四季折々の喫茶店
――それから、三ヶ月ほどが経過して。
「――おはようございます、斎月さん! 今日も一日よろしくお願します!」
「うん、おはよ〜琴水ちゃん。うん、今日もよろし……はぁ、眠い」
「……あの、斎月さん。あと一時間でお客さまを迎えるというのに、その締まりのないご様子はいかがなものかと。しゃきっとしてください、しゃきっと!」
「ちぃ〜っす、しゃきっ」
「うん、駄目だこの人」
小鳥の声が心地好く鼓膜を揺らす、澄み切ったある朝のこと。
そう、今日も元気に挨拶をする私。なのに、肝心のお相手のこの締まりのなさはいかがなものでしょう。しゃきっとしてください、しゃきっと!
「……あの、斎月さん。もうお店を開いているというのに、何を堂々と欠伸をなさっているのですか。こうしている今にも、お客さまがお越しになるかもしれないというのに」
「……ん? ああ、心配には及ばないよ琴水ちゃん。お客さんが来たら、ちゃんと一瞬でキリッとするから」
「……いや、見たことないのですが、そんな光景」
それから、一時間ほど経て。
扉の近くでお客さまを待ちつつそう告げると、何とも飄々とそんなことを言う斎月さん。いや何ですか、一瞬でキリッとするって。今まで見たことないですよ、そんな衝撃の光景。
……まあ、かと言ってこれ以上責めることも憚られますが。どうせ、昨夜も遅くまで試行錯誤なさっていたのでしょう? 新しいメニューについて。こんなだらしのない感じではありますが、本当はお客さまのことを誰よりも想い、心から喜んでほしいと日々研鑽に励んでいる人ですから。
そっと、窓の方へと視線を移す。夏は紫陽花、秋は紅葉、冬は雪といった具合に四季折々の個性豊かで魅力的な姿を見せてくれます。そして今は、満開の桜がこの豊かな世界を優しく彩っていて。この山も、木も花も、鳥も虫も、この景色も、このお店もとにかく全てが大好きです。……ですが、私がここにいる一番の理由は――
「……ん? どうかしたかい? 琴水ちゃん」
「……いえ、何でも」
すると、首を傾げそう問い掛ける斎月さん。扉の前から、カウンターの向こうにいる彼をじっと見ていたからでしょう。まあ、気づいているとは思いませんが。……いや、それとも実は――
……まあ、どちらでも構いませんけど。いつか、自分で告げればいいことですから。そして、あの人のことを思い出す余地なんてなくなるくらい、私のことでその頭をいっぱいに満たしてあげますから。……そして、これからも――
――カランコロン。
「――いらっしゃいませ、お客さま! ご来店ありがとうございます!」
――これからも、ずっとそばにいてくださいね?




