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ZEXアドベント  作者: ケン
第1章

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第八話

 次の日の朝、一年一組は学園指定の体操服を着て第一アリーナの指令室に集合しているがあまりの居づらさに俺は今すぐにでもこの場から消えたかった。

 なんせ周りはZ族しかいないので平民である俺を避けるためにか物理的に距離を開けており、目すら合わせようとしない。

 すでに昨日で友人グループは出来上がっているのでそのグループで盛り上がっている。


「……はぁ」


 ここは実技授業や各種行事の指示・伝達を行う場所らしく、最新機器のオンパレードだ。

 ちなみに今日は第一から第四アリーナを全て学年が貸し切り、振り分け試験を一日かけて行うらしい。一クラス四十人なので先生たちは大変だ。


「体操服でZEX操作するとかダサすぎ~」

「早くスーツ届かないかな~」


 皆、口々に不満を漏らす。

 本来ならZEXを装着する際に専用のスーツを着ないと操縦に影響が出るらしいが今日は操縦レベルの確認をするだけなので良いとのこと。


「は~い、皆さん集まりましたね~」


 今日は赤阪先生もうちの姉もジャージ姿で参加している。赤阪先生は記録を取るためかタブレット端末を抱えるように持っている。


「では本日は~、ZEXの操縦レベルを計測していきますね~。実技授業ではクラス合同でレベル別で行います~」

「それはどうやって測るんですか?」

「良い質問です~。模擬ゼータ君と戦ってもらいます~」


 赤阪先生がタブレット端末で何やら操作を始めると前方の空間に映像が投影されてそこに模擬ゼータとやらの姿が映し出される。

 背中から生える二対の翼、相手を切り殺す鋭い爪に臀部の辺りからは刺々しい突起物が無数に生えた尻尾、若干の猫背な姿勢、そして口からうっすらと見える鋭い牙。

 カラーリングは誤認を防ぐためか黒で統一されている。本来のゼータは茶色だ。


「この模擬ゼータ君にはAIが搭載されていますので本番の戦闘に近い模擬戦を行うことが出来ます~」


 赤阪先生の柔らかくて優しい説明を受けるが皆の顔には不安という二文字がありありと書かれており、それは俺も例外じゃない。

 そんな空気を察して赤阪先生は続ける。


「AIには実技授業でどのレベルが相応しいかを測ることを学習させていますので皆さんが傷つくことはありません~」


 ニコッと赤阪先生が安心を与える意味で笑顔を浮かべるとそれにつられてか皆の顔から不安の二文字が少しずつ消えていく。


「出席番号順で測定を行っていく。待機生徒は指令室で静かに待機しておけ。それと神原」

「はい?」

「お前は最後だ」


 俺はそう言われてキョトンとしてしまう。そんな表情を見て姉ちゃんは盛大なため息を吐いてしまう。


「ZEXの使用経験が浅いお前に怪我をされては困る」

「は、はぁ」

「ではまず出席番号一番のリリシア・アリスフェルトさん~」

「はい!」


 名前を呼ばれた金髪の女子が少し緊張した面持ちで赤阪先生と共にZEXが格納されている倉庫へと向かう。


「一回の測定は約二十分だ。その間、私からZEXに関する講義を行う」


 全員がピンと背筋を伸ばし、姉ちゃんの方を向く。

 なんせ講義をしてくれるのがあの殲滅隊隊長だ。常に最前線でゼータと戦い続け、その腕っ節だけで最強の隊長職にまで上り詰めた。

 ゼータの生態に関する知識やZEXの操作技術は世界で一番と言っても過言じゃない。


「ZEXには二種類存在する。我妻、答えろ」

「は、はい!」


 緊張した面持ちで立ち上がったのは俺に絡んできた三人組のうちの一人だ。


「汎用機体と専用機体です! 汎用機体はワイバーンシリーズとドラグーンシリーズが」

「おい」


 相手が意気揚々と喋っているところを無理やり遮ると本当に鬱陶しそうな表情を浮かべながら我妻さんに圧をかける。


「私はZEXの種類を答えろと言ったんだ。誰が汎用機体のシリーズ名を答えろと言った。お前は戦場で指示に対して付け加えをするのか?」

「え、あ、いや」

「余計なことは喋るな。質問の答えだけを言え」

「は、はい」


 我妻さんは見るからにしゅん、と肩を落とし、着席する。

 皆の前で圧をかけながら詰められたら誰だって委縮する。ただ絡まれた身としては少しスッキリした気分だ。


「汎用機体も専用機体もそれぞれゼータの亡骸を素材として作られている。主に下龍種、上龍種と呼ばれている個体を素材に使う。下龍種は個体数が多く、戦いの際に遭遇する確率が最も高い。戦闘技術をキチンと磨けば数を相手にしない限り学生でも撃破が可能だ」


 指令室内が嫌なほどに静まり返り、姉ちゃんの声がよく聞こえる。

 この時代を生きる誰しもがゼータの脅威に怯え、過ごしており、この中にも家族や大切な人をゼータに殺された経験を持つ人だっているかもしれない。


「そして上龍種。こいつを学生で撃破できるのは極僅かだろう。下龍種の群れを統率する個体だがこの個体の強さは下龍種とは比較できない。ないと思うがこの個体に遭遇した場合は君達ならすぐに逃げろ。生きることだけを考えてな」

「そんなに強いんですか?」

「そうだな……分かりやすく言えば殲滅隊の一般隊員は漏れなく殺される」


 姉ちゃんの口から放たれた言葉にクラス全員が言葉を失い、あたりが沈黙に包まれる。

 殲滅隊の入隊条件は学園での成績上位者が五十人受けたとしても隊員枠での採用は毎年、五人以下で年によっては全員落とされるという年もある。

 だから大体の生徒は技術者として入隊するか兵装開発の企業に入るか、もしくは一般企業に入社するかだ。海外出身の生徒ならば母国のZEX部隊に入隊するという手もある。

 そんな選ばれし実力者たちである一般隊員でさえ漏れなく殺されるともなれば上龍種の強さがケタ違いであることは分かる。


「話を戻そう。ZEXを作成する際には下龍種を百体、上龍種であれば十体の亡骸が必要となる。現状、全世界に配備されているZEXは八百機だが二十機は専用機体、四十機が教育用として学園に配備されているので実質は七百四十機。それを各国の経済力や軍事力を考慮したうえで分配されている」


 すると姉ちゃんの真横にアリーナで行われている振り分け試験の様子が映し出される。

 模擬ゼータ君の動きは外から見ている俺達からするとそこまで速い動きには見えないが戦っている当人は避けるので精一杯の様子だ。


「一つ言っておくがこの振り分け試験で模擬ゼータを倒そうと思うなよ」


 恐らく今の時点で模擬ゼータ君を倒せるのは専用機体を持っているあの女の子だけだろうし、ここにいるみんな倒そうだなんて思っていない。


「では次にZEXの機能に関して。まず、背部・脚部のスラスター、ウイングパーツ、自動姿勢制御などの機能を組み合わせることによって飛行が可能だ。ZEX科であってもこの詳しい理論を知っておく必要はあるので今後の授業をよく聞いて理解しろ」


 一番のアリスフェルトさんは翼をうまく使いこなし、アリーナ内を縦横無尽に飛び回って模擬ゼータ君の攻撃をかわし続ける。

 すると彼女の手に光の粒子が集まったかと思えばアサルトライフルへと変わる。


「そしてZEXの兵装についてだ。ZEXには機体ごとに搭載容量(ストレージ)が決まっている。汎用機体ならば武器種にもよるが五種~十種の搭載が可能だ。遠距離兵装もあれば近接用ブレードなどの兵装も存在する。今、アリスフェルトが使っているのはアサルトライフル《ストームレイジ》だ」


 その時、模擬ゼータ君の爪による一撃がアリスフェルトさんの胸部を切り裂き、激しく火花を散らせる―――衝撃に彼女は苦悶の表情を浮かべるが肉体に傷はない。


「ZEXには搭乗者保護機能がある。エネルギーバリアによって搭乗者の生命を保護しているわけだがバリアも過信してはならない。強度はZEX装甲のダメージレベルに依存する。装甲が五割以上、破壊されればバリア機能は半減する。バリアの過信は死に直結する」


 要するに装甲=バリアであり、装甲が破損すればバリアの出力が弱まってしまうという事。

 でも生身を傷つける危険性が出てくるのはゼータとの実戦だけの話であり、模擬戦を含む対人戦などの競技の中ではバリアを貫く威力の兵装は使用が禁止されている。

 だから対人戦という範囲では怪我の心配はほとんどない―――らしい。


「は、はい」

「なんだ、神原」

「対人戦の勝敗ってどうつけるんですか?」

「ZEXのダメージレベルがCを超えるか、もしくは搭乗者が戦闘続行不可能になるかだ」


 つまり搭乗者を守るバリアが無くなる寸前までダメージを負えば自動的に敗北となるから対人戦では怪我の心配がほとんどないわけか。

 ただ後者の搭乗者が戦闘続行不可能という状態がどんな状態なのかは気になる。


「そろそろ終わるな」


 姉ちゃんの言う通りアリスフェルトさんの体力も限界に近いのか先程と比べて息も絶え絶えで回避のスピードも遅い。

 そんなことを考えていると終了を告げるブザーが鳴り響き、両者ともにアリーナのフィールドへと降り立つ。

 降り立った生徒の下に補助の上級生たちが近寄っていく。


「ZEXに補助機能が多数あるとはいえ、動き回る以上は基礎体力が必要だ。よって諸君らも授業が本格的に始まれば体力増強に励んでもらう」


 自動ドアが開き、指令室にアリスフェルトさんが戻ってくる―――が、両脇を上級生に抱えられており、まるでマラソンを完走した後の様に呼吸が乱れている。

 上級生の補助を受けながらなんとか椅子に座った彼女に話し掛けに行く生徒は誰もおらず、周囲の連中は顔を引きつらせている。


「貴様たちは今まで浅瀬でぱちゃぱちゃする程度のZEX実習しかしてこなかっただろうがこれが現実だ。他の連中がどうなるか楽しみだな……次」

「は、はい!」


 次の男子が呼ばれるがその声には不安の色が見て取れた。

 上級生に連れられて格納庫へと向かう後ろ姿からは不安や恐怖といった感情が漏れ出ており、その足取りもどこか重い。


「さて、何人医務室行きになるか。楽しみだ」


 そう言う姉ちゃんの横顔は笑っているように見えた。

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