資格
「そうね、簡単に言えばあなたと私の契約書。この条件をあなたが飲んでくれるなら、私はあなたの夢のお手伝いをしてあげる。
これは今のあなたにとってとても良い条件よ?
この四つの条件っていっても肝心なことはただ一つ。正体を隠してばれなければ、あなたは今デビューを約束されているのだから。
・・・・・どう?なかなか悪くない条件だと思わない?」
「・・・・だからって、・・どうして、男装なんかッ!!「じゃあ、聞くけどその特殊な声を客に納得させられるだけの力が今のあなたにあるのかしら?」
好は頭に冷水を浴びたように熱がひいていく
今の彼女にそんな力がないことなんてわかりきっている・・・・・・・でなければ、彼女はここにいないのだから。
「悪いけど、これを却下するならこの話はなかったことにしてもらうわ。あなたほどの存在なんて世の中掃いて捨てるほどいるし。」
「・・・・・・・いえ、やらせて下さい。
先ほどは、失礼いたしました。」
好は静かに頭を下げる。その様子に桜井は面白そうに目を細めた。
「あら、ずいぶん素直ね。どうして急にものわかりがよくなったの?」
「・・・・、いきなり、そんなお話を頂くとは思っておりませんでしたので、つい・・・。
先ほどの社長のお言葉で、頭が冷えました。
すみませんでした。」
そう。と言って桜井はますます笑みを深めた。
この子はそんなに頭は悪くないらしい。ここへ来たってことは度胸もまあまあ。適応能力も、最初はあれだったけど大丈夫だし。
合格ね。
桜井は、決めた。
「いいわ。契約成立ね。
じゃあ、彼に会わせてあげる。いらっしゃい。」
「・・・・・彼、ってどなたなんですか?」
立ち上がる桜井に好は戸惑いながら、問う。
「あなたのプロデューサー。」
・・・・・・・・プロデューサー??
ますます、困惑する彼女をよそに桜井は機嫌よく数時間前のことを回想していた。
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「本気ですか、社長!!!」
とある一室。
桜井に非難めいた言葉をなげかける彼は彼女の秘書。桐生 楓である。
「ええ、本気。今言った彼女を彼に任せてみようと思うの。」
焦ったような桐生をスルーするかのように桜井は優雅に紅茶を飲んでいた。
「失礼ですか、そんなオーディションにも埋もれているような方に彼がやる気を出すでしょうか。」
・・・・・・確かに彼と彼女では今はつり合いが取れない。
「確かに、そうだわ。・・・・・・でもね、桐生。私久々に見つけちゃったのよ。
本物の歌手。
・・・・・・・・・ねぇ、あなたは歌手ってなんだと思う?」
桐生は答えない、そしておそらく彼女も彼に答えは求めていなかった。
「私はね、歌に狂っているか、そうでないかだとおもうの。」
眉をひそめる桐生。
「まるで、息を吸うように歌うことが、生きることの一部になっている人間。
歌わずには、いられない
歌がなければ生きていけない。」
それはまるで中毒者。
「久々に見つけたわ。」
ぎらぎらとひかるその目は、彼女が権力者である証なのだろうと桐生は思った。
「・・・・・では、彼に会わせても大丈夫なのですね?。
信じますよ。
あなたの目がくるったことなど一度もないのだから。」
桜井は静かに笑った。