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ZEXアドベント  作者: ケン


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7/7

第七話

「―――……ぉ? ……寝すぎた」


 ぱちりと目が覚め、スマホで時間を確認してみるとすでに時間は二十時を回っており、慌ててタブレットを確認してみると五分前に赤坂先生から風呂の使用許可メッセージが入っていた。

 俺は慌てて風呂セットを持ち、コンテナハウスから出て一年生の寮へ向かって小走りで向かっていると前方に見覚えのある女子の姿が見えた。


「あれは……」


 既に今日の活動を終えているのか上下ジャージに身を包んでおり、夜空をボーっと眺めながらどこか遠くの方を見ていた。

 邪魔をしないようにと歩くスピードをゆっくりとしたつもりだったが足音が彼女の耳に届いたのか彼女が俺の方向を振り向いた。


「ぁ……ごめん。邪魔した?」

「……」

「それとあの時はありがとう。助けてくれて」

「?」

「あの時はありがとう」

「What are you talking about?」


 最高の笑みを浮かべながらお礼を言うが返しの英語が全く聞き取れなかったためにとりあえず愛想笑いを浮かべながらうんうん、と頷く。


「あ、え、えっと……こんな時なんて言うんだ? パードゥンだっけ? あ、でも日本語でオッケーなのか」

「World Link」


 翻訳アプリで別の表現を探しているとあまりにも発音の良い英語が聞こえてくるけど発音が良すぎて全て聞き取れなかった。


「へ? わ、わるりん?」


 どこぞやのパズルゲームにそのような名前の敵キャラがいたような気がする。

 確か特定の種族タイプの攻撃力を倍にする効果持ちだった―――でも彼女がそんなことを言うはずもなく、俺は慌てふためいて似たような単語を片っ端から探していく。

 少女は俺の慌てっぷりを見て小さくため息をつきながら耳に装着しているイヤホン型のデバイスを何回か小突く。

 それを見て思い出した俺は慌ててポケットに入れていた物を取り出し、耳に装着する。


「ごめんごめん。で、なんて?」

『なんのためのWorld Linkだと思ってんの? あんた馬鹿なの?』

「あ、意外と口悪い」

『なに? 文句あんの?』


 思いっきり暴言を吐いてしまい、相手から強く睨み付けられる。


「い、いやいや……あ、あの時はありがとう! お礼が言いたかったんだ」

『お礼? 何の話?』


 一瞬、謙遜かとも思ったけど彼女の表情から考えると本当に俺が何の話をしているのか理解できないでいるようだった。


「ほら、入学式の前に絡まれてる間に入ってくれただろ?」

『ごめんなさい。バカが多すぎて覚えてないの』


 それは彼女の本音であることは彼女の表情からわかる。心の底から呆れている表情をしている。

 彼女のようなZ族の中でも選ばれた者からすれば気にも留めないどうでもいいことなんだろう。


『あいつらみたいなバカとは違うの。気にするだけ無駄だし、視界にも入れたくないわ。もちろんあなたみたいな平民もね』

「辛辣ぅ……な、なるべく君の邪魔にならないようにはするよ」

『そうしてくれると助かるわ。私があなたみたいな平民と同じクラスなのかも理解不能だけど』


 大体、一組に配属される生徒は生徒指導面からみて問題がある生徒、もしくは力のある教師が必要だからという理由が多いらしい。

 恐らく平民の新入生と言う歴史上類を見ないほどの問題児を取り扱えるのは姉ちゃんしかいないだろうし、真逆の存在である彼女を扱えるのもまた然りだろう。


「そ、そうだよな……ま、まあとにかく迷惑はかけないからさ」

『そうしてちょうだい。私は遊びに来たわけじゃないから』


 彼女は最後にそう言い残すと腰に下げた鞘を揺らしながら一年生女子寮へと戻っていく。


「……専用機体(オリジナル・シリーズ)……か」


 平民の俺でも名前くらいは知っている。

 Z族の中でもほんの一握りにしか使用を許可されないという通常のZEXを優に超える絶大な力を持つZEX―――それを持つ者は国の威信を背負い、人類の期待を一身に背負う人類の宝。


「……風呂入るか」



――――――☆――――――

「……今日は流石に何もないか」


 誰もいない真っ暗な職員室で一人、春夏はパソコンに表示されている映像を見ていた。

 パソコンに表示されている映像は彼女が密かに秋冬の制服に仕掛けておいた小型カメラから送られてきているもの。

 これもすべては秋冬を守るための術。


「仕掛けてくるとすれば……明日の朝、食堂あたりか」


 今日は時間を分けるという方法でZ族の連中との接触を断つことができたがこれから一年間、毎日同じ方法を使うことなどできるはずもない。

 もちろん彼が自分で対処できるようにならなければこの学園で平穏に過ごすことなど不可能。


「ZEXから遠ざけていたのに……よりによって動かすとはな」


 春夏はコーヒーを飲みながら独り言をつぶやいていく。

 その意味を理解できるのは彼女ただ一人だけ。


「安心しろ、秋冬……お前は必ず私が守る……どんな手を使っても」


――――――☆――――――

「ほぇ~、ここが食堂」

「はい。寮は男女学年に分けて設置されていますからこの規模の食堂があと五つあります」


 風呂から上がった俺は夕飯を食べるために門限を過ぎた後の食堂へと案内されていた。

 俺が想像していた食堂はもっと庶民的な雰囲気で学生が集う場所、といった感じだったけどZEX学園の食堂は一級ホテルのレストランのそれだ。

 天井にはシャンデリアが吊るされているし、テーブルも塵一つ見えないくらいに綺麗にされているし、テラス席もある。


「こ、こんなところで皆食べてるんですか?」

「はい。私もたまに食べに来ますよ」

「は~」

「ちなみにこれがメニューです」


 赤坂先生に渡されたメニューに目を通すが何を書いているのかさっぱり分からない。

 メニュー名がずらっと並んでいるんだけど名前を見ただけじゃそれがどんな料理なのか、どんな食材を使っているのかすらピンとこない。

 俺はもっとチャーハンセットとかラーメン大盛とかが食べたいのに。


「……ちなみにもっと庶民的な食堂は」

「? この食堂も十分、庶民的ですよ? これでも最高級レストランの内装からはグレードを下げた建築資材を使っていますから」


 優しくて忘れていたけど赤坂先生もれっきとしたZ族であり、上流階級で過ごしてきた人だから庶民的という意味を知らないんだ。

 困ったものだな。


「食事をとるところはもう食堂しかないんですか?」

「一応、売店? という物もありますがあまりみんな使いたがりません」

「な、なぜ?」

「ん~、生徒たちからよく聞くのは貧乏くさいから、ですかね」

「ぜ、ぜひそこを案内してください!」

「残念ですが売店は夕方十七時で閉まっちゃうんですよ」

「そうですか……じゃあとりあえず今日はここでご飯を食べます」

「はい、そうしましょう。神原君は何を食べますか?」


 再びメニューを渡されて想像つかない料理名を見ていくが正直、一般庶民の俺からすればどれも同じような料理にしか見えない。


「先生のおすすめでお願いします」

「そうですか? じゃあ」


 赤坂先生はメニューを持ちながら不機嫌な顔で待機していた男性にメニューを伝えると赤坂先生には笑顔を向けるが俺には聞こえるくらいの舌打ちをかまして厨房へと戻っていく。

 平民のくせにZ族の俺を残業させやがって、的な感じなんだろう。

 ZEX学園で働いている職員は技術者を除いて全員がZ族だ。

 どうやら俺は同い年や先輩だけではなく、ここの職員にも気を付けないといけないようだ。


「料理は運んできてくれますから席で待ちましょう」

「あ、はい」


 赤坂先生に促されて近くの席に座るが待ってましたと言わんばかりに赤坂先生は距離を詰めてくる。


「な、なんでしょう?」

「疑問なんですけど……神原君は平民ですか?」

「ま、まあ……一応、両親はZ族だったらしいんですけど……Z族としての地位を返上して普通に働いていたそうですけど」

「物好きなZ族もいるものですね」

「そうですね……まぁ、今となっては俺を守るためだったのかなって思いますけど」

「ご両親は今回の件にはなんと?」

「あ、両親はもう死んでるんです。俺が幼いときに」


 俺も幼すぎたので正直、記憶にはほとんど残っておらず、物心ついた時には俺の傍には姉ちゃんと日によって変わるお手伝いさんがいたくらい。

 昔、一度だけ姉ちゃんに聞いたことがあるけどどうやら俺の両親は事故に巻き込まれたかなんかで死んでしまったらしい。


「そうだったんですね……ごめんなさい」

「あ、いえ。別にいいんです。ほとんど両親の記憶なんてないんで」


 赤坂先生と話している最中、先ほどの男性が俺の晩御飯となる料理を運んできてくれたがあからさまに不機嫌そうな顔を浮かべ、ドンッ! と音を奏でながらテーブルに置き、去っていく。

 先生の前に置いたこーひは静かに置くという当てつけも忘れずに。


「じゃあ、神原先生が親代わりとして」

「そうですね。うま……姉ち……姉には感謝してます」

「じゃあ猶更、ここでも必死に頑張らないといけませんね!」


 赤坂先生の中では立派なZEX操縦者になれよ、という意味合いを込めているんだろうが正直、今の俺の中にZEX操縦者になりたいという想いはさらさらない。

 今回、何の因果かZEXを動かしてしまい、ほんの少しだけZEXへの憧れも思い出したけどZ族の連中を見ているとやっぱり俺には無理だ。

 俺はやっぱり平民の中でこれまで通り普通に暮らしていきたい。


「ま、まあ姉の顔に泥を塗らない程度には頑張ります」

「私も全力で応援しますね!」


 赤坂先生の純粋な応援の言葉と笑顔に若干の気まずさを覚えながらも俺はとてつもなく美味しい晩御飯に舌鼓を打つのであった。

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