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第三話 御遣い、王の片鱗を見せる

【一刀】

「ど、どうなってんだ?これ…」


町へとたどり着いた一刀の第一声…まぁ、誰もがそう口にするだろう。

隣にいる愛紗も桃香も、言葉を失っている。それほどに、町は無残な姿をしていた。

あちこちで火の手が上がり、ほとんどの家や店は外装も中身もメチャクチャにされていた。


【桃香】

「私たちがご主人様を探しに出てから、ほんの一刻くらいなのに…」


桃香は青い顔をして、口元を押さえ立ちすくんでいた。


【愛紗】

「大丈夫ですか、桃香様?」


愛紗が、今にも倒れそうな桃香を背中から支えてあげた。


【一刀】

「…ここで突っ立ってても仕方ない。二人とも、ケガをした人がいないか、町の人たちの様子を見てきてくれ。俺は鈴々を探して事情を聞いてくる。」


【愛紗】

「わ、分かりました。」


愛紗と桃香の二人と別れ、先に町に戻っていたはずの鈴々を探す一刀。


【一刀】

「鈴々っ!鈴々っ、何処だ!」


【鈴々】

「お兄ちゃん…」


程なくして、鈴々は見つかった。


【一刀】

「鈴々…ケガは、無いみたいだな。でも一体何があったんだ?」


【鈴々】

「それが…」


鈴々が悲しげに、悔しげに顔を歪ませる…虎の髪飾りまで、何だかしょんぼりした様子だ。


【鈴々】

「鈴々が町に着く少し前に、例の賊たちが襲ってきたんだって…」


【一刀】

「そうか…」


それを聞き、一刀も悔しさに胸を締め付けられた。

同時に、理解もした…今まで、彼女たちが味わってきた悲しみ…そして、悔しさを…。


【鈴々】

「動ける人は、みんな酒家に集まってるのだ。」


【一刀】

「分かった。なら、愛紗や桃香と合流しよう。急ぐぞ…のんびりしてると、せっかくの逆襲のチャンス、いや機会を失っちまうからな。」


【鈴々】

「ほえ?」


鈴々には、一刀の考えている事がよく分かっていないようだ。だが、ここで説明している暇はない。二人はすぐに愛紗たちと合流し、皆が集まる酒家へと向かった。




酒家の中には、町の人が大勢集まっていた…ケガをして包帯を巻く人や、煤塗れになった人たちが、力無く座り込んでいる…。


【桃香】

「み、皆さん!大丈夫ですか?」


そんな町の人々を見て、真っ先に声を掛けたのは桃香だった。

皆の事を心から心配し、労る桃香の姿に、失意に染まっていた町の者たちの瞳も、幾分か光を取り戻したようだった。


【一刀】

「…愛紗。」


【愛紗】

「はっ!如何なされましたか、ご主人様?」


【一刀】

「皆を鼓舞する。フォロー…いや、補佐を頼めるかな?」


【愛紗】

「はいっ!」


【一刀】

「皆っ!聞いて欲しい事がある!」


一刀は声を張り上げ、隅に居る人にまで聞こえるよう話し出した。


【村人A】

「あんたは?」


【愛紗】

「この方は、乱世を鎮め、皆を救うために天より遣わされた、天の御遣い様だ。」


愛紗の言葉に、町の者たちは様々な反応を示した。

一刀の服を見て信じる者…弱そうで頼りないと信じぬ者…イイ男だからそれでいいやと思う女性陣…。愛紗の好感度がダウン…する分がなかった。


【一刀】

「俺が何者だろうと関係ない。皆にとって重要なのは、今がまさに好機だという事実…賊どもは今頃、奪った食料や酒で祝宴でも開いている事だろう。そこへ、今度はこちらから仕掛ければ…皆の受けた屈辱、怒りと共に返せるだろう。」


一刀の考えていたのは、こういう事だったようだ。

奪われた事を嘆くより、敢えて利用しようと機転を働かせたのである。だが…


【村人B】

「そんな事言ったって、相手は何千人もいるんだぞ?俺たちだけで、どうしろってんだ?」


【村人C】

「勝てるわけがねぇよ!こっちは千人集まればマシってくらいなんだぞ?」


弱気な町の若者たちの言葉に、一刀は眉間にシワを寄せ、一段と声を荒げた。


【一刀】

「なら、どうする?皆で尻尾を巻いて逃げるのか?足腰の弱い老人や女子供が、お前たちと等しく逃げられると思うか?」


【村人C】

「それは…」


【一刀】

「死ぬのが怖いのは当たり前だ。だからこそ、生きるために、守るために戦う事を恐れるなっ!」


いつの間にか、一刀の言に誰もが聞き入っていた。町の者も…桃香も…鈴々も…愛紗も…。

信じられない事だが…どうやら彼も、王の覇気を有しているようだ。華琳には及ばないが、潜在的な部分はまだまだ計り知れない…先行きが楽しみな少年である。


【一刀】

「皆の大切なものは、ここにあるんだろう?」


最後に、優しく問うように語りかける…その言葉は、驚くほど自然に、皆の心に染みいくのだった。


【村人B】

「…そうだ…ここは、俺たちが生まれ育った町だ!」


【村人D】

「俺たちの爺さん婆さんが、汗水流して創り上げた町だ!」


【村人E】

「あんな奴らに、これ以上好き勝手されてたまるか!」


一刀の呼び掛けに応え、男たちが続々と立ち上がる…失意に濡れた瞳を揺らす者は、もう一人もいなかった。その目に宿るのは…闘志と決意。


【村人A】

「俺は、町中の男たちに声を掛けてくる!」


【村人B】

「なら、俺たちは武器になりそうな物を集めてくるぜ。」


【村人C】

「そいじゃあ、俺は…えーと?」


他の皆に続いて飛び出して行こうとした若者だったが、何をすればいいのか分からず首を傾げた。


【一刀】

「傷薬や、役に立ちそうな道具が欲しい。お願い出来るかな?」


【村人C】

「合点だ。」


一刀に指示され、若者も駆けて行った。


【一刀】

「後は…この町の長はどちらに?」


【長老】

「あぁ、わたくしですじゃ…」


名乗り出たのは、白いひげを生やした見るからに高齢のお爺さんだった。


【一刀】

「町を襲った盗賊の数は、どれくらいでしたか?」


【長老】

「えー、確か奴らは…およそ四千ほどだったかと。」


【一刀】

「対し、こっちは千人前後…奇襲だけじゃあ、心許ないか。」


一刀は再度、思案を巡らせる。

祖父の家で読んだ兵法書に書かれていた事を、懸命に思い出していく。


【一刀】

「…そうだ、地の利!お爺さん、この町と盗賊どものねぐら周辺の地形を知りたい。地図はありませんか?無ければ、誰か詳しい人を紹介して欲しいのですが。」


【長老】

「地図なら、わたくしの家に有ったハズですじゃ。」


【一刀】

「お借り出来ますか?」


【長老】

「はい、すぐに。」


町長はすぐさま家に向かった。


【桃香】

「さっすがご主人様♪」


【鈴々】

「やっぱり、お兄ちゃんは天の御遣い様なのだ♪」


桃香と鈴々の好感度が、ぐーんと上がった。


【一刀】

「そんな大した事じゃないよ…それに、確実に勝つためにはもう一押し、何か策が必要だ。」


一刀はそう言って、外へと足を向けた。


【一刀】

「少し、外の空気を吸ってくる。」


表に出た一刀は、建物の陰に回って、壁に凭れかかった。

その肩や腕、膝は小刻みに震えていた。


【一刀】

「……はぁーっ、緊張したぁ~。」


深いため息を吐く彼からは、さっきのような王の覇気は感じられない。


【愛紗】

「ご主人様?」


【一刀】

「え?」


声を掛けられ、思わずドキッとする一刀…ビクッの方が正しいかも知れない。

振り向くと、そこには心配そうな顔をした愛紗が立っていた。


【愛紗】

「どうかされたのですか?顔色が優れないようですが…」


【一刀】

「な、何でもないよ!これからが本番なんだからさ。」


そう言い、一刀は愛紗の肩にポンと手を置いた…その手は、隠しようもない程に震えていた。


【愛紗】

「…っ。」


【一刀】

「戻ろう。町長さんも戻ってくる頃だ…具体的な作戦も立てないといけないしね。」


その一刀の震えに、愛紗は彼の言葉の意味を、今更ながら正しく理解した。

自分は、天の御遣いなんかじゃない…その通りだ。彼だって、普通の人間なのだ…死ぬのは怖いし、独りぼっちは寂しいし、大切な家族や故郷だって在る。

しかし、そんな彼は今、右も左も分からない異世界にいるのだ…それは言ってみれば、迷子のようなものだ。いや、どんなに探しても、親はおろか知り合いの一人とも会えないのだから、迷子の方がよほどマシである。

そんな状況にある彼に対し、自分は何を強いているのだろうか?

民を救う?乱世を鎮める?そんな期待ばかり押し付けて…もし彼が、期待に応えてくれなかったら…失望し、見限るのだろうか。

…否定したくとも、その答えは既に示していた…。


【愛紗】

「…っ!」


自分の信じていた世界を奪われた彼を、頼る者もおらず心細かったであろう彼を…真名の事すら知らなかった、この世界について無知過ぎる彼を……荒野に置き捨てようとしていたのだから。


【愛紗】

「ご主人様…」


これから先も、ずっとそうなのだろうか?

だとしたら、彼はあまりに…あまりに、孤独ではないか。


【一刀】

「愛紗。」


【愛紗】

「っ、はい!」


【一刀】

「ほら、ぼぅっとしてると置いてくぞ?」


それでも、笑顔でいようとする彼を、人として支えて行こうと…愛紗は決意を改めるのだった。

…おや?愛紗の好感度の様子が………おめでとう!愛紗の好感度が愛情度に進化した。




一刻ほど過ぎた頃には、町中の男たちが酒家の前に集まっていた。

その集団の前に立つのは、桃香、愛紗、鈴々の三姉妹と、天の御遣いこと一刀であった。


【一刀】

「皆、よく集まってくれた。時間が無いので手短に説明する。今回、奇襲とは別に、もう一つ策を用いる。まず、半分の六百人ずつ、二つの部隊に分かれる。奇襲部隊と、伏兵部隊だ。指揮を採るのは、伏兵部隊が関羽将軍と劉備将軍。奇襲部隊は張飛将軍と、この俺、北郷 一刀が率いる。細かい作戦の内容は、各将軍に伝えてあるので、その指示に従ってくれ。各々の役目を果たし、皆で勝利を掴もう。」


大雑把な説明が終わったところで、一刀は己の得物である木刀を、天に掲げた。

そして、再び瞳に王の覇気を宿す…恐らくまだ、その自覚はなく、無意識なのだろうが…。


【一刀】

「我は天の御遣い也っ!聞けぃっ、戦場に赴く勇士たちよ!皆の命、この北郷 一刀が預かる!大切なものを踏みにじられる痛みを、悲しみを、その恐怖を胸に刻め!臆する者は死に、逃げる者は何も守れぬ!守り抜け!守るために戦え!生きて帰り、愛する者をその手に抱く為に!」


一刀の檄に、皆の士気は最高潮に達した。


【村人たち】

「「「「「オォーーーーーーーーッ!」」」」」


【一刀】

「時は来た。全軍、進めぇっ!」




【一刀】

『…信じられない…俺、一体どうしちまったんだ?』


一刀と鈴々率いる奇襲部隊は、追ってくる盗賊たちから懸命に逃げていた。もっとも、これも作戦の内だが…。

一刀の作戦は、ここまで完璧に進んでいた。想定外だとするなら、思っていた以上に多くの敵数を削れた事だ。

現在、一刀と鈴々が率いる部隊は400前後…負傷者と、捕まっていた町の娘たちを帰すために、50人ほど兵を割いてこの数字だ。

対し、盗賊たちはすでに…2000を下回っていた。


【鈴々】

「お兄ちゃん、凄いのだ♪一人であんなにやっつけちゃうなんて…」


そう…全ては、一刀の予想外の戦闘力が原因だった。

倒した盗賊の数…およそ500人。これは、鈴々とほぼ互角の数字だ。


【一刀】

『あれだけ戦って、息一つ乱れないなんて…』


嬉しい誤算…と、楽観的にはなれなかった。自分の身に起きている変化に、自分が自分でなくなってしまいそうな、そんな不安すら覚え始める一刀…。


【鈴々】

「どうしたのだ、お兄ちゃん?さっきから難しい顔して…」


【一刀】

「え?あ、いや…何か、次の作戦あんま必要なかったかなぁ~って思っただけだよ。」


そう言って誤魔化す一刀だが…すでに目的地に着いてしまっていた。

そこは…狭い谷路、峡間だった。町長から借りた地図で見つけたのである。


ガラッ パラパラっ


側面の絶壁を滑る、砂のように細かい石…しかし、盗賊たちは誰一人その予兆に気づかない。


【桃香】

「みんなー、せーのっ!」


桃香の掛け声と共に、何本もの丸太が一斉に落とされた。


【賊A】

「ぎゃあーっ!頭ぁっ!大変ですっ!」


【賊B】

「な、何だぁっ!?」


【賊C】

「お、おい!早く行けよ!」


【賊D】

「押すなって…うわあああああっ!」


ドンッ ドドーン…


多くの盗賊たちが、丸太の下敷きになってしまった。

しかし、それだけではない…この丸太には、


【賊E】

「何だ、この丸太?油くせぇ…」


たっぷりと、油が塗られていたのだ。この油は、一刀に指示されて薬や道具類を調達に行った、村人Cが用意してくれたものだ。


【一刀】

「よし!愛紗っ!」


一刀が叫ぶと、今度は反対側から火矢が…油塗れの丸太に降ってきた。


ゴオオォォッ


【賊E】

「ぎゃあーっ!」


【賊F】

「火!火が、火がぁっ!」


一瞬の内に、盗賊の群れは火の海に飲み込まれた。

こうなっては、盗賊たちに為す術はない。


【賊G】

「畜生っ!どけぇっ!」


【賊H】

「うわあああっ!」


【賊I】

「邪魔だ!俺が先だっ!」


皆、自分が先に逃げたいからと、仲間同士で押し退けあい、足を引っ張りあう始末…。


【一刀】

「今だ!総員、盗賊たちを蹴散らせぇっ!」


【鈴々】

「鈴々に続くのだーっ!」


奇襲部隊は、素早く反転し、盗賊の群れの前方部隊に突撃した。


【愛紗】

「桃香様!」


【桃香】

「あ、愛紗ちゃん。お疲れ様♪」


600から更に分断された、愛紗と桃華のそれぞれの部隊は、一刀たちとは逆側で合流した。


【愛紗】

「皆、あと一息だ。炎で分断された盗賊たちの、我らは後方部隊を叩く。」


【桃香】

「よーし!皆、頑張ろうね。」


そしてこちらも、勢いよく突撃を敢行した。




あっという間に、盗賊は全滅した。それはすなわち、一つの町に平和が戻ったという事を意味する。

その日、町はまるで祭のような騒ぎだった。

町に戻ってから被害の確認をしてみると、軽傷者が187名、重傷者が76名だった。

死者…0名…。

それはもう、奇跡という言葉すら、安っぽく感じるような結果だ。


【桃香】

「やったね、ご主人様♪」


【鈴々】

「お兄ちゃん!今度、鈴々と勝負して欲しいのだ!」


桃香と鈴々は相変わらずお気楽な様子で、一刀の両脇でわいわいはしゃいでいる。

まぁ、今日ぐらい、思う存分はしゃがせて上げてもいいだろう。


【一刀】

「あ、あぁ…いいけど、お手柔らかに頼むよ?」


【鈴々】

「それは出来ないのだ。武人として無礼なのだ。」


【一刀】

「いや、そもそも俺は武将じゃな…」


【愛紗】

「こら、鈴々!あまり無茶を言って、ご主人様を困らせるな。」


愛紗がすかさず助け船を出した。

が、それを見た桃香が、何やらにんまりとした笑みを浮かべ、愛紗の背後に回り込んだ。


【桃香】

「あれれ~?愛紗ちゃ~ん、ひょっとしてヤキモチ?」


【愛紗】

「んなっ!」


背後をとられた事もそうだが、その発言にこそ愛紗は動揺していた。

それこそが、真実を如実に表していたのだが、この時の愛紗にはまだ、その自覚は無かったのである。


【桃香】

「だ、だ、誰がヤキモチなど!」


【鈴々】

「にはは♪愛紗、お顔が真っ赤なのだぁ♪」


鈴々まで加わって、愛紗をからかう始末だ。

しかし、そんな賑やかな空気の中でも、一刀はずっと難しい顔で、握ったり開いたりを繰り返す自身の右手を見つめていた。


一刀好感度

桃華2→4(+2)

鈴々2→4(+2)


愛情度

愛紗1→1.1

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