職業探して異世界へ
「仕事、あります。」
このチラシから、オレの物語が始まった。
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オレは、最底辺の高校に通う、普通の高校生だった。この高校は、受験なしで入れるようなバカ校である。
いや、実際は面接があるのだが、受験者が合格者より少ないので、最悪、受けなくても受かる。
オレは、もうすぐここを卒業しようとしていた。しかし、就職なんて決まらない。
大学に行くほどの頭を持ち合わせていないので、就職することにしたのだか、最底辺の高卒なんてどこも採用してくれない。
「あーあ、自営業でも始めるかな。」
26回目の不採用通知をもらった帰り道、そんなことを呟いていると、目の前に、チラシが落ちてきた。
なんとなく拾って見てみる。
そこには、ただ、この一言が書いてあるだけだった。
「仕事、あります。」
なんとも胡散臭いチラシである。下には、電話番号らしきものが書いてあった。
「胡散臭いけど、騙されたと思って受けてみっか。」
そんな軽い気持ちで電話することを決めたオレは、家に帰っていった。
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家に帰ると、置き手紙がテーブルの上に置いてあった。
「就職、どうだった?夕飯は、冷蔵庫にチャーハンが入ってる。レンジでチンして。」
こんな生活が、もう何年も続いている。
2年前に父親が交通事故で死んでから、母親は夜遅くまで働いている。だからこそ早く就職を見つけたいのだが、世の中うまくいかないもんだ。
「就職どうだった、か。」
目から不意に涙が零れる。
「駄目、に、決まって、るじゃ、ない、か、よ」
言葉がうまく繋がらない。
「……駄目なのは……オレか……」
震える手で、オレは無意識に、チラシに書いてある電話番号をダイヤルしていた。
プルルルル、プルルルル、ガチャ
「はい、こちら、異世界就職センターでございます」
異世界。受付の相手は、確かにそう言った。
しかし、もうどうでもよかった。
「仕事が欲しいんです」
「はい、では、これから仕事の内容を説明します。」
要約するとこういうことだった。
まず、この仕事を受けたら、異世界へ赤ちゃんとして転生する。そこは、文明があまり進んでおらず、文明を進めるのが仕事だ。
生きている間には、そこで得た金を異世界就職センターへ納めることができる。
その世界で死ぬと、元の世界へ戻ってきて、納めた金の半分を貰える。
それだけだ。
こんなこと、信じられるわけ無い。しかし、オレは信じることができた。
「では、お願いします」
「了解しました。いってらっしゃいませ」
その言葉を最後に、オレの意識は途絶えた。
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0歳
異世界に赤ちゃんとして転生したオレは、クールという名前を授かった。かっこよくて、気に入った。
この家は、お金もちのようで、使用人がたくさんいる。金を納めるのには好都合だ。
どうやらオレは長男らしく、家を継ぐのはオレらしい。とても嬉しい。
言語は日本と同じで、苦労は無い。金の単位は違うっぽいが、円と価値が変わらないようなので、これからは円で統一する。
納めた金額――0円
3歳
オレは、情報収集につとめていた。
金を効率よく貯めるために、ギルドの依頼を受けることと、学者として学問の発達に貢献することがいいと知った。
ギルドで依頼を受けるとギルドから、学者として頑張ると国から金が貰えるようだ。
文明を進めるには、学問の方向で頑張っていくしか無いだろう。どんなにバカでも、3歳から勉強すれば、なかなかいい感じになるんではあるまいか。まあ、5歳になってからにしろと言われてしまったが。
学問では、数学と古代文字の研究が盛んだそうだ。
あと、魔法の存在が分かった。
古代文字を使うと、魔法が発動するようだ。魔法には憧れるので、古代文字は覚えたいと思う。
納めた金額――0円
5歳
今年から、数学と古代文字を父親から習い始めたが……簡単すぎね?
まず、数学だが、「お前は利口だから、高等魔術学校(日本の高校と同じ)の数学から始める」とか言われた。無理だと思ったんだが、何と、足し算からだったのだ。
ここでは、中等魔術学校(日本でいう中学)で「数」という概念を習い、高等魔術学校で足し算を習い、最高魔術学校(日本でいう大学)で引き算を習うそうだ。
さらに数学を研究する人は、掛け算や割り算を勉強していくようだ。また、その中でもエリートは、分数や少数を勉強するようだ。
√等は、存在は知られているようだが、誰も出来ないようだ。
オレは、いきなり足し算ができてしまい、すごく驚かれた。引き算ができたら、「神の子だ」とか何とか言われた。というか、あなたの子ですから。
掛け算や割り算ができ、分数や少数もできることを知ったら、気絶してしまった。まあ、誰だって5歳児が学者並みの問題をすらすら解いていたら驚くだろう。
また、古代文字は、英語と同じだった。オレは実は、英語だけは校内トップで、全国偏差も50はあったのだ。50でトップって、泣けてくるが。
というわけで、こちらもすらすらいけた。だって、「water 」って言ったら水が出てくるし、「fire」って言ったら火が出てくる。
この世界の人は、発音が全然なっていなくて、魔法を使える人は少ないらしい。でも、日本人の発音で魔法が発動するのだ。どれだけこの世界の人は発音なってないんだよ。
あと、こちらも父親が気絶してた。いちいちオーバーだなあ。
今年からは、小遣いを貰い始めた。1ヶ月500円だ。12×500で、計6000円納めた。
納めかたは簡単で、あの電話番号を呟くと、センターの人とれんらくがとれる。
納めた後、英和、和英辞書を持ってきてくれるよう頼んだら、1000円納めた金額が減るけどいいか?と言われた。まあ、それくらいは安いもんだと思って、持ってきてもらった。
納めた金額――5000円
7歳
何と、国から召集を受けた。
あれから辞書で魔法無双をして、神童と言われていたオレの名は、国のお偉いさんまで届いていたのだ。
こんな金を稼ぐチャンスは他に無いので、行ってみた。すると、予想通り国の学者として働かないかというものだった。
最初は1ヶ月50000円と提示されたが、おれの実力を見せたら、100000円となった。それでも足らないと思ったオレは、何とか200000円までいった。
オレは、国の学者のトップ3なのだそうだ。年に一回の試験の結果によって、下がったり上がったりするようだ。
いつかは、トップになってやる。
去年には6000円、今年は200000×12で2400000円納めた。
納めた金額――2411000円
10歳
やっとトップまでなった。あれから、上の人たちからの妨害を退け続けたが、一昨年は妨害で試験に出られなかった。
それで、凝らしめてやったら、次の年からはなにもしなくなった。何をやったかは秘密だ。
仕事は簡単すぎて、毎日が暇だ。遊ぼうにも、金は全て納めている。
食事とかは、全て国がだしてくれる。家族にも国から金が送られるので、仕送りの必要はない。
8歳の時は2400000円、9歳で1ヶ月の給料が300000円となり、一年で3600000円となる。
しかし、10歳からは税金を納めなければならないらしい。しかも、所得の2割だ。
よって、1ヶ月の給料が500000円となったのに、実質400000円となってしまった。それでも、一年で4800000円なのだが。
納めた金額――13211000円
12歳
何か陥れられた。いつのまにか、クビになっていた。オレは、使い込みをしたとか言われて、追い出された。
きっと、オレにトップをとられたやつらだろう。全く、人間がなってない。12歳を陥れるとか。
去年稼いだお金は全て納めていて、手元にあるのは、もしもの時のためにとっておいた10000円のみ。これじゃあ家にも帰れない。
当てもなくさまよっていると、名案が浮かんだ。
ギルドに登録すればいい。
ギルドとは、前に一回出てきたが、様々な依頼を受けられる施設である。
ランクというのがあり、最初はH-から始まって、H、H+、G-と上がっていく。
登録料金10000円とられたが、何とか依頼をこなしてその日生きる金をてにいれていく。
あと何年かはその生活が続きそうだ。
納めた金額――18011000円
20歳
今年から、何とか利益が出始めた。実力があってもなかなか上がれないこの制度、改めた方がいいと思う。
これからは、1年に100万ほどは儲かりそうだ。因みにランクはD-だ。
国に使えていた頃を思い出すと、泣けてくるが。
あと、何か弟子入り希望してくる奴ら(特に魔法)が出てきた。弟子入りしたけりゃ合計5000万持ってこいといったら、どっかに行ってしまったが。
納めた金額――19011000円
30歳
天災は、忘れた頃にやってくるとは、この事だな……。
ランクが最高のA+に上がり、年収も5000000円になった頃、いきなりあのときの弟子入り希望者達が、本当に50000000円持ってきた。律儀な奴らだ。
断る訳にもいかないので、弟子にしたが、いかんせん数か多い。ギルドの活動何てやってられない。
もう金はかなりたまったんだ。これで戻ってからも安泰だろう。
というわけで、弟子の指導に余命を(って、早っ)尽くすことにした。
納めた金額――90000000円
40歳
最高魔術学校の教師に任命された。めんどくさいったらありゃしない。
だけど、久々に金を稼ぐチャンスだ。教師になれば、年収5000000円だそうだ。
弟子たちもなかなか強くなってきたし、大丈夫だろう。というわけで、オレの教師生活が始まった。
初めての授業の感想は、「レベル低っ」だった。
仮にも「最高」だろう?この世界のレベルから考えて、少数とかは分からないにしても、引き算位完璧にしろよ!
あと、魔法も、小さい火も出せない奴がいるとか、なめてんの?
というわけで、スパルタ特訓開始ぃぃ――――!!
納めた金額――95000000円
50歳
スパルタ特訓開始から、10年。最初は鬼教師と恐れられたオレも、生徒の成績の伸びから、「最高の先生」とか言われるようになった。
いやー金も入るし尊敬もされるし、いいですねぇ。
オレは、フグを食べながら、喜びに浸っていた。
あ、なんとなくフグとか書いたけど、死亡フラグじゃ……無いよね?
納めた金額――145000000円
51歳
苦しい。死にそうだ。
周りには、弟子や教え子達が集まっている。
死因はフグの毒なんだろうな。やっぱりあれは死亡フラグか。最悪だ。
まあ、楽しい人生だった。まあ、まだあるんだけどね、地球での人生が。
さよなら皆。また縁があったら会おう。
そして、オレは人生の幕を閉じた。
納めた最終金額――150000000円
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「以上で、お仕事は終わりです」
気付いたら、受話器を持って突っ立っていた。
「ここは、地球か?」
「はい」
なんだか、懐かしい感じだ。
「報酬は、もうすぐ届けられると思います」
「え?どうやっ……」
オレの言葉が終わる前に、ドアが勢い良く開き、母が入ってくる。
「ねえ、あなたが前買った宝くじ……」
母は、息を切らしながら言う。
「二等の75000000円当たってた。」
こうして、母とオレは、楽しい人生を送っていった。