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「失礼します。」
背後で扉が開け放たれ、急に室内の光量が増える。吹き込んだ風で微量に埃が舞う。明け透けに照らされた本棚が、少し色あせて見えた。
「ジール様、お時間です。」
声はまだあどけなさの残る少女のものだった。心なしか震えている。緊張などしなくてもいいのに。ジールはため息を飲み込んだ。
「ありがとう。すぐ行く。」
立ち上がろうとして、指を挟んだままの本に気付いた。栞を探すが、あいにく手元に頃合いのものはない。諦めるか。本を閉じ、ふと振り返る。その視界に少女の姿が映った。
膝下丈の、ちょっと野暮ったいフレアスカート。大きめのブラウス。乱れ毛のちらつく三つ編み。それにもかかわらず、逆光の中の少女はきらめいて見えた。
ジールは本を持ったまま立ち上がった。
部屋は半地下になっていて、扉をくぐるには数段の階段を上る必要がある。二段ほど上ると、やっと少女と目線が揃った。すぐに追い抜く。
「君、ドラゴンと妖精に興味はある?」
「え?」
「読んでみるといい。」
ジールはすれ違いざま少女の手に本を預け、光の中に足を踏み出した。