見知らぬ建物
「何だろう?あの建物?」
私は浅霧睡蓮、庭師と家政婦をしている女だ。いつものように川崎茜さんの経営している薬局に出向こうと思った矢先に見知らぬ木とオレンジ色のレンガで構成された建造物を発見した外観は、川崎さんが教えてくれた「ヨーロッパ」のプロイセン(ドイツ)風だった。インターホンらしきものを押してドアの向こうから足音が聞こえた気がした。数十秒後に人が出てきた。どんな人が出てくるんだろうとワクワクしていた。そしてガチャリとドアが開いた。
「もしかして、最近引っ越してきた人ですか?」
「どなたかしら?」
「突然すいません!初めまして、私浅霧睡蓮と申します!」
「あさぎりすいれん?」
「えぇそうです!」
「と言う事はここは異世界でまちがいないわよね?」
「異世界?転生してきたんですか?」
「ううん、転移してきた」
「転移?どうやってですか?」
「魔法、ご存じない?」
「魔術とは違うんですか?」
「言い方が違うだけで両方同じ」
「そうなんですね...」
「そうだ、自己紹介が遅れたわね。私エヴリン・スカーレット”Evelyn Scarlett”、宜しく」
「こちらこそ宜しくお願いします」
彼女は紫色のロングヘアに身体の輪郭がはっきりと見える白くて薄いネグリジェみたいな服を着ていた。本人が動くたびに中に来ている下着が薄っすらと確認できてしまう。視線のやり場に多少困惑しつつも気にしないような素振りをした。
「突っ立てないで中にいらっしゃい」
「挨拶したばかりですよ」
「貴方疲れてるれてる顔してるわ」
「ちゃんと寝ましたよ昨日」
「とりあえず中に入って、初回限定でおまけで施術してあげる」
「じゃ、お邪魔しまぁす...」
初対面でいきなり誘われるとは思わなかった。誰かさんと違って気前がいいなぁ。そして良い匂いがする。ラベンダーかと最初思ったけど。アロマだろうなたぶん。いつまでもこの空間に居たいと思えるほど穏やかな雰囲気だった。
「じゃ、ベッドに寝て」
「人様の寝具で寝るだなんて...」
「大丈夫、診察台だからそれ」
「立派過ぎないですか?」
「リラックスするには良いベッドじゃないとだめなの」
「そうなんですね」
「さ、目を閉じて」
鼻腔にとてもいい香りを感じた。何の匂いか分からないけど。すごい落ち着く。
「深呼吸して、貴方は何も考えなくていい。白い雲の中で柔らか包まれている...」
何か、分からないけど全身の力が抜けていく。青空をふわふわと、たんぽぽの綿毛のように飛んでいるような感覚を覚えた。
「はい、お疲れ様。どうでしたか?」
「あれ、さっきよりだいぶ肩の力が取れました」
「それは良かった」
身体がいつにもまして軽くなっている。偶然に視界に入った。アンティークな壁時計を見たら。お昼になりかけていた。旅館の準備もまだ終わってないし。急いで帰らないと。
「食事の準備しないと」
「ついでに食べていったら?」
「そんな、施術させてもらったついでに食事なんて」
「せっかくリラックスしたのに台無しじゃない。落ち着いてから帰りなさい」
「じゃ、お言葉に甘えて...」
「お腹空いてる?」
「そんな気がしないです」
「じゃ、帰るの?」
「用事思い出したので」
「用事?」
「少し歩いたところに川崎薬局ってのが有るんですよ」
「へぇ、そうなの。今度行ってみようかしら」
「後で案内してあげますよ」
「ありがとう、けどまた今度お願いするわね」
こんな、森の奥に店と家が一緒になった建物があるなんて。せっかくだし北の人にも教えてこようっと。自分だけこの情報を独占するのはどうかなと思ったし。何より誰かに今すぐにでも教えたくてたまらない。




