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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第三十二話

 断界の穿鋼神(バル・レンディア)―――その機体名が表示された瞬間、触手の先端が見えない何かに切り刻まれたかのようにいくつもの肉片となって地面に落ちていく。

 落ちていく肉片を目の当たりにしながら徐々に近づいてくる反応の方を振り向くとそこには漆黒と白銀のツートーンが特徴的なZEXを纏った人物がいた。


「だ、誰」

『に、兄さん』

『グレイシア……だから言っただろう。国に帰ろうって。この国は危険すぎる』


 俺たちの会話を邪魔するかのように巨大なゼータが咆哮を上げ、二本の触手を勢いよく振り下ろす。


『邪魔だ』


 男性が腕を軽く横に振った瞬間、見えない何かで触手が二本とも真っ二つに切り裂かれて地面にそれぞれ突き刺さって落ちる。

 まだ神経が生きているのか触手はビクビクっと震えながら動こうとするが再びそこに見えない攻撃が炸裂し、細切れの肉片となって堕ちる。


『やっぱり私の装備に監視カメラをつけていたのね』

『君を守るためだ。この男の傍にいても無駄だ……帰ろう』

「来るぞ!」


 一本の触手が地面を抉りながら横なぎに振るわれてくる。

 三人とも上空へと退避する―――グレイシアと男性はそのまま上空に残り、俺は地上へと降り立つと同時に超過兵装リストを広げる。

 アイタッチで選択すると俺の頭上に二門の肩部キャノンが展開され、ゆっくりと両肩に装着されるが凄まじい重量がのしかかる。


超過起動(オーバー・ドライブ)! シュート!」


 二門の砲門から黒紫色に輝くレーザーが放たれ、ゼータの触手二本を打ち抜くと塵となって落ちていき、直撃した部位から徐々に灰化が始まっていく。


「これでっ!?」


 喜んだのも束の間、突如としてゼータが一本の触手を振り上げたかと思うと灰化が始まっていた触手を根元から躊躇なく切断して切り落とした。

 どす黒い体液を一瞬だけ噴き出すが瞬時に切断部位から触手が再生する。


「俺の攻撃でも再生するのかよ」

『秋冬! こいつを倒すには一瞬で消し炭にするしかないわ!』

「って言っても超過兵装じゃこの巨体は流石に無理だ!」

『……私がやるわ。時間を稼いで』


 グレイシアがそう言いながら地面へと降り立つ―――直後、そこめがけて触手が振り下ろされたので砲弾を放ち、触手の先端部分を消失させる。

 すると暗い洞窟を照らすように炎が彼女の手元へと集まっていく。

 その炎は普段、兵装を生成する際の炎よりも勢いが強く、離れていても熱を感じるほどの強い炎。

 徐々に兵装が生成されていくのが見えるとともに触手が振り上げられるのが見え、慌てて次の砲弾を放とうとするが肩部キャノンが一瞬で灰化してしまう。


「だったら!」


 ケーブルを接続せずに物理シールドを展開するとあまりの重さに物理シールドが地面にめり込む。

 しかしその重さを誇るシールドは触手による殴打を優に受け止めることが出来る―――そう思ったのも束の間、無数の殴打が連打され、断続的に強い衝撃が全身に伝わる。


「ぐぉぉっ!? こ、こいつはやばい! まだかグレイシア!」

『も、もうちょっと……もうちょっとだから』


 ZEXのセンサーが後方を目の前に映し出すが彼女の手元には剣の持ち手が生成されているがそこから先の生成が進んでおらず、炎もちりちりと揺らいでいる。

 それほどに強力な兵装を作り出そうとしているのかとも思うが彼女の表情は芳しくない。

 殴打が続き、打撃音が地底内に響き渡る中、男性の姿を探すと男性は腕を組んで見物しており、動く気配など微塵も見えない。

 大事なグレイシアを救うためならば喜んで動くが邪魔な平民の俺を救うために動く気はないという意思の表れなんだろう。


「このままじゃ耐えられない!」

『もうちょっとなのよ……あと少し待ってくれれば』


 グレイシアが歯を食いしばるように答えるが、状況は刻一刻と悪化しており、シールド表面にはヒビが走り始め、触手の打撃によって金属音が断続的に響いている。

 超過起動を使えばある程度、強化は出来るだろうけどそれも長くは続かないし、それが終わってしまえば塵となって消えてしまう。


『きゃっ!』


 直後、グレイシアの小さな悲鳴が聞こえたかと思えば先ほどまで照らしていた炎の明かりが突如として消え去り、再び地底内が暗闇へと変わる。

 ZEXのセンサーが捉えたのは何かの衝撃で吹き飛ばされ、ZEXすらも展開が解除されているグレイシアの姿だった。


『どうして……どうしてできないのよ』


 その時、空気が揺れる音が聞こえたかと思えば全ての触手が一か所に集まり、捻じれていく。

 その光景を見た俺は即座にケーブルを接続して超過起動を発動させ、オーバーエナジーを送って物理シールドを強化する。

 ギュオンッ! と空気が震える音が響くとともに捻じれていた触手が元に戻る勢いで凄まじい回転をしながらこちらへと放たれる。

 一撃が物理シールドに直撃した瞬間、甲高い金属音とともに火花が散り、地面を抉りながら俺の体が後ろへと押し込まれていく。


「うわっ!」


 触手が一気に展開された勢いで物理シールドごと押し込まれてグレイシアのすぐそばまで吹き飛ばされてしまう。

 すぐさま立ち上がろうと顔を上げた瞬間、目の前まで触手が迫っていた。


「ぁ」


 兵装を展開する暇すら与えられなかった一撃―――は俺に届く前に何かに切断され、どす黒い液体をまき散らしながら飛んでいく。

 直後、ゼータの全身で切り傷が次々と生まれていき、地面に大量の体液がまき散らされていく。

 ゼータの周囲を飛行する男性の動きを目で追いかけるのが精いっぱいでその姿を捉えることは出来ず、血しぶきで場所が分かるくらいだ。

 動きからして相当の実力者なのは明白だった。


「なんて動きだ……すげぇ」

『兄さんは国のZEX部隊に所属していたのよ……父の会社を手伝うようになってもゼータ討伐のために軍から出動要請が降りるくらいの実力者よ』

『グレイシア。すぐに終わらせるからちょっと待っていてくれ』


 男性はそう言うと増速駆動を発動し、すれ違いざまに一度腕を振るうが傷は生まれない。

 しかし、増速駆動を維持しながらゼータの攻撃を避けつつ周囲を高速で動き回っていく。

 男性が上空から勢いよく急降下をしながらまっすぐ縦に腕を振り下ろすと同時に前方へのスラスター噴射で後方へと大きく下がり、俺たちの傍まで下がる。


『さて、お終いだ。グレイシア、帰るぞ』

『一人で立てるから』


 彼女がさし伸ばされた手を軽く弾く―――次の瞬間、ゼータに小さな切り傷が生まれていき、それに連鎖するかのように次々と切り傷が発生して血しぶきが舞う。

 まるで斬撃の雨がゼータに降り注ぐかのように傷が増えていき、あれほどあった触手があっという間にすべて破片に切り落とされていく。

 グレイシアたちが出口に向かって歩き始めたので俺も追いかけようとした瞬間、最後の斬撃がゼータを真っ二つに切り裂き、どす黒い体液の洪水が目の前に生まれた。


「さ、再生が追い付かないほどの斬撃……」


 詳細な能力は不明のままだけど確実なのはグレイシアのお兄さんが駆るZEXの龍能(ドラゴニクス)は斬撃に関係する物。

 進化個体であるゼータをいとも簡単に屠った実力。

 紛れもなくグレイシアを守ることが出来るのは俺なんかじゃない―――俺が彼女の傍にいたところで彼女を危険な目に遭わせるだけだ。

 あの人の言う通りグレイシアは俺の傍にいるべきじゃない。

 今の俺は何もできない。


『直に殲滅隊がこの場所に来る。ゴタゴタに巻き込まれるのは面倒だから早く帰ろう』

『だから私は国に帰るつもりなんかないわ』

『わがままを言わないでくれ、ウィルミナ。君のためを思ってのことなんだから』


 二人が軽い言い争いをしている後ろを追いかけていたその時、ズズッという何かを引きずるような音が聞こえ、振り返る。

 その音は二人の耳にも届いていたらしく二人も振り返っていた。

 暗視センサーが捉えたのは肉片となったゼータの欠片たちが一か所に集まるかのように動き始めていた光景だった。

 肉片が向かう場所には一つの球体。

 一つ、また一つと肉片が球体に張り付いていき、徐々に肉球が完成していく。


『うそでしょ……兄さんの斬撃を受けてなお再生するっていうの?』

『驚いた……これがゼータの進化個体か』

「どうする? このまま攻撃を」


 その時、俺たちの上空を二機のZEXが通過していったかと思えば再生しつつある肉球に向けてサブマシンガンを放ち始める。

 無数の弾丸を受けた衝撃からか球体は転がっていく―――しかし、その動きには意思がある様にも感じられる。


『ゼータの足止めは殲滅隊が担う。お前たちは即刻その場から離脱するんだ』


 World Linkから聞こえてくるのは姉ちゃんの声だがその声音はいつもの教師たるものではなく、殲滅隊隊長としての冷たい声だった。

 俺たちはその指示に反抗する気もなくその場を後にした。


――――――☆――――――

『神原秋冬、グレイシア兄妹の離脱を確認しました』

『現在、未確認のゼータ反応を追っていますがロストしました』

「構わん。深追いはするな……地下の住処にはゼータの卵が多数あると思われる。現時点の体制では劇は困難だ。二人とも入り口に戻り、周辺区域の封鎖を行え」

『『了解!』』


 現場の隊員への指示を終えた春夏は別のモニターに表示されている映像へと視線を移す。

 そこには秋冬に秘密裏につけた小型監視カメラからの映像が映し出されており、進化したゼータが卵を産む姿があった。


「単性生殖を可能とするゼータか……人類が強くなればそれを超えるためにゼータも進化する……こんな個体が複数体生まれてしまえば人類は終わりだ」


 だがそれよりも春夏が気にしているのは秋冬の遭遇割合の高さだ。

 ゼータの進化個体と遭遇した場所には必ず秋冬が存在しており、遭遇確率は脅威の百パーセントを誇る異常事態だ。

 たまたまだとも思えないのがあの稀代の大天才の存在。


「あずさめ……秋冬に余計な情報を吹き込みおって……整備科に移る考えが薄れてしまう」


 これ以上、ZEXに深くかかわってしまえば秋冬の中で確実に整備科へ移るという想いが小さくなっていき、最悪の場合消えてしまう。

 現時点でもZEXに対する想いが再燃している様子が見られている以上、これ以上の関りは秋冬にとっても春夏の計画にとっても悪影響でしかない。


「秋冬……お前は何としても整備科に移す……どんな手を使ってでも」

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