられた。


【華雄】

「がはぁっ!」




【紫苑】

「はっ!」


 目にも止まらぬ早業で、無数の矢を立て続けに放つ紫苑…だが、白蓮はそれを一瞥もせずに剣で弾き落とす。


【鈴々】

「はぐっ!」


 左手で鈴々の首を締め上げ、倒れ伏した翠の頭を踏み抑えたままで。


【翠】

「ぐっ…な、何だってんだ?体が、重い…腕が、上がらねぇ…」


 槍で目の前にいる白蓮を貫こうにも、翠の体は地面にピッタリへばり付いたように動かない。


【白蓮】

「物は手を放すと地面に落ちる…これは地面が物を引っ張っているから、らしい。この力を引力とか、重力とか言うそうだ。その力を強めたんだ。馬超、今のお前が感じている重力は、通常のそれのおよそ十倍…その腕も、手にしている槍もだ。」


 万有引力…この世界では後にニュートンが発見するまで、誰も知り得ないはずの力学の知識だ。言うまでもなく、蒼馬の入れ知恵だろう。白蓮は、大地の魂と相性があったらしい。

 十倍の重力…仮に翠の体重を女性の平均体重の50㎏とすると、体にかかる負荷は500㎏になる。常人なら寝たきりになるどころか、生死に関わるレベルの体重だ。

 白蓮は、紫苑の矢が切れた隙に、鈴々を彼女の方に投げ放った。


【鈴々】

「うにゃあっ!」


【紫苑】

「鈴々ちゃん!」


 咄嗟に、鈴々を抱き止める紫苑…


【白蓮】

「終わりだ。」


 すると、白蓮は両腕を真横に伸ばして、辺り一帯の重力を強めた。


【紫苑】

「ぐっ!?」


【鈴々】

「にゃにゃっ!?」


 翠に続いて、紫苑と鈴々も超重力の餌食となってしまった。こうなっては、もう白蓮が力を緩めるまで、誰も立ち上がる事さえ出来ない。

 唯一、動けるのは…


【星】

「ぐっ…」


 超重力の範囲の外にいる星だけだ。しかし、彼女は四人の中で一番の深手を負っているので、別の意味であまり動けないが…。


【星】

『くそ…どうすれば……』


 大量の出血で意識が霞む中、星は仲間を助ける方法を…白蓮を止める方法を模索した。


【星】

『…重力…その奇怪な術を解ければ……効果の及ばない場所から、攻撃する事が出来れば…』


 星は思考を止めず、槍を支えに何とか立ち上がった。彼女に残された体力は僅か…攻撃のチャンスは、多くて一回…


【星】

「っ…」


 意識が遠退き、倒れ込もうとする星の体…自然、彼女の目は天井を向いた。


【星】

「!」


 瞬間、再び意識を取り戻した星…


【星】

『…そうか…この方法なら…!』


 逆転の一手を見つけた事で、満身創痍だったはずの星の体に、再び力が漲ってきた。


【白蓮】

「さぁ、さらに重力を強めるぞ…骨が砕け、五臓が潰れるほどにな。」


 そう言い、徐々に重力をまた強める白蓮…十二…十五……二十倍まで重力が強まった頃には、翠も鈴々も紫苑も、誰も声を発せなくなっていた。


【白蓮】

「…終わったな。」


 そう思った白蓮…の真上に、


【星】

「やはり…」


【白蓮】

「っ!?」


 星が、鮮やかな身のこなしで跳び上がっていた。


【白蓮】

「星!お前、もう…」


 そんな力は残っていない…そう思い、白蓮は星の存在を完全に思考の外に追いやっていた。おかげで、彼女が助走までつけて跳び上がってきた事に、今の今まで全く気付かなかったのだ。


【星】

「頭上までは、その重力とやらは及んでいないようですな?天井が落ちてこないのが、その証拠。そして…地面に引っ張られるだけの力なら…上からの攻撃には意味がない!」


【白蓮】

「くっ!」


【星】

「はああああああっ!」


 星は逆さまになって天井を蹴り、そのまま白蓮めがけ落下…


【白蓮】

「星っ!」


【星】

「終わりだ、伯珪殿!」


 星は落下の勢いを利用して、渾身の力で龍牙の突きを白蓮に見舞った。白蓮も負けじと、自身の剣で真っ向から打ち合う。

 激突の瞬間、二人の脳裏には共に常山で過ごした日々が蘇った。




【蒼馬】

「セイバー。」


【一刀】

「!?」


 背後からのその声に、一刀は咄嗟に振り向き、星降りの御魂を振り薙いだ。


 ガキィンッ


【蒼馬】

「…ほぅ。初撃は防いだか…だが、」


 空間転移で一刀の背後に回り、セイバーを振り下ろしてきた蒼馬…だが、それを止められるとすぐに、空間転移でその場から消えた。


【一刀】

「ぐっ!」


 その瞬間、左わき腹を蹴り飛ばされた一刀…


【蒼馬】

「反応が遅い…星降りの御魂では、移動と攻撃の速度しか強化できないからな。」


【一刀】

「くそっ!恋ざくr…」


【蒼馬】

「ランス。」


 蒼馬はセイバーを解除し、右手の人差し指から光の槍を一刀めがけ放った。


【一刀】

「くっ!」


 慌てて躱す一刀…だが、蒼馬は残りの指からも次々とランスを放っていく。


【一刀】

「うわっ!ちょ、まっ!あぶっ!」


 何とか躱し切った一刀だが、彼の周囲はランスによって覆われ、閉じ込められてしまった。


【蒼馬】

「ウェーブ。」


 ほっとしたのも束の間、今度はその光の筋がウネウネと波打ち、鞭のようにしなって一刀を攻撃してきた。


【一刀】

「うわぁっ!」


 二本の刀で何とか捌こうとするのだが、自身を囲う様にして張り巡らされた十本の光の鞭から、逃れる術はなかった。


【蓮華】

「一刀っ!」


【一刀】

「ぐ…はぁ……はぁ……」


【蒼馬】

「とどめだ。」


 片膝をついた一刀に、蒼馬は容赦なく貫徹の構えを見せた。城門を一撃で打ち抜くほどの技だ…まともに喰らえば一刀でも一たまりもない。


【蒼馬】

「貫徹。」


 蒼馬の姿が一瞬で一刀の目の前に移り、そのまま拳を一刀の顔面めがけ突き出す。


【一刀】

「っ!」


 何とか刀で防ごうとする一刀だったが…突如、蒼馬の動きが停止した。


【一刀】

「……え?」


 衝撃に備え、身構えていた一刀…しかし、時間が止まったのかと思うような蒼馬の静止に、思わず緊張を解いてしまった。


【蒼馬】

「…止水。」


 ズガンッ


 その瞬間、静止前と変わらない勢いで、一刀を殴り飛ばした蒼馬…完全に気が緩んでいた一刀は、何の防御も出来ずに蒼馬の貫徹を顔面に、まともに喰らってしまった。

 そのまま壁まで吹き飛び、壁に大穴を開けた一刀…壁の瓦礫に埋もれて姿が見えないが、もうその顔は原型を留めていないだろう。


【蒼馬】

「…情けなど、優しいと言われる自分に酔ってる自己陶酔者がかけるものだ。戦うなら、常に非情であれ。俺のようにな…カノン。」


 まだするのかと、思わずそう問いたくなるような無慈悲な攻撃…すでに命があるかどうかも分からない相手に、恐らくもう亡骸と化しているだろうそれに、さらなる仕打ちをかけようろする蒼馬。

 右手から放たれた光弾は、まっすぐに一刀めがけ飛んで行き、そして眩い光を放って弾けた。


【蒼馬】

「っ!?」


 ブシュッ


 その瞬間、蒼馬の胸が斜めに切り裂かれ、鮮血が散った。


【蒼馬】

「…どういう事だ?」


 蒼馬が振り返ると、そこには壁に叩きつけられ、瓦礫ごと吹き飛ばされたハズの一刀が立っていた。

 どうやら、カノンが炸裂する瞬間に瓦礫から飛び出してきて、蒼馬を斬りつけたようだ。


【蒼馬】

「俺の貫徹は、間違いなくお前の頭蓋を砕き、脳まで破壊したハズだ。」


【一刀】

「……」


 一刀は黙ったまま、左腕で鼻血を拭った。


【蒼馬】

「成都の戦いの時もそうだ。心臓を一突きにされ即死したハズ…にも関わらず、お前は月下の雫を使う前に蘇生してみせた。一体、何をした?」


【一刀】

「…分からない。あの水の力が、俺自身に宿ったのかもな。」


【蒼馬】

「バカな…」


 本来、力を発動した分の月下の雫は、ただの水となってしまう。蘇生の力自体も、飽くまで効果は一度きりだ。持続性はないハズである。

 蘇生の力を取り込み、自身の血に宿したのは、一刀が初めての事例である。


【蒼馬】

「まぁいい…どんなカラクリにせよ、跡形もなく吹き飛ばしてしまえば関係あるまい!カノン!」


 蒼馬は再び、右手から光弾を放って一刀を攻撃した。


【一刀】

「喰らうか!」


 一刀はこれを避け、再び蒼馬に向かって高速移動しようとした。が…光弾は直進も炸裂もせず、より小さな無数の光弾になって飛び散った。


【蒼馬】

「散弾。」


【一刀】

「しまっ…ぐああああっ!」


 細かい光弾が全身に叩きつけられ、一刀の体が真っ赤に染まっていく…。


【一刀】

「いづづ……くそっ!」


 すぐに傷が塞がった一刀はお返しとばかりに、星降りの御魂と恋する乙女の能力で分身を作り、蒼馬を滅多切りにした。


【蒼馬】

「ぐっ!?」


【一刀】

「終わりだ!星に願う乙女の祈り!」


【蒼馬】

「セイバー!」


 分身を解除し、蒼馬の首めがけ放った一刀の一撃は、惜しくも光の剣で止められてしまった。そうこうしてる間に、蒼馬の体の傷もすぐに回復してしまった。

 その後も、両者一歩も譲らず、一進一退の攻防を繰り広げた。最初は、蒼馬の空間転移に翻弄されていた一刀だったが、いつの間にかそれにさえ瞬時に反応し、対応できるようになっていた。


【蓮華】

「…一刀…」


 そんな戦いを、蓮華は祈るように見つめていた…もっとも、もはや彼女の目では何が起きているのか、全く追えないレベルの戦いだったが。


【思春】

「ほぼ不死身に等しい両者…決着など着くのか?」


【祭】

「どちらかの首が斬り落とされるまで着かんじゃろうな。或いは五体をバラバラにされるか。」


 祭の言う通り、致命傷ですら瞬時に回復してみせる二人だが、お互いに防御を捨てているわけではない。浅い斬撃なら構わずに攻撃しているが、深手になりそうな攻撃は防ぐなり躱すなりしている。

 首と言わずとも、腕一本落とされそうな攻撃には対応するようにしているらしい。


【秋蘭】

「…その前に、疲弊して動けなくなるか…蒼馬は、もう長くは戦えないはずだ。」


【蒼馬】

「……はぁっ…はぁっ……くっ!」


 空間転移で一刀の真横に移動した蒼馬のセイバーが、一刀の首を刎ね飛ばそうと振り下ろされる。しかし、一刀は高速移動でそれを躱し、振り下ろされたセイバーを踏みつけ正面から、蒼馬の首めがけ鋭い一閃を放った。それを、慌てて空間転移で避け、今度は真上から一刀を串刺しにしようと襲いかかる。が、これもすぐに躱され、着地様に背後から頭を叩き割られそうになる。


【蒼馬】

「ウィング!」


 光の翼を、頭を覆うようにして広げ、攻撃を防ぐ蒼馬…その表情は、いつになく苦しそうだ。


【一刀】

「くっ!」


 ウィングの光を至近距離で直視した事で、一刀の目が眩んだ。このままではマズイと、蒼馬から距離をとって体勢を整える。


【一刀】

「危ねぇ…目、潰れるかと思ったぜ…」


【蒼馬】

「…はぁ……はぁ……こんなんじゃ、埒が明かねぇな。今やお前と俺の戦闘力は互角…いや、僅かにお前の方が上か。残りの体力も、俺の発作の事を踏まえても…これ以上、持久戦を続けるのは不利だな。仕方ない…」


 立ち上がり、一刀に向き直る蒼馬…自身の不利を認めながら、その顔に余裕の笑みを浮かべている。


【蒼馬】

「…はぁぁぁあああああっ!」


【一刀】

「!?」


 蒼馬の背後に、巨大な青い竜が姿を現した…鬼神の覇気である。


【蒼馬】

「お前も知ってるだろう?鬼神の覇気は、鬼神の覇気でしか倒せない!しかも、具現化の鮮明さには力と熟練度が現れる…お前の荒削りな、子供の粘土細工のような鬼神の覇気では、絶対にこいつは破れない!」


【一刀】

「くっ…だが、やるしかねぇ!」


 一刀も気合いを込めて、鬼神の覇気を具現化した。白く、細長い生物…が現れた。


【蒼馬】

「はっはっはっはっ!無駄だ!鬼神の覇気は、己の力そのものを具現化したもの。自身が持つ力の半分も引き出せていないお前には、それ以上の鬼神の覇気は具現化できない!」


【一刀】

「俺の持つ、力?俺は、いつだって全力全開だ!」


【蒼馬】

「そうかな?未だ腰に下げたままの二本は飾りか?」


【一刀】

「!」


 確かに、一刀は未だ星恋龍牙の星の太刀と恋の太刀の二本しか、その力を覚醒させていない。残る龍の太刀と牙の太刀は、覚醒どころかその力の片鱗さえ見せてくれていない。


【蒼馬】

「さすがに、四本全てを扱えるようになるのは無理だったようだな。まぁ、この短期間で、よく二本も覚醒させられたものだ。」


【一刀】

「…まさか…こいつを俺に持たせたのも…」


 蒼馬は、口の端を吊り上げさらに憎らしい笑みを一刀に向けた。

 …全ては、この男の策略だったのだ。一刀が、鬼神の覇気に目覚めたとしても、その力を強化できないようにする為の…


【一刀】

「蒼馬ぁっ!」


【蒼馬】

「…終わりだ、天の御遣い…死ねぇっ!」


 蒼馬のセイバーと鬼神の覇気が、一刀に迫り来る…それを、未だ不完全な鬼神の覇気で受け止めなければならない一刀。

 誰もが、一刀の敗北を想像した…その時、


【雪蓮】

「させないわっ!」


 赤い虎が、その牙を蒼竜の首に突き立てた。同時に、横から蒼馬の首を狙う鋭い一撃が…


【蒼馬】

「何っ!?」


 慌ててその場を飛び退いた蒼馬…そこに現れたのは、死んでいたはずの雪蓮だった。


【冥琳】

「雪蓮!」


【蓮華】

「雪蓮姉様っ!」


 復活した雪蓮の姿に、呉の面々が歓喜の声を上げる。


【一刀】

「雪蓮!って事は、愛紗がやってくれたんだな?」


【雪蓮】

「えぇ。ありがとう、一刀。このお礼は今度、体で払ってあげるわ。蓮華が。」


【蓮華】

「姉様っ!」


 生き返っても相変わらずのようだ。


【蒼馬】

「チッ!孫策…だが、今さらお前が来たところd…」


 ドスッ


 蒼馬の言葉を遮るように、背後から脇腹を刺された蒼馬…。


【蒼馬】

「何!?」


 顔だけ振り向くと、そこには…


【桃香・黒】

「借りは返させてもらうわよ。」


 彼女の姿も…だが、すぐに彼女は桃香と入れ代わった。


【桃香】

「ごめんなさい、蒼馬さん…でも、もう終わりにしましょう。」


【蒼馬】

「っ!や、やめ…」


 瞬間、桃香の握る靖王伝家から、聖者の覇気が直接流し込まれた…鬼神の覇気は、見る間に消滅し、蒼馬自身ももう立っていられなくなってしまった。


【蒼馬】

「ち…力が……くっ…」


【桃香】

「ご主人様!」


【一刀】

「うおおおっ!」


 聖者の覇気で力が入らない蒼馬に、一刀はとどめとばかりに刀を振り下ろした。




【凪】

「な、何だと!?」


 凪は、すでに倒した張郃を、驚愕の表情で見下ろしている…いや、むしろその表情は、打ちのめされたと言った方がいいだろうか。ショックを、隠しきれない様子だった。


【張郃】

「…本当の事さ…兵たちは知らないがな。知ってんのは、俺たち三人と…華雄ぐらいか。」


【凪】

「くっ!」


 凪は慌てて、許昌へ向かおうとする…


【張郃】

「無駄だ…もう、間に合わねぇさ…」


【凪】

「っ!」


 張郃の言葉に、一瞬足を止める凪だが、再び駆けだした…その目に、涙を溜めて…奥歯を噛みしめて…


【真桜】

「あ、ちょ、凪!」


 凪は、自慢の俊足で許昌を目指した…


【凪】

「…何故ですか…隊長……何故、我々に一言も言わずに…貴方は……」


 頬をアツいものが伝うのを感じて、凪は空を見上げた…蒼い空が、何処までも広がっている。


【凪】

「隊長ぉぉぉっ!」




【一刀】

「蒼馬ぁぁぁっ!」


 星降りの御魂を振り下ろす一刀…桃香の聖者の覇気で力が出ない蒼馬は、その一撃を防ぐ事も、避ける事さえ出来なかった。

 迫り来る刃を、蒼馬は恐怖すら浮かべた瞳で見つめている。死神と恐れられたこの男に、終わりの時が近づいているのだ。そして、その刃が彼の首に叩き落とされるまで、残り数センチまで迫った時…


【一刀】

「!?」


 一刀は、慌てて太刀筋を変え、蒼馬の肩から反対側の脇腹へ太刀を入れた。

 あのまま首を斬り落としていれば、さすがの蒼馬ももう回復出来ないはずだったのに、何故わざわざ太刀筋を逸らしたのか?これでは、また回復してしまうだろうに…。


【一刀】

「…蒼馬、さん…?」


 理由は、最後に見せた蒼馬の表情にあった…一刀の太刀が、自身の首を斬り落とす、そう確信した瞬間、蒼馬は…不意に、穏やかに笑ってみせたのだ。


【蒼馬】

「……ぐはっ!…あのまま、首を刎ねてくれれば、いいものを……君は、どうして、そう……まぁ、いいや…」


 こんな傷でもまだ口が聞けるのだから、本当にしぶとい化け物である。しかし、傷の回復は明らかに遅く、出血は収まる様子がない。


【蒼馬】

「…この一撃と同時に、建業や成都で流してた映像も途切れさせた…表向き、死神は天の御遣いによって、討ち取られた事になった……これでいい。」


【一刀】

「…何を、言って…」


【華琳】

「それが、貴方の目論見だったのね?」


 月下の雫で生き返った、三王の最後の一人である華琳も、ようやっと姿を現した。

 華琳の言葉に、三国の軍師たちは全てを理解したようだ。まぁ、武将たちの中には、まだ話が飲み込めていないという表情の者たちもいるが…。


【春蘭】

「?おい、秋蘭…一体、どういう事だ?」


【秋蘭】

「……」


 分かっていない姉の問いに、しかし秋蘭は答えなかった。答えられなかった、というべきか…それほどに、彼女にはこの真実はショックだったのだろう。


【華琳】

「三国の共通の敵となり、圧倒的な力と死神の二つ名で民の恐怖と混乱を煽り、民衆の憎しみを一身に背負って死ぬ…そういう算段だったんでしょ、蒼馬?」


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