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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第三十四話

 翌日、俺は正門前で一人待っていた。

 天気は雲一つない快晴で過ごしやすい天気、ただ五月が目前に迫っていることもあってか昼頃には気温が上がっていくみたいで服装に気をつけろとお天気お姉さんが言っていた。

 正門近くにある外出受付所の係員は相変わらず眠たそうな顔をしており、どう見ても顔には帰りたいの四文字が刻まれている。


「こんな天気がいい日曜日に仕事とか最悪だもんな」

「Akito」

「おう」


 後ろを振り返ると完全プライベートモードの服装をしたグレイシアがいた。

 普段は一か所でまとめている赤い髪が今日は二か所に分けて止められており、俗にいうツインテールの結び方だ。

 それだけでも普段と違う雰囲気だけど服装もジーンズにオフショルダーの服装、そして彼女の美貌が合わさってもう空気からして違う。


「Why are you looking at me like that?」

「……あ、World Link」

『ほんとあんたって学習しないわね』

「相変わらず口が……お、お綺麗でございますね。オホホホッ!」


 相変わらずの悪口がWorld Linkから聞こえてきたが彼女の手が携えられている剣に置かれたのでとりあえずお上品に笑っておいた。

 こんなところで専用機体を抜かれちゃ俺が怒られる。


「んじゃ、行くか」

『ええ』


 グレイシアを先頭に正門へと近づくと受付所の係員がタブレットを確認し、すぐさま笑顔を浮かべてグレイシアに手を振り、正門のロックが開く。

 平民の俺に手を振らないあたりしっかりとZ族なんだろう。

 ロックが開かれた正門を開けて外部へとつながっているモノレールのホームへと向かう。


「で、今日はどんなお店にいくんだ?」

『ここよ』


 グレイシアのスマホを見せつけられ画面を見てみるとそこに書かれていたのは―――


「英語で分からん」

『……あんた、LIMEは?』

「してるぞ」

『出しなさい』


 言われるがままにスマホを取り出してメッセージアプリのLIMEを起動し、自分のアカウントのQRコードを出すと彼女がそれを読み込む。

 間髪に入れずにグレイシアらしきアカウントから一言メッセージが送られてくる。


「いや、英語じゃん」

『それぐらい読めなさいよ』

「……そういやグレイシアは日本語とか話せないのか?」

『まったく。World Linkあるから大丈夫でしょ』


 海外出身の友人と話したことがあるが日本語はとにかく覚えることが多すぎて難しいらしい。

 特に読み方のレパートリーが多すぎるうえに会話の中でも意味合いが全く変わってくることもあるから嫌になって来るらしい。

 そもそもWorld Linkが世の中に出回っているから外国語を学ぶことの重要性は薄れ、今や外国語学部という学部が消えつつあるという話もある。


「じゃあ俺のメッセージはどうやって読むんだよ。日本語しか送れないぞ?」

『あんたLIMEに自動翻訳の機能あるの知らないの?』

「……え? そうなのか?」

『もう何年も前からあるわよ。知らないの?』

「知らん」


 俺の自信満々な宣言にグレイシアは軽く頭を抱えながらため息をつく。

 そんなことをしているとホームに到着し、ちょうど停車していたモノレールに乗り込んで適当に空いている席に座る。


「で、今日も隠れるのか?」

『今更隠れないわよ。どうせ私が出かけることも把握してるだろうし』

「お兄さんも心配なんだろうけど……流石になぁ」

『あんたのお姉さんもしてるかもよ』

「まっさか~」


 そんな雑談をしているとモノレールの出発時刻となり、ドアがゆっくりと閉まるとモノレールが徐々に速度を上げてホームから離れていく。


『じゃ、まずはケーキバイキングから行くわよ』

「結局スイーツなんだ」



――――――☆――――――

「――――――……寝てしまったのか」


 ふと目を覚ました春夏は周囲を見渡すと誰もいない職員室であり、少し驚いていると職員室の扉が開いて私服姿の千夏が入ってくる。


「こんなところにいましたか~。もうかれこれ十四連勤ですよ~」

「今日は流石に休むさ。で、忘れ物か?」

「明日の準備を軽くしようかと~」

「そうか」


 千夏が自分の席に座り、引き出しを開けた時、何かを思い出したかのように顔を上げてスマホを取り出して春夏のもとへと向かう。


「そう言えば秋冬君、グレイシアさんとお出かけしてましたよ~」

「……」

「デートですかね~」


 千夏のスマホに穴が開くほどの勢いで画面を睨みつける春夏は慌てて自分のスマホを手に取り、確認するが確かに昨晩、彼に関する外出許可を不許可にするようにとメッセージを送っている。

 にもかかわらずなぜ、秋冬は外出が出来ているのか。

 ZEX学園はその性質上、外出に関しては非常に厳しく管理しているためこちらが許可を出さない限りは外出することは出来ない。


「なぜ、秋冬が外出できている」

「あれ~? もしかして許可にしてなかったりしてますか~?」

「……いいや、システム上は許可になっている」

「じゃあよかったじゃないですか~。青春を謳歌しているなら一安心ですね~」


 千夏は二人の写真を見ながらほくほく顔で自席へと戻るが春夏の表情は果てしなく重い。

 不許可にするようにと連絡を入れていながらなぜ、許可が降りているのか―――夜に送ったが故の操作ミスだろうか。

 様々な憶測が春夏の頭の中を過ぎるがそれを邪魔するかのように彼女のスマホが震える。


「……どうやら今日も休めなさそうだ」


――――――☆――――――

『ふぅ。食べた食べた』

「ショートケーキ五個、シューケーキ十個、チーズケーキ二十個……常人の比じゃねえな」

『そう? 兄さんもこれくらい食べるけど』

「……専用機体持ちはみんなそうなのか?」


 これだけ大食感でありながらグレイシアのスタイルは素晴らしい物であり、とても甘いものを食べまくっているようには見えない。

 専用機体を使う人間は皆、何かしら常識の範疇を超えた要素を持っているんだろうか。


「で、ここからは何するんだ? 次の店まで時間はあるけど」

『次の予定は準備だ』


 後ろを振り返るとそこにはグレイシアのお兄さんが立っていた。

 この場所をピンポイントで当ててくるあたり、本当にグレイシアに小型の監視カメラをつけて場所の把握や会話内容すらも聞いている。

 守るためだと言えば聞こえはいいけどプライバシーの欠片もない。


『兄さん……準備って私の退学の?』

『そうだ。来週あたりには上層部も承諾するだろうし、準備を事前にしておかないと』

『いやよ。私は学園を離れるつもりはないんだから』

『ウィルミナ……君にその意思がなくても危険な場所に君を置いてはおけない。今の日本は君にとっては危険な場所なんだ』

『進化個体が危険だって言うなら大丈夫よ……秋冬と一緒に戦うもの』


 グレイシアのお兄さんは俺の方を一瞬だけ見るがまた彼女に視線を戻す。


『確かに彼が使っているZEXは何やら妙な力を持つが実力が伴っていない』

『私は一度、彼に救われてるし、進化個体も一緒に倒してる。これからも同じよ』


 お兄さんにとってグレイシアの言葉は幼い子供の言い訳にしか聞こえないのかお兄さんはため息をつきながら俺の方を見てくる。


『お前はただ単に平民でありながらZEXを動かすだけの存在だ。そんな存在がウィルミナを守れるとは思えない……ウィルミナ、君を守れるのは僕だけだ。国に帰ろう』

『何度も言わせないで……嫌よ』


 平行線のまま話は進まないがかといって俺が間に入れば逆に事態がややこしくなるだけなので俺にできることは何もない。

 この状況を打開できるのはお兄さんを納得させる要素を開示するだけ。


「……もし、グレイシアは俺が守るって言ったらお兄さんは納得されますか」

『この国にウィルミナを送り出したのは神原春夏がいるからだ。彼女ほどのZEX使いがいればウィルミナも安心だからね。君は彼女とは違う』

「今はまだ俺は弱いです……でも俺にとっても彼女の存在が必要なんです。学園でこれからを過ごしていくためにも……俺が強くなるためにも」

『そんなこと知らないな。ウィルミナは連れて帰る』

「もし! もし俺がお兄さんを模擬戦で倒せたらグレイシアを残してくれますか」


 俺の言葉にお兄さんはイラついた表情を浮かべて睨みつけてくる。

 平民であり、かつZEXを動かして一か月程度の素人が冗談でもなく本気でそう言っているのであれば確かにイラつきもすると思う。

 でもそんなバカげた発言をするくらいに俺の学園生活にはグレイシアが必要だ。


『お前……本気で言っているのか? 本気で言っているのなら常識知らず過ぎる』

「本気も本気です。俺にはグレイシアが必要なんです」

『……万に一つも君が勝つことはないけど……付き合おう』

「じゃあさっそく学園に」


 その時、ほんの一瞬だけ大地が揺れたのを感じ、俺を含めた三人が動きを止めていると大地の揺れが断続的なものになっていく。

 どこからともなく響いてくる地響きとともに小さな揺れは継続していく。


「じ、地震?」

『ただの地震ならいいけど』


 グレイシアがそう呟いた瞬間、後方から凄まじい爆音が響き渡った。

 慌てて振り返った俺の視界に入ったのは空に舞い上がる土と見覚えのある複数本の触手であり、その方向にある山にも見覚えがあった。

 俺とグレイシアは互いに見合って頷くと同時にその場から駆け出した。


――――――☆――――――


―――数刻前

「うんうん……良い感じに侵入できたねぇ」


 機械仕掛けのまぐたん三機から送られてくる映像を見ているあずさの手には昔懐かしいレトロゲーム機のコントローラーが握られている。

 映像には秋冬たちが遭遇した巨大なゼータが見えており、休眠状態に入っているのかピクリとも動きを見せていないが既に完全再生が完了していた。


「殲滅隊も春夏以外はゴミだねぇ。この程度の光学迷彩にも気づかないなんてさ」


 コントローラーを操作しながら機械仕掛けのまぐたんを操作していき、三機全てを所定の位置へ動かすと〇ボタンを押す。

 するとまぐたんの両目が妖しい青色の光を放ち始め、徐々に点滅し始める。


「機械仕掛けのまぐたん1号、2号、3号。君たちの活躍は一時間は忘れないよ」


 思っているのかどうかすら分からない感動の想いを吐露しながらあずさが映像に向かって敬礼をした直後、映像がバツン! と勢いよく途切れてしまった。


「良いデータを待っているよ。秋冬君」

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