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第二話 御遣い、大徳と邂逅する

蒼馬が華琳に拾われた(?)のと同じ頃、


【??】

「ほらぁ~、二人とも早く早く~!」


別の場所では、もう一つの運命と物語が動きだしていた。


【??】

「お待ち下さい、桃香様。お一人で先行されるのは危険です。」


先を行くのは、赤い髪に白い羽のついた髪飾りをした女の子…その後ろを、綺麗な黒い髪をポニーテールにした女の子と、虎の髪飾りをつけた小さな少女が追いかけている。

年は、前者の二人が十六前後、少女の方はせいぜい十そこそこといったところか。


【??】

「そうなのだ。こんなお日様一杯のお昼に、流星が落ちてくるなんて、どう考えてもおかしいのだ。」


【??】

「鈴々の言う通りです。もしやすると、妖の類いかもしれません。慎重に近付くべきです。」


後を行く二人は、一人で先走り気味の彼女…桃香を窘めつつ先を急いだ。


【桃香】

「そうかなぁ~?……関雲長と張翼徳っていう、すっごい女の子たちがそういうなら、そうなのかもだけど……」


【鈴々】

「お姉ちゃん、鈴々たちを信じるのだ。」


【愛紗】

「そうです。劉玄徳ともあろうお方が、真っ昼間から妖の類いに襲われたとあっては、名折れというだけではすみません。」


どうやら、彼女たちは劉備、関羽、張飛の三兄弟らしい。もっとも、この世界では姉妹だが。蒼馬が出会った三国志の英雄たちも皆、頭に超がつくほどの美少女ばかり…一体、この世界は何なのだろうか?


【桃香】

「うーん……じゃあさ、みんなで一緒に行けば怖くないでしょ?だから、早く行こ♪」


【鈴々】

「はぁ~~~、分かってないのだぁ~~~。」


【愛紗】

「全く。……鈴々、急ぐぞ。」


【鈴々】

「了解なのだ。」


自分たちの意を一向に理解してくれない桃香に、二人は溜め息を吐きつつも、また彼女の後を追って走り出すのだった。




そして、三人は流星が落ちたと思われる辺りにやってきた。


【桃香】

「流星が落ちたのって……この辺りだよね?」


【愛紗】

「私たちが見た流星の軌跡は、五台山の麓に落ちるものでした。我らの目が妖に誑かされていたので無ければ、この辺りでまず間違いは無いでしょう。」


【鈴々】

「だけど、周りには何も無いのだ。……どうなってるのかなー?」


辺りを見回してみても、特に流星が落ちた痕跡はない…もっとも、本当に星が落ちてきていたら、とっくに彼女たちは吹き飛ばされていただろう。


【桃香】

「みんなで手分けして、流星が落ちたところを探してみよっか?」


…どうやらこの桃香という彼女、かなりお気楽というか、いわゆる楽観主義者らしい…。


【愛紗】

「それは危険です。未だ善なるか悪なるか分からない代物なのですから。」


【桃香】

「ならみんなで一緒に探すしかないかー……」


【鈴々】

「そうするのだ。……って、あにゃ?あんなとこに人が倒れてるのだ!」


張飛…鈴々と呼ばれる少女が、何かを見つけ駆けだした。その先には、白い服を着た人が倒れている…。


【桃香】

「えっ?あ、ちょっと、鈴々ちゃん!」


すぐに後を追う桃香…


【愛紗】

「ちょっ……!まったく!二人ともどうしてああも猪突なのだ!」


何となく、この三人の人となりというか、キャラクターが分かってきた…それと同時に、気苦労の絶えなそうな関羽には、同情を禁じ得ない。…頑張れ、関羽!


【鈴々】

「あやー……変なのがいるよー?」


一番に駆け寄った鈴々の第一声は、かなり失礼なものだった。

その後ろから、桃香と関羽の二人も追いつき、それぞれに倒れているその人物を観察した。


【桃香】

「男の人だね。私と同じぐらいの歳かなぁ?」


【愛紗】

「二人とも離れて。まだこの者が何者か分かっていないのですから。」


全く警戒心の無い桃香と鈴々…対し、関羽は冷静だ。

というか、一緒にいるこの子たちがこの様子だ。一人で三人分の警戒心を発揮しなければならないのだから、そりゃあ大変だろう。


【鈴々】

「でも、危ない感じはしないのだ。」


【桃香】

「ねー。気持ちよさそうに寝てるし。見るからに悪者ーって感じはしないよ?愛紗ちゃん。」


二人の言うとおり、静かな寝息をたてるその少年は、優しげで人好きのする顔立ちをしていた。しかし、関羽…改め、愛紗は


【愛紗】

「人を見た目で判断するのは危険です。」


その程度の事で、警戒を解く気にはなれなかった。

もとより、どんな悪ガキでさえ、寝顔は可愛いものだ。当てにはなるまい。


【愛紗】

「特に、乱世の兆しが見え始めた昨今、このようなところで寝ている輩を―――」


【??】

「ん……」


愛紗がさらに言葉を続けると、さすがに五月蝿かったのだろうか?少年は小さな声を漏らしながら身じろぎした。


【愛紗】

「っ!桃香様、下がって!」


【桃香】

「え?わわっ?」


【鈴々】

「おー、このお兄ちゃん、起きそうだよー。へへー、つんつん……」


愛紗は即座に、桃香を自分の背後に下がらせる。

しかし、相変わらず警戒心のない鈴々は、少年の頬をつつき始めた。


【愛紗】

「こら、鈴々!」


【??】

「んん……」


【愛紗】

「……っ!」


【??】

「……」


一瞬、目を覚ますかと思われた少年だが、再びその寝息はゆったりしたリズムを刻み始めた。


【愛紗】

「くっ……脅かしよって……」


【桃香&鈴々】

「「……」」


一人で警戒を強めていた愛紗に、桃香と鈴々は何やらニヤニヤした顔を向ける。


【愛紗】

「な、なんです二人とも。私の顔に何かついているのですか?」


【桃香】

「あー……愛紗ちゃん、もしかして怖いのかな?」


【愛紗】

「……そんなこと、あるわけがありません!」


【桃香】

「ふーん……」


【愛紗】

「な、なんですか?その『やっぱり怖いんだー』とでも言いたげな笑いは!」


などと、愛紗が大声を出していると…


【??】

「……ん、ん…」


あまりの煩さに堪えかねたのか、少年はやっと目を覚ました。


【??】

「…………んん?」


眠そうな彼の瞳が、三人の姿を捉える…それだけで、冷水で顔を洗うよりしっかり目が覚めた様子で、慌てて周囲の状況を確認し始めた。

目の前にいる三人からは、害意を感じない。とびっきりの美少女たちだという事は一目で分かったが、そんな事は考慮を優先すべき事項でも何でもないわけで…彼にとっては目下の所、


【??】

「……ここ、何処だ?」


とにかく自分のおかれている現状…現在地の把握こそ急務であった。なにしろ、周囲を見回しても、見慣れた風景の影も形もないのだから。


【桃香】

「あ、あのぉ~…」


【??】

「…?」


頭を抱えるしかない少年に、桃香がおずおずと声を掛けてきた。


【桃香】

「えーっと、大丈夫ですか?」


心底心配そうに尋ねる彼女の瞳に、少年は思わず見入ってしまった。澄んだエメラルド色の瞳は、ともすれば吸い込まれてしまいそうだ。


【??】

「だ、大丈夫。心配してくれてありがとう。」


慌てて立ち上がり、何処もケガが無いことを示しながら、少年は礼を言った。


【桃香】

「ホッ。良かったぁ~♪」


桃香が笑顔を浮かべた瞬間、目に見えない不可思議な力が辺りに迸った。

それは、華琳の持つ王の覇気と、似て非なるもの…。


【桃香】

「ねぇねぇ、お兄さん。どうしてこんな所で寝てたの?」


桃香のその質問は、至極当然のものだった。


【??】

「え?あ、いや…ゴメン、分からないんだ。夕べは学園内にある歴史資料館から、銅鏡を盗み出した泥棒を捕まえようとしてて…そしたら何か、知らないおっさんも乱入してきて…結局、その鏡を落としちまったんだ。そしたら、割れた鏡が急に光り出して……その光に包まれたところで、意識を失っちまった。」


【愛紗】

「そして、気付いたらここで倒れていたと、そういう事でしょうか?」


【??】

「うん…」


と、三人が話している横で、鈴々は少年の服をじっと見つめていた。


【鈴々】

「お兄ちゃんの服、変わってるのだぁ。キラキラしてて、何だかお日様みたいなのだ。」


【??】

「え、あぁ…学園の制服で、ポリエステルとか使ってるからね。そんなに珍しいものじゃ…」


【鈴々】

「ぽーり、えすてーる?何なのだ、それ?」


思いもかけない質問に、少年は戸惑った…何しろ、彼は現状を全く把握できていないままなのだ。ここが、中国の三国時代を模したパラレルワールドのような世界だという事も、当然ながらポリエステルなんて化学繊維が、この世界には存在もしていないという事実も…何一つ知るはずがないのである。


【桃香】

「やっぱり…思った通りだよ、愛紗ちゃん!鈴々ちゃん!」


何が思った通りなのか?

ついていけずに首を傾げる少年をよそに、桃香は嬉しそうだ。


【桃香】

「このお兄さんが、管輅ちゃんの言ってた天の御遣い様だよ!」


【??】

「は?天の御遣いって?」


【愛紗】

「この乱世に、平和をもたらすとされる天の使者の事です。」


愛紗が説明してくれた。

何でも、東方より飛来する流星に乗って、天の御遣いが現れると、その管輅なる占い師が予言したそうだ。


【??】

「なるほど…その占いを信じて、その流星とやらが落ちたと思しき場所、つまりここに駆けつけてみたら、俺が大いびきをかいて寝ていたわけだ。」


【桃香】

「そういう事♪あ、でも、そんなに煩くなかったよ。」


【??】

「そりゃどうも…」


【桃香】

「寝顔も可愛いかったしね♪」


【鈴々】

「ほっぺたプニプニしてたのだ♪」


【??】

「いや、可愛いって…俺、男だし…それに君たちほどじゃないだろ。」


本来なら、言うのにかなり勇気がいりそうなセリフを、さらっと口にした少年。

しかし、可愛いなどと言われた気恥ずかしさから、照れ隠しに言ったのだろう…あまり気障な印象にはならなかった。おかげで…


【桃香】

「え?えへへ、ありがとう♪」


【鈴々】

「にはは、照れるのだ♪」


…桃香と鈴々の好感度が、それぞれ1上がった。しかし、愛紗の好感度だけが何故か1ポイント減少してしまった。


【愛紗】

「んんっ!二人とも、可愛いなどと言われて浮かれてる場合ですか?」


どうやら、自分だけ『可愛い』の対象から外れていると思い込んだのだろう。


【桃香】

「あぁっ、そうだった!ねぇお兄さん、お兄さんの持つ天の力…乱世を鎮める力を貸して欲しいの!」


【??】

「え?」


【桃香】

「お願い!」


桃香は彼に縋り、必死な様子で協力を求めた。おそらく、その豊満な胸を彼に押し付けている自覚も無いほどに…。


【??】

「あの…とりあえず、離れてくれる?」


少年は顔を赤らめながらも、紳士的な行動に努めようとした。


【桃香】

「あ、ごめんなさい…でも、どうしても私たちには、お兄さんの協力が必要なんです。」


【愛紗】

「今や、漢王朝は衰退し、政治は腐敗しています。各地では賊が出没し、力無い民たちが襲われているのです。」


【鈴々】

「役人は、高い税金ばかりとって、ろくにお仕事もしないから、尚更なのだ。」


【桃香】

「そんな乱れた世を憂い、困っている人たちを助ける為に、私たちは立ち上がりました。皆が、笑顔で暮らせる世界を創る為に…でも、私たち三人だけじゃ、どうにもならない…手の届く範囲にいる人たちすら、守りきれない…救いきれない……。それが、現実でした…だから、御遣い様の力を貸して欲しいんです。皆が笑顔でいられる、優しい世界を創る為に…」


桃香の語る世界、それは言葉だけの絵空事だ…皆が笑顔でいられる、そんな世界は有り得ないのだから。

世界は、非情だ…人が思っているより、ずっと…。誰かが10の幸福を得たなら、他の誰かがその分の不幸を味わう…これは絶対だ。そこに直接の因果が有ろうと無かろうと、世界はそうなっているのだ。

しかし、彼女を見ていると、本当にそんな幸せな世界が、未来が見えてくる…ただの夢物語なんかじゃないと、そんな気がしてくるから不思議だ。しかし、


【??】

「ゴメン…俺には、乱世を鎮める力なんて無いよ…君たちの力には、なれない…」


【桃香】

「そんな!そんな筈ない!だって、お兄さんは流星に乗って現れて、こんなにキラキラした服だって着てる…お兄さんこそ、天の御遣い様に間違いないよ!」


【??】

「俺は、しがないただの学生だよ…何の力も、取り柄もない…」


泣きながら少年に縋る桃華…だが、彼は申し訳なさそうに顔を歪めるしかなかった。


【愛紗】

「桃華様、あまり無理を言われては…」


【桃香】

「でも、このままじゃ…」


【愛紗】

「大丈夫です、私と鈴々で賊どもなど蹴散らしてみせます。」


【鈴々】

「そうなのだ。」


【??】

「何の話?」


一人蚊帳の外に放り出されては、さすがに居た堪れないので訊ねると…


【愛紗】

「この近くの町に、最近よく賊が出没するのです。しかも、その町が属する領地の太守は、民を守るどころか、兵を連れて逃げてしまったのです。町の者たちは賊に襲われても、どうすることも出来ません。そんな彼らを助けようと思ったのですが、聞けば相手の賊は数も多く、こちらも義勇兵を募る必要がありました。しかし、無名な我らの檄に、応えてくれる者たちは少なく、多勢に無勢…ですが、この戦いこそが正義。我らは負けません。」


【鈴々】

「そうなのだ。賊なんて、鈴々がズバババッとやっつけてやるのだぁー!」


【桃香】

「私たち、もう行きますね…もし、旅の空で私たちの噂を聞いたら、その時は応援して下さいね。」


三人は、少年を残しその場を去ろうとした。


【??】

「……待ってくれ。」


何を思ったか、少年は三人を呼び止めた。

何故、そんな事をしたのか…わざわざ自分から、面倒事に首を突っ込むようなマネをしたのか…理由は分からない。しかし、陳腐な言い方だが、きっとそれは運命だったのだろう。


【一刀】

「俺の名は、北郷 一刀。さっきも言ったように、何の力もないし、大した取り柄もない。それでも、天の御遣いだなんてマユツバな肩書きだけでも、役に立てるっていうなら、使ってやってくれないか?」


【桃香】

「え?でも…」


【一刀】

「いや、ほら…俺も行く当て無いしさ、やっぱり困ってる女の子をほっとくわけにいかないし…。だから、持ちつ持たれつって事で。」


少年、一刀は笑顔でそう言った。未だ、自分の置かれている現状を把握しきれていないだろうに、そんな不安や迷いを些細な事のように捨て置き、彼は自らの運命の扉を、自分自身の手で押し開けたのだった。


一刀好感度

桃華1→2(+1)

愛紗1→0(-1)

鈴々1→2(+1)

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