第三十五話
ZEX学園の敷地内には生徒たちが暮らす寮をはじめ、様々な施設が作られているがその中には二本をゼータの脅威から守る殲滅隊の基地も作られている。
そんな基地内部に存在する指令室にスーツ姿の春夏の姿があった。
「状況は」
「休眠状態にあったゼータが覚醒し、地上に姿を現しています!」
「映像はいります!」
オペレーターの声の直後、壁に設置されている大型モニターにゼータの姿が映し出されるがそのあまりに巨大な姿に全員が息をのむ。
地下を突き破って出てきたゼータの体は球体に怪しく輝く両目、そして八本の触手が生えており、見方によってはイカに近い姿をしている。
地中に埋もれている部分もあるためかゼータは地面を突き破って以降は動きを見せていない。
「現時刻より今回の個体名をグロウルートと呼称する! A隊・B隊はグロウルートを中心に半径十キロ圏内を球面防壁でを展開しろ! C隊は周辺住民の」
「隊長! 小型ゼータが地下から飛び出しています!」
春夏の指示を遮って発された言葉の後、映像が拡大されて映し出される。
そこにはグロウルートが突き破った巨大な穴から無数のゼータたちが湯水のように湧き出しており、市街地めがけて侵攻を開始していた。
「C隊は球面防壁を抜けた小型ゼータの排除を優先! 予備隊員にも出撃命令を発令! 予備隊員は周辺住民の避難誘導を行え!」
『隊長! 展開範囲内に人影を確認!』
「映像を出せ」
現地の隊員から伝えられた情報を聞き、春夏が近くのオペレーターに指示を出し、映像を切り替えさせると目の前に映し出された光景に春夏は目を見開く。
そこに映し出されていたのはZEXを展開して湧き出している小型ゼータと戦闘を行っているグレイシア兄妹だった。
映像の範囲に映っているのは二人だけだが十中八九、秋冬も現場にいるだろう。
「どうしますか? 隊長」
「……構わん。二人は専用機体持ちだ。ただでは死なん」
「了解」
春夏はポケットからスマホを取り出し、あるアプリを開くと秋冬の現在地が表示されるがその場所を見た彼女はスマホを強く握りしめる。
秋冬が外出しているタイミングとグロウルートが活動を開始したタイミングがぴたりと合ったことを偶然と捉える者は誰もいないだろう。
「あずさッッッ!」
誰にも聞こえないように、しかし確かに殺意と憎しみを込めて春夏が稀代の大天才の名前を呼ぶと同時にグロウルートを中心に球面防壁が展開される。
既に作戦は始まっていた―――隊、そして稀代の大天才の二つが。
――――――☆――――――
「はっ!」
近接用ブレードを振り下ろし、小型ゼータを真っ二つに切り裂くと同時に振り向きざまにショットガンを展開して銃口をこちらに向かってくるゼータへと向ける。
そして引き金を引いた瞬間、発砲音とともに肉片が飛び散る不快音が響き渡る。
しかし、奥からまるで水が押し寄せるかのように大量の小型ゼータが押し寄せてきており、とてもじゃないが三人で対処できる量とは思えない。
『伏せて!』
「っっっ!」
グレイシアの叫びを聞き、反射的に地面に伏せたその瞬間、木々が見えない斬撃によって次々と切断されていくとともに波のように押し寄せていたゼータがドミノ倒しのように倒れ伏していく。
そのどれもが体が上下に切断されていた。
「危ねっ……見えない斬撃って怖すぎるだろ」
『ブレードの刃を秒間一万回振動させることによる発生するブレード振動と重力波を干渉させることで空間と物体の境界面を切り裂いているのよ』
「……要は空間ごと相手を切り裂いてるわけだ」
『大雑把に言えばそうね……それが兄さんのZEX【断界の穿鋼神】の龍能よ』
空間ごと切り裂く斬撃なんてものを捉えられるわけもない―――敵は自分が斬られてからようやく斬られたことを理解する。
お兄さんは上空に滞空しながら握っているサバイバルナイフを振りかざしていくと地上に溢れんばかりに出現していた小型ゼータを見る見る切断していく。
直後、地上めがけて炎の矢が雨のように降り注ぎ、巨大な火の手が立ち上る。
上を見ると上空から大きな弓矢を握り締めているグレイシアの姿が見え、彼女と目が合うと彼女はゆっくりとこちらの方へやってくる。
『とにかくこのままじゃ市街地に入るわ。ここで何とか食い止めないと』
その時、地上から光の壁がせりあがり始めると俺たちや進化個体のゼータを覆いはじめ、数秒も経たないうちに巨大な球体の空間が出来上がった。
「な、なんだこれ」
『殲滅隊が球体防壁を展開したのよ』
「ス、球体防壁?」
『大規模なゼータとの戦闘の際に展開されるバリアのことよ。内側にゼータを閉じ込めて防壁の中で殲滅していく。外には被害を出さないためにね』
「……っていうことは俺たちは外に出れないのか?」
その時、ZEXからメッセージウインドウが右下に表示されたかと思えば目の前に映像が展開されて不機嫌な姉ちゃんの顔がドアップで映り込む。
『殲滅隊隊長の神原春夏だ。セグルド・グレイシア、ウィルミナ・グレイシア』
「……?」
『お前たち二人に小型ゼータの殲滅をお願いしたい。巨大ゼータ―――グロウルートは我々、殲滅隊が引き受ける』
『ですが先……隊長。あのグロウルートとかいう個体は驚異的な再生能力を持っています。通常の重火器では殲滅しきれないかと』
『再生できないように燐火散弾を使用し、燃やし尽くす』
「リンカ・シェルってなに?」
『爆発と同時に燐光の火の粉が舞い、対象に付着して燃え続ける爆弾よ』
つまり再生したところから燃やし続けることでグロウルートの再生能力ごと燃やし尽くすことが出来る兵器を使うということ。
殲滅隊には前回の事情聴取の際に核のことも伝えているから肉体を全て燃やし尽くしたのちに残った核を破壊して殲滅する作戦なんだろう。
『雑魚狩りをすればいいだけの話……ウィルミナ、広域殲滅兵装を展開するんだ。雑魚を狩りつくすよ』
『了解』
グレイシアはお兄さんがいる上空へと上がっていく。
恐らくこの場に俺がいることは姉ちゃんも気づいているはず―――だけどあの二人にしか指示を出さなかったということはお前は戦うなと暗に示しているんだろう。
俺のZEXは人前でおいそれと使うことは控えるべき最新機体だ。
だからZEXを守るためにも、そして俺自身を守るためにも俺を除いたんだと思うけど正直、それだけが理由とは思えない自分がいる。
そんなことを考えている矢先、上から赤い光が見えたので空を見上げると巨大な火球がグレイシアの持つロングバレルの大砲の砲門から生み出されていた。
『秋冬。物理シールド、展開しとかないと火傷するわよ』
「お、おう」
グレイシアの冗談交じりの言葉の後、すぐさま物理シールドを展開した瞬間、超巨大な火球が地上めがけて放たれていく。
その光景はスローモーションのように流れていき、まるで巨大隕石が地表に着弾する最後の映像を見ているかのようだった。
直後、目の前が一瞬にして真っ赤に染めあがると同時に爆風と熱風が俺に叩きつけられる。
「おぉぉっ!」
凄まじい衝撃に吹き飛ばされそうになるが各部スラスターを全開に吹かしながら物理シールドを抑えることでなんとかその場に踏みとどまる。
やがて爆炎が少しずつ収まっていくのを感じ、完全に収まったのを期に物理シールドを収納すると目の前に広がっていたのは何もなくなった大地だった。
木々やゼータの亡骸が倒れていた大地にはこれらの何一つ残っておらず、あるのは灰だけ。
「相変わらず凄い威力だ……流石は人智を超えた専用機体」
自分が生み出した小型のゼータたちを消滅させられてかグロウルートは触手を激しく地面に叩きつけながら空に向かって咆哮を上げる。
その時、頭上に展開されていた球体防壁の天井部分が解除されていくとともに二機の戦闘機が開かれた天井部分に向かって飛んでいく。
そして天井部分を戦闘機が通り過ぎていった数秒後、空から無数の小さな黒い物体が落ちてくる。
それを確認したグロウルートは八本の触手を全て落下してくる黒い物体めがけて上空へ勢いよく射出するように伸ばしていく。
先端の刃が黒い物体を切り刻もうとしたその時、一瞬の輝きが放たれたかと思うと連続的な爆発音が響き渡るとともに地上に熱風が叩きつけられる。
連続で爆発していきながら周囲にまき散らされる燐光の火の粉がグロウルートの体に付着すると一瞬にして火の手が上がり、燃やし始める。
それが全身のあらゆるところで発生し、一瞬にして火の手に包み込まれる。
炎が炎を呼ぶかのように次々と火の手が上がっていき、やがてはグロウルートの全身が炎に包み込まれるとあまりの苦痛からかグロウルートはその場で悶え苦しむ。
「こんな一瞬で炎が広がるのか」
『これであいつも終わりね』
「グレイシア」
『あとはあいつが燃え尽きるのを待って核を破壊すればこの作戦はお終い……私たちが仕入れた情報を無駄じゃなかったわね』
確かに俺たちが仕入れた情報がなければこんなピンポイントな作戦は立案されなかっただろうし、もっと時間がかかったはずだ。
かといってそれだけでお兄さんが納得するかと言われたらしないだろう。
その時、軽い地響きが聞こえたかと思えば燃え盛っていたグロウルートの姿が消えていた。
『あとは僕が核を破壊すればお終いだ』
上空を飛んでいくのが見え、俺たちはすぐさまその後を追いかけていく。
お兄さんが降り立った先には黒焦げとなって焦げ臭いにおいをあたり一面に放っているグロウルートだった燃え煤だった。
そして中心地にはいまだに小さな火に包まれているグロウルートの核があった。
『まったく。こんな時間外労働をするつもりじゃなかったんだけどな……ま、これも君を連れて帰るための仕事だと思えば苦じゃないけどね』
『……早くやりなさいよ』
『もちろん』
お兄さんが軽くサバイバルナイフを振り下ろした瞬間、見えない斬撃で空間ごとグロウルートの核が真っ二つに切断される。
真っ二つになった核は残っていた小さな火によって徐々に燃やされていく。
『さてと……神原隊長。グロウルート殲滅作戦。これにて終了でよろしいですか?』
『あぁ、こちらでも核が切断されたことが確認できた。礼を言う』
『さあ、グレイシア。準備をしようか』
『ちょっと待って。まだ秋冬との模擬戦は終わってないわ』
『……あぁ、そんな話もあったね。でも今回の戦いで彼は何か役に立ったか? 僕の目には何もしていなかったように見えたけど』
『そんなこと関係ないでしょ! とにかく模擬戦を』
二人が言い合いを始め、慌てて間に入ろうとした時にふと小さな黒い粒のようなものが空気中に浮いているのが見えた。
その黒い粒は二人の動きによる空気の流れに巻き込まれて一瞬でどこかへと姿を消した。
気のせいかとも思ったその時、いくつもの黒い粒が流れていくのが見え、慌てて目で追いかけていくといくつもの粒が一か所に集まっていくように見えた。
「二人とも喧嘩してる場合じゃないぞ!」
『秋冬は黙っておいて! 大体、私の意思はないのがおかしいの!』
『これは君のためなんだ』
「兄妹喧嘩は後だ! まだあいつは生きてるんだ!」
『はっ! 何を言うかと思えば……奴の核は斬ったんだ。もう再生は―――』
お兄さんも黒い粒が流れていくのが見えたのか粒たちが流れていく先を見る―――同時にグレイシアもその方向へと視線を向ける。
徐々に数を増していく黒い粒はやがて切断された核を覆うようにして集まっていく。
『そんな……煤になっても復活するっていうの?』
『それどころか核を破壊したのに……有り得ない』
徐々に形成されていく肉体を前に俺たちは何も動けなかった。
燃え煤になったと思われていたものたちは核を中心に再集合を果たし、グロウルートとなる肉体をすさまじい速度で再形成していく。
時間にして一分にも満たない時間の間に俺たちの目の前に再びグロウルートは姿を現し、野太い咆哮を上げるのであった。




