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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第二十八話

『とにかく出かける準備していくわよ!』

「お、おう」

『1分で着替えて! 早く!』


 そう言ってグレイシアはコンテナハウスの外へと出たので慌てて俺は私服へと着替え、念のために銃をショルダーバッグに入れて外へと出る。

 そこには早くしろと言わんばかりに足踏みをし続ける彼女がいた。

 ここまで彼女が慌てるということはよっぽど緊迫した事情があるに違いない。


「お待たせ」

『行くわよ!』


 俺の意思などお構いなしに彼女は俺の手を取ってスタスタと歩き始め、正門へと向かい始める。

 外出するためには外出届を出す必要があるがかなり厳しく理由などを尋ねられるので約束の時間の二時間前に正門に立ってろと言う話があるらしい。

 そこまで厳しくするのもこのZEX学園が機密情報の宝庫であるからだろう。

 様々な国の最新技術が使われた専用機体のデータ、学園で試験運用されている最新鋭の兵装のデータなど持ち出されたらそれだけで勢力図が変わる代物ばかりだ。

 そんなことを考えていると噂の正門近くに設置されている外出受付所が見え、一人の係りの教員が暇そうに座っていた。


『行ってきます!』

『気を付けていってらっしゃ~い』

「え、えぇ!? 顔パス!?」


 驚くほどスムーズに正門を通過した俺とグレイシアはそのまま外へとつながっている唯一のモノレールへと飛び乗り、空いている席に座る。


「な、なんでスムーズに出れたんだよ。学園から外出するときは厳しく聞かれるんじゃないのか?」

『あんたのところに来る前に先に通しといたのよ』


 そうなると彼女はかなり早くから行動していたことになるがいったい何時から行動していたのか。

 でも今の彼女の表情を見ても緊急事態に直面しているといった感じがないので余計に何かなんだかわからなくなってしまう。

 その時、モノレールの速度が何のアナウンスもなく落ちていき、やがては完全に停止してしまう。

 同時に窓の外からヘリが飛んでいる音が聞こえ、車窓から外を覗いてみるとヘリが隊列を組んで飛行しており、何やら物々しい雰囲気だ。


「なんだあれ……なんか非常事態でも……何してんだ?」


 グレイシアに話しかけようと隣を見た時、なぜか彼女の姿がなく何故か座席の下に身を隠して俺の陰に隠れるように伏せている。

 そんな彼女の視線の先にはヘリの隊列―――何やらあのヘリに深い事情でもあるようだ。


『お客様にお知らせいたします。ただいま緊急停止信号を受信したため停止いたしました。信号が解除され次第、発車いたしますので車内でお待ちください』


 ただのヘリが車両を止めるほどの信号を発することが出来るはずもないので恐らくあのヘリに乗っていた人物はよほどのVIPだろう。

 グレイシアのようにZ族の中でも数パーセントの上澄みだろうか。


「もう見えないけど」

『そう……よかったわ』

「いい加減教えてくれよ。何があったんだよ」

『……これ見て』


 彼女が差し出したスマホにはメッセージアプリが開かれておりそこに書かれていたメッセージを見て俺は驚きに目を見開いた。


「英語で読めないんだけど」

『……はぁ』


 普段から英語で話している彼女のスマホが日本語表示されているはずもなく、画面に表示されチエル言葉はすべて英語だった。

 グレイシアはため息をつきながらもメッセージ内容を翻訳アプリにコピペして再度見せてくる。


「久しぶりに休みが取れたから会いに行くよ……荷物はまとめておいてね……誰?」

『私の兄よ』

「兄……って最近、代替わりでグレース社の仕事をしてるっていうあの?」

『そう。その兄が日本に来てるのよ』

「別にいいじゃん。家族に会うだけなんだし」

『あんたは何も知らないからそうお気楽に言えんのよ』


 どうやら俺の発言で怒ったらしく不機嫌な表情をしながらグレイシアはスマホをなおす。

 とはいっても彼女の表情からして何やら家族と深い溝があるわけでもなさそうだし、大喧嘩をしているような様子も感じられない。


「とりあえず……お腹空いたからモーニングでも食べるか」

『……ハニートーストが食べたい』

「なんだそりゃ」


 待ってましたと言わんばかりにグレイシアはスマホで手早く検索をかけ、俺に画面をこれでもかと至近距離で見せつけてくる。

 そこにはこんがり焼かれた食パンにたっぷりとはちみつが塗られ、さらに上にアイスが乗せられており、パンの熱で若干アイスが解けて広がっているのが何とも食欲をそそる。


「あ、最近話題の甘いトーストか。SNSでよく見る奴だ」

『そうそう。ずっと食べたかったのよ』

「よし。んじゃそのハニートーストを食べに行くか」

『あんた持ちでよろしく』

「……へいへい」


 そう言うと彼女は小さく笑みを浮かべ、喜びをあらわにする。

 笑った彼女の横顔を見て少しだけドキッとしたのは俺だけの秘密だ。


――――――☆――――――

「ようこそいらっしゃいました、セグルド・グレイシアさん」

「こちらこそ突然の訪問にも拘わらずお出迎え感謝します。神原春夏隊長」


 ZEX学園の応接室にて春夏はセグルドと対峙していた。

 応接室の空気は重苦しく、いつも笑顔を絶やさない千夏が笑みを一つもこぼさず、真剣な表情で春夏の後ろで待機していた。


「この度の兵装の供与、感謝いたします。今後の教育活動でしっかりと使わせていただきます」

「それは光栄です。我々の兵装で才能あふれる若者たちに力を与えられるならば本望です」


 字面だけ見れば笑顔を浮かべながら会話を交わしているように見えるが実情は薄っぺらいビジネストークであり、流れる空気は相変わらず重苦しいまま。


「「……」」


 少しのビジネストークが終われば二人の間からは会話は消え去り、沈黙が流れる。


「今日はどのようなご用事で?」

「先日の大型住処(ラージコロニー)の対処、素晴らしい物でした。わが国でも発生することはありますがあれほど迅速に破壊するのは素晴らしい手腕です」

「おほめにあずかり光栄です……で、本音は?」

「その裏で起きていた中型住処(ミッドコロニー)の一件……詳しくお聞かせ願いたい」


 中型住処での戦いは学園内でも詳細を知るのは一組の担任である千夏と春夏、そして現場に急行した殲滅隊の隊員のみ。

 世間に発表されているのは専用機体を持つグレイシアが単独で中型住処を破壊したという偽の情報のはずなので真実を知るはずがない。


「発表されている情報の通りですが」

「そんなはずはない……あの子のことは私が一番理解している。彼女の苦しみも悲しみも……あの場所で何が起きていたのかも」


 その言葉に春夏は自分と似たようなにおいをセグルドから感じた。

 彼の口ぶりから察するにグレイシアのZEX、もしくは彼女そのものに小型の監視カメラでも搭載し、二十四時間彼女の動向を見ているのだろう。


「知っているのならなぜ聞くのですか?」

「おとなしく答えていれば穏便に済まそうと思っていたまでだ」

「ではどのような手を使うと?」

「ウィルミナを本国へ連れて帰る」


 何もZEXを学ぶことが出来る場所はZEX学園だけではない。

 各国が有する軍隊にZEX部隊が創設されていれば操縦技術や整備技術であれば学ぶことが出来るが対外的な価値は持たない。

 ZEX学園という場所で学び、結果を出してこそ操縦技術や整備技術が世界に示され、対外的な価値を持つことになる。

 しかし、その対外的な価値を上塗りするほどの物を持っているのであればそればかりではない。

 たとえば世界でも有数の兵装開発会社であるグレース社のテストパイロットという肩書があればZEX学園で学んだという箔は必要のないものとなる。


「彼女の入学を認めたのも殲滅隊隊長が教鞭を振るっているこの場所だからだ。しかし、あなたがいてもなお彼女が脅威に晒されるのであればここにいさせるわけにはいかない」

「彼女が脅威に晒されたのは事実。しかし、私は隊長という身分である以上、隊を率いて国家を、ひいては世界を守る義務がある。個人を完ぺきに守れるわけではない」

「俺ならあの子を完ぺきに守ることが出来る。だから連れて帰る」


 学園としてもグレイシアを手放したくないのが現状。

 世界でも有数のグレース社の関係者でもあるグレイシアを手放せばグレース社とのつながりは希薄になり、教育目的のための兵装供与も立ち消えになるかもしれない。

 学園上層部は何としてでも手放すなというだろう。


「それに……ウィルミナの周りを例の平民がウロチョロしているみたいだが……やめていただきたい」

「なぜ? 彼女に迷惑はかけていないはずでは」

「彼女は将来、人類の未来を救う存在になる。そんな彼女が平民の悪影響を受けては彼女の人生が壊されてしまうからだ」


 まるで秋冬が癌だと言わんばかりの言い方に春夏は一瞬、こめかみをヒクつかせるがすぐに自身の感情を落ち着かせ、冷めた目でセグルドを見つめる。

 その時、一瞬だけセグルドの視線が別のところへと注がれるがすぐに春夏へと戻る。


「彼女から奪うこと、制限することが良いとは思いませんが……行き過ぎた真似をしているのであればこちらから指導はしましょう」

「しっかりとお願いする。彼女の退学手続きは何日かかる?」

「管理職にあげるので一週間はかかります」

「分かった。だったら一週間、日本観光と行こうか」


 セグルドはそう言うと立ち上がって応接室から出ていく。

 扉が完全に閉まり、彼の足音が聞こえなくなったと同時に春夏は両足をテーブルに叩きつけるように乗せると大きくため息をつく。


「行儀が悪いですよ~」

「今は放っておいてくれ……あとお前も相当だぞ?」

「何がですか~?」

「足元に転がってる残骸はなんだ?」

「さあ~、なんでしょう~」


 いつものように笑顔を浮かべる彼女の足元には無残な姿となったボールペンたちが転がっており、彼女は笑顔のまま足で残骸たちを転がし、机の下へと消し去る。


「……面倒なことになった」

「ですね~。まず管理職は認めないでしょうね~」

「国家から専用機体を二機も与えられているグレース社の影響力は絶大だ。グレース社からの兵装供与が途絶えればまず、処分は免れんな」

「どうしましょ~」

「あの過保護なシスコン兄貴を説得するだけの材料……これだから過保護な保護者は面倒なんだ」

「あなたが言いますか~?」

「何がだ?」


 春夏にしては珍しいキョトンとした表情を目の当たりにした千夏は彼女にバレないように小さなため息をついた。

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