出会い
「・・・・ねぇ、そこのあなた?ちょっといいかしら。」
ふと後ろから、はきはきとした女性の声が聞こえた。
好はゆっくりと振り向く。
「・・・はい?私でしょうか。」
「えぇ、あなたよ。いきなり声をかけてしまって、歌の邪魔しちゃったわね。ごめんなさい。」
一言で、すっきりとしたメガネの美人がそこにいた。
シンプルなスーツに身をまとい、長く綺麗なかみはだんごにまとめられている。まさに知的なビジネスウーマンのような一人の女性がそこにはいた。
「いえ、かまいません。あの、・・・・失礼ですがどなたでしょうか?」
好は遠慮がちにそう尋ねると、女性は、そうだったわね、失礼。と、名刺を差し出してくる。
それを受け取り、好は目を見開いた。
桜井芸能事務所 社長 桜井 侑子
桜井芸能事務所。確か数年前にどこかの社長令嬢が立ち上げた事務所で設立したばかりにもかかわらず、最近どんどん人気芸能人を輩出している有望株事務所だったはず、・・・・そんな事務所の人間が自分に何故声を?しかも社長だって?
好は眉をよせる。
その表情から、内心が読みとれたのだろう。桜井はクスリと小さく笑った。
「そうよね。いきなり声かけちゃったし、怪しまれても無理ないわね。
でも、その名刺ちゃんと本物よ?・・・・・あいにく今はそれをしっかりと証明できるものは何もないの だけれど。」
そういうと彼女は好にまっすぐ目をむける。
ビクッ
瞬間好は動けなくなった。まるで縫い留められているかのように、彼女から目をそらせない。
「・・・・・・ねぇ、歌いたい?」
桜井は、静かに笑って問いかけた。
好は固まったまま、彼女の眼だけを見つめ、そして、ゆっくりとうなずいた。
「・・・・・・どんなに苦しくても?きつくても?つらくても?
歌いたい?。」
再度、好はうなずいた・・・・・・。
それに、桜井は満足そうに微笑むとくるりと踵を返した。
「じゃあ、うちにいらっしゃいな。・・・・・・・あなたの望み。叶えてあげるわ。」
そう言って、片足を不気味なものにつっこんでしまったような不快感と、あの不思議の国のアリスにでもなってしまったかのような浮遊感を好に残して、、、、、
彼女、桜井侑子は去って行った。
「社長。なんだか機嫌が、いいですね。」
車に乗り込んできた桜井に男が尋ねる。
「うん。・・・・ちょっとおもしろいもの発見したのよ。」




