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第十四話 死神の部下

刺史から州牧へと昇進した華琳には、今までより広い範囲を治める権限と、同時に責任が課せられた。例え盗賊による被害が、治める土地の端と端だったとしても、どっちの村や町も守らなければならない。


【華琳】

「厄介ね。」


黄巾党は、未だに勢力を広げつつあった。それは、華琳の治めるこの土地の近くでも同じこと…華琳は最近、その対応に追われていた。


【華琳】

「桂花、皆を玉座の間へ集めなさい。」


【桂花】

「御意。」


桂花がすぐに、兵たちに全将軍を呼び付けるように命じた。

数分後、玉座の置かれた大広間には将たちの姿が…一人を除き…揃っていた。


【華琳】

「……蒼馬はどうしたの?」


【秋蘭】

「分かりません。非番で部屋にいるはずなのですが…」


それなら、幾らなんでも来ないのはおかしいだろう。とぼけたフリして、やる事はきちんとやる男なのは確かなのだから。


【華琳】

「すぐに呼んで来なさい、大至急よ。」


華琳は近くにいた親衛隊の兵を走らせた。


【華琳】

「桂花、皆を集めよと命令したはずよ?何のつもり?」


【桂花】

「…あのような下賎な男、いつまでも華琳様のお傍に置いておくべきでは…」


【華琳】

「くどいわよ、桂花。蒼馬の力は、私の覇道に絶対に欠かせないの。フフ…見てなさい、いずれ必ず…」


【親衛隊員A】

「そ、曹操様!大変です!」


先ほど蒼馬の部屋に向かわせた兵が、大慌てでこちらに戻ってきた。


【親衛隊員A】

「蒼馬将軍の部屋に、このような書き置きが…」


【華琳】

「書き置き?」


華琳はそれを受け取り一読すると…途端にわなわなと両手を震わせ始めた。

そこには、彼の字でこう書かれていた。


【蒼馬】

『おじさんは東の町に向かうから、君たちは西の村をお願いするよ~。』


【華琳】

「…あ、の、バカ!何を勝手に…」


華琳の背後に、真っ赤な炎が燃えているように見える…が、これは王の覇気ではなく、ただの彼女の怒りのオーラである。


【華琳】

「季衣、流琉!私と一緒に来なさい!春蘭と秋蘭、桂花は軍を率いて西の村へ急ぎなさい。大至急よ!」


【春蘭&秋蘭&桂花&季衣&流琉】

「「「「「はっ!」」」」」




さて、華琳の怒りなど気にもしない蒼馬は、一人で馬を走らせ、東の町へと急いでいた。


【蒼馬】

「さてと…どうにか、持ち堪えてくれてるみたいだねぇ~。」


と、蒼馬は一人で呟く。一体何を見て、何を思っての発言なのかは分からない。まだようやっと、目的の町が地平線の果てに見えてきたところだ。


【蒼馬】

「…なるほど、町の北と東、南の三方向から攻められてるのか。」


だから、何故分かるんだ?


【蒼馬】

「一番敵の数が多いのは南、次が東か…でも苦しそうなのは、北側みたいだねぇ。」


蒼馬は進路を少し北よりに変え、町の北側へと向かった。


【蒼馬】

「……この辺りからでいいかな~?」


蒼馬は右手を手綱から放して、指を揃えた手の平を前方へと向けた。


【蒼馬】

「カノン。」


ドンッという音と共に、その手の平から放たれたのは眩い光を放つ光弾だった。大きさは、スイカくらいだろうか。それが、文字通り光速で飛んで行く。


ズガーンッ


【蒼馬】

「よし、じゃあそろそろ行こうかね~。」


暢気な調子で呟いてから馬を下りて、以前にも見せた瞬脚なる移動術で姿を消した蒼馬。

そして、まさに一瞬のうちに、町の北側を攻めていた黄巾党の群れに接近した蒼馬…そこには、先の光弾の爆発によって出来たクレーターが広がっていた。

周囲の黄巾党たちも、混乱しまともに戦える状態ではなくなっていた。


【蒼馬】

「ありゃりゃ…これじゃ~、三分かかんないかもねぇ~。」




【町民】

「于禁様!前線はもうもちません!」


【沙和】

「諦めたらダメなのぉ!凪ちゃんや真桜ちゃんたちも頑張ってるなのぉ!」


町の北門を守っていたのは、眼鏡にそばかす顔の少女だった。少女は、自らも二本の剣を持って戦いながら、町民たちを必死に鼓舞している。茶色い三つ編みポニテが、死屍累々の戦場で踊る様は、どう見ても場違いに思うのだが、その実力はかなりのものだった。

そんな彼女の奮闘に、町の者たちも士気を持ち直した…その時だった。


ズガァーンッ


突然、敵軍の真ん中で起きた、眩い光の爆発…誰もが目を塞ぐ中、于禁は辛うじて腕をかざしてその光景を覗き見ていた。


【沙和】

「な、何なのっ?あの光…」


敵の黄巾党は一瞬にして壊滅的な被害を受け、後には大地の窪みと吹き飛ばされ散り散りになった部隊しか残っていなかった。

誰もまだ視力が戻らず、まごついている中に…彼は、何処からともなく現れた。


【沙和】

「え?あの人、誰なの?何処から…っ!」


瞬間、于禁なる彼女は言葉を失った。

生き残っていた、ろくに抵抗も出来ない黄巾兵が、次から次へと肉片と化していくからである。

最初、彼女はゾッとしていた…遠目に見るその光景は、虐殺としか表現のしようがない。また、やっと周りが見えるようになってきた黄巾兵たちは、一層おぞましい恐怖に襲われる事となったのである。

だが、徐々に彼女の中で感情の色が変化し始めていた。

惨劇の情景に一切目を瞑り、その中心で戦っている彼のみを見るならば、それはまるで、剣舞…一切の無駄なく精練された舞を見るようで…不謹慎だが、美しいとさえ彼女は思った。

少女は、今が戦の最中だという事も忘れ、彼の闘いに魅了されていた。


【黄巾兵D】

「うぎゃああああっ!」


ザシュッ


最後の一人まで残さず斬り殺した蒼馬は、剣についた血を払うと、再び瞬脚でその場を後にした。

向かった先は町の東側…そこも、大勢の黄巾兵によって攻撃されていた。


【真桜】

「ほらほら、しっかり気張りやぁっ!」


その大群の中、巨大な…ドリル?のような形状の槍を振り回す女の子が一人…喋り方も特徴的で、何故か関西弁である。


【真桜】

「螺旋槍!」


キュイィィィーンッ


ドリルを回転させながら、巨大な槍で黄巾兵を薙ぎ飛ばしていく。


【黄巾兵E】

「くそっ!ひるむなぁっ!数じゃこっちの方が有利なんだ!」


【黄巾兵F】

「あの女を倒したヤツは、一番にヤらせてやるぞっ!」


リーダー格らしい二人の黄巾兵がそう叫ぶと、黄巾兵たちは今まで以上に士気を高めて、我先にと彼女へ襲い掛かった。無理もない…顔立ちこそまだ幼さが残るが、それとは対照的に豊満すぎるバストは、下衆な黄巾党の男たちにとって極上の獲物だ。まして彼女の場合、その胸を覆うには明らかに布面積の小さい縞柄ビキニと、ズボンと言っていいか疑わしい、太ももを大きく露出した穿き物しか主だった服を着ていない。殺伐とした戦場に立つには、あまりに煽情的すぎる格好なのだ。


【真桜】

「弱い男には興味ないで。あとブサイクにもなっ!」


彼女が再び槍を振り回そうとしたその時…


【黄巾兵E】

「ぎゃっ!」


【黄巾兵F】

「がっ!」


短い悲鳴と共に、先ほど仲間を鼓舞していた二人の首が宙を舞った。


【真桜】

「なっ!何や?」


次の瞬間から起きた惨劇を、もはや語る必要もないだろう。一人の死神によって、恐怖と戦慄に塗り替えられた戦場で繰り広げられる、賊討伐とは名ばかりの虐殺…そして、今になって気づいた事だが、これほどの惨状を引き起こしながら蒼馬は、未だ平然とヘラヘラした薄ら笑いを浮かべていた。


【蒼馬】

「一人残らず、殺すよ~。」


物語の主人公にしておくには、あまりに邪悪な男だ…嬉々として、圧倒的な数を誇っていた黄巾党を皆殺しにしていく彼の姿は、町の者たちから見ても鬼か悪魔のように映った事だろう。




町の南側では、圧倒的な戦力差をものともせず、町の者たちは善戦していた。というのも、


【凪】

「はああああっ!」


銀髪と、無数の傷痕をもつこの少女の奮闘によるところが大きい。彼女の蹴りは炎を纏い、その衝撃は火球となって黄巾兵たちを吹き飛ばす。先の二人も強かったが、彼女はさらにその上をいっている。凛然とした輝きを宿す瞳は、紛れも無い武人のものだった。


【凪】

「でやああああっ!」


ドガァーン


再び放たれた火球が炸裂し、黄巾兵たちは吹き飛び、ある者は高々と宙に舞った。

この火球は、おそらく彼女の気弾だろう。属性を帯びる気は珍しく、鍛練で身につくというものではないので、彼女の類い稀なる才能が窺える。


【凪】

「今だ!押し返せ!」


彼女の一言に、町民たちは勢いづいて黄巾党に向かっていく。先の火球に完全に怯えきっている黄巾党は士気も低く、数の少ない彼らに押される始末…やっと士気を奮い立たせても、すかさず彼女の気弾があちこちで炸裂し…の繰り返しだ。

とはいえ、あれだけの気弾を何発も打ち続ければ、彼女にも疲労の色が見えてくるのは当然の事…徐々に気弾の威力は弱まりつつあった。


【凪】

「くっ、このままではじり貧だ…しかし、沙和や真桜のところも手一杯のはず。どうすれば…」


焦燥の色を浮かべつつあった彼女だったが、思いがけない事が起きた。


【沙和】

「やぁぁぁっ!」


【真桜】

「うりゃぁぁぁっ!」


ヒュンヒュンッ キュィィィーンッ


その場に駆け付けたのは、二刀を手に軽やかに剣舞を披露する于禁と、ドリル槍を振り回す巨乳少女の二人だった。


【凪】

「沙和!真桜!」


だけではない。北と東で戦っていた町の者たちが、全員この南門へと集結したのだ。


【凪】

「どういう事だ?お前たち、北と東はどうし…っ!」


銀髪の彼女の質問を遮るように、戦場に迸ったおぞましい空気…敵も味方も関係なく、全てを恐怖で包み込むような、背筋が凍てつくような殺気の嵐が、その場に吹き荒れた。




【季衣】

「…あ、華琳様!あの馬…」


季衣がそう言って、前方に佇む一頭の馬を指差した。


【華琳】

「間違いないわね。皆の者、急げ!匪賊に襲われる町は近いぞ!」


華琳たち率いる軍勢は、蒼馬が馬を乗り捨てた場所までやってきた。ここから町まではあと…もう少し…いや、かなりある。


【華琳】

『まったく、蒼馬は…今日という今日はもう許せない!何が西の村は頼むよ。貴方が決める事じゃないでしょ!でも、蒼馬はどうやって、事態を知ったのかしら?誰かが知らせた?いや、違うわね。恐らく、彼には遠くで起きている事を把握し得る力があるんだわ…だから、季衣と最初に会ったあの時も…』


華琳の推察は、さすがと言うべきか…確かに、神術師である蒼馬にはそういう能力もある。時間と空間を自由に越えられるのだ、見るだけなんて朝飯前だ。しかし、別にそれを使ったわけではない。

蒼馬の力、その全容が明かされるのは、まだまだ先の話である。

やがて、町の様子が見えるところまで来ると、思わず馬を止めて華琳たちは愕然としてしまった。何故って…必死に駆け付けた彼女たちをよそに、全てはもう終わっていたからだ。

あれだけいた黄巾党…もう今さら数えるのも馬鹿らしい…が、全て屍と化して町の北、東、そして南に散乱しているのだ。


【華琳】

「……」


言葉も出ないという様子で町に入ると、蒼馬はすぐに見つかった。


【蒼馬】

「やぁ、華琳。早かったね~。」


むしろ、そんな厭味を言いながら歩いてきたのだが…。


【華琳】

「説明してもらえるかしら、蒼馬?」


【蒼馬】

「この町を襲っていた黄巾党なら、一人も逃さず殺し尽くしたよ~。」


【華琳】

「見れば解るわよ!どうして貴方がここにいるのか聞いてるの!いつ、どうやって、この町の状況を知り得たの?報告を受けて、軍議を開こうとした時には、貴方はこの町に向かっていた。そうよね?」


【蒼馬】

「あぁ~、そういう事か。一言で言うなら、カンかなぁ~。」


【華琳】

「か…勘?」


【蒼馬】

「感、さ。これを極めるのには、五百年くらいかかったけどね。」


蒼馬が言ってるのは、感知能力という事だろう。しかし、先にも言ったように、蒼馬は神術師なので、その気になれば未来も見えるし、何処だって覗ける。五百年もかけてそんな能力を極める必要はないように思うのだが…。


【華琳】

「…今後は、勝手な行動をとらないで。度が過ぎると、軍が混乱するわ。」


【蒼馬】

「ゴメン、ゴメン。気をつけるよぉ~。」


本当だろうか?疑わしいと思いつつも、こんな光景を見せられては、何も言えない華琳だった。


【流琉】

「ね、ねぇ季衣…兄様、あんな態度で平気なの?」


【季衣】

「ん?あぁ、平気だよ。兄ちゃんだし。」


【流琉】

「それに、五百年とか何とかって何?」


【季衣】

「兄ちゃん、六百年くらい生きてるんだって。だから、ほら…喋り方とか仙人っぽくない?」


流琉は、まだ蒼馬のことをあまり聞かされていないのだろう。季衣の話も、あまり信じている様子はない。

どうでもいいが、蒼馬の喋り方は別に仙人を意識してるわけじゃないし、そもそも全然っぽくない。


【凪】

「…あの。」


【蒼馬】

「ん?やぁ、君たちか。」


蒼馬たちのもとへやってきたのは、あの三人の少女たちだった。


【凪】

「先ほどはご助力いただき、ありがとうございました。」


銀髪の少女が、代表して蒼馬に礼を述べた。そして、三人は揃って叉手の礼をとった。


【凪】

「曹操様。此度の援軍、誠にありがとうございます。」


【華琳】

「礼などおよしなさい。実際には、何の役にも立てなかったのだし…むしろ、遅れた事を詫びさせてちょうだい。」


【凪】

「いえ、以前の太守に比べれば、遠路はるばる来ていただけただけでも心強き事…皆の士気も、また強まるというものです。」


などと言われても、プライドの高い華琳としては素直に喜べない。彼女たちを助けたのは蒼馬だし、彼をここに向かわせたのも自分ではない。自身で言うように、華琳は何もしてあげられなかったのだ。


【蒼馬】

「そうだ。君たち、相当な腕を持ってるねぇ~。どうだい、おじさんのとこで働かないかい?」


【華琳】

「蒼馬?」


【蒼馬】

「いずれは、警備隊による今の警備体制を広めていくつもりだからねぇ~。優秀な人材が欲しいんだよ~。」


蒼馬のその提案に、最初に食いついたのは…于禁だった。


【沙和】

「警備隊に入ったら、お給金もたくさん貰えるの~?」


【蒼馬】

「まぁ、働き次第だねぇ~。でも、君たちならすぐにでも正規軍の将になれるよ。」


【沙和】

「ほんと?じゃあやるなの~♪これで新しい服が買えるの~♪」


【真桜】

「や、ちょっ!沙和!あかんて、そのお兄さん、ごっつ恐ろしい人やで絶対!」


【沙和】

「え~、そうかなぁ?真桜ちゃんだって、新しいからくり作りの道具とか買いたいって言ってたじゃない。せっかくの機会なのに、勿体ないの~。」


【真桜】

「いや、そうやけど…なぁ、凪も何とか…」


【凪】

「入隊すれば、直々に手合わせしていただけますか?」


【蒼馬】

「そういう機会もあると思うよ~。おじさん隊長だしねぇ。」


【凪】

「よろしくお願いします!」


凪と呼ばれた銀髪の少女も、話に食いついた。


【真桜】

「えぇっ!二人とも本気かいな…あぁ、もう分かったわ!ウチもついてったる。」


真桜というらしい少女も、二人についていくつもりらしい。


【蒼馬】

「構わないかい?華琳。」


【華琳】

「好きになさい。ただし、責任もって一人前の将にするのよ?」


【蒼馬】

「大丈夫。彼女たちならすぐになれるよ。じゃあ、改めて自己紹介かな。おじさんは蒼馬。華琳の下で警備隊の隊長をしてるよ~。真名はないから、好きに呼んでくれてかまわないからね~。」


【凪】

「自分は楽進。真名は凪です。」


【沙和】

「于禁なの。真名は沙和って言うのぉ♪」


【真桜】

「ウチは李典、真名は真桜や。よろしゅうな。」


こうして、三羽の烏が死神の部下となった。今後、彼女たちはどんな活躍をしてくれるのだろうか?




そして、物語はここから急速に動き始める…というのも、洛陽で帝を巻き込んだ大きな陰謀、謀略が渦巻いていたからである。


【??】

「やれやれ、思わぬファクターの出現に、一時はどうなるかと思いましたが…一応、予定調和で物語は進んでいるようですね。とはいえ、あの蒼馬なる男、中々に危険な香りがするのも事実。この外史…一体何処へ向かうのでしょうね。」


道士の姿をした怪しい男の影…蒼馬、そして一刀に待ち受ける運命とは?

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