和也って
「なんで和也はカズヤなの」
朝はとっくに過ぎ日は傾き出していた。西日が強くなる頃だ。覚めたての目にはこたえる。
突拍子もない浩司の疑問にあきれながら、微風がそよぐ窓にカーテンをひいた。
「俺にきくな」
扇風機の風を独占し、座卓に顎をのせ、客人は溶けはじめたカップアイスをかき混ぜていた。
「だって、本人が教えてくれなくてさ」
駄菓子屋あたりでもらったスプーンでドロドロした物体をすくっては、落とす。
つまらなさそうに遊ぶくらいなら、自力で課題を解こうとしてほしいものだ。 課題を手伝え、と遅い昼寝を邪魔された朱里は背伸びをし、浩司と向き合うかたちでフローリングに腰を据えた。
「だろうな」
「前にも言ったはずだ。だって、ケチ」
和也の口調をまねて、不味そうにアイスでコーティングしたスプーンを舐める。
溶ける前に食べればそんな顔をすることもないのに、わざわざ溶けるのを待っていた浩司の気が知れない。
「俺だって、何回も教えたぞ」
ケチと言われては、和也がかわいそうだった。
女なのにどうして和也なのか、という質問を何十回と浩司は訪ねていた。五、六回目ぐらいまでは和也も答えていたようだが、さすがに飽きたのだろう。本人が教えなくなると、浩司は朱里を質問ぜめの的に選んだ。
「じゃあ、教えてよ」
「親が双子の弟と名前を逆にして役所に届けたからだろう」
朱里は片手でシャーペンをもてあそびながら、座卓に広げた問題集の上に肘をつく。
「弟っていたっけ」
「いるんだろ」
「名前なんて言うの」
「ミズキじゃなかったか」
「いくつ」
「俺等と同じ」
「朱里って物知り」
双子なんだから当たり前だろ。もし、生年月日がまるっきり違ったら単なる姉弟で、命名間違いなんて起こりはしなかっただろう。特異なケースを説明したばかりな上、その程度で知識人あつかいされてもうれしくない。
「スゴーイ」
白々しいほどビックリ眼で浩司は拍手をする。朱里が半眼を向ければ、より一層いい叩きをみせた。
「暇なんだろ」
「うん、ヒマ」
はっきりうなずかれ、朱里はひじ下を指差す。
「だったら、課題しろ」
「やだね。がんばって、朱里」
お前のだろう。
おき楽口調で言われてしまえばいいかえす気にもなれず、ため息をもらした。