夕日に彼女と僕
R指定するほどの物ではないのですが、人によっては不快になるかもしれませんので念のため指定させていただきました。
夕暮れの街を一人で歩く。
どうしても、ここを見ておきたかった。見慣れた街から、路地裏に入るころだった。
そこで私は驚愕した。
目の前をノロノロと歩く少女があまりにも彼女と似ていたからだ。
夕暮れの日を受けて、少女の白い顔がうっすらオレンジ色に染まる。
私は彼女を追い越してしまわないように、ゆっくりと進んだ。
奇妙な二人が路地裏を進む。
彼女は
私が高校生の時だった。
学生服に身を包んだ私は、一人の少女を”見つけた。”
白い肌が黒いセーラー服によく映える、美しい少女だった。
私は気づいていたのだ。
その時確かに彼女がいじめられていたことに。
足がガタガタと震えた。
なんで。今彼女が。
長いスカートがひらりと翻る。その時、病的なまでに白く、細い足が目に入り、大きく胸が鳴った。グッと締め付けられるように痛い。
どこからか夕飯のカレーの匂いと、金木犀の匂いがした。
私は泣きそうになりながらも後ろをついていった。
眩暈がするほど濃厚な日常と、寒気がするほど淡泊な彼女が。
夕日が背中に突き刺さるようだった。どうしても、私は彼女に言いたいことがあったのに。
夕日に急かされるがまま、喋りだそうとする。
その時
「貴方は知らないフリをしていたのね」
彼女が
「いいわ。だって知っていたもの」
ゆっくりと
「失望したりなんてしないわ。だってそれが普通だもの」
こちらを
「でも」
向いて
「なんで殺したの?」
振り向いた彼女には顔がなかった。
「あっああぁぁああぁ!」
知っていた、彼女は私が何をして、何をしなかったか知っていた。
その場に崩れ落ちる。
違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。
「貴方はまだ捕まっていなかったのね」
憐れむような声。
しかし彼女には顔がない。
私が潰してしまったからだ。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違
う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
「何を怖がっているの?」
私はもう何も言えない。
ただ彼女の顔をじっと見ている。
潰れた彼女の顔をじっと見ている。
「なんで貴方は私について来たんでしょうね?」
ただ、私は
言いたいことがあっただけなのに。
それだけなのに、
彼女は屋上で
「死にたい」
確かにそう言ったのだ。
確かに、私はそれを聞いて、私は、私は
泣きながら、世界に絶望した彼女の、美しい顔を
「××君」
「ごめんね」
コンクリートの塊という酷く無機質で、汚いもので
私は、言いたい事があっただけなのに。
ただそれだけだったのに。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「うん」
「私は、私はただ」
「うん」
顔の無い彼女が小さく頷く。
夕日が彼女を照らす。
それは不気味な程美しかった。
金木犀の匂いが
夕日のオレンジが
子供の笑い声が
秋の冷たい風が
一斉に止んだ。
「私はあの時に言いたい事があったんだ」
「……何?」
薄暗い路地裏で彼女と対峙する。
ずっと言いたかった。
きっと私は彼女に会ってからずっと、ずっと。
「私はただ貴女が」
その時、大きなサイレンが鳴った。
大通りに救急車が走る。
「……もう終わりね」
「知っていたんだ」
「迎えに来たのよ」
救急車は私の体を乗せて、けたたましく街から消えた。
「大好きだよ」
「私もよ」
顔の無い私を見つめて彼女はそう笑った。
夕日と制服が死ぬほど好きです。