第三十一話
穴を通った先に続いていたのは下へと続く真っ暗な通路。
ZEXの暗視センサーによって通常時と変わりない風景が見えているがただまっすぐ掘り進めたような何もない通路に俺は不安を抱いていた。
直後、センサーから地表が近いことを知らされ、スラスターを使って落下の勢いを相殺し、速度を落としながら降下していく。
「っと……広いな。これが大型住処の内部」
『私も教材でしか見たことがないわ……こんな大規模なのね』
以前の中型住処とは比べ物にならないくらいに内部は広いがあたりにはなにも見当たらない。
暗視センサーで周囲を見渡してみると無造作に掘り進めたような跡が複数見えるがゼータの反応は一切検知されない。
『大型住処は複数階層になってるって話だけど……ここはいわばエントランスかしら。見て』
「あれは……入口?」
『でしょうね。中型住処にもあった卵の保管場所、非常食の保管庫とか』
「非常食って……」
それ以上は俺もグレイシアも何も言葉を発さなかった。
その時、ZEXのセンサーが反応を示したのでその方向を向いた瞬間、先ほどの二体のゼータが翼を羽ばたかせながらこちらへと突っ込んでくる。
俺もグレイシアも近接用ブレードを手中に収める。
「っと!」
振り下ろされる爪の一撃をブレードで受け止めると同時に相手の脇腹へ蹴りを入れた直後、脚部スラスターを吹かして全力で足を蹴り抜く。
バキバキィっとあまり聞きたくない音が響くとともにゼータがどす黒い体液を吐き散らしながら吹き飛んでいく。
「超過」
『ダメよ』
超過起動で一気に始末しようとしたとき、World Linkから彼女の声が聞こえ、振り返るとすでにゼータを始末した彼女がいた。
『超過起動を使わないで倒しなさい』
「……オッケー」
前を向き、ブレードを強く握りしめるとゼータが血反吐を吐き捨てながら突っ込んでくる。
次々に振り下ろされてくる爪の一撃をブレードで受け流しながら反撃の機会を伺う―――その時、ゼータが一際大きく腕を振り上げた。
「いまだ!」
体勢を低くすると同時に脚部・背部スラスター、そしてウイングパーツを解放して増速駆動を発動させて一気に距離を詰める。
「はぁぁっ!」
その勢いのままブレードを袈裟払いで振り下ろした瞬間、肉が切断される音とともに血しぶきが目の前で噴き出す。
地面に着地すると同時にゼータが地面にぼたっと落ちた。
ゆっくりと振り返るとゼータの体が斜めに切断された状態で地面に落ちており、どす黒い体液が地面を汚していた。
『及第点、ってとこね。増速駆動なんか使わないで倒してほしかったけど』
「手厳しい……なんか音しないか」
『する……わね』
穴の向こうからドドドッ、という地響きのようなものが響いてくるのが聞こえる。
ここは住処―――ゼータの血の匂いに惹かれたか、もしくは戦闘の音を聞いて侵入者だと判断して無数の軍団が迫っているんだろう。
「どうする? 超過起動で吹き飛ばすか?」
『そうね。あんたは右の穴……私は左の穴を吹き飛ばす』
兵装リストが目の前に表示され、超長距離大砲を選択すると目の前に展開され、持ち手を持つが凄まじい重さによろめく。
相変わらずの重さに辟易していると視界の端に炎がちらついたのが見え、そちらを見ると炎がはじけ飛ぶとともに俺の大砲と似た兵装が生み出されていた。
『行くわよ』
「おう……超過起動」
装甲が黒紫色に輝きだすとともに大砲からケーブルが射出されて装甲に装着されるとケーブルを伝ってオーバーエナジーが大砲へと充填されていく。
それと同時にグレイシアの大砲には炎が充填されていき、砲門からは赤い炎の輝きが見える。
互いの大砲の輝きが最高潮になった瞬間―――
「いけぇぇぇ!」
オーバーエナジーの極太レーザーと全てを燃やし尽くす獄炎が穴に向けて放たれ、まっすぐ通路に従って突き進んでいく。
次の瞬間、住処全体が大きく揺れるとともに穴から爆風と砂煙が噴出し、俺たちの視界が一瞬にして覆い隠されていく。
二つだった穴は爆風に耐えきれずに崩壊し、一つの穴に変化しており、ZEXのセンサーによって拡大された奥の映像には黒紫色の塵が多数立ち込めるとともに黒煙を上げるゼータの亡骸が多数見えた。
「……よし」
大砲を手放したと同時に塵となって消え去っていく。
『奥、行くわよ』
「オッケー」
互いにスラスターを吹かし、ゆっくりと大穴へと入っていく。
焼き焦げたにおいが充満する大穴をゆっくりと進んでいくがあるのは燃えカスとなって倒れているゼータの亡骸くらい。
進んでいる際に数体のゼータが折り重なって死んでいるのが見え、そこをよく見ると通路の側面に入り口らしき穴が開いていた。
「グレイシア……ここ」
『ここにもあるわ……見てこれ』
グレイシアに言われて彼女が見つけた穴へと入ると開けた空間が出てくるとともに炎によって燃やし尽くされた何かの残骸が多数、転がっていた。
それはゼータの亡骸ではなかったが正体はすぐに分かった。
「卵……だよな」
『ええ……しかも多い』
卵の残骸の数からして百は軽く超える数がこの場所にはあったと推測されるが大型住処という場所を考えればそれだけの数の卵があっても不思議じゃない。
でもグレイシアの表情は晴れない。
「大型住処だからその分、卵を多く生む機会が多かったんじゃないのか?」
『でもこの住処は既に殲滅隊に破壊されてるのよ? これだけの卵を殲滅隊が見逃すとは思えないし、殲滅隊との戦闘中にこれだけの数を移動できるとも思えない』
「つまり……破壊されてからも卵は増え続けているってか?」
『そう考えるのが自然かも……ほかの場所も見ましょう』
彼女と分かれてほかの穴も確認してみるがどの穴に入っても開けた空間が広がっており、そこに百を超える卵がびっしりと所狭しと置かれている。
俺が破壊した逆側の穴の方は塵しか残っていなかったがそちらも卵が保管されていたと考えれば俺たちの想像をはるかに超える卵がここにあったと思われる。
『どうだった?』
「どの部屋にも卵がいっぱいだ」
『やっぱり……この住処はまだ生きてる』
「じゃあどこかに攫われた女性がたくさんいるってのか?」
『……秋冬はどう思う?』
「俺は……正直に言ってこの数の卵を産むには女性が百人規模で必要だ。でもそれだけの人数がこの地下空間にいるとは思えない」
『同感よ……』
俺とグレイシアの視線がぱっちりとあい、互いに頷きあう。
殲滅隊との戦闘の最中、連中は住処にとって大事な存在を地下に移し、殲滅隊にバレないように入り口をふさぐ隠ぺい工作までした。
「この奥に……いったい何があるっていうんだよ」
『行くわよ』
「行くって……」
『私たちがその姿を見て情報を届けるのよ。情報は対策を立てる上で一番大事な要素……それを私たちが集めれば未知の脅威にも立ち向かえる』
最初はこの場所に来たのも兄貴を納得させるためだけだと思っていた―――でも今のグレイシアは本当に人類のために行こうとしているんだ。
この先にある物が人類の脅威になる存在であればその情報を届け、脅威たりえない存在であればこの場で始末すればいい。
俺なんかがついて行っても足手まといになるだけ―――でもここで彼女を置いて行けるわけがない。
「分かった。俺も行く」
『お姉さんに怒られるけどいいの?』
「後で謝る」
グレイシアはその言葉に口角を上げると奥へと続いている道を歩き出す。
俺も遅れまいと彼女の後ろを追いかけていく。
真っ暗な通路をひたすら歩き続けているとZEXのセンサーが前方に何かの反応を捉え、更なる情報収集を始めるがなかなか終わらない。
「……この先にいるな、やばいのが」
『やばそうね……兵装、展開しとくわよ』
グレイシアの助言に従い、俺は近接用ブレードをその手に収めてゆっくりと反応がある場所へと向かうと狭い通路から徐々に開けた空間へと出ていく。
周囲を確認し、ゼータがいないことを確かめようとしたその時―――
「行き止まり?」
暗視センサーで確認するが目の前には行き止まりの壁があるだけで周りには何もなく、何の気なく一歩踏み出そうとした時、センサーから突然の警告が表示され、体が自然と後方へと動く。
直後、地面が炸裂するような爆音とともに全身に一気に鳥肌が立ち、スラスターを前方に吹かせて大きく後退して顔を上げる。
暗視センサーで捉えたものは行き止まりの壁などではなく先端が鋭利な触手を八本も持った巨大なゼータだった、
「で、でか!? なんだこのサイズ!」
目の前のゼータの背丈は優に五メートルは超えているかと思うほどに大きく、まるでビルを見上げているかのような格好を取らないと全容を視界に収められない。
『こ、これがゼータ? こんな巨大なサイズ見たことない!』
「こんなやつが地下にいるなんて」
『っっ! 見てあれ!』
グレイシアが指さす方を見ると一本の触手の先端が異常なまでに膨れ上がっており、脈動を打つかのようにぴくぴくと震えている。
次の瞬間、どす黒い体液を放ちながらボトボトッと音を立てながらいくつもの球体が地面に落ちていき、それを見た俺たちの表情は驚愕に染まった。
「卵……こいつ、ゼータの卵を産んでるぞ」
『ゼータは自身で繁殖することが出来ない。だから女性を攫って苗床にすることで繁栄してきた……子の個体は単性生殖が出来る』
「そんなやつを放置してたらゼータで溢れかえるぞ!」
『秋冬! 撤退するわよ! 私たちの手に負え―――』
「危ない!」
触手が勢いよく振るわれるのが見えた俺はスラスターを全開に吹かしてグレイシアの前に立ち、振るわれてきた触手をブレードで受け止める。
直後、ブレードから凄まじい衝撃が全身に伝わり、地面に膝をついてしまう。
「ぐぅ! なんつう衝撃だ!」
『はぁっ!』
グレイシアが触手めがけてブレードを振り下ろす―――しかし、響いてきたのは切断した音ではなくまるで金属同士をぶつけ合った甲高い音だった。
触手のあまりの硬度にグレイシアは驚きながらも瞬時にその手に炎を集め、ショットガンを生成すると触手に銃口を密着させ、引き金を引く。
銃声とともに爆発が発生してどす黒い体液がまき散らされるとともに触手の先端が吹き飛び、俺たちの傍に落ちる。
『よし、ダメージは……っ!?』
俺もグレイシアも目の前で起きた光景に言葉を失った。
先ほどの一撃で先端が吹き飛んだ触手の周辺部位うねうねと蠢きだしたかと思えば不快な肉音を立てながら先端部分が再生する。
「爆散した部位が完全に再生した?」
『こいつもあの時の個体と同じように進化した個体……進化した個体は共通して高い再生能力でも持ち合わせているみたいね』
「そう……グレイシア!」
彼女の言葉に頷こうとしたその時、視界の端で何かがその場から飛び出していくのが見えた―――それは先ほど俺たちの傍に落ちた触手の先端部分。
鋭利な切っ先を向けながらグレイシアへとまっすぐ飛んでいく。
俺の叫びに反応して後ろを振り返ろうとするが触手の方が早く、確実に彼女を貫く。
その場から駆け出すと同時に増速駆動を発動させるが頭を過ぎるのは間に合わないという事実。
「グレイシア―!」
叫びながら腕を伸ばすがほんの数センチ指が届かない。
数秒後には無情にも触手の先端は振り返ろうとしているグレイシアを貫いている―――そんな考えが脳裏をよぎったその時、ZEXのセンサーが新たな存在を検知する。
【断界の穿鋼神】




