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第四十四話 最終決戦(後編)

【鈴々】

「うりゃりゃりゃりゃぁっ!」


鈴々は気合い…が入っているかは微妙…掛け声と共に、丈八蛇矛を軽々と振り回し、季衣を追い詰めようとする。

が、その連続攻撃を、季衣は動じずに躱していく。


【季衣】

『一つ…二つ……今だ!』


鈴々の丈八蛇矛が、大地に叩きつけられる…渾身の一撃は空を切ったが、大地を穿つほどの威力があった。

ただ、鈴々が次の動作に移る前に…彼女の目の前に鉄球が迫っていた。


【鈴々】

「にゃっ!うにゃあっ!」


自身の身の丈ほどもありそうな鉄球を叩きつけられ、鈴々の小さな体が宙を舞う。




【星】

「はぁぁぁぁっ!」


星の放つ、目にも止まらぬ突きの雨が、凪を襲う…素手で戦う凪は、星の攻撃を前に間合いを詰められない様子だった。


【星】

「これで終わりだ!星雲神妙撃!」


星がとどめとばかりに、必殺の一撃を繰り出そうとした瞬間…防戦一方だった凪が動いた。というか…消えた。


【星】

「何!?」


星が驚いた時、凪はすでに星の懐に飛び込んでいた。


【凪】

「はぁっ!」


ドゴッ


【星】

「ごふっ!?」


凪の拳が、星の鳩尾を完璧に捕えた…衝撃に、星の体はくの字になる。




【一刀】

「っ!嘘だろ…鈴々と星まで…」


五虎大将のうち四人までもが劣勢に立たせている…それを察知した一刀は、表情を険しくしたまま蒼馬たちと、前線の方を交互に見やる。


【一刀】

『マズい、マズい、マズい!四人とも、すぐに助太刀に行かないと危険だ…兵たちの士気も、どっと下がっている…だが、焔耶たちが身動きのとれないこの状況で、この二人が目の前にいるこの状況で…桃香を残して行けるわけがない!』


【華琳】

「さぁ、どうする劉備?」


【桃香】

「…みんな…」


【蒼馬】

「仲間の力を信じるかい?でも、残念だけど…こっちは皆、おじさんが無理を押して特訓してあげたからね~。善戦出来ているのは、関羽ちゃんと…孫策ちゃんたちの所ぐらいかなぁ?」

【一刀】

「蒼馬っ!」


一刀が刀に手を掛け、腰を深く落とす…居合いの構えだ。


【華琳】

「蒼馬、北郷は貴方に任せるわよ?」


【蒼馬】

「じゃあ、場所を移動しようかね~。」


【一刀】

「必要ねぇよ!その前に、曹操!お前を倒して、この戦を終わらせる!」


一刀が剣を抜こうとした矢先に、彼の足元が消える…


【一刀】

「なっ!?」


気づくと、彼は何故か腰から地面に落ちていた。


【一刀】

「うわっ!?な、何だ?何処だ、ここは?」


辺りを見回すと、そこは戦場から離れた何処かの小川のほとりだった。


【蒼馬】

「さて、一刀君。ここなら、誰を巻き込む心配もない。」


蒼馬は、一刀に背を向けて川の中に立っていた。それからゆっくりと、一刀の方に向き直る。


【蒼馬】

「…全力でかかってこい。今の自分の、ありったけの力を…俺に見せてみろ。そうしなければ、今度こそ…死ぬぞ。」


【一刀】

「チッ!言われなくても、やってやるよ!」


一刀は星降りの御魂で、蒼馬に斬り掛かった。しかし、それを腕一本で止めてしまう蒼馬…


【蒼馬】

「そんな斬撃じゃ、俺に傷一つつけられんぞ。」


乱暴に腕を振って、一刀を払いのける。川の中に着地した一刀は、刀の切っ先を川に浸け、そして…一気に振り上げる。


【一刀】

「うらあああっ!」


水が刃となって、蒼馬に襲い掛かる。が、これも蒼天竜扇の一扇ぎで蹴散らされてしまった。


【蒼馬】

「センスは悪くないが、所詮は猿まねの域を出んか…」


【一刀】

「まだだ!」


一刀の姿が消える…目にも止まらぬ速さで、蒼馬の背後に回り、居合いの構えから刀を薙いだ。


【一刀】

「流星斬り!」


その一撃を、振り返りざまに硬化した腕で弾こうとする蒼馬…だったが、


ガッ ズバッ


【蒼馬】

「っ!?」


蒼馬の腕から、赤い鮮血が上がった…その事実に、蒼馬は驚きを隠せないようだった。


【蒼馬】

『全力の魂鋼が…斬られた?』


だが、それ以上に驚いているのは、一刀の方だった。


【一刀】

「や、やった!やったぜ!」


【蒼馬】

「チッ!図に乗るなよ!」


今度は蒼馬から仕掛ける。剣を抜き、一刀を頭から真っ二つにしようと斬りかかる。が、一刀は星降りの御魂を一振りし、蒼馬の鉄剣を叩き折った。


【一刀】

「うおおおおっ!」


さらに、切り返してもう一太刀、蒼馬の胸を斜めに切り裂く、いい太刀が入った。


ブシュッ


【蒼馬】

「ぐっ…」


【一刀】

『効いてる!流れは、こっちにある!』


一刀は、もう一本の刀を抜いた…刀身が、桜色をした刀だ。暴走して、蒼馬をメッタ斬りにした時にも使っていたあの刀だ。


【一刀】

「今なら、こいつも…うおおおおおおっ!」


【蒼馬】

「くっ!」


膨大な気を、二本目の刀である恋の太刀が飲み干していく。そしてついに、その刀身が激しく光り始める…覚醒の時だ。


【一刀】

「龍刻四爪刀、二の太刀…」




徐々に一刀が蒼馬を追い詰め始めた頃、それとは裏腹に蜀呉連合軍の戦況は厳しくなっていた。


【雪蓮】

「はぁぁっ!」


【沙和】

「やぁっ!」


ガキンッ


【雪蓮】

「チッ!…伊達に死神の部下をしてるわけじゃないみたいね…」


それまで、頭数で有利を活かし善戦していた呉軍の将たちだが、蒼馬によって強化訓練を受けた沙和たちに、徐々に押され始めていた。


【思春】

「雪蓮様!はぁっ!」


思春が素早く飛び回りながらフェイントをかけ、沙和に斬り掛かって来た。が…


【沙和】

「甘いの!」


ギィンッ


【思春】

「何っ!?」


あっさり見切られ、返されてしまう。


【真桜】

「螺旋鎗!」


真桜のドリルのような槍が、激しく回転する。祭が放っていた矢は、ドリルに弾かれて折られ、粉々にされてしまう。


【祭】

「えぇいっ!何じゃ、あの武器は!」


【真桜】

「天を貫くウチの螺旋鎗の威力、その身でとくと味わいや!」


【流琉】

「えぇぇいっ!」


ドォォンッ


【明命】

「くっ!」


流琉の投げ放った巨大な円盤が、明命を襲う…辛うじてこれを躱した明命だが、


【流琉】

「逃がしません!」


【明命】

「え?ひゃあああっ!」


大地に叩きつけられ止まっていたはずの円盤は、回転を続けていたようでそのまま明命の方に突っ込んできた。


【思春】

「明命!」


【沙和】

「よそ見してんじゃねぇ、このクソったれ!」


【思春】

「ぐっ!?」


明命に続き、思春までもが倒れてしまった。

その上、兵たちの士気もガタ落ちしてしまっている…その理由は、


【蜀軍兵士A】

「そんな…張飛将軍が…」


【蜀軍兵士B】

「趙雲将軍…う、嘘だ……」


【蜀軍兵士C】

「黄忠将軍!」


【蜀軍兵士D】

「馬超将軍まで…」


傷つき、倒れてしまった五虎大将を前に、兵士たちの戦意は完全に萎えてしまっていた。


【翠】

「ぐ…何だ?こいつら…」


【紫苑】

「私たちが、まるで歯が立たないなんて…」


【星】

「…む、無念…」


【鈴々】

「うぅ…」


もはや、前線を維持出来ているのは、春蘭と愛紗が闘っているところだけだ。


【愛紗】

「くっ!」


【春蘭】

「仲間が心配か?だが、そんな心配をしている余裕があるのか?」


【愛紗】

「夏侯惇!」


【春蘭】

「怒髪衝天!」


ズガァァンッ


【愛紗】

「うわっ!?」


…ここも、そう長くは持ちそうにない。


【華琳】

「やっと、やる気になったかしら?劉備?」


桃香が華琳に剣を向ける…


【桃香】

「……」


しかし、剣を持つ手も、腕も、膝も、見るからに震えているのが分かる。戦うのは怖いし、傷つけたくない…だが、自分がやらなければ皆が殺されてしまう。桃香はこれでも、決死の覚悟で剣を握っていた。


【桃香】

「みんな……」


【桃香・黒】

『しっかりなさい。』


【桃香】

「!?」


ふわりと、桃香の震える手に乗せられた感触…


【桃香・黒】

『アンタは一人じゃないでしょ。愛紗がいる、鈴々がいる、朱里や雛里、星に翠に紫苑…ご主人様も、皆それぞれ闘ってる。貴方の理想の為にね。それに何より、私もいるわ。』


【桃香】

「うん!」


【華琳】

「?」


【桃香・黒】

『息を整えて、余計な力を抜いて、目の前の敵をまっすぐ見据えなさい。さぁ、行くわよ。』


【桃香】

「はぁぁぁっ!」


意を決し、桃香は華琳に斬り掛かった。

華琳はこんな状況で、戦が始まる前に蒼馬から聞いた話を思い返していた。




【華琳】

「劉備が?」


【蒼馬】

「あの子が秘めている力は、ある意味では世界で最も強い力と言える。呂布ちゃんの鬼神の覇気より、君の覇王の覇気よりも、ね。」


【華琳】

「蒼馬。如何に貴方の言う事でも、それは信じられないわ。あの子は、ただ理想を語るしか能の無いお嬢さんよ。」


【蒼馬】

「そうかな?なら、試してみるといい…極限状態に追い込まれれば、ひょっとしたらその力の片鱗くらいは見れるかもしれないよぉ~。」


【華琳】

「……」




ガキィンッ


【桃香】

「きゃっ!」


華琳に容易く弾き返され、桃香は尻餅をつく。


【華琳】

「立ちなさい。まだ終わりじゃないでしょ?見せてご覧なさい、貴方の力を。」


【桃香】

「…くっ…やあああっ!」




【蒼馬】

「まさか…こんなにも早く、二本目を…」


一刀が左手で持っている刀は、すでに先とは形状が変わっていた。鍔は桜の花びら、というよりハート型になり、反りが星降りの御魂とは逆に、より反り返っている。


【一刀】

「…恋する乙女。」


【蒼馬】

「だが、二刀流の剣術なんて使えるのか?」


【一刀】

「…使ったことねぇよ。」


【蒼馬】

「無謀だな。」


【一刀】

「無謀かどうかは、こいつを喰らってから言いやがれ!恋桜!」


【蒼馬】

「っ!?」


一瞬で、蒼馬の横を駆け抜けた一刀…次の瞬間、蒼馬の体のあちこちから鮮血が上がる。無数の刺し傷が、蒼馬の体に付けられていた。

噴いた鮮血が、まるで桜の花のように散って、川の水を赤く濁らせる…。


【蒼馬】

「ひ、一突きで…五発分だと!?」


【一刀】

「終わりだ!」


【蒼馬】

「っ!」


再び、蒼馬に詰め寄る一刀…


【一刀】

「二刀奥義…星に願う乙女の祈り。」


流星斬りに恋する乙女の能力である多重攻撃を重ね合わせ、一太刀で蒼馬の胴体に今までで一番鋭い斬撃が計三発浴びせられた。蒼馬の腹に、三本の切り傷が綺麗に平行線を描いて走っている。


【蒼馬】

「……」


【一刀】

「…ふぅー……俺の、勝ちd…」


【蒼馬】

「合格だ。」


【一刀】

「っ!?」


死んだのかと思われた蒼馬は、一刀が勝ち名乗りを上げようとした瞬間に意識を戻した。


【蒼馬】

「本当は、もう少し楽しみたいところだが…あいにく、俺にはもう余裕がない。だから、本気で相手をしてやろう。」


【一刀】

「本気?まさか!恋と戦った時の…」


【蒼馬】

「いや、あれを見せる余裕もないんでな…もう一つの本気を見せようと思う…蒼天竜扇。」


蒼馬は蒼天竜扇を取り出すと、気で編んでいたそれを解いてバラバラにした。


【一刀】

「何を!?」


すると、バラバラになった蒼天竜の鱗が…蒼馬の体に突き刺さった。


【一刀】

「!?」


【蒼馬】

「かぁぁぁぁぁっ!」


雄叫びを上げ、蒼馬の体が青い光に包まれる…同時に、暴風が吹き荒れ、周りの木々があり得ないほど揺れしなり、中には幹が真っ二つになって折れてしまうものも…川の水も激しく波打ち、せっかくの綺麗な小川が川底の舞い上げられ濁っていく…。


【一刀】

「…な…ぁ……」


やっと暴風と光も止み、姿を現した蒼馬を見て、一刀は言葉を失った。


【蒼馬】

「蒼天竜王の鎧。」


蒼馬の全身を覆う、空色の美しい鎧…腕の部分からは、白い刃が一本突き出している。武器らしい武器は両腕のそれだけだが、それ以上に放たれているプレッシャーが半端ではなかった。


【一刀】

『な、何て気だ…恋と戦った時に見せたあの力以上に…すげぇ威圧感だ。』


【蒼馬】

「呆けている暇はないぞ?」


【一刀】

「っ!」


慌てて、一刀は二本の刀を交差させて構えた。

互いに睨み合う両者…相手の一挙手一投足も見逃すまいと、目を凝らし、瞬きさえ忘れているようだ。

……。


【一刀】

「え!?」


一刀の目の前に、何故か蒼馬が迫っていた。目を離したりしていないし、もちろん気を抜いていたわけでもないのに…一刀には、蒼馬の動きがまるで見えなかった。

迫り来る、蒼馬の刃…


【一刀】

「落星破斬!」


慌てて、一刀は星降りの御魂を振り下ろし、蒼馬の攻撃を叩き落とそうとした。が、叩き落とすどころか、僅かに威力を相殺するのがやっとで、そのまま一刀は体を落として難を逃れた。


ズガガガガガガガンッ


【一刀】

「なっ!?」


振り向いた一刀は愕然とした…彼の背後にあったはずの、川の下流の風景が、まるで根こそぎ切り取られたように無くなっていたのだ。


【蒼馬】

「咄嗟に身を伏せていなければ、一生首が見つからなかっただろうな。」


【一刀】

「……」


一刀の瞳に、くっきりと恐怖の色が浮かんだ…。


【蒼馬】

「終わりだ、天の御遣い。」




【桃香】

「きゃぅっ!」


【華琳】

「その程度?」


城門の前では、桃香と華琳の戦いが続いていた。いや、戦いと呼べるものではない…あまりにも、一方的だった。


【華琳】

「分かったかしら、劉備?信念を貫き通す力が無ければ、どんな大層な理想を並べても、それはただの絵空事でしかないのよ。」


【桃香】

「うぅ……」


【華琳】

「王は民の命を預かる身…その言葉一つが国を、民を、臣下を動かす。見なさい。」


華琳に促され、桃香は戦況を改めて目の当たりにした…多くの将兵が傷つき、倒れ、絶命している、その地獄のような光景を…


【華琳】

「貴方の理想とやらに意を重ね、散って逝った者たちよ。」


【桃香】

「あぁ…ぁ……」


【華琳】

「もう終わりにしましょう。さようなら、無能な王よ…蒼馬の言葉も、今回ばかりは的外れだったみたいね。」


戦意を喪失してしまった桃香めがけ、華琳の絶が振り下ろされる。


【桜香】

「お姉ちゃーん!」


【桃香】

「っ!」


ガキィンッ


【華琳】

「なっ!」


桃香が、再び剣を握って、華琳の絶を受け止めた。


【華琳】

「フッ、まだそんな力が残っていたのね。」


【桃香】

「確かに、私は無能な王です…頭も良くないし、武術の腕はこの通りだし、勇気もない…それでも、みんなが笑顔でいられる国を創りたかった…絵空事だって分かってても、この気持ちだけは、絶対に諦めたくない!」


【華琳】

「っ!?」


顔を上げた桃香の目を見た瞬間、華琳は慌てて桃香から離れた。


【華琳】

『…何で、飛び退いたの?あんな子に見据えられただけで…この私が……』


立ち上がった桃香は、再び剣を構えた…だが、その剣には闘志も戦意も殺意も感じられない。それなのに、華琳はまた一歩、後退った。


【華琳】

『何を臆している、曹孟徳!こんな、理想だけの、世間知らずの小娘相手に…』


桃香が、足を踏み出す…


【華琳】

「っ!来るなぁっ!」


覇王の覇気が、桃香を捕らえる…


【桃香】

「みんなの平和への祈りが、私の力…私はただ、みんなの笑顔を守りたい!」




【蒼馬】

「っ!」


振り下ろそうとしていた刃を、寸前の所で蒼馬は止めた。


【一刀】

「な、何だ?」


一刀も、それを察知したようだ。


【蒼馬】

「…覚醒したんだね…劉備ちゃん。」

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