第三十七話
「だぁっ!」
近接用ブレードを振りかざし、小型ゼータの一体を一刀両断すると同時に振り返りざまに横なぎの一撃を放つと首から真っ二つに切断する。
同時にアサルトライフルを展開して近づいてくる数体を連射にて打ち抜くが瞬時にアサルトライフルが塵となって果てていく。
兵装リストを展開して残りを確認するがどれも高威力なものばかりでこの戦況に合わないものばかり。
「あとはこのブレード一本だけってか!」
飛び掛かってくる一体に向けて勢いよく突きを繰り出すと切っ先がゼータをいとも簡単に貫通する。
直後、数体のゼータが次々に真っ二つに切断されていく。
『動きを止めるな!』
「はい!」
意識を集中させ、まずは向かってくるゼータたちを迎え撃つ。
ただゼータの数は減る気配は全く見せず、それどころか増えてるんじゃないかと思うくらいにこちらに向かってくる個体数が多い。
事実、前方から突撃してくる数は今まで以上に多い。
「だったら一気に消し飛ばして」
『ダメだ。見たところ一撃放てば塵になるんだろう? その威力は最後に取っておくべきだ』
「一撃ってわけじゃないですけど……塵になるタイミングは分かりません」
『ならなおさらだ。グレイシアが創造できなかった時のセカンドプランとして置いておく』
「……分かりました!」
突撃してくるゼータたちを視界に収め、ブレードを握り締めた瞬間、ゼータたちを貫いてグロウルートの触手が俺たちめがけて突っ込んでくる。
何とかブレードで受け止めるが勢いを殺しきれず、後ろへと押し出される。
すぐさまお兄さんの斬撃で触手が切断されるがすぐさま再生し、今度はお兄さんめがけて触手が振り下ろされ、すぐさま離脱する。
「まだまだここからっ!?」
すぐさま飛び立とうとした瞬間、装甲の輝きが消えうせてしまうと同時に全身が凄まじく重くなり、思わずその場に膝をついてしまう。
額から汗が滝のように落ちてくるのが分かり、鼓動もいつもよりも早くて息苦しい。
「ハァッ……ハァッ……な、なんだこれ」
『三十分が今の君の超過起動の連続稼働時間だね』
「は、博士……ハァッ」
『超過起動による反動はなくともZEXを稼働させる体力が君には足りないみたいだ』
「こんな……ところでっ!」
後ろには約束された勝利の剣を生成しているグレイシアがいる以上、こんなところで立ち止まるわけにはいかないが体が動こうとしない。
いや、動かせなかった。
足は限界が来ているのか震えて使い物にならない。
『秋冬! 離脱しなさい! これ以上は体がもたないわ!』
「大丈夫だ! グレイシアは集中してろ!」
『でももう体が限界なんでしょ!? これ以上は無理よ!』
確かに彼女の言う通り体は限界を迎えており、立ち上がれる気もしない。
でもここで勝手に限界だと決めつけて立ち止まっていればグレイシアを学園に留めておくことは出来ないし、何よりこの戦いに勝つことなんてできない。
その時、俺たちを覆うように影が出来たかと思えば全ての触手が解放され、再生を終えたグロウルートがその巨体を地面から完全に出していた。
「で、でかい」
『秋冬! 離脱するのよ!』
「離脱なんかしない……ここで……ここで逃げたらお前を失うのと同じだからな!」
近接用ブレードを地面に突き刺し、杖代わりにして何とか立ち上がるがフラフラとよろめき、まともに立つことすらできない。
ただそれでも俺はここで限界を超える必要がある。
お兄さんを納得させるためにも、グレイシアを守るためにも―――そしてZ族の連中を黙らせるためにも今ここで限界を超えなければいつ超えられるのか。
「超過起動!」
装甲が黒紫色に輝きだすとともにウイングパーツが最大展開され、オーバーエナジーが流れていくことでエネルギーの翼が完成する。
「グレイシア!」
『っっ!』
「俺が見せてやる! グロウルートを倒す勝利の軌跡を!」
直後、邪魔な俺を排除するために無数の小型ゼータが俺に飛び掛かってくる。
近接用ブレードを握り締めようとしたその時、空から断続的な銃声が響き渡るとともにゼータがどす黒い体液をまき散らしながら倒れていく。
顔を上げると球体防壁の展開された部分から殲滅隊の隊員らしき男女十名がこちらに向かって急降下してきており、その手には銃器が握られている。
「隊長の命令だ」
『秋冬』
耳につけたWorld Linkから姉ちゃんの声が聞こえてくる―――その声音は隊長としてではなく家族としての声だった。
『もういい……お前がこれ以上戦う必要はない。下がれ』
「……姉ちゃん、ごめん。今だけは言うこと聞けそうにない」
俺はWorld Linkを取り外してその場に投げ捨てウイングパーツと各部スラスターを全開に吹かすことで一気に上空へと飛翔する。
球体防壁の天井ギリギリまで上昇した俺は超過兵装リストを開いて超長距離用の大砲を展開すると目の前に兵装が展開され、同時に装甲にケーブルが接続される。
「行くぞ」
超過兵装はZEXの補助を一切受け付けない特注品だ。
だからその重量は凄まじいもの。
大砲を握り締めた瞬間、その重量に従って俺の体が一気に落下し始めるがZEXの補助機能によって相殺されようとする。
「今は余計なことはしないでくれ」
俺の言葉が通じたかのようにZEXの全ての補助機能が一時的にOFFになった通知が表示され、先ほど以上の速度でグロウルートの頭上めがけて落下していく。
頭上に近づくごとに大砲にオーバーエナジーが充填されていき、徐々に黒紫色の輝きが兵装全体から放たれ始める。
「グレイシア! 見てろ! これが勝利の軌跡に繋がる一撃だ!」
グロウルートの頭上に砲口が突き刺さった瞬間、輝きが最高潮になると同時にオーバーエナジーのレーザーが放たれ、俺の視界は一瞬にして輝きに染まった。
――――――☆――――――
「な、なんだ!?」
『凄まじい威力だけどだれが出したの!?』
突如として発生した道の輝きに全員がうろたえるがグレイシアだけがこの場にいるもので唯一、その輝きを発した人物を知っていた。
周辺にいた小型ゼータも一撃に巻き込まれて消滅し、前方は大量の土煙によって覆われてしまい、どんな状況になっているかが見えない。
『……秋冬』
彼女の呟きを流すかのように風が吹き荒れ、舞い上がっていた土煙が徐々に晴れていき、そこに見えてくる状況を目の当たりにして全員が息をのむ。
グロウルートの触手以外が全て消え去っており、威力の凄まじさを物語っていた。
「た、倒せたのか?」
『まだだ! 核を打ち抜け! 少しでも再生を遅らせるんだ!』
全員のWorld Linkに響いたセグルドの怒声の直後、上空に球体が浮かび上がっていく。
それを見た全員が一斉に射撃を開始するがそれを守るかのように無数の小型ゼータが肉壁となってグロウルートの核の前に立ちはだかる。
まるで生み落としてくれた母親を守るかのようにゼータたちは喜んでその身をささげ、打ち込まれていく弾丸をその身で防いでいく。
そして一体、また一体と亡骸が増えていくがその亡骸たちが浮かび上がっては核の方へと吸い寄せられていき、残っていた触手と一体となって肉塊となる。
「周囲の小型ゼータを取り込んで再生する気だ!」
『なんとしてでも再生を遅らせるんだ!』
セグルドの見えない斬撃が、殲滅隊の隊員たちの銃撃が少しでも再生を遅らせようと放たれていくがそのどれもが肉壁によって防がれる。
やがて我先にとゼータたちが肉塊へと突っ込んでいき、徐々に肉塊が大きくなるにつれてグロウルートの肉体が再生されていく。
「グレイシアさん! まだですか!?」
『っっ!』
体をびくつかせながらも炎をより集めていくが約束された勝利の剣の創造は一切進んでおらず、持ち手すら完成していない状況だった。
このままいけば前回と同じように未完成のまま弾き飛ばされて燼焔の錬造神が解除されて丸腰になるだろう。
そんな未来がグレイシアの脳裏をよぎってしまい、炎が揺らぐ始める。
『またっ……創れない』
徐々に炎の揺らぎが大きくなっていき、グレイシアの不安も増していく。
今にも創造の炎が消え去ろうとしたその時―――
『グレイシア!』
World Linkから聞こえてきたのは秋冬の声。
周囲を見渡しても彼の姿は見えないがきっとどこかで待機しているんだろう。
『お前ならできる! こいつをぶっ飛ばして次の甘いもの食べに行くぞ!』
『……そうね』
秋冬と約束していた次の店にはまだ行けていない。
彼と一緒にスイーツを頬張る光景を思い浮かべたその時、創造の炎が激しく高ぶり始めるとともに彼女の脳裏をある光景がよぎる。
今までもやがかかったように見えなかった光景が今まさにはっきりとその目で捉えることができた。
その光景はまさに今、この場にいる全員が求めている光景だった。
『見えたわ……勝利の軌跡が……私が望む未来にお前は存在しない』
次の瞬間、創造の炎が激しく吹き荒れたかと思うと眩い輝きが放たれ始め、周囲の小型ゼータたちを吹き飛ばすほどの衝撃波が放たれる。
徐に彼女が炎の中に手を突っ込んだかと思えばどこか別の空間にでも繋がっているかのように彼女の手は炎の中へと消える、
そして何かを掴んだグレイシアはゆっくりと炎から腕を抜いていく。
眩い輝きを放ちながら姿を現すのは一振りの後に勝利を手繰り寄せる最強にして最高、燼焔の錬造神が作り出す最高傑作の一振り。
『約束された勝利の剣……これが最高傑作』
眩い輝きを放つ剣に色などはなくただ神々しい輝きを放つだけ。
その輝きを前にしてゼータたちはその場から一歩も動けないでいたがグロウルートの触手が鞭のようにしなって地面を叩くと我に返ったかのようにゼータたちがグレイシアめがけて突っ込んでくる。
彼女はその光景を収めながら約束された勝利の剣をゆっくりと持ち上げる。
『私が望む未来を手繰り寄せる……約束された勝利の剣!』
勢いよく振り下ろされた瞬間、極光の一撃が放たれ、全ての悪しき存在が神の輝きに飲み込まれて存在ごと消滅していく。
その一撃を防ぐ壁などはなく等しく消滅していくだけ。
たとえ触手をまとめ上げて自分を覆いつくそうがそんなものが意味をなすはずもなく一瞬にして触手は消滅し、肉体が消えていく。
叫びをあげることすらできないまま肉体が消滅し、進化個体である証の核は神の輝きに包まれ、その輝きの中で誰にも見られないままこの世から消滅していった。




