表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/56

第十八話 虎牢関の鬼神

‘し’水関は、蒼馬の一撃で呆気なく門を破壊され、連合軍の手に落ちた…。しかし、‘し’水関を守っていた華雄と霞は、兵を引き連れ虎牢関へと下がってしまい、その首を落とす事は叶わなかった。

いよいよ、この先に待つのは難攻不落の砦・虎牢関と、その主とも言うべき…鬼神・呂布。果たして、連合軍の次なる一手とは?


【一刀】

「…単刀直入に言おう。もはや策はない。」


軍議の席にて、総大将である一刀はさじを投げるような発言をした。というか、まだ何の策も披露していないのに、その発言はちょっと早すぎるんじゃないだろうか?


【麗羽】

「オーホッホッホッホッ!」


何がそんなに楽しいのか?袁紹が高らかな笑い声を上げる…口元に手の甲を添えて笑うその態度は、まさに高慢ちきを絵に描いたようだ。これほど残念な美人もそういまい。


【麗羽】

「何を言い出すかと思えば、ついに自分の無能さをお認めになりましたのね。仕方ありませんわね、貴方がどうしてもと頭を下げるのでしたら、わたくしが総大将になって差し上げても…」


【白蓮】

「策がないって…まだ虎牢関にもついてないのに、何を言い出すんだ?」


【一刀】

「いや、ごめん…言い方が悪かった。たぶん、砦を攻める策が必要なくなった、って事さ。」


当初の予想では、虎牢関でも敵は籠城戦を決め込むだろうと考えていた。砦の有無は、兵力差で言うと三倍の差を生む…それほどに、地の利として有力なのだ。


【雪蓮】

「確かに、アレは凄かったもんね…思わず、突撃を忘れて呆然としちゃったもの。」


孫策の言うとおり、蒼馬が‘し’水関の門を破った後、しばらく誰も動けなかった。その所為で、まんまと華雄たちに逃げられたのである。

蒼馬は、何故か彼女たちを追撃しようとしなかった。華琳が彼女たちを欲しがっているから、殺しちゃマズいと思い止まったのかもしれないし、めんどくさかったからかもしれない。


【一刀】

「とにかく、蒼馬さんのおかげで、敵は籠城という手を失ったも同然…だから、恐らく虎牢関では、互いに総力戦となる事を覚悟しておいて欲しい。」


【華琳】

「あのバカが、そこまで考えていたのかと聞かれると微妙だけれど…結果としていい方に向かったのかしら。」


【翠】

「と、それはいいとして…布陣はどうするんだ?みんな‘し’水関じゃいいとこ無しだったから、暴れたくて仕方ないはずだぜ?」


【一刀】

「ははは…確かに、うちも鈴々がごねてたな…」


などと、真面目な軍議の傍らでは…


【麗羽】

「ねぇ、美羽さん…どうして、わたくしこんな扱いされてるのでしょう?」


袁紹がいじけて、親戚である袁術…美羽に愚痴をこぼしていた。


【美羽】

「何じゃ麗羽、そんな事で悩んでおるのかえ?心配せんでも、妾たちは黙って下々に働かせておれば、万事よいのじゃ。七乃、蜂蜜水をいれてたもれ。」


【七乃】

「ダメですよ、美羽さま。今日はもう五杯目じゃないですか。虫歯になってしまいます。」


そう言って、美羽の参謀である張勲…七乃は、美羽からコップを没収してしまった。


【美羽】

「うぅぅ~っ!」


不服そうな美羽…だが、そんな自分を睨みつける美羽を見て七乃は…


【七乃】

『あぁっ!ふて腐れるお嬢様も、かわいい』


などと思っていた。


【一刀】

「とりあえず、誰か彼女たちをつまみ出してくれ。」


とうとう、一刀まで袁家の人間に嫌気がさしてきたようだ。


【一刀】

「布陣か…敵の出方にもよるけど、張遼には馬超殿と白蓮殿の部隊で当たって欲しい。張遼の騎馬隊に対抗できるのは、二人の部隊をおいて他にないだろう。」


【馬超】

「任せとけ!」


【白蓮】

「神速の張遼か…相手に取って不足なしだ。」


【一刀】

「二人の部隊は、軍の両翼にそれぞれ配置…中央は、袁紹軍、曹操軍の順で並び、後方は袁術軍…という布陣でどうだろう?」


【桂花】

「…妥当な布陣かと。」


【冥琳】

「同じく。」


軍師二人も、一刀の提案する布陣に賛同してくれたので、彼としても一安心だった。

軍議もお開きとなり、いよいよ虎牢関へ向けて進軍を開始した。無論、斥候を放つのも忘れずにだ。

途中、董卓軍の奇襲にあう事もなく、連合軍は無事に虎牢関へと辿り着く事ができた。

そして案の定、董卓軍は虎牢関の前で陣を敷いていた。


【一刀】

「…張の旗が無い?やっぱり奇襲をかけてくるつもりか?」


袁紹軍からの伝令かで董卓軍の様子を聞き、すぐにそれを察知した一刀は、馬超と白蓮のもとへ伝令を走らせる。


【一刀】

「さぁて…どうくる?何処から来る?」


【愛紗】

「ご主人様、ご命令を…」


【一刀】

「袁紹軍は鋒矢の陣を敷き、突撃を開始せよ!」


一刀の指示が飛び、いよいよ合戦がスタート…両軍が、一斉に突撃し一当てする。

序盤は、数で勝っている袁紹軍が押していたが、徐々に両軍は拮抗した状態に…兵の練度の違いだろうか?


【一刀】

「曹操軍、突撃せよ!袁紹軍は曹操軍と共に、攻撃を続行!」


曹操軍が加勢した事で、あっという間に董卓軍は押されていく。

しかし、一刀の表情は厳しい。


【一刀】

「どう思う、朱里?」


【朱里】

「順調…と言いたいですが、敵の無策な様子が逆に不気味です…」


【一刀】

「雛里は?」


【雛里】

「敵軍の中に、張遼さんはおろか、華雄さん、呂布さんもいないみたいです。これは…」


伏兵、奇襲…やはり、敵の狙いはそこらしい。

一刀が思案しているうちに、敵の軍は砦へと押し込まれていく…そして、それを追撃する袁紹軍と曹操軍…。


【一刀】

「っ!すぐに引き返すよう伝令を」


【雛里】

「は、はひっ!」


すぐさま、伝令が指示を伝えに走る。ほどなくして、曹操軍は素早く引き返してきた。が、袁紹軍は構わず突っ込んでいく。


【一刀】

「な、何を!」


【麗羽】

「オーホッホッホッホッ!一番乗りはいただきましたわ!」


大挙して押し寄せようとする袁紹軍…だが、門がある以上、横に広がったままでは進めない…案の定、入口でもたついていると…逃げていたはずの董卓軍が、攻勢に転じてきた。


【一刀】

「くっ!袁紹軍が釣られたか…そろそろ奇襲も来るな。」


一刀の予想どおり、霞の部隊が後方より出現したと報告が上がった。




【霞】

「‘し’水関の借り、返させてもらうで!」


馬を駆ける霞、その速度はまさに神速…後方に構える袁術軍、孫策たちの部隊に迫る。


【翠】

「そうはいかねぇぜ!」


【星】

「うむ、貴殿の相手は我らだ。」


霞の前に立ち塞がるのは、馬超と星の二人…


【霞】

「ちぃっ!奇襲を読まれてたんか?賈駆っちの話とちゃうで…総大将は袁紹のアホとちゃうんかい?」


【白蓮】

「残念だったな…連合軍の総大将は、天の御遣いだ!」


白蓮が馬上から剣を一振り、霞と打ち合った。


【霞】

「あぶなっ!くぅ…三対一はさすがに敵わんわ…退くでぇっ!」


霞は部隊を引き連れ、その場を一点突破で突き進んでいく…そのスピードを、誰も止められない。

そして、ついに霞は一刀たちの軍まで…その際、通り抜け様に霞は一刀めがけ、得物である飛龍偃月刀を一振りした。


【霞】

『もろうたで、大将首…』


そう思った霞だったが、その一撃はあろうことか木刀一本で弾かれてしまった。


【霞】

『なっ!馬上からのうちの攻撃を凌いだ?それも、あんな木刀で?』


驚きながらも、霞は速度を緩めず走り抜けた。


【愛紗】

「ご主人様!大丈夫ですか?」


愛紗がすぐに駆け寄ってくる…


【一刀】

「…あれが、張遼…木刀が折れなかったのは奇跡だな。」


痺れる腕を見つめ、自身を奮い立たせんと、木刀をぐっと握り直す一刀…その瞳には、すでに覇気が漲っている。


【一刀】

「そろそろ動くぞ。鈴々は?」


【愛紗】

「すでに…」


【一刀】

「よし。俺が道を開ける。その隙になだれ込み、一気に制圧しろ。」


【愛紗】

「各軍に伝えましょう。」


【一刀】

「それと…早急に袁紹軍を下がらせろ!」


一刀は怒りに震えながら、伝令を走らせた。




【??】

「麗羽様!北郷さんが一度退けって…」


【麗羽】

「う、うるさいですわ!あんなブ男の命令なんて…」


【??】

「いや、姫…聞いた方がいいと思うぜ。何か、やばそうだ!」


袁家の二枚看板、顔良と文醜が麗羽に進言する。というか、文醜は後方から近づいてくる一刀の様子に気づいていた…あの目はヤバい!彼女の武人としての勘がそう告げていた。


【猪々子】

「悪い、姫!」


ドゴッ


【麗羽】

「はぅっ!」


文醜は麗羽を気絶させ、部隊を下がらせた。敵軍は押し返せた事に油断したらしく、城門を閉めるのが遅れてしまった。

門の前が左右に開くと同時に…一刀は、


【一刀】

「うおおおおおっ!」


ズガァァンッ


気合いの一振りで、門の所にいた董卓軍の兵士たちを吹き飛ばしてしまった…。


【猪々子】

「なっ、スゲェっ!」


文醜は、一刀の力に、純粋な興味と好奇心を抱いた。その目は、新しいおもちゃを見つけた子供の目である。


【麗羽】

「うぅ…ちょっと、何をなさるんですの!文醜さん!」


目を覚ました麗羽は、すぐに文醜へと抗議の声を上げた。

と、そんな彼女のもとへ、一刀は早足で歩み寄っていく。


【麗羽】

「全く…何でわたくしがこんな…」


と、麗羽のぼやきを無視して一刀は…


パァンッ


【麗羽】

「っ!」


麗羽の頬を引っ叩いた。


【麗羽】

「な、何をするんですの!貴方、わたくしを誰だと…」


【一刀】

「何故、命令を無視したっ!」


一刀の王の覇気が、麗羽の言葉を叩き潰した。

場はしんと静まりかえり、ここが戦場だという事さえ忘れてしまいそうである。


【一刀】

「連合軍の総大将は俺だ!天の御遣いである、この俺、北郷 一刀だ!どの軍の兵だろうと、連合軍の兵は全て、天の御遣いと意を等しくする同志!俺の目が黒いうちは、同志たちに無駄な血は流させない!もしお前の命令違反で、兵が落とさなくていい命を落としたなら、お前の命もないと思え!」


一刀はそう言うと、踵を返して虎牢関へと向かった。


【麗羽】

「……っ!」


その背後では、麗羽が熱くなった頬を押さえながら、ギュッとくちびるを噛み締めていた…。




【雪蓮】

「…ねぇ、冥琳。私、凄いこと思いついちゃった♪」


【冥琳】

「…また、とんでもない事を言い出すんじゃないだろうな?」


【雪蓮】

「彼の血を、孫家に入れるのよ。天の御遣いの血を引く孫家…どう?」


【冥琳】

「…まさか、雪蓮?」


【雪蓮】

「蓮華なら、気に入ってもらえると思うんだけどな~。姉の私が言うのもアレだけど、あの子かわいいし♪」


【冥琳】

「…自分が、とは思わないんだな…」




【華琳】

「ふーん…北郷、彼に対する認識を、改める必要があるわね。」


【桂花】

「とはいえ、所詮は醜き男…色仕掛け一つで、簡単に籠絡できましょう。」


【華琳】

「そんな真似はしないけど、孫策に並んで今後の要注意人物ね。さてと、春蘭…分かっているわね?」


【春蘭】

「はっ!」


春蘭は、霞と一対一で対峙していた。

そんな彼女を残し、華琳は手勢を連れて虎牢関へと向かうのだった。


【華琳】

『そう言えば、蒼馬は何処に行ったのかしら?』




ついに、一刀たちは虎牢関へと攻め入った。だが、そんな彼を待ち構えていたかのように、赤い髪に白黒の服、長い布を首に巻いた女の子が立っていた。

その肩に担ぐ方天画戟を見て、彼女が何者かを瞬時に悟った一刀…。


【一刀】

『鬼神…呂布!』


【恋】

「お前、強い…恋と戦う。」


【一刀】

「…お前たちは下がっていろ。」


一刀は意を決し、呂布…恋と正面から対峙する。木刀を正眼に構え、じっと相手の隙を窺う。


【一刀】

『…この子、強いな…』




そして、砦の奥…本来なら兵糧を蓄えるはずのそこに、華雄は数人の兵と立っていた。


【華雄】

「くっ、何故わたしが火計の番など…」


文句を言いながらも、真面目に番をするあたり、根はまじめなのかもしれない。それでも、好戦的な性格は隠せないが…。


【鈴々】

「だったら、鈴々が相手をするのだ。」


【華雄】

「なっ!」


華雄がその声に反応するより速く、鈴々は蛇矛を一振りして、工作兵たちをのしてしまった。


【華雄】

「貴様、どうやって…いや、まぁいい。せっかくだ、楽しませてもらうぞ。」


【鈴々】

「へへーんだ。」




そして、城門前では…


【春蘭】

「でゃあああああっ!」


【霞】

「うらあああっ!」


春蘭と霞の一騎打ちが続いていた…周りには春蘭と霞の部隊の兵たち、それと秋蘭のみ。他の部隊は砦の中へ攻め入っていた。


【霞】

「やるやないか!」


【春蘭】

「ふっ、お前こそな。神速の張遼の名は伊達ではないな。だが、」


ブォンッ ガァンッ


【霞】

「ぐっ!」


春蘭の豪撃を受けて、霞の顔が歪む…力比べでは、春蘭の方が圧倒的に上だった。


【春蘭】

「これで、終わりだ!」


【霞】

「っ!」


さらに立て続けに振るわれる七星餓狼…霞の腕は、もう限界だった。彼女が死を覚悟した、次の瞬間…


【秋蘭】

「っ!危ない、姉者!」


【春蘭】

「…ぐっ!」


秋蘭の叫びと、春蘭のくぐもった呻き声が響き、辺りは一瞬で静寂に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ