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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第二十九話

『んー! 美味しい!』

「トーストの上にはちみつ……の上にイチゴとチョコ……甘すぎて胸やけしそうだ」


 まるごと一斤のパンの上にはちみつがこれでもかとたっぷりと塗られており、正直それだけでも甘すぎるように感じるがさらにその上にイチゴがたっぷりと置かれている。

 そして極めつけはチョコレートソースをたっぷりと塗っており、もうカロリーのクラスター爆弾と表現してもおかしくないレベルだ。


『あんたそんな小さなパンだけで良いわけ? あんたもハニトー食べなさいよ』

「そもそもパン一斤丸々は多いだろ」

『お昼ご飯を少なくすれば帳尻合うわよ』


 大体そういうセリフは無視されるのが定番だ。

 だが本当に彼女は美味しそうに食べているので正直俺も一口味見をしたくなってきた。


『その目、あんたも食べたくなってるんでしょ』

「……ベ、別に」

『はは~ん。正直な男がモテるのよ』

「そりゃどうも……で、なんでお兄さんから逃げてるんだよ」


 その質問にグレイシアは一瞬だけ肩をびくつかせながらも最後のトーストを口の中に押し込み、考えるようにゆっくりと味わっていく。

 飲み込み、アップルティーを一口飲むと意を決したように俺の顔を見る。


『別に逃げてるわけじゃないのよ……ただ……その……過保護すぎるのよ』

「ふ~ん……まぁ、そりゃ大事な家族だし守りたくなるんじゃないのか?」

『兄さんは私がZEX学園に入学するのも大反対だったし、そもそも私が専用機体を使用することすら大反対だったんだから』

「まぁ、ゼータの脅威に晒したくなかったんじゃないのか? 俺の姉ちゃんだって昔からZEXには近づくなって言ってたくらいだったぞ? 整備科志望でギリ許してくれたんだから」

『え? あんた整備科志望だったの?』

「言ってなかったっけ? 俺、もともと整備科志望だぞ?」

『整備科志望が何でZEX科に……あぁ、そっか。あんたそう言えば平民だったわね』


 普通にZEXを使っているから自分自身ですら忘れそうになるが俺は平民出身であってZ族ではないので本来はこの場にいないはずの人間だ。


『まぁ、ZEXのこともそうだけど昔から過保護なのよ』

「たとえば?」

『たとえば……私が出かけるたびに護衛を五人もつけたり』

「……ま、まあ分からなくはない」

『小学校に登校するときは絶対に車送迎だったし』

「グレース社の令嬢だしな」

『修学旅行にも家族総出でついてくるし』

「……お、おう」

『挙句の果てには私の荷物に隠しマイクとカメラを忍ばせてるし』

「……」


 最初はお嬢様だし、と納得できるものだったけど後半二つは確かに過保護のレベルだ。

 流石にうちの姉ちゃんも修学旅行にはついてこなかったし、隠しマイクとカメラなんてもの忍ばせたこともないだろうし、護衛もつけたことはない。

 それだけ大事に思っていると思わなくはないけど裏を返せばグレイシアをずっと護らなければならない弱い対象と認識しているんだろう。


『多分、この前の一件で私が危険な目に遭ったから連れ戻しに来たんだと思う』

「なるほどな……まぁ、家族としたらそうなるか」

『私は国に帰る気なんかないわよ。学園に残るんだから』

「残るって言っても相手は家族だろ?」

『だから家族に、特に兄さんに残っても良いっていう風に思わせたいのよ』


 彼女は簡単に言うが現実はかなり難しいだろう。

 第一、監視カメラとマイクを荷物に忍び込ませるような家族を説得させることなんて不可能に近い難易度だし、相手が悪すぎる。

 グレイシアは所詮、会社という大きな存在から見れば小さな子供だ。

 それに学園の手続きは本人の意思なんてあろうがなかろうが最悪、保護者が印鑑を押せばそのまま承認されてしまう。


「どうやって思わせるんだよ。姉ちゃんを護衛につけるとか?」

『そんな無茶なことできるわけないじゃない。殲滅隊隊長の忙しさを知らないの?』

「いや、冗談だって」

『まぁ、方法としてはそう言うことよね。私がここにいても危険な目に遭わず、私を守ってくれるような強い人がいれば良いわけよ』


 グレイシアほどの実力者を逆に守るとなれば自然と彼女よりも強い存在ということになるが今の学園にそんな存在がいるとは思えない。

 グレイシアは専用機体を十五歳にして与えられているほどの実力者だ。

 学園の生徒で専用機体を与えられている人はほんの数人しかおらず、上級生に何人かいるというがその人がグレイシアよりも高い実力を持っているかなんてわからない。


「そりゃそんな人がいれば万事解決だけどそんな人いないだろ」

『目の前にいるじゃない』

「……」


 彼女の視線が俺を捉えて離さない―――必死に彼女の視線という鎖から逃れようとするがどんな動きを取っても鎖を解くことは出来なかった。

 どうやら彼女は俺を据えるつもりらしい。


「おいおい、冗談はよしてくれよ。俺がグレイシアよりも強いわけがないだろ」

『そりゃそうじゃない。誰が私よりも強くなれって言ったのよ』

「じゃあどうするんだよ」

『私が弱くなるのよ』

「……もしかして兄さんの前で手を抜いて模擬戦とかするんじゃないだろうな」

『ビンゴ!』


 彼女は笑顔を浮かべて肯定するがそう都合よく物事が進んでくれるとは思えない。

 第一、グレイシアを過保護なまでに守っている人間が手を抜いて戦っている姿を見て納得することなど万に一つもないだろう。


「辞めとこうぜ。余計に話がこんがらがるぞ」

『大丈夫よ。あんたには超過起動(オーバー・ドライブ)があるじゃない。それを使えば兄さんだって納得するわよ』

「いくら超過起動(オーバー・ドライブ)があるからってそんなうまくいくか? 第一、俺の専用機体は人前で使えないぞ?」

『それ以外方法があるっていうの?』


 そう言われてしまえば正直言って方法はない。

 実行するために即効性のある方法と言えばこの方法しかないんだがあまりにも穴だらけの方法に見えすぎるので不安しかない。

 もしこれで失敗して余計な方向に向かえば姉ちゃんに迷惑をかけてしまう。

 かといって今の俺の状況ではグレイシアに学園を離れられてしまうと唯一の味方が消えてしまい、とてもじゃないが整備科への転科など不可能だ。

 確実に精神を病んでしまう。


『いい? 恐らく兄さんはすぐにこの場所を突き止めてくるわ。私が話をうまい具合に進めるからあんたは私を模擬戦で倒すのよ』

「そんな無茶な」

『と・に・か・く! 私が学園にいるためなの! 協力しなさいよ』

「協力はするけどさ」


 その時、店内に扉が開いたことを知らせる鈴の音が響き渡る。

 俺たちは同時に肩をびくつかせながら入口の方を見るとそこには彼女と同じ赤い髪を持ち、スーツ姿の一人の男性が見えた。

 その瞬間、彼女の表情が一変して額から冷や汗が流れ落ちる。

 男性はキョロキョロとあたりを見渡し、俺たちの座席を見つけるや否や迷うことなくゆっくりとこちらに歩を進めてくる。

 男性が近づくたびに俺もグレイシアも緊張し、手が震えてしまう。


「こんなところにいたのか、ウィルミナ」


 グレイシアは観念したかのようにWorld Linkを外し、男性の方を見る。


『あのメールは何?』

『文面の通りさ。君をこんな危険な場所に残すわけにはいかない』

『私はここで学びたいことがあるの。邪魔しないで』

『ZEXを学びたいのなら軍のZEX部隊に所属すれば問題はない』


 家族の話に入れない俺はWorld Linkを外して残っていたミックスジュースを飲もうとした時、突然手を持たれた。


「Are you even listening!?」

「え、ぁ、ちょったんま……よし、こい!」

『来いじゃないわよ! あんた話聞いてんの!?』

「え、えっと……家族の話だと思って聞いてなかった」

『バッカじゃないの!? 自己紹介しなさいよ!』


 緊張しながら男性の方を向くと目が合うが俺を見る目があまりにも冷たいのと何の感情も向けられていないのを見て言葉が出ない。

 この人もZ族の中でも数パーセントの上澄み―――でもその中でもこの人は平民という存在に何の感情も持っていない。

 加えてWorld Linkすらつけていないので平民の言葉も聞く気はないらしい。


「えっと……英語の方がいいのか?」

「平民が無理して英語をしゃべるな。低学力がバレるぞ」

「あ、日本語お上手で」

「当たり前だ。世界中を商売相手にしている以上、各国の言語くらい話せる」

「あぁ……神原秋冬です」

「神原……君が平民でありながらZEXを動かしたという常識知らずか」


 とりあえず帰りたい気分なんだがグレイシアがそんなこと許してくれるはずもないだろう。


「で、彼がなんだって?」

『だから彼が私を守ってくれるから大丈夫なの』

「冗談もほどほどにしなさい、ウィルミナ。平民がお前を守れるはずがないだろう」

『どうせ兄さんのことだからこの前のことだって全部見てたんでしょ……彼は戦える人よ』

「どうだか」

『だったら手っ取り早く彼の実力を見たらいいわ。今から学園に戻って模擬戦をすれば』

「そんな遠回りなことしなくてもいい」


 男性がゆっくりとテーブルに手を置く―――ほんの一瞬だけ男性の腕が動いたかと思えばチクリと眉間に鋭い痛みが走る。

 よく見ると男性の手が俺の顔付近に移動しており、その手にはさっきまでグレイシアが使っていたナイフが収められている。

 ナイフの先端が俺の眉間に軽く突き刺さっていた。


『ちょっと! 何してるのよ!』


 グレイシアが怒りを露わにし、テーブルを強く叩きつけながら立ち上がると店内が静まり返り、全員の視線が俺たちのテーブルに注がれる。


「この程度の動きについてこれない奴が君を守れるとは思えないな」


 男性はナイフを下ろしてそう言うとまっすぐ出口へと向かうが何かを思い出したかのようにレジへと向かい、店員と会話を少しかわす。

 そして財布を取り出してお札を数枚渡し、喫茶店から去っていった。

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