第九話
その後も振り分け試験は順調に進んでいくが指令室に帰ってくる生徒たちは皆、ぼろぼろの状態で帰ってきており、中には酸欠に陥って保健室に運ばれた奴もいた。
体力面で有利なはずの男子ですら床に倒れこんで動けていない。
「次!」
呼ばれたのはクラス唯一の専用機体持ちであるグレイシアさん。醸し出す雰囲気が新入生のそれとは違うものに上級生も少し困惑している様子。
「神原」
「はい?」
「見ておくといい。専用機体持ちがどれほどの実力者なのか」
俺は専用機体の戦闘シーンを見たことがない。
大概、動画投稿サイトやSNSにあがっているのは汎用機体の戦闘シーンだ。
理由は定かじゃないけど専用機体にはその国の威信をかけて様々な新技術なんかを使っているから、らしい。
アリーナに汎用機体を纏った彼女が現れる。
「あれ? 汎用機体なのか」
「専用機体の破壊力は桁違いだ。模擬ゼータを作るのにも金と時間がいるんだ」
「はぁ」
両者が両間五メートルの位置に立ち、始まりのブザーが鳴り響く。
―――刹那
「え?」
その場から彼女が消え去ったかと思うと模擬ゼータ君から大きな火花が散り、全身から力が抜け落ちてフィールドに真っ逆さまに落ちていった。
カメラが移動し、ようやく映像内に彼女が映し出されるとともに先程の一瞬の攻防がスローモーションで再生される。
カメラでも追いきれないほどの速度で移動し、いつの間にか手に収めていた近接用ブレードで模擬ゼータ君を切り裂いた。
映像の下部には経過時間が表示されているが驚異の三秒と表示されている。
「な、なんだあれ? 何をしたんだ?」
「今、あいつの戦いの中で基礎戦闘技術が二つ使われていたが誰か答えろ」
「はい! 増速駆動と兵装の展開です!」
我妻が発言をする。俺に絡んできたときとは大違いの態度に少し引いてしまう。
「その通りだ。神原、増速駆動とは何か簡潔に答えろ」
ドキッとしてしまい、俺の頭が今までにないほど高速回転し始める。経済的な理由で俺はまだ教科書などはないので知識は皆無だ。
しかし、ここは簡単に引くわけにはいかない。
俺は単語から推測し、頭脳をフル回転させ、一つの仮定を導いた。
「通常よりも早い速度で動く……みたいな?」
「具体的にどのような原理で加速を強化する」
撃沈。
俺という軍艦は姉ちゃんというミサイルによって一瞬にして木っ端みじんになってしまった。単語でしか推測できない俺が具体的な原理など言える筈もない。
「な、なんかこう……エネルギーをチャージして、みたいな?」
周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
どうやら俺はとんでもないおバカ発言をしてしまったらしい。
「入学前の課題冊子はやったのか? お前専用にアレンジをしたものだが」
「ま、まだ完全には終わっていません……すみません」
「はぁ……各部のスラスターを過剰活動させることで爆発的な反応を発生させ、それによって高速度を発生させる。増速駆動は高速で移動できるがその分、体力を多分に消費する」
「俺の説明もあっ……なんでもございません。口答えして申し訳ありませんでした」
小さい声で言ったつもりが姉ちゃんの耳に届いていたらしく、思いっきり睨み付けられた挙句、立ち上がろうとしたので誠心誠意の謝罪の意を示す。
その時、指令室の扉が開き、全員の視線がそちらへ向く。先程振り分け試験を終えたグレイシアさんが帰ってきた。
彼女は増速駆動で体力を消費したとは思えないほどに息が乱れておらず、汗をかいている様子もない。歩行も通常通りで上級生の付き添いも無い。
彼女は空いていた椅子に座り、持ち込んでいた本を開いて読み始める。その姿の優雅さに何人かの女子が熱のこもったため息をつく。
「よし……これでZ族の連中は終わりか」
姉ちゃんがそう呟きながら指令室の後方を見る。後方では未だに何人かがグロッキー状態から回復できていない。
「では最後、神原。行って来い」
「は、はい!」
ようやく俺に番が回り、上級生の案内のもとZEXの格納庫へと向かう。指令室の扉を潜り、階段を下りていく。
そして上級生に開けられた扉を抜けると目の前に鎮座した汎用機体のZEXが現れる。
脚部・腕部・背部と三つに分けられた各種パーツが格納庫に設置されている機械の腕にかけられている。
素材となっている下龍種の体色に似た茶色のカラーリング、背中から生える二対のウイングパーツは折りたたまれている。
「それではZEXを装備しましょうか~」
台を登り、まずは脚部装甲に両足を入れていく。
装甲が俺の身体を検知し、隙間なくフィットするように装甲の全てが光の粒子に分解されて再構築されていく。
「おぉ、ぴったりだ」
「それが汎用機体の特徴なんですよ~」
再構築に驚いている俺に赤阪先生が優しく声をかけてくれる。無意識のうちに不安の色を顔に出していたかもしれない。
「汎用性を重視した機体ですからね~。足のサイズから体重まで全てフィットするように機能が盛り込まれているんです~。さ、次は腕を広げてください~」
指示に従い、腕を広げると腕部装甲が装着され、一瞬にして粒子となって再構築が始まるとそれに合わせて背部パーツも再構築される。
「背部と腕部は接続されるので同時に再構築されるんですよ~」
再構築が完了し、腕部・背部装甲が俺にフィットする形で装着されると同時に頭部ギアが装着され、汎用機体の装着が完了する。その時間は十秒足らず。
試しに拳を開いたり、閉じたりするが違和感は一切なく、俺の意識と同じ速度で動きを見せてくれる。
「ではゲートを開きますのでまずはゆっくり歩行してフィールドに出ましょう」
ゴゴゴッ、という重厚な音を響かせながら格納庫の扉が自動で左右に開き、フィールドの景色が俺の視界に入る。
そしてZEXの各種検知機能によって送られてくる情報が表示される。
全てを見通すことができるんじゃないかと思うほどに目の前の景色がクリアに見え、様々な情報が数値としてこちらに送られてくる。
「ZEXには最新鋭のセンサーが多数搭載されていますからね~」
俺が心の中で思っていた疑問を解消する返答がポンポン投げ入れられるのでドキッとして先生の方を見るとニコニコ笑顔だ。
「……先生って心読めたりします?」
「まさか~。私は表情から推測しているだけです~」
もう推測ではなくて読心術の域に到達していると俺は思う。
先生に促されるまま足を進め、フィールドで待機状態の模擬ゼータ君の下へと向かっていく。
ガッシャガッシャと音を立てながら歩いていく様は恐らくZ族の連中からすれば滑稽なものに映っているんだろう。
するとZEXから情報が飛んできて後ろからパタパタと慌てた様子の赤阪先生の姿が写った映像が表示される。
「どうかしました?」
「神原君~、World Linkはしていないんですか~?」
「へ? あれいるんですか?」
「いりますよ~、あれがないと指示が飛ばせませんので装着してください~」
「……すみません。部屋です」
「もう仕方がないですね~」
そう言いながら赤阪先生は自分のWorld Linkを外し、服の裾で綺麗に拭くと俺に手渡してくるがいささか抵抗を感じる―――しかし、先生のご好意を無駄にするわけにはいかないので俺はそれを受け取り、耳に装着する。
『着け心地はどうですか~?』
「うぉ!? ビックリした!」
パタパタと小走りで先生が戻っていったかと思うとWorld Linkから赤阪先生の声が聞こえ、思わず驚きのあまり身じろいでしまう。
「World Linkって通信もできるんですね」
『そうなんです~。一応、ZEXも通信機能が搭載されていますがZEX同士でしかできない機能なんです~。今度からはWorld Linkを忘れないようにお願いします』
最後の部分に伸ばしが無かったので恐らく若干怒っているんだろう。慣れる・慣れないの問題ではないということなのだろう。
『ではまずはフィールドを一周、ゆっくり動いてください~』
指示に従い、フィールドをゆっくりと歩き始める。いつもとは違う視界の高さに少し戸惑うが歩く速度もタイミングもいつもと同じ感覚。
試しに走ってみるがそれも同じ。
入試の日は必死だったから気づかなかったけどZEXを纏う前と後でも俺の指示と全くのずれがなく、体を動かせるのは本当にすごい技術だと思う
『頭部ギアから脳の電気信号を受け取って動かしていますからね~』
「……先生は超能力者ですか?」
『ちょっとした推測です~』
さっきは俺の表情が見えたからまだ分かるが今は先生との距離も離れており、表情を見ることなどできないはず。
別ベクトルで怖いというのはそう言う意味合いもあるんだろう。
『では今度は飛行してみましょう~。頭の中で浮かび上がるのを想像してください~』
そう言われ、試しにハトが空を飛んでいる光景を想像するとウイングパーツがバサッバサッと動き始め、ゆっくりと上がっていく。
『今、ハトが飛んでいるのを想像しましたね~』
「……心だけじゃなくて頭も読めるんですか」
『ふふふっ。今はその想像で良いですよ~。慣れてくれば無意識に飛べますし、上級者は通常の移動の際はウイングパーツは使わなかったりしますからね~。では少し時間を置きますので自由に飛んでみてください』
「ふむ……じゃあ」
ウイングパーツを動かしたまま体勢を前に少し動かすとゆっくりと前方に動き始め、右に左にと飛行を始める。
試乗会の際は地上での戦闘だけだったので飛ぶのは初めてだけど案外簡単―――に思える程、ZEXの機能が素晴らしい。
指令室で見ていた他の皆に比べるとまだまだ固い動き方だけど確かに慣れれば無意識で飛べるというのも納得だ。
『では神原君、初期位置に戻りましょうか~』
目の前に初期位置となるポイントに印が表示され、俺はそこにまっすぐ降り立つ。
『ではこれから模擬ゼータ君を起動しますのでよろしくお願いします~』
「分かりました」
俺は視線を模擬ゼータ君に移すとZEXから模擬ゼータ君に関する情報が送られてくる―――すると一瞬だけデータにノイズが走った。




