これで、もう――
「――いらっしゃいませ、優星さん。今日もありがとうございます!」
「おはようございます、琴水さん。こちらこそ、いつも素敵な笑顔で迎えてくださりありがとうございます」
それから、二ヶ月ほど経て。
数多のヒマワリが彩る山の中――その中腹に佇む和の雰囲気漂う喫茶店にて、柔らかな雰囲気の若い男性を迎え入れる。もうすっかり常連と申して差し支えないであろう大学生、優星さんで。
その後、店内を進みお席へと腰掛ける優星さん。もうほとんど定位置となっている、カウンター席の端の方へと。そして、私もいつもの通りご注文を――
「……あの、優星さん。とうとう、本日で叶うかもしれません。お亡くなりになった恋人の方を忘れるという、かねてからの優星さんのお願いが」
「…………へっ?」
お伺いする前にそう伝えると、ポカンとしたご表情で声を洩らす優星さん。……まあ、そうなりますよね。それまではさほど効果が出ていなかったのに、突如こんなことを言われてしまえば。ですが――
「……実は昨日、普段とは違う特殊な萱草が手に入ったようでして」
「……特殊な、萱草……」
「はい。斎月さんのお話によると、普段よりも圧倒的に効果が強い萱草とのことで……なので、今日を以て恋人の方への思いを完全に忘れられることができるかもしれない、とのことです」
「……そう、なのですね」
そう、控えめに伝える。すると、呆然としたまま呟くように答える優星さん。……そう、これで彼の願いが叶う。これで、もう――
「……琴水さん」
すると、ポツリと鼓膜を揺らす声。そして――
「……本当に、申し訳ありません……ですが、やっぱり僕は、玲香のことを……」
「……優星さん」
そう、ゆっくりと口にする優星さん。その声はひどく震えていて、俯く彼の頬にはすうっと綺麗な雫が伝いポツリポツリと落ちていく。そんな彼の姿に、ぎゅっと胸が締めつけられる。そして――
「……大丈夫ですよ、優星さん。それで……それで、いいんです」
そう、そっと抱きしめ告げる。……嫌がられてないかな? それに、双葉さんにも申し訳ないけど……それでも、悲しみに震える彼の苦痛を少しでも和らげてあげられたらと。




