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第三十九話 星降りの御魂

前回までのあらすじ。操られていた亞莎を正気に戻し、事情を呉の面々に話した一刀は、魏との戦に備えるべく同盟を組もうと持ち掛ける。これに対し、雪蓮が提示した条件は……


【雪蓮】

「蓮華と結婚なさい。」


【蓮華】

「……はぁっ!?」


…どうなる?


【雪蓮】

「何よ、蓮華?」


【蓮華】

「何よ?じゃ、ありません、姉様!何を勝手な事を…」


蓮華は雪蓮のとんでもない提案を聞いて、顔を真っ赤にして雪蓮に詰め寄った。


【一刀】

「え~と…周瑜、孫策は本気で言ってるのか?」


冗談にしか聞こえない条件を提示され、一刀は近くにいた呉の筆頭軍師にどこまで本気なのか尋ねた。


【冥琳】

「あぁ。反董卓連合以来、孫家に御遣いの血を入れたがっていてな…蓮華様に、お前の事をある事ない事吹き込んでいた。」


【一刀】

「うぉいっ!何してくれてんだ!?つーか、それで孫権はどんな反応だったんだ?」


【冥琳】

「あの通り反発していたさ。内心は分からないが…」


【一刀】

「はぁ~…政略結婚なんて、孫権が哀れ過ぎる…あれだけ美人なんだから、もっといい男見つけられるだろ。」


一刀は、姉妹で言い合っている雪蓮と蓮華の方へ歩み寄った。


【雪蓮】

「あ、北郷。それで、どうするの?自慢じゃないけど、ウチの蓮華カワイイでしょ?おっぱいも大きくなってきたし…どう?悪い話じゃないでしょ?」


【蓮華】

「姉様!」


姉のやらしい親父発言に、蓮華は両腕で胸を隠すように覆った。


【一刀】

「確かに、孫権はカワイイと思う。けどな、結婚っていうのは、そういう基準で決めるもんじゃないだろ?それに、孫策…俺はもう、天の御遣いを語るつもりはない。」


【雪蓮】

「ありゃ?どういう事?アンタは、天の世界から来た、天の御遣いじゃないの?」


【一刀】

「違う。遠い未来…いや、異世界と言うべきか?とにかく、こことは別の世界から来たのは事実だが、そこはお前らが考える天の世界じゃない。」


【雪蓮】

「……」


【一刀】

「天の御遣いを名乗らなきゃ、右も左も分からないこの世界で生きていく術のなかった…ただの無知な人間だ。政略結婚なんて何の意味もない…妹の意志を無視して、押し通すほどのわがままじゃない。」


【蓮華】

「北郷…」


蓮華は、一刀の優しさに胸が締め付けられた。

一刀にとっては、正に不意打ちのような雪蓮の提案にも関わらず、彼は言葉を慎重に選んでくれた。全て、蓮華を傷つけないために…。


【雪蓮】

「……イヤ!」


しかし、一刀の言葉に耳を貸さず、雪蓮は子供は子供のように頬を膨らませて外方を向いてしまった。


【一刀】

「いや、ちょっ…」


【雪蓮】

「アンタが何と言ったって、アンタが天の御遣いだって触れ回ればいいんだもん!孫家には天人の血が流れてるって、民衆に信じ込ませればいいんだから!とにかく結婚してよ!結婚、結婚!」


【一刀】

「子供か!」


【蓮華】

「すまない、北郷…こういう姉なのだ…」


【一刀】

「……」


一刀は静かに溜め息を吐いて、頭を掻いた。

一刀は思案した…同盟を結ぶには、呉と親戚関係になった方がむしろ都合がいいのは事実だ。彼はまだ学生で、その辺りの歴史の裏側までは詳しくないが、彼の故郷である日本でも昔からあった事だ。

理屈は分かる…しかし、目を閉じれば浮かぶのは、黒髪のポニーテールの女の子。この世界に来てからずっと、傍で自身を支え続けてくれた愛しい人の笑顔だった。


【一刀】

『…愛紗…』


こんな状況にありながら…一刀は笑ってしまった。自身の、あまりの不器用さに…。


【一刀】

「桃香の理想に賛同して、ここまで来るわけだ…俺も、大概だな…」


諦めてしまった方が楽なのに、手放してしまえば上手くいくのに…それでも、その思いだけは手放せそうになかった。


【蓮華】

「北郷?」


【一刀】

「悪いな、孫策。その条件は飲めそうにない。だが、どうしても同盟を結ばなきゃならないのは事実…それは、呉にとっても同じだと思うが?」


【雪蓮】

「ぶーっ!そりゃあ、そうだけどさ~…」


【一刀】

「…なら、蜀と呉、どっちの立場が上になるか、ここで白黒つけようぜ。結局、ケリはつかずじまいだったしな。」


【雪蓮】

「……」


一刀のその申し出に、雪蓮はきょとんとした後…口の端を吊り上げ妖しく笑った。


【雪蓮】

「いいわね、それ♪」


彼女の瞳に、凶暴な光が宿る…久し振りの獲物を見つけた、肉食獣のような眼光で、一刀を射抜く雪蓮。

しかし、一刀は全く動じていなかった。




【蒼馬】

「具合はどうだい?」


上体を起こした愛紗に、蒼馬は尋ねた。

愛紗は両手を握り締めたり、腕を回したりしながら、体の調子を確かめているようだ。


【愛紗】

「はい、もう大丈夫みたいです。ありがとうございました、蒼馬殿。」


【蒼馬】

「そうかい、それは何より。さて、と…本当なら、すぐにでも一刀君と合流させて上げたいんだけど…今は、あっちの方が都合が悪いみたいだね~。」


【愛紗】

「え?」


蒼馬は呉の城の方角を見やりながら、難しい顔をしている。


【愛紗】

「何かあったんですか?まさか!ご主人様の身に何か…」


【蒼馬】

「手に入れた感覚を研ぎ澄まして、呉の方を探ってごらん。」


蒼馬は方角だけ指差して、愛紗にそう促した。

言われた通り、愛紗は青龍を握り、青龍の魂を介して蒼馬の指差す先にある二つの魂を感じ取った。


【愛紗】

「……これは!?」




【一刀】

「はぁぁぁっ!」


兵たちに調練を施す為の演舞場にて、一刀は気合いの掛け声と共に突っ込んでいく。手には、星の太刀を握り締めて。

対するのは、無論…


【雪蓮】

「フフ…かぁっ!」


江東の小覇王、孫策である。

彼女は一刀に向けて、南海覇王を振り上げて、彼が得意としていた衝撃波を放った。かつての彼には、これを受け止める事も、弾き返す事も出来なかった。


【雪蓮】

「どの程度強くなったか、見せてもらうわよ?」


一刀は、正面から迫ってくる衝撃波を、避けようともせずに突っ込んでいく。そして、ギリギリまで来た所で…


【一刀】

「うおおおっ!」


彼も衝撃波を放って、雪蓮のそれと撃ち合った。そして、次の瞬間…なんと一刀の放った衝撃波が撃ち勝って、そのまま雪蓮へと迫ってきた。


【雪蓮】

「!?」


予想だにしない事態に、雪蓮は慌てて横跳びにそれを避けた。あと一瞬遅ければ、彼女の脚は片方無くなっていただろう。


【雪蓮】

「嘘でしょ!?撃ち返された?」


【一刀】

「どうした?」


【雪蓮】

「!」


突然、背後から一刀の声が聞こえたので、雪蓮は飛び上がるようにしてその場から距離をとった。見れば、すぐ後ろに一刀が立っていた。


【一刀】

「何をそんなに驚いてる?まさか、それで本気ってわけじゃないんだろ?江東の小覇王…その実力、見せてみろよ。」


【雪蓮】

「チッ!大した自信ね…確かに、驚くほど強くなってるけど…調子に乗るんじゃないわよ!」


雪蓮の全身から、もの凄い量の気が溢れ出す…それに伴い、髪が舞い上げられるにしてたなびき、地面が僅かに振動しているようだった。


【雪蓮】

「見せてあげるわよ…後悔しなさい!」


そう言って、踏み込んだ雪蓮…そのまま一足で、一刀の前に移動し、彼めがけ袈裟掛けに剣を振り下ろす。

一瞬のその出来事に、しかし一刀はしっかり反応していた。刀でその攻撃を受け流し、雪蓮から即座に距離をとる。だが…


【雪蓮】

「それで離れたつもり?」


再び、その間合いを一足で詰められてしまった一刀…


【一刀】

「くっ!」


しかも、今度の雪蓮の攻撃は容赦なかった。

連続で振り回される剣は、もはや目では太刀筋を追えそうにない…一刀は雪蓮の動きに目を凝らし、動きを先読みして何とか防いでいた。


【一刀】

「さすがに…強いな…」


【雪蓮】

「大人しく、蓮華と結婚する気ぬなったかしら?」


【一刀】

「それは…ごめん、出来ない相談だ。俺には、かけがえのない人がいるから…この思いを断ち切れるなら、こんな事はしてないさ。」


【雪蓮】

「フン!」


ガキィンッ


鋭い一撃に、一刀はガードしたままの体勢で、後ろへ弾き飛ばされてしまった。

そんな二人の対戦を、呉の将たちは固唾を飲んで見守っていた。


【祭】

「あの若造、策殿を相手に中々やりおるわ。」


【蓮華】

「姉様…北郷…」


【思春】

「……」


【穏】

「冥琳様は、雪蓮様が勝つとお思いで?」


【冥琳】

「あぁ、無論だ。あの状態の雪蓮が、負けるハズがない。」


【穏】

「では、私は北郷さんに賭ける事にします。」


【冥琳】

「……」


見守り方は人それぞれのようだ。


【一刀】

「…ふぅ~…やっぱ、孫策ぐらいの相手となると、こんなもんじゃ通用しねぇか…」


【雪蓮】

「…まるで、本気を出していないみたいな言い草ね。」


【一刀】

「いや、もう十分本気で戦ってるさ。けど、何でかな…もっと、強くなれる気がしてる…後は、俺の心一つで、な。」


そう言って、一刀は星の太刀に気を注ぎ始めた。張魯の治療によって、膨大な量となった一刀の気…その膨大な気を、どんどん…どんどん、刀に注ぎ込んでいく。


【雪蓮】

「ちょ、何をして…」


そのあまりの気の量に、思わず雪蓮の顔が歪む…それほどに、尋常じゃなかったのだ。


【一刀】

「…俺は、この世界に来て、皆と出会って、守りたいと思うものが出来た…それを守る為の力も貰った……ありがとう、孫策。」


【雪蓮】

「?」


【一刀】

「守る為の覚悟…お前のおかげで、手に入れる事が出来た。はぁぁぁっ!」


一刀の気合いに呼応するように、星の太刀の刀身が青白い光を放つ。さらに、彼の周りの大気の循環が激しく渦を巻き始める。

人間の、気の量と力の域を、遥かに超えていた。


【雪蓮】

「くっ…」


気が暴風となって吹き荒れる中、雪蓮は必死に堪えて立っていた。彼女からは、光に包まれて一刀の姿は全く見えなくなっている。

数秒して、光と暴風は収まった…一刀の様子に変化はない。違うのは…星の太刀の形状だ。反りが緩やかになり、鍔も円形から星型になっていた。さらに、柄頭から伸びる二本の紐の先に…


チリーン…


小さな鈴が一つずつ付いている。


【一刀】

「…龍刻四爪刀、一の太刀…星降りの御魂。」


【雪蓮】

「フン!それがどうしたって言うのよ…あれだけの気を使って、刀の形が変わっただけ?ふざけるんじゃないわよ!」


雪蓮が再び、間合いを詰めようとs…


【雪蓮】

「っ!」


彼女が踏み出すより早く、彼女の左肩に当てられた刀の感触…視界の端に映るのは、青い刀身の刀…


【雪蓮】

「なっ!?」


見ると、一刀はすでに前方にはおらず、彼女の背後へと回り込んでいた。


【祭】

「な、何じゃ!?何が起こったんじゃ?」


【蓮華】

「思春、今の見えた?」


【思春】

「…いいえ…」


呉の武将たちにも見えなかった、一刀の動き…今の一刀のスピードは、先ほどまでとは比べものにならなかった。


【雪蓮】

「…っ!」


雪蓮は体を落として刀から肩を放し、そのまま振り向きざまに背後にいる一刀w…


【雪蓮】

「なっ!?」


雪蓮の動きが止まる…そこにいるはずの、いたはずの一刀の姿がない。


【一刀】

「遅いぜ。」


再び、一刀は雪蓮の後ろに回っていた。


【雪蓮】

「チッ!やぁっ!」


再度、振り向きざまに攻撃…今度は、避けずに刀で受け止める一刀。さらに雪蓮は切り返し、斜めに剣を振り上げる。これを、少し体を横にずらして躱した一刀…そこへ、上段から気を込めた刀を振り下ろしてくる雪蓮…この至近距離から、衝撃波をブチかますつもりのようだ。


【雪蓮】

「はあぁぁぁっ!」


パシッ


しかし、渾身の力で剣を振り下ろそうとしていた雪蓮の手は、一刀の左手に容易く掴まれ、頭の高さで止められてしまった。


【一刀】

「…衝撃波は、振り切らないと撃てない。」


【雪蓮】

「くっ!」


一刀の手を振り払い、雪蓮は一刀から距離を取る。今の一刀には大した距離ではないが、追撃はしようとしなかった。


【雪蓮】

「はぁ…はぁ…はぁ……やるじゃない。ますます、アンタの血を孫家に入れたくなったわ。」


【一刀】

「こだわるねぇ。どうしてそこまで?」


【雪蓮】

「孫呉の栄華を末永きものにする為よ。当初は、蓮華との間に出来た御遣いの子をゆくゆくは呉の王に、と思っていたけど……私が欲しくなってきたわ。」


【一刀】

「そう言って貰えるのは光栄だが、俺の気持ちは変わらない。」


【雪蓮】

「分かってるわ。だから…力ずくで奪うわ!」


その時、雪蓮の体から大量の気が溢れ出した…それは、徐々に彼女の背後で形を成していく。


【一刀】

「これは…」


かつて、虎牢関で蒼馬と恋が見せた、鬼神の覇気…恋は鬼、蒼馬は死神だったが、雪蓮の覇気は…虎だった。

巨大な虎は、赤と桃色の縞柄で、大きさは体長十メートル弱…恋の鬼とほぼ同じくらいの大きさだ。並の武将では、目の前にしただけで圧倒されてしまうだろう。


【雪蓮】

「鬼神の覇気は、鬼神の覇気でしか破れない…アンタは、私の鬼神の覇気に、為す術なく踏み潰されるしかないわ。」


【一刀】

「……確かに、このままだとヤバいな。」


一刀も、雪蓮の鬼神の覇気を見上げながら、表情を引き締めた。


【一刀】

「よし!試してみるか!」


【雪蓮】

「!?」


一刀の体からも、大量の気が溢れ出す…それが、徐々に…徐々にではあるが、彼の背後で形を成そうとしている。


【一刀】

「くっ…なかなか、難しいな…」


一刀の気はゆらゆらと揺れるばかりで、中々これといった形を作りきれない…しかし、気が霧散しているわけではなく、真っ白く練り上げられた気は、まるで巨大な紙粘土みたいに彼の背後に留まっている。後は…


【一刀】

「くそっ…形に、ならない…」


【??】

『…イメージだよぅ~…』


【一刀】

「!?」


不意に、聞き覚えのある声が聞こえた気がした一刀は、声の主を探して空を見上げた…しかし、そこにあのいい加減男の姿は無かった。


【一刀】

「…イメージ…」


得体の知れない声のアドバイスを鵜呑みにして、一刀は自身の想像力を集中させる。

すると、それまで塊でしかなかった一刀の鬼神の覇気が、徐々に細長い何かに姿を変え始めた。先端に小さな目が現れ、口が出来たところを見ると、蛇、だろうか?


【雪蓮】

「ぷっ!あはははっ!何が出るかと思えば、それって蛇?」


雪蓮にも蛇に見えたようなので、蛇であってるのだろう。何しろ、まだ粗削りで姿形がしっかり出来上がっていないのだ。子供の粘土細工みたいに。


【雪蓮】

「蛇で虎に対抗する気?」


【一刀】

「う、うるさいな!初めてやったんだから、仕方ないだろ!」


子供みたいなやりとりの後、二人は互いに睨み合い…そして、同時に踏み込んだ。


【思春】

「蓮華様!」


衝撃に備え、見守っていた呉の将たちも身構える…思春は蓮華を庇うようにして、自らの体を盾にした。

次の瞬間、二人の剣が激突し、凄まじい衝撃が迸った。同時に、虎が鋭い爪を振り下ろしてくる。そこには一刀と、彼の覇気である蛇の頭が…このままでは、プチっと潰されてしまう。


【一刀】

「!」


ズガァン


叩き潰される一刀…土煙で、何も見えなくなってしまった。


【蓮華】

「北郷!」


見ていた蓮華が、叫び声を上げる…。

土煙が晴れると、そこにはぺちゃんこになった一刀の姿が…


【雪蓮】

「なっ!?」


無かった。


【雪蓮】

「消えた?」


…否。

雪蓮は、鬼神の覇気に気を取られ過ぎて、大事な事を忘れていた。


【一刀】

「うおおおっ!」


今の一刀が、尋常じゃない速さを身につけている事を…一刀は、虎の爪をギリギリの所で躱し、雪蓮の遥か上空へ飛び上がっていた。自身の、鬼神の覇気と共に…


【雪蓮】

「しまった!上か!」


そして、一刀は落下ざまに、虎と雪蓮めがけ刀を振り下ろした。

それと同時に、一刀の覇気である蛇の体から…鋭い爪を持った四本の脚が生えてきて、虎の体をがっしりと捉え、その首に牙を突き立てた。


【一刀】

「落星破斬!」


巨大な虎のさらに上から、一直線に…まさに、星が落ちてきたかのような斬撃が叩きつけられた。


ズカアアアァァァンッ

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