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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第二十六話

「ではこの契約内容で合意ということでよろしいですね?」

「ええ、もちろんですとも。セグルド様がいてくださるおかげで我が社はここまで発展できているのですから文句などありませんよ」

「我が社も貴方方の技術力には助けられています。黒鉄技研の技術提供があったからこそ我が社が開発した兵装が前線で多く使われる様になりましたので」

「技術力の黒鉄と資金力のグレース社。この二つが組めば世界に敵はありませんな!」


 白髪交じりで恰幅のいい男性は大きな笑い声を上げて赤髪の男性―――セグルドに手を差し出して握手を求めるが彼は表情一つ変えることなくその手を取る。

 固く両手で握り締める相手に軽く嫌悪感を滲ませた表情をしながらも男性に連れられながらセグルドは下階へ向かうエレベーターへと向かう。


「セグルド様はこの後はすぐに帰国なさるのですか?」

「いえ、まだまだ訪問すべき企業はたくさんあるのでそれを……それが終われば妹のところへ」

「ほぅ、妹さんが日本にいらっしゃるのですね?」

「ええ。ここで結構です」

「今後ともよろしくお願いします」


 エレベーターの扉が閉じるまで白髪交じりの男性は頭を下げ続け、セグルドはそれをただ冷めた目で見続けながらエレベーターの閉ボタンを押し続ける。

 完全に扉が閉まると同時にセグルドはネクタイを緩めながら大きくため息をつく。


「ふぅ……思ってもいないことを言い続けるのは苦痛で仕方がないな……ウィルミナ」


 セグルドがスマホの画面に触れると同時に笑顔を浮かべるウィルミナと映っている写真が表示され、彼の表情がほころぶ。


「このつまらない会社訪問が終わればお前のもとに行く。そして……一緒に帰ろう」


 一回に到着したことを告げる音が鳴り響くと同時にエレベーターの扉が開き、セグルドは足早に歩きながら黒鉄技研の社員の一礼をよそに出口へと一直線に向かう。

 彼にとってこの企業など数多くある付き合い先の一つでしかなく社員の一礼などその辺に転がっている小石と何ら変わらない。

 出口が受付嬢によって開かれた瞬間、風が吹き抜けて彼のジャケットが翻る―――その時、その場にいた全員の視線は彼のレッグホルスターに収められたサバイバルナイフに注がれていた。

 セグルドはそんな視線など一切気にすることなく日本の闇夜へと消えていく。


――――――☆――――――

「うげぇ……Z族だらけだ」


 グレイシアとの地獄の模擬戦が終わり、晩御飯を食べるために食堂へと向かっていたが時間帯が時間帯なだけにZ族の連中でごった返していた。

 そりゃ、一年生が全員集合していればこの数にもなるだろうが目の前にいるのは俺の敵でもあるZ族なので殺気が凄い。

 そもそも入り口を遠巻きに見ているだけだというのにえらく睨みつけられる。


『何止まってんのよ。早くいくわよ』

「あ~……俺は売店行ってくる!」

『売店? あんな貧乏くさいところに行くの?』

「平民の俺からすりゃ常識だっつうの。ほら、あいつらもお前のこと変な目で見てるし、食事くらい分かれて取った方がいいだろ? んじゃ、今日はありがとな!」


 俺が離れた瞬間、待っていたと言わんばかりに男子生徒たちがグレイシアに近づいて何やら話しかけているのが見えた。

 グレイシアはこれからの世界を背負って立つ才能あふれる存在だ。

 そんなやつが平民なんかと模擬戦を行い、挙句の果てには食事まで一緒に取っている姿を見られたらおそらく大半の奴らはグレイシアの評価を変えるだろう。

 そうなれば彼女のこれからの未来に傷をつけることになりかねない。

 そんなことは絶対に許されない―――だから


『おい、平民』

『お前なんでグレイシアさんと喋ってるんだ』

「あ~……えっと」


 こんな風にそれを良しとしない連中が俺にちょっかいをかけてくる。

 地毛らしき金髪を見る限り、彼らも海外出身だろうし、身に着けている物も一目見ただけで価値あるものだと分かる物ばかりだ。


『あのグレイシア家の才女にして専用機体(オリジナル・シリーズ)を与えられている人類の希望に易々と平民が話しかけるなよ』

『お前の存在のせいでグレイシアさんの評価が落とされたらどう責任取るんだ』

「わ、悪かったよ」

『今度、同じような光景を見たら痛い目合わせるからな』


 そんな捨て台詞を吐きながら俺の肩にわざとぶつかりながら食堂へと向かっていく。

 実技授業の時にもあの二人は見かけなかったから恐らく上のクラスに所属、かつそれだけのZEX操縦技術があるということになる。

 今の俺じゃ汎用機体で戦えば手も足も出ないだろう。


「っと、そんなことよりも売店売店」


 売店の位置は既に下調べ済みだ。

 調べたところによると売店に並んでいるものはパンやおにぎりなどいわゆる庶民的なものが並んでいるらしく、価格も平民が安いと言える範囲内らしい。

 しかし、そんなものをZ族の連中が好き好んで食べるはずもなく売店を利用しているのはごくごく僅からしい。


「あった。売店」


 売店が店先を構えているのはZ族の連中が使っている食堂から少し離れたところにある一年生の校舎のすぐ近くにある。

 店の造りも学校の中にある長机にパンやおにぎりが並べられているという懐かしいスタイルだ。

 店番をしているのはおそらくZ族だろうが定年間近のおばちゃんだ。


「あ、あの~」

「……珍しい。生徒のお客さんだなんて」

「ど、どうも……まだやってます?」

「もちろん。何がいい?」


 おぼんに入れられているのは鮭おにぎりや昆布、梅干し、塩むすびなどオーソドックスなものばかりでエビマヨなどという変わり種はない。

 しかも焼きおにぎりまであるらしく、焼きおにぎりは目の前で焼いてくれるシステムなのかガスコンロと小さなフライパンまでセッティングされている。

 そしてその隣の長机には焼きそばなんかも置かれている。


「色んなバリエーションがあるんですね。これ全部おばちゃんが?」

「もちろん。これでもおにぎり握り続けて早四十年。そんじょそこらのおにぎりとは違うよ~?」

「すげぇ……じゃあ一種類ずつ全部ください!」

「あんたもしかして春ちゃんところの弟さんかい?」

「は、春ちゃん? ま、まぁ神原春夏の弟です」

「いや~姉弟だと思ったわよー! だって買い方が春ちゃんと一緒だもの!」


 このおばちゃんの話し方的に姉ちゃんは高頻度でこの売店から購入しているらしい。

 どおりでおぼんにおいてあるおにぎりが一個ずつ隙間が開いてあるわけだ。

 恐らく姉ちゃんもZ族ばかりが使っているあのバカみたいに高級感漂う食堂を使うのは嫌すぎてこの庶民感あふれる売店に入り浸っているんだろう。

 でも気持ちはわかる。


「お得意さんが一人増えちゃったわね! じゃあ弟君にはサービスで一個おにぎり贈呈!」

「い、いいんですか?」

「良いの良いの。どうせこんなに作ってもあたしの晩御飯になるくらいだからさ」

「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」

「もし何か増やしてほしいものがあったら何でもいいな。おばちゃんが作ってあげるよ」

「おぉー! 庶民の味方! これから毎日来ます!」

「毎度あり! 千円だよ!」


 しかもおにぎり一個百円で販売しているところがさらに庶民の味方だ。

 最近は原材料高騰だとか何とかで一個百円のおにぎりなんて絶滅したのかと言わんばかりに姿を消していっているからな。

 それに学生のお財布事情にも優しい。


「じゃ、また明日!」

「あいよ!」


 俺は十個のおにぎりを持ちながらコンテナハウスへと向かっていった。



――――――☆――――――

「私もいいですか?」

「あら、春ちゃん! 今さっき弟君が来たよ!」

「はい。これから弟もお世話になるかと思いますがよろしくおねがいします」

「良いの良いの! はい、春ちゃんセットね!」


 そう言いながら店主は全種類のおにぎりを一つずつ、それに加えて焼きそばが入れられているパックが入った袋を春夏へと渡す。

 明らかに食べ過ぎの領域だろうと思うその量を見て春夏は表情を緩める。

 仕事続きの彼女が唯一、この学園で表情を緩めることができるのがここ。


「いつもありがとうございます」

「あいよ。二千円ちょうどね。春ちゃんも仕事続きなのは良いけど体壊さないようにね!」

「お気遣いありがとうございます」

「良いってことよ!」


 店主に深々と頭を下げながら春夏は職員室へと向かっていった。

――――――☆――――――

「うん、美味い……あの売店はリピート確定だな」


 完全に夜も更けてあたりが真っ暗になった頃、俺は一人で生徒寮近くのベンチに座り、隣には風呂セットを準備して夜食のおにぎりを頬張っていた。

 売店のおばちゃんが作るおにぎりは格別に美味く特に塩むすびが最高だ。


「……連中もおばちゃんみたいに平民の意識がまともならな」


 Z族は人類の平和を守るために命を懸けて戦っているから何事も優先され、特権を与えられる上位の存在であり、平民は何もせずにただのうのうと安全な場所で生きている。

 だから何事も後回しにされる存在であり、下位の存在。

 それはゼータやZEXが生まれた五十年以上も前にできた常識であり、魂深くにまで刻み込まれた一種の精神支配だ。

 その考えを改める奴なんてまずいない。


「……父さんと母さんはなんで平民の生き方をしたんだろうな」


 別にZ族の特権が欲しいなどと今更のたまうつもりもないし、連中みたいに意地汚い魂を持つくらいなら平民のままでいいとつくづく思う。

 ただ時折思う―――なぜ、両親は平民と同じ目線に立ち、生きようとしたのか。

 もし、今も健康で生きているんだったら真っ先に俺はその考えを聞きたかった。

 そんな物思いに更けていたその時、どこからともなくペチョンペチョンというどこから鳴らしているんだと感じる足音が聞こえてくる。

 足音がする方向を見て見ると闇夜からぬいぐるみが姿を現す。


「博士……その足音、暗闇で聞いたら怖いんで辞めてくれますか?」

『何を言うか? これがまぐたんのキュートでラブリーな足音だよ? これが分かんないか~』

「多分、全人類分かりませんよ」

『あっそ。で、いつになったら次のデータを私にくれるのだ~』


 博士の音声を出しながらまぐたんは小さな両腕を振り振りと全力で振り、俺の足元をぽかぽかと殴りつけるが全く痛くない。


「そうは言いますけどね……姉ちゃんから人前では使うなって言われていますし」

『いーじゃん別に』

「いやいや……うちの姉ちゃん怒らせると怖いんですから。知らないでしょ?」

『知ってるよ?』

「……あ、そうか」


 思い出すのはこの二人が長い付き合いであるということ。

 博士のような性格をしていれば長い付き合いの中で姉ちゃんの逆鱗に触れることもあっただろうし、その中で怒ったときの姿も見ているんだろう。


『じゃあバレないように使おうよ。例えば真夜中に住処(コロニー)に突撃するとかさ』

「いやいや。さすがに俺一人じゃ殺されますよ」

『大丈夫大丈夫。超過起動(オーバー・ドライブ)を発動した君なら一体や二体くらいのゼータならあっという間に倒しちゃうよ』

「……そう言えばなんで超過起動を発動した時の俺はあんなに動けたんですか?」


 そんな疑問を博士にぶつけてみる。

 模擬ゼータや中型住処での戦いを振り返ってみても通常起動時と比較しても超過起動時の俺の戦闘技術は別人級に違う。

 なんせ専用機体を操るグレイシアとともに戦うことが出来るくらいに跳ね上がるんだ。

 不思議に思わないわけがない。


『ん~。超過起動はZEXのスペックを格段にあげるものだからね~。今のところ君の技術そのものも跳ね上がるのはよく分からないのさ~』

「稀代の天才でも分からないこともあるんですね」

『時間とデータがあれば分かるんだけどね。だから一刻も早く次のデータを頂戴よ~』


 そう言いながらまぐたんはその小さな可愛らしい両手を俺に差し出してくるがそこに俺の手をポンと乗せてやると数秒間止まった後、軽く払われてしまった。

 どうやら天才には冗談が通じないらしい。

 そんなことを考えているとまぐたんが何も言わずにベンチの下へと隠れてしまう。


『あんたそこで何してんの?』

「グレイシア……お前こそなんで」

『ベ、別に……』


 何やらぷりぷり怒りながらグレイシアは俺と少し距離を開けてベンチに座る。

 バレるわけにはいかないのかまぐたんはベンチの下に隠れ、念のためにと俺の足を壁にしてしっかりと身を隠していた。


『あ、あんたは……私と特訓するのは嫌?』

「なんでまた」

『だ、だって……ほかの連中があんたにちょっかいかけるじゃない……食堂の時みたいに』


 どうやらグレイシアは食堂で俺がちょっかいを出されているのを見ていたらしい。


「正直、俺はありがたいよ」

『……本当に?』

「本当に。だって俺みたいな平民と模擬戦してくれる奴なんてグレイシアくらいだしさ……教え方は現場主義一辺倒なのはともかく」

『な、何よ! 経験に勝る物はないのよ!』

「それもそうだな……だから俺はこれからもグレイシアに教わりたい……でもお前こそいいのかよ。俺と絡んでて変な評価されないか?」

『私を誰だと思ってるわけ? あのグレイシア家の長女にしてグレース社社長の娘よ?』

「……ほぅ」


 あまりに反応の薄い俺を見てかグレイシアは目を点にしてしまい、パソコンがフリーズしてしまったように動かなくなってしまう。


『じょ、冗談じゃなくて本当に知らないの?』

「お、おう」

『百歩譲ってグレイシア家を知らないのはまだいいわ……グレース社を知らない?』

「知らない」

『こ、これが平民なのね……グレース社は世界シェア第二位を誇る兵装開発企業よ』

「そうなのか……じゃあグレイシアはグレース社の……なんなんだ?」

『グレース社の社長は私の父よ。でも最近は代替わりするために兄にいろんな仕事を任せてるけど』


 試しにスマホでグレース社のことを調べてみると確かに彼女が今言っていた情報が多数ヒットしたし、父親らしき男性の顔写真も出てきた。

 そして兄らしき男性の写真もある。


「優しそうなお兄さんだな」

『え、ええ……そうね』

「?」


 どこか歯切れが悪そうに返事を返す彼女に少し違和感を覚えたがプライベートな事情に首を突っ込むと面倒なので特に何も言わなかった。


『ま、とにかく明日以降も放課後、あんたの特訓に付き合ってあげるから』

「ありがとな。じゃ、また明日」

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