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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第三十八話

「作戦終了を確認。これより各隊、回収可能な亡骸を捜索せよ」


 映像に映し出されている光景には一体の亡骸も見当たらないが隊としての仕事を果たさせるべく、春夏は現場の隊員たちに指示を出す。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)の一撃によってあの場に存在していたゼータたちは存在ごと抹消されたかのように姿が消えていた。

 まるで悪しき存在だけを切り裂いたかのように周辺の環境には一切、後傷を残さずに。


「これが専用機体(オリジナル・シリーズ)の力か……悪しき存在であるゼータを消滅させる力……意地汚い上層部が嫌う力だな」


 ZEXはゼータの亡骸を使用して作成されている以上、ゼータの亡骸をどれだけ回収できるかが上層部の機嫌のパロメータを決めている。

 しかし、前回の中型住処の一件と言い、今回の一件と言い、意地汚い大人たちが欲していた進化個体の亡骸は存在ごと消滅している。

 この後、春夏は上層部からの小言を聞くことになるだろう。


「さて……どういう言い訳を考えようか」


 総司令から呼び出されている主なテーマは確実に秋冬が持つZEXの話だろう。

 稀代の大天才が作り出した今までにないZEXである以上、各国の研究対象になるのは間違いないがそれを持つのがZEXを動かした平民ときた。

 まさにカモがネギを背負っている状態と言えよう。


「隊長、顔色が優れませんが」

「まあな……あ、そうだ。AIに聞いてくれないか?」

「何をですか?」

「総司令のご機嫌を取りながら今回の一件についての言い訳を」

「おそらくAIでも弾きだせない言い訳かと思いますが」

「それもそうだな」


 オペレーターの言い返しに苦笑いを浮かべながら春夏は指令室を後にする。

 彼女から出ているオーラは怒られにいく生徒に似ていた。



――――――☆――――――

「ふむふむ……やっぱりオーバーエナジーはゼータの再生能力を無視できるんだね」


 どこかからか撮影していた映像を見ながら独り言をつぶやくあずさは椅子を器用にクルクルと回転させながら天井を見て何かを考える。

 彼女にとって進化個体のデータなどはどうでもよく送られてくる超過起動のデータこそ彼女が欲しているもの。


「ゼータの中にありながらゼータを倒すエネルギー……いや、ゼータの生命活動を支えるものであるからこそゼータを倒せるのかな? ま、どっちでもいいけどね」


 その時、モニターの映像が切り替わり、画面にどこかの映像が映し出されるとともに何かがぶつかるような音が響き始める。

 まるでその音は檻を破壊しようとする獰猛な獣が出すような音だった。

 あずさはその映像を見るや否や鬱陶しそうな表情を浮かべ、キーボードを数回叩いて何かしらの指示を出すと映像を画面から消し去る。


「最近、よく暴れるようになったねぇ……そろそろ殺処分しないといけないかな?」


 彼女の表情と紡ぎだす言葉が全く釣り合っていない。


「ま、別にいいか。どうせもう少ししたら動かなくなるんだし……君は今までの被検体みたいなことにはならないでね? 期待しているんだからさ」


――――――☆――――――

「イデデデッ!」

「Don’t move! I can’t stick it on!」


 学園の医務室に響き渡るのは俺の痛みに悶える叫びだった。

 いつものように殲滅隊の事情聴取が終わったものの長時間、ZEXを起動していた反動として全身が筋肉痛に襲われており、歩くのも一苦労な状態だ。

 それに戦闘中にWorld Linkを外したせいでグレイシアの言葉もよく分からない。

 多分、動くなって言っているんだろうけどそれも雰囲気でしか分からない。


「随分と悲痛な叫びですね~」

「赤坂先生……イツツ」

「とりあえずこれ、予備のWorld Linkです~」


 赤坂先生から箱を受け取るが体が痛すぎてそれどころではないのでとりあえず枕元に置くがやけに先生はニヤニヤとした表情を浮かべて俺を見てくる。


「You’re smiling… did something happen?」

「いえいえ~……これから大変そうだなって思って~」

「大変? 誰がですか?」

「神原君がですよ~。ほら、これ」


 そう言いながら先生が見せてきたスマホには一つの動画が再生されており、それを見た俺とグレイシアは思わず驚愕の表情を浮かべて顔を見あう。

 再生されていたのはお兄さんとグレイシア、そして俺がグロウルートと戦闘を繰り広げている映像でもちろんそこには俺のZEXを展開している姿も映っている。


「うぇぇ!? お、俺のZEXも映ってる!」

「Your school life is over」

「な、なんて……お~い! 今なんて言ったんだよ!」


 グレイシアがため息交じりに放った言葉がやけに冷たかったような気がしてベッドに横になったまま彼女に問いかけるが首を小さく左右に振るだけで何も言わない。

 むしろそんな反応をされた方が俺としては不安が大きくなる。


「とにかく~、明日からは身の回りを気を付けないといけませんね~」

「はぁ……ただでさえ目つけられてるのにもっと酷くなるのか」

「That’s true, but don’t you think you should have a bodyguard?」

「そうですね~」

「な、なんて?」

「とにかく当分、神原君は外出は控えておいた方がいいですね~」


 馬鹿な俺でもわかる。

 学園内であればZ族の連中の面倒くさいやっかみだけで済むけど一歩外に出れば俺のZEXを狙う存在が襲い掛かってくることだってあり得る。


「ですよね」

「Well, I’ll take care of the school trouble for you too」

「ですね~」

「さっぱりわからん」

「とりあえず明日はゆっくり休んだ方がいいですね~」


 確かにこの全身筋肉痛の状態では動くのもままならないので休みたいところではあるがただでさえ遅れている勉強が余計に遅れてしまうのでそれは避けたい。


「リモートで受けられたりしませんか?」

「ん~、出来なくはないですけどここはしっかり休んでおいた方がいいですよ~」

「でも欠席したら勉強が遅れるから」

「Anyway, you need to get some proper rest. I-I’ll take care of your studies for you」

「……」


 今俺の頭の中では彼女に対して何か返答しなければと様々な選択肢が出ている。

 一つはソーリー、もう一つはサンキューだ。

 無難な方で行くのであれば後者で行くのが良いんだろうけどお説教やお小言に対してサンキューを言ってしまうと嫌味にしか聞こえない。

 状況と彼女の声音から察するにお説教やお小言ではないのは間違いないんだがあくまで推察だ。


「ソ、ソーリー」

「……You idiot……」


 間違いなく言えるのは選択肢を選び間違えたということだ。

 その時、ドアが開かれたのでドアの方を見るとそこにはキャリーケースを持ったグレイシアのお兄さんが立っていた。

 空気を読んでか赤坂先生はお兄さんに会釈しながら病室を後にする。

 チラッとお兄さんは俺の方を見る。


「そう不安そうな顔をしないでくれ、ウィルミナ」

「……日本語ぺらぺら」

「当たり前だろ。世界を飛び回って商売をしているんだ、外国の言葉くらい話せる」


 World Linkという万能でお手軽が翻訳機があるこの世の中で外国の言葉をネイティブ並みに話せるのは貴重な存在だと思う。

 専用機体を国から与えられているのも加えて優秀さが際立っている。


「What do you want?」

「まぁ、そう棘のある言い方をしないでくれ。このキャリーケースは僕の荷物だ」

「……ということはもう帰るんですか?」

「あくまで日本に来たのはウィルミナを連れ戻す算段を立てるのと取引先との商談をまとめるため。この二つが完了したら帰るさ。仕事は山ほどあるからね」


 グレイシアを連れ戻す算段が付いたということは学園の上層部が退学を承諾したということになり、彼女は学園から去ることになる。

 俺もグレイシアも望まない未来が確定したことを受けて沈んでいるとお兄さんが小さく笑みを浮かべながら傍にあった小さな椅子に座る。


「ウィルミナ……君はこの学園に残って学べ」


 お兄さんが出した結論に俺もグレイシアも目を点にし、何も言葉が出せなかった。

 ついこの間までグレイシアを祖国に連れて帰るって息巻いていた人が突然、残って勉強しろと言い出したらそりゃ誰だって言葉を失うだろう。


「な、なんでまた突然」

「ウィルミナは祖国でも約束された勝利の剣(エクスカリバー)を創造することは出来なかった……でもここで創造することが出来た……たまたまだったかもしれない。彼女にとって成長することが出来る場所がここだと判断したまでさ」

「は、はぁ」

「正確に言えば……場所と……人、かな」


 お兄さんがチラッとグレイシアを見ると小さく笑みを浮かべて立ち上がり、キャリケースをもって病室の扉を開く。

 と、何か思いだしたかのように立ち止まるとこちらを振り返ると胸ポケットからメモ用紙を取り出し、ボールペンで走り書きすると俺の枕元にそれを置く。

 置かれた用紙に書かれていたのはLIMEのアカウント名と電話番号だった。


「もし何かあったらいつでも連絡してきなよ。可能な限り、面倒見てあげるからさ」

「あ、ありがとうございます」


 世界が誇るグレース社の若き御曹司の私的な連絡先を知っている人間など数えるほどだろう。


「Wilmina, take good care of him, alright? He’s someone who will help you grow.Oh, and when the time comes for him to become your husband, I’ll gladly give you my blessing」

「っっ!?」


 俺には分らない英語のセリフを残してお兄さんは病室を後にした。

 日本語だけではなく英語までぺらぺらに話すお兄さんを見てかっこいい、と思っているとグレイシアが何やら震えているのに気付いた。


「グレイシア? どうし―――」

「There’s nothing going on! Don’t look this way, you idiot!」

「イデェェェェ!」


 顔を真っ赤にしたグレイシアに張り手が背中に叩きつけられた直後、病室どころか建物全体に響き渡るほどの絶叫が木霊した。



――――――☆――――――

「この件について教えてくれるかな? 神原隊長」


 殲滅隊基地の中でも限られた権限を持つ者しか入室を認められない総司令室にて初老の男性と春夏が対峙していたが室内の空気は最悪なまでに重苦しかった。

 出されているお茶は湯気を上げているが室内はそれすら凍り付くんじゃないかと思うほどに冷え切ってしまっている。

 テーブルにはタブレットが置かれており、件の動画が再生されていた。


「弟さんがどうして未知の専用機体(オリジナル・シリーズ)を所持しているのか」

「葉山あずさが接触し、弟に渡したようです」

「ふむ……別に隠さずとも私にだけでも教えてくれればよかったのに」

「総司令にお伝えしたところで上層部に伝わるのは確定ですので」

「ま、そうなんだけどさ……困ったな~」


 初老の男性は蓄えた立派な白髭を撫でるように触りながらそう呟く。

 そんな困り果てている総司令を置いて春夏は落ち着いた様子で出されたお茶を啜り、一緒に置かれている茶菓子まで口にする。


「ただでさえ平民がZEXを動かしたってだけで上層部はお怒りだというのに……加えて葉山あずさが作り出した未知のZEXを所持ときた」

「とりあえずあのバカは処刑します」

「うん。そっちは君に任せるよ……不幸中の幸いはあの子が学園所属だということ」

「学園内のやっかみは本人に処理を任せるつもりです……むろん、私も目を光らせますが」

「そうだね。上層部の方はこちらで処理しておくよ」

「ありがとうございます」

「まぁ、学園に戦争を吹っ掛ける愚か者はそうそういないからまだ安心かな」


 ZEX学園には教育目的という名目で多数のZEXが配備されており、ZEX用の兵装もグレース社をはじめ世界各国から供与を受けている。

 そんな学園にひとたび、戦争を仕掛けようものならば非常事態宣言が発令されて全ての教員がZEXを装備して対処にあたることになる。


「外側からの脅威はまだしも内側からの脅威に対抗できるかが不安です」

「……裏切り者がいるかもしれないということかな?」

「組織という物はいついかなる時代でもそういうものです」

「そうだね……これから彼についてはどうするつもりなのかな?」

「最終ゴールは整備科への転科です」

「整備科か……でも整備科に移せば君の領域から外れるんじゃ」


 それ以上は口を出すなと言わんばかりに春夏は湯呑をわざと音を立ててテーブルに戻す。

 それを聞いた総司令はにやりと口角を上げながらそれ以上の追及はしなかった。


「護衛をつけようか。彼に」

「そうですね……目星はつけてあります」

「仕事が早いね~……頑張るのは良いけど無理はしないようにね」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 春夏はそう言うと立ち上がり、一礼したのちに総司令室を後にする。


「……秋冬を離せればそれでいいんだ」


 彼女にとって世界に一つしかないZEXが秋冬の手から離れ、それがどこの研究機関に回ろうがどうでもいいことだった。

 優先するべきは秋冬の生命、果ては人生そのものの安全―――そして幸福。


「秋冬……ここからは容赦しないぞ」

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