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最悪




好は楽譜を目でなぞりながら、音を紡いでいく。


優しくも刹那人をひきつけるようなそのメロディーは

好自身歌っていてとても気持ちのいいものだった。


藤間はそんな好を観察するようにじっくりと眺め、

腕を組みながら時折目を閉じていた。



そして、歌が終わりゆっくりと好は息を整える。


おもむろに藤間の方へ視線を向けたが藤間が向いているのはすでに彼女ではなく

社長の桜井であった。



「社長。彼女でいいです。

 さっそくですが、手続きの方を進めておいてください。

 それから、住居の件も。」



「ええ、わかった。貴方ならそういってくれると思っていたわ。」



にっこりとご機嫌にほほ笑む桜井を後目に、置いてきぼりをくらった好は黙って見守るしかない。


「うん。じゃあそうと決まったら早い方がいいし。

 雨宮さん。あ、これからうちで頑張ってもらうんだから、そうねー。好、さっそく引っ越しの準備をしてきて頂戴。」





・・・・はっ!?


会話が突如自分に飛んできたことに好は驚き、

その内容についていけない。



「え、と。すみません。何故引っ越しの準備をしなきゃいけないんですか?。」



「あぁ。まずはそこからか。予想通りにあまりに事がとんとん拍子に進んでくれるものだから、説明を省きすぎちゃってたわね。」



好のとまどいもなんのその実に桜井は自分のペースで会話を続ける。



「まずは中途半端になっていた自己紹介から。

 彼はさっき話した通り藤間始。音楽プロデューサーよ。ただし、好に限っては彼はあなたの全てを担当するプロデューサーになってもらうわ。」



「全てのプロデューサー??・・・・・。」



「そう。あなたの生活、仕事、音楽全てにおける物事を彼にプロデュースしてもらうの。だから、当然私生活も彼に管理してもらうためには、同居した方が手っ取り早いじゃない。」



あまりに平然と語られるその内容に好はただ言葉を失うしかなかった。


「ど、・・・どういうことです、か。

 なんで私生活まで管理されなくちゃッ「音楽のためだ。」・・・は?」



ガラスのようになんの感情も映さないような目がこちらを向いた。


「俺はな。普段はそれこそ音楽を作ることだけを仕事にしている。

 だがな。全く完璧と思えるものが完成しないんだよ。

 他の奴が手を加えたところが全くといっていいほど納得ができない。

 だから社長にお願いしてみたんだ。自分の手で最初から最後まで全てをプロデュースすることはできないかって。」



この人は何を言っているのだろうか。

もはや理解が追い付かないどころか、異国の文化の人と話している感覚すらある。



「せっかくいい曲をやっても全然活かしきれてない奴らが多い。

 発声も甘い。曲の特性も活かしきれてない。ひどい奴にいたっては体調管理、生活習慣さえ散々だ。

そんなのに嫌気がさしはじめてな。そんな時に社長が面白い人材が手に入るかもしれないという。

それがお前だ。そして、俺はあんたを使える人間だと採用した。

だから、これからは雨宮好。あんたの生活仕事すべてにおけるサポートを俺がする。」



つまりはこうだった。

デビューをするために、私生活のすべてを捨てて藤間始という男の望むままの音楽の一部としてこれから生きろと言われているのだ。


そう、面と向かって。




それを理解した瞬間好は屈辱に体に熱が走り震えるのを感じだ。



後の話は桜井に聞けとばかりに藤間は自分の言いたいことを言い終えると

震える好をしり目にひとりスタジオを後にしていく。



「あー、もう。勝手に言いたいことだけいって帰ってくんだから。」


仕方がないとばかりに桜井はため息を吐いた後、

そのまま目線を好に移す。



「あれが、あなたのプロデューサーよ。

 どうだった?」


どう?それはなんのことを聞いているのだろうか。

第一印象?これからうまくやっていけそうかということ?

だったらどちらも答えられることは一つしかない。


最悪だ。




「変人だと思った?なんて傍若無人な人なんだろうって?

 でも、彼は仕事においてはそれら全てがまかり通るのよ。」


貴女と違ってね。



好はそのセリフに思わず、目に力が入るのを感じた。



あれが世にいう音楽の天才ってやつよ。

彼がいうことはほぼ確実にYESになる。

それをさせる実力が備わっている。




それを明日から、その身をもって体験してみなさい。



ゆっくりと優雅に言葉を発する桜井の美しい唇だけがくっきり好の頭にこびり付き、その言葉がこだました。


 

おまけ


「どうでした?最初の顔合わせは。」


桐生の声にふと顔をあげる。


「どうも何も。まぁ、好にしてみればいきなりのいろんなインパクトに豆鉄砲くらったような顔ばっかりしてたけど。」


クスクスと楽しそうに笑う彼女に桐生は予想どおりだと肩をすくめる。


「でもまぁ、興味は持ったんじゃない?途中から他人行儀がさっぱり消えて所有物と認識しちゃったみたいだし。

やっぱり同族の匂いは一発でわかるのねー。」


「は?彼、彼女に興味を持ったんですか?」


あぁ、楽しい。これからもっと楽しいことが起こると自分の直感が告げていた。


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