第十五話 痴れ者からの檄文
黄巾党の首領である張角が、大将軍である何進によって討ち取られた。これによって、国に平和が戻るかと思われたが、残念ながらそうもいかなかった…。
漢帝国の都である洛陽では、いわゆる大臣や官僚による醜い権力争いが激化していたのである。
先日の戦での功を認められ、領地が少し広くなった一刀たちの勢力も、最初こそ我関せずで通してきたのだが…ある一通の文が、彼らの下に届けられた。
【一刀】
「檄文?南皮の袁紹殿から?」
玉座の間にて、一刀たちは軍議を開いていた。内容は、袁紹から届いた董卓討伐を目的とした連合結成を持ち掛ける檄文に関してだ。
【朱里】
「はい。袁紹さんからの檄文を読むに、董卓さんは都で酷い暴政を行い、洛陽の民を苦しめているそうです。」
【鈴々】
「なんてヤツなのだ!そんな悪いヤツは、鈴々が懲らしめてやるのだ!」
【桃香】
「うん。私たちはまだまだ弱小勢力だし、今は内政に力を入れておきたい所だけど…洛陽の人たちが苦しんでるのを、黙って見てられない。」
鈴々と桃香の二人は、連合に参加する気満々だ。
しかし、それに対し一刀は何か腑に落ちない顔をして、袁紹からの檄文を読んでいた。
【愛紗】
「どうかなさいましたか、ご主人様?」
【一刀】
「…この檄文…何かきな臭いんだよな。何だろう…飽くまで俺のカンだけど、あまり信用できないんだよな。」
【雛里】
「たぶん、そこに書かれている事の全てが、真実ではないと思います。」
【朱里】
「ただ、何が真実で、何が正しいのかを判断し得るだけの情報が、我々にはありません。」
軍師の二人も、そこで決めあぐねているようだ。彼女たちの考えは、今はまだ内政に力を入れ、着実に国力を付けるのがいいというものだ。
桃香や愛紗も、概ねそれに同意見だ。ただ、洛陽の民が苦しんでいるのなら、それを見過ごす事はできない。鈴々は完全にそっち派だ。
そして、一刀はと言うと…さらに先を見ていた。正確には、この後の歴史を知っているというだけだが。
【一刀】
「皆、少し聞いてくれ。恐らく、この戦いはもう止められない。問題は、戦いの後だ。この戦いの後、大陸は完全なる群雄割拠の時代を迎える…ここでの選択は、その新時代における俺たちの命運を大きく左右するだろう。」
皆、一刀のその言葉を天のお告げが如く、一言一句漏らさぬよう聞いていた。
【一刀】
「連合に参加するのは、もちろん危険な事だ。だが、そこから多くを得なければ、どの道この先の時代を生き残れやしない。」
【愛紗】
「では、連合に参加するのですか?」
【一刀】
「少なくとも、桃香は助けに行きたがってる。そうだろ?」
一刀は、花を選ぶでもなく、困り顔でずっと迷ってる桃香へと目を向けた。
急に話を振られた桃香は、少し驚きはしたものの、すぐにその瞳には強い決意が宿った。
【桃香】
「…うん。ごめんね朱里ちゃん、雛里ちゃん。やっぱり私、困ってる人たちを見て見ぬふりなんてしたくない。」
【一刀】
「…だそうだ。後は皆がどうするか、だ。最悪、俺たちの夢と理想はここで潰えるかもしれない。それでも、ついて来てくれるか?」
一刀の問いに対する、皆の意見は…?
愛情度
愛紗3.8→5.3
桃香1.8→2.3
一方、袁紹からの檄文は華琳の下にも届いていた。
届くや否や、彼女の行動は早かった。すぐさま出陣の準備を整え、主だった将を引き連れ連合に参加する事を決めたのだ。
ちなみに、凪たち三人は蒼馬の代わりに警備隊の分隊長として残ってもらっている。
【華琳】
「董卓軍には、猛将・華雄、神速の張遼、飛将軍・呂布がいるわ。出来れば、三人揃って欲しいところだけれど…生け捕る事は出来そうかしら?」
【桂花】
「難しいと思います。華雄は生きて敵方に降るくらいなら、死を選ぶでしょう。張遼の軍は、神速と謳われるほどの騎馬隊…天下の飛将軍である呂布にいたっては、まともに打ち合える将が連合にいるかどうかも疑わしいほどです。」
【華琳】
「そう…」
桂花の分析に、華琳は心底残念そうな顔で溜め息をついた。
【華琳】
「…蒼馬、あなたならどう?」
【蒼馬】
「ん?何がだい?」
隣にいて聞いてなかったのだろうか?どうせこの後の台詞は分かりきっている。年のせいで耳が遠いだのと言い出すのだろう。どこまでもふざけた男である。
【華琳】
「今の三人、生け捕りに出来るかしら?」
【蒼馬】
「……おじさん、死神だよぅ?戦うからには、よっぽどの事が無い限り、みんな殺すよ~。」
生け捕る気ゼロ?ヤる気は十分なのに?
華琳は、彼を連れて来るべきではなかったかもしれないと、若干後悔していた。ただでさえ行動が読めないのだ…連合の中で好き勝手されては、とんでもない事になる。別に、力を示してくれるのはいい…だが、彼を御しきれていないと思われるわけにはいかない…彼女のプライドが、それを許せないからだ。
【華琳】
「今回ばかりは、あまりやり過ぎないでちょうだい。」
【蒼馬】
「まぁ、善処するよ~。」
本当に大丈夫だろうか?
そんな一抹の不安を残しながら、華琳たちの軍は連合の本陣に合流した。必要な報告を済ませ、早速軍議に参加すべく、陣地の真ん中に建つ一際大きな天幕へと向かった華琳…お供に蒼馬を連れて行ったのは、彼が勝手な事をしないよう監視するためだが、後になってから華琳は、重大な過ちを犯したと反省する事になる。
【??】
「おーほっほっほっ!よくぞいらっしゃいましたわ、華琳さん。ご機嫌麗しゅう。」
【華琳】
「ご機嫌よう、麗羽。相変わらずのようね。」
……派手な黄金の鎧、見事にカールした長い金髪、まさに華やかという言葉がよく似合う(残念な)美人…彼女が、袁家の当主である袁紹らしい。
華琳と麗羽は旧知の仲という事だが、あまり良い仲ではない。まぁ、腐れ縁というやつだ。
【華琳】
「どの程度集まっているのかしら?」
【麗羽】
「美羽さんと、そこの客将である孫策さん…軍議には孫策さんが出ていますわ。後は、白蓮さんに、西涼から馬超さんが来てくれていますわ。後はまぁ、ちらほらと…」
【華琳】
「そう。頼もしい顔ぶれね。」
皆、名だたる勢力ばかりだ。すでに兵数の面でも董卓軍を圧倒している。それだけ見れば、結果など火を見るより明らかだ。
【麗羽】
「さて、それでは改めて…この連合の総大将を決めましょう。この連合を導くに足る、美貌と英知と、家柄を兼ね備えた、総大将に相応しい人物を…誰かおりませんこと?」
麗羽のその態度に、参加者は辟易していた…。
【麗羽】
「…(チラッ)……(チラッ)…」
【華琳】
「なるほど…ずっと、こんな調子ってわけね。」
華琳は小声でそう呟いた。
麗羽は、自分こそ総大将に相応しいし、むしろなりたいと思っているのだ。なら立候補しろよと思うかもしれないが、面倒な事に彼女はそれを周りからも認められたいらしい。周囲の者たちが自分を推してくれるのを待っているのだ…。
しかし、誰も口を開かない…推薦するという事は、その責任も負わねばならないという事だからだ。ましてや、彼女なんかを総大将にしたいなどと誰も思っていない。そして、自分もなりたくはないのである。
【白蓮】
「はぁ~…悪いが、外の空気を吸ってくる。続けててくれ…」
白蓮はそう言って、一人天幕を後にした。外に出ると、真上に上る太陽の輝きが眩しくて目がくらんだ。
正直、彼女は今回の連合に乗り気ではなかった。麗羽がよこした檄文など、ほとんど信憑性も無いし、協力するほどの義理もない。ただ、客将である星の意見と、何となく自身の中で訴えてきている直感を聞いただけである。だが、早くもそれを後悔し始めていた。
【桃香】
「あ、白蓮ちゃん!」
と、そんな彼女のもとへ、旧友である桃香が駆け寄ってきた。その後ろには、一刀の姿も…。
【白蓮】
「おおっ!桃香!それに、北郷も…お前たちも、連合に?」
【一刀】
「えぇ。一応は。」
白蓮は確信した。自分の直感は、この事を言っていたのだと。彼らの力になってやれという事なのだろう。先の後悔の念など、もはや微塵も彼女の中には残っていなかった。
【一刀】
「公孫賛殿はどうなされたのです?軍議中と聞きましたが?」
【白蓮】
「あぁ、ちょっと外の空気が吸いたくて…というか、あんな空気の中にいたんじゃ、身がもたないよ。」
【一刀&桃香】
「「?」」
白蓮の言葉の意味が分からず、互いに顔を見合わせる一刀と桃香…二人の登場で、果たして軍議は動くのだろうか。
その頃、華琳と軍議に出ている蒼馬だが…
【蒼馬】
「……」
何だか、物凄く不機嫌そうな顔で華琳の斜め後ろに立っていた。彼の怒りの原因は?そして、彼の不機嫌な空気に当てられ続けている華琳の運命は?
【華琳】
『…誰か…助けてちょうだい…』




