表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEXアドベント  作者: ケン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

第三話

 真っ白に染まった視界の中、俺の全身に何かが纏わりつくような感覚を抱き、ゆっくりと目を開けていくと驚きのあまり目を勢い良く見開いた。

 目の前には大量のデータの列が流れており、見たこともない名称が表示されては消えていく。

 そして目の前の景色が拡大されて盛大に吹き飛ばされて建物の壁に叩きつけられている姿のゼータが映し出される。


「こ、これがっ……ZEXで見る景色」


 ゆっくりと周囲を見渡していると視界の端に何かの反応を捉えたのかZEXが自動でそこを強調表示するのでそこへ目を合わせると自動的に拡大される。

 そこには斜めに切り裂かれた防護壁から顔を覗かせる赤髪の女性がいた。


「あの子はっっ!?」


 目の前に不穏なメッセージが表示されたかと思えばZEXの装甲が先ほど以上に強く点滅をはじめ、装甲のあちこちからシューっと音を立てて煙が噴き出す。


「時間がない!」

「――――――!」


 聞き取れない叫び声をあげながらゼータがこちらへと翼を羽ばたかせて突撃してくる。

 ZEXも動かしたことがない俺ができることと言えば武器を使うことでもなければ飛ぶことでもない―――ただひたすらに殴り合うこと。


「うらぁぁぁっ!」


 突撃してくるゼータの顔面目掛けて拳を勢いよく突き出した瞬間、相手の顔面に拳がめり込み、バキボキ! と嫌な音を奏でる。

 どす黒い血しぶきが舞い上がるのを確認しながら後ろへと吹き飛ぼうとしている相手の足首を掴んでそのまま勢いよく後ろを振り向く勢いで地面に叩きつける。


「もう一発っ!?」


 もう一度、叩きつけようとしたその時、相手の蹴りが俺の手に直撃したことで手が離れてしまい、同時に視界の端から回し蹴りが放たれるのがZEXの広い視野角で見えた。

 俺は左腕を楯にして回し蹴りを受け止めると同時に少しだけ飛び上がるとともに蹴り上げる。

 上空へと蹴り上げられたゼータは翼を羽ばたかせて少し滞空すると急降下の勢いで俺めがけて突っ込んでくる。


「見えてるんだよ!」


 ZEXの機能によってゼータの動きを完ぺきにとらえていた俺は横へと軽く飛びのき、ゼータが地面に着地すると同時に拳を相手に叩き込む。

 ドゥン! という鈍い音が木霊するとともに土煙を裂くように相手の拳が突き出されるがそれもすべてZEXが捉えている。


「避けてっ、こうっ!」


 相手の拳をかわすと同時に逆サイドからサイドフックを相手のあごへと叩き込むと口からどす黒い血反吐が吐き出され、地面を汚す。

 相手がすかさず撃ってきた蹴り上げを両手を交差させて受け止めると同時に一歩深く踏み込んで両こぶしを相手の腹部へと叩き込む。


「どうだ! うちの姉の地獄の特訓による格闘技は!」


 ゼータは血反吐の塊をペッと吐き捨てるや否や翼を大きく羽ばたかせて俺へとまっすぐ突っ込み、俺の腕を掴むや否や空高く飛翔する。


「ぐっ!? このっ!」


 何度も膝蹴りや拳を叩きこむが相手は一向に話す気配を見せず、ある程度の高さまで上がると真っ逆さまに急降下を始めた。

 目の前にZEXが表示した映像が映り、真下には建物の屋上が見えた。


「なにか! 何か武器はないのかよ!」


 俺の叫びに呼応するように目の前に【展開可能兵装一覧】という文字が映し出されるとともに様々な名称の兵装が並べられるが適当にアイクリックで選択すると手中にサブマシンガンが収まる。


「食らえ!」


 ゼータの顔面に銃口を突き付け、引き金を引いた瞬間、バラバラバラッ! と多数の弾丸が銃口から放たれてゼータの顔に着弾する。

 たまらずゼータの手が俺の腕を離すがそのまま真っ逆さまに落ちていく。


「うぉぉぉっっ!? と、飛べ! 飛べぁぁっぅぁっ!」


 必死の叫びも虚しく俺は頭から地面に叩きつけられてしまう―――しかし、ZEXの装甲によって痛みは全くなく少しの衝撃が走っただけ。

 顔を上げると同時に目の前に二十秒のカウントが開始される。


「時間はないってな!」


 その場から勢いよく駆け出した直後、ゼータも瓦礫の山を吹き飛ばして出てくると俺めがけてまっすぐに駆け抜けてくる。

 拳を握り締め、振り上げながら全速力で走り抜けていく。


「うぉぉぉぉっ!」

「―――!」


 聞き取れない叫びが木霊した瞬間、ZEXのセンサーが相手の翼が僅かに動いたのを検知し、それを俺の視界に映し出す。

 それを確認した俺は構えを解かずにそのままの格好で突っ込んでいく。

 俺たちの間の距離が一メートルに差し迫った瞬間、ゼータは翼を羽ばたかせて上空へと上がろうとするがそれと同時に―――


「どらぁぁぁっ!」


 俺は地面を勢いよく蹴り上げて飛び上がると同時に膝を曲げて相手の鼻頭に膝蹴りを叩きこむ。

 ブシャァッっとどす黒い血が相手の顔面から噴き出し、ZEXの装甲を汚すが気にすることなく地面に着地すると同時に十カウントの表示が見えた。

 この距離じゃ間に合わない―――そう思った直後、目の前に新たなメッセージが表示される。

 そこには増速駆動(アクセル・ブースト)の名称があった。

 その瞬間、俺が一歩踏み込んだだけでまるで背中から勢いよく押されたかのような強い勢いが生まれてゼータとの距離を一瞬でゼロ距離にまで詰めることができた。


「一発!」


 強い勢いのまま拳を相手の腹部へと突き刺し、相手が腹部を抑えて蹲ろうとしたのに合わせて―――


「二発!」


 勢い良く飛び上がって頭突きを食らわせ、相手を空中へと上げる。

 そしてその場で右足を軸にして回転をし始めるとともに俺の意思を汲み取ったZEXが指示を出し、装甲が解除されていき、回転の勢いのままに俺の体から剝がれるように離れていく。


「これで最後だぁぁぁぁ!」


 遠心力で勢いよく飛んでいくZEXの装甲はゼータに直撃すると同時に背面からジェット噴射するかのように炎交じりの圧縮された空気が噴出し、ゼータを押し上げていく。

 それを見送る暇もなく俺はその場から駆け出すと地面に倒れていて動けない重症の女性に覆い被さった次の瞬間―――


「ぅぁっ!」


 上空で鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの爆音が発生すると同時に熱風となった爆風が地上に降り注ぎ、俺たちを熱していく。

 爆音交じりに建物が粉砕する音や窓が割れる音などが聞こえた気がするがやがてすべて爆音にかき消されて消えていき、徐々に耳に何も音が入ってこなくなる。


「―――ぅくっ……」


 先ほどまで感じていた熱風が徐々に弱くなっていくのを感じ、被せていた体を上げてゆっくりと周囲を見渡すと激しい爆発の痕が見て取れた。

 先ほどまでZEX学園の受験会場だったはずの建物は防護用のシャッターすらへしゃげるほどにダメージを受けており、コンクリートの壁面には無数の亀裂が入っている。

 ゼータ襲撃を想定して建築基準が見直され続けている最新の建物でもこれほどの傷が入るとなればZEXの自爆による威力はかなり高いものだっただろう。

 ゼータも木っ端みじんに吹き飛んだのか周囲にもその姿は見えない。


「か、勝った……のか」

「そう……みたい……ね」

「だ、大丈夫ですか!?」

「なんとも……言えない…かな」

「と、とにかくはやくきゅ、救急車を!」

「その必要はない」


 後ろから突然の声―――しかし、その声は俺にとっては聞き馴染みのある声だった。

 ゆっくりと振り返るとそこには黒い髪を結びもせずにそのまま流し、髪色と同じ黒いスーツに身を包んだ一人の女性が立っていた。

 そしてその後ろにはZEXを纏っている数人の男女がいる。

 俺はその人を良く知っている―――それどころか俺をここまで育ててくれ親代わりの人だ。


「ね、姉ちゃん」

「……秋冬」


 眉間には深く皴が刻まれており、不機嫌なのは火を見るよりも明らかだった。

 姉ちゃんは何も言わずに手を軽く上げると後ろにいた数名の男女が動き出し、重傷を負っている女性の方へと向かっていく。

 姉ちゃんは静かに歩みを進めながら俺の方へと来る―――直後


「つっっ!」


 周囲に頬をびんたを打ち付ける音が響き渡るとともに痛みを感じ、姉ちゃんのほうへと視線を戻すとその表情は今までに見たことがないくらいに悲しいものをしていた。


「ZEXには近づかず、触れるなと言っていたはずだが」

「……ごめん。でも」

「でももあるか!」


 その叫びとともにもう一度、俺の頬に強くビンタが打ち付けられる。

 突然の怒声に女性の手当てを行っていた男女の動きが一瞬止まるが再び動き出す。

 痛む頬を抑えながら話すら聞かない姉にイラつき、一言文句でも言ってやろうと顔を上げるが先ほどまで燃えていた俺の怒りは一瞬にして鎮火した。

 姉ちゃんの目には流れはしないものの涙がたまっていた。


「お前はもう……引き返せない」


 姉ちゃんのこれほどまでに悲しそうな声は初めて聴いた―――でも俺はまだ、自分自身がしでかしたことの重大性に気付いていなかった。

 俺はこの日、世界の常識を覆したんだ。






 ゼータ因子を持たない平民がZEXを動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ