婚約者
「……婚約者が、いらしたのですね。優星さん」
「……はい。双葉は幼いころからの友人でもあって、とても優しい人で……本当に、僕には勿体ないくらいで」
「……確かに、とてもお優しい方でしたね。優星さんのことを、とても気にかけていらっしゃいましたし」
それから、少し経過して。
カウンターの席にて、些か神妙な雰囲気で会話を交わす私達。もちろん、先ほどいらした華やかな雰囲気の女性、双葉さんに関してで。……まあ、勿体ないとは思いませんが。お優しくて素敵なのは優星さんご自身もですので、本当にお似合いと思うくらいで……とはいえ、それを今の彼に言うのが酷ということは承知しているつもりですが。……ところで、それはそれとして――
「……あの、優星さん。優星さんが酷くお辛いことは承知しているつもりですし、今後とも優星さんのご希望を叶えるべく誠心誠意努める所存です。……ですが、一方で双葉さんのご意見も尤もだと思うのです。やはり、大切な人への思いを無理に忘れてしまうというのは……」
その後、ややあって躊躇いつつそう口にする。……ええ、分かっています。随分と酷なことを言っているということは。それでも、やはり――
「……はい、琴水さんの……そして、双葉の言う通りだと思います。……ですが、申し訳ありません。僕は、どうしても忘れなければならないんです」
「……あの、優星さん。ひょっとして、優星さんは……いえ、やっぱり何でもないです」
すると、淡く微笑みお答えになる優星さん。……もちろん、まだ確証はありません。ただの深読みにすぎないのかもしれません。……ですが、ひょっとして優星さんは――
「……そっか、婚約者が」
「はい、斎月さん。優星さんのことをとても心配していらっしゃいました」
その日の夜のこと。
食卓にて、今日のやり取りを話す。ちなみに、今日のメインディッシュは鮭の西京焼き。斎月さんのお手製なので、本日ももちろん絶品で。……ですが、申し訳なくも手放しで堪能できる心境ではなく――
「……あの、斎月さん。やはり、この方法でいいのかという懸念がありまして。尤も、優星さん自身のご希望ですし、彼のお気持ちを最大限に尊重してのご判断だということは理解しているつもりなのですが……ですが、それでも……」
そう、躊躇いつつも口にする。……ええ、分かっています。これが、他ならぬ優星さん自身のご希望だということは。……ですが、それでも――
「……うん、気持ちは分かるつもりだよ琴水ちゃん。だけど、彼の悪いようにするつもりはない。だから、ひとまずは僕を信じてくれないかな?」
「……斎月さん……はい、分かりました」
すると、ややあって柔和に微笑みそう口にする斎月さん。そして、そんな彼に少し躊躇いつつも頷く私。正直のところ、これで良いのかは私自身まだ定かではありません。それでも……ええ、他でもない彼がそう言うのなら、私にとっては信じる以外に選択肢などあるはずもなくて。




